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分科会①:幼稚園の遊びと学びのデザイン(CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議講演録)

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司会者:馬麗莉(華夏未来幼児教育グループ総園長)
登壇者:張世宗(国立台北教育大学教授)、張燕(北京師範大学教授)

幼稚園の教室内の児童博物館:「触ってください」と楽しませて学ばせる教材の開発(張世宗)

今日は、児童博物館における、動いて作業をしながらの学習に関する研究についてご紹介したいと思います。私は、それが幼児教育と切っても切れない密接な関係にあることを発見しました。幼児教育に適する環境を提供するには、主に二つの重要なポイントがあります。一つは子どもたちの成長と学びの需要に応えられる物質的な環境で、もう一つは子どもたちの成長と学びの求めに応えることのできる教師です。

まず、就学前教育段階は特殊な学びの段階です。子どもは生まれながらの探究者であり、観察者でもあります。しかし、大人たちは往々にして子どもの自然に対する好奇心という本能を忘れ、彼らを教室の中に閉じ込め、勉強ばかりさせようとします。ここで一つの話を紹介したいと思います。ある幼稚園の先生が、3枚のカードを持って「これはそれぞれヒヨコ、雄鶏、雌鶏です」と子どもたちに教え、「鶏の鳴き声を聞いたことがありますか?」と質問しました。誰も手を挙げないので、先生は「どうして答えないの?」と優しく尋ねましたが、子どもたちは「先生、これは三つともカードなので鳴くことができません。」と答えました。つまり、園は子どもたちを中心に教育を考え、型にはまらない開かれた教育を進めなければならず、先生も従来の意識を変えなければならないということです。

長年にわたり、我々は教育と遊びが一体となる学習方法、つまり「楽育:楽しんで学ぶ」方法について研究を続け、遊びを通じて子どもたちから積極的に学ぶ意欲を引き出すことができることに気づきました。体系的な遊びの空間や玩具、教具をデザインし、遊びを通じて学ぶ経験を提供すれば、学習者の能力の向上を促すことができます。遊びは最高の形の探究です。遊びや自発的な行動によって教育を行う際、「知識を教える、能力を伸ばす、モチベーションを引き出す」という三つの機能を選択することができます。したがって、教師も適時にこの三つの役割を切り替え、教えすぎて子どもたちの判断を邪魔してしまうことが無いよう正しく判断しなければなりません。幼児教育では、正式な視聴教材がある一方、非正式な部分、つまり自然環境での学びの部分もあります。そのため教師が教えすぎると、子どもの遊ぶ時間が削られ、受け身の学びになりがちです。ですから、カリキュラムを固定的なものから柔軟なものにし、視聴重視ではなく感覚を重視する教材を使うことで、子どもたちに遊びの中で自ら動き創造するようにさせ、学習の中で自由な探索や選択をし、「間違いながら学ぶ」ことができるようにすることが必要です。

学習媒体の三つの形態についてお話しします。一つ目は教具です。これは先生が主導し、コントロールするものであり、構造性が高く、秩序があり、目的があります。二つ目は玩具です。玩具はそれ自体「開放されたもの」であり、子どもたちが自由に遊び、自分でコントロールすることができる媒体です。三つ目は学習道具です。もし我々が系統的な教材を選び、さまざまな遊びのコーナーを設定し、子どもたちに選んでもらうなら、教える側の教育目的のコントロールと子どもたちが自主的に学ぶ意欲の両方が働きます。これが「コーナー遊びの教材」であり、教師と子どもの両方がコントロールを行います。

博物館では、展示品の表示に「触らないでください!」と書かれているのをよく見かけます。一方、「触らないでください」ではなく「触ってください」という表示があるのが、子どもの博物館と一般的な博物館の異なる点です。私は、ワシントンの子ども博物館で「実際の調査や実践を通じて真相に迫ることができる」という意味のスローガンを見たことがあります。孔子の言葉だと言われましたが、本当に孔子が言ったことかどうかは分かりません。園では、人の感覚が受ける刺激を目・耳・鼻の感覚などに分類していますが、食べる経験や味覚や触覚がなおざりにされてきました。我々はこれらの学習の特徴をカリキュラムに用いて教育を行うことができるでしょうか。

ここで「心の流れ(図1)」という概念を提起したいと思います。能力がまだ低い時には、それほど難しくないことに挑戦することはできても、難しいことに向き合うと焦りを感じるはずです。したがって、教えるにあたって我々は子どもたちをゆっくりと成長させるべきです。これは博物館とは違ってコントロールすることができません。我々は異なる方法を使わなければなりません。教えることはできますが、子どもの個人差を考慮し、個々のレベルに合わせた教育を行うべきです。我々にはスローガンがあります。「ハードルを低くし、より良い成果を求める」。つまり、手続きはシンプルであるほどよいのですが、内容は難易度が高いほうがよいということです。これなら比較的容易に成果を得られます。例えば、折り紙の折り方について、完成したもののみを見せるのではなく、折り方のプロセスを見せて説明すれば、子どもたちはこの簡単な教材にしたがってゆっくり学ぶことができ、それは完璧な教材になります。

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図1.心の流れを示すグラフ

では、幼稚園で字を書くことを教えるべきでしょうか?象形文字である漢字は、子どもたちにイメージを抱かせるので、大人が簡単だと思う漢字を子どもは複雑だと感じたり、反対に大人が複雑だと思う漢字を子どもは簡単だと感じるかもしれません。したがって、私は字を書くことを教えなくてよいと思っています。では、幼稚園では子どもが字を学ぶことをサポートする必要があるでしょうか?私はサポートしても構わないと思います。しかしその重点の置き方は、大人を主体として、大人が求めるレベルまで教えるのか、それとも大人はあくまで子どもの主体性をサポートするのか、の二つがあります。問題の重点が異なれば、答えも異なってきます。同様に、早い時期に科学についての多くの知識を子どもたちに教える必要があるでしょうか?もちろん必要ないと思います。では多様な遊びを提供する必要があるでしょうか?もちろん必要です。問題は「必要か不要か?」ではなく、「どのようにやるか?」なのです。

写真の四人像(図2)は、俯せの一人がもう一人の上に乗っている二人に見えるでしょうか?それとも左右に背中合わせで座っている二人に見えるでしょうか?これは多視覚の問題であって、角度が違えば異なる答えが生まれるのです。教育というのは自由なものであり、世界をどのような角度で見るかにかかっているのです。

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図2.四人像

子どもの天性に合わせる(張燕)

今日は「子どもの天性に合わせる」というテーマで、実践の中で子ども特有の位置を認識し、子どもが子どもでいられるようにすることについて皆さんと共有をしたいと思います。

まず、「四環遊びグループ」についてお話ししたいと思います。四環遊びグループは2004年に創設された、出稼ぎ労働者の子どもである流動児童を対象とする非正規の就学前教育組織です。「四環」とはコミュニティの名前であり、通りの名前です。通りやコミュニティの名前で名付けたほうが、外から来た独立組織ではなくコミュニティの一員であるという共通認識を得られやすいのです。創設から13年目に入った四環遊びグループでは、流動児童を対象にさまざまな非正規の教育実践の試みをしてきました。小学校に上がる前の子どもにとって、就学前教育は非正規なものが主で、それゆえ、コミュニティという小さく便利な形式によるものが望ましいと我々は考えています。

幼稚園は子どもたちにとって遊びの楽園でなければなりませんが、四環遊びグループはどうでしょう?幼稚園では大人は子どもの天性を尊重すべきであり、勉強は主要な目的ではありません。教育は子どもに合わせて行うべきで、子どもの本来あるべき姿に背いてはいけません。子どもたちを教育に適応させるのは本末転倒です。「子どもの権利条約」が採択されて28年経ちました。そこでは子どもに関するすべての行為は子どもの最大利益を第一の要素として考えなければならないと明確に述べられていますが、現在実践されている教育では子どもの天性を無視した状況がまだ多く存在します。

多くの子どもが幼稚園に行きたがらないのは、園での生活が楽しくないからです。なぜ楽しくないのでしょう?それは、何をするにおいても先生の指示に従わなければならない、教材通りにやらなければならない、大人のコントロールがあって自由に遊ぶことができない、絶えず並び、先生は絶えず説教をするなどの理由によるのです。「四環」の活動を開始して気づいたのは、少しの工夫で子どもたちが楽しくなれるということです。子どもたちを楽しくさせるためには技術が必要なわけでもなく、金銭や物も関係ありません。教える側が「心を込めて教育に取り組んでいるかどうか」が最も重要なポイントです。初心に返って、子どもたちの心に近づき、彼らの心のうちを発見しなければなりません。

教育は人生に関わるものですから、人間や生活に立ち返る必要があります。我々はここ数年の試みを通じていくつかの貴重な経験を得ました。教育は農業のようであり、工場の生産ラインではありません。我々は規模や基準化に拘るべきではありません。教育は根を育てる事業であり、根がしっかりとしていれば葉が茂ります。ですから全ての子どもを注視し、ゆっくりと焦らずに工夫を凝らし、命を守り育んでいかねばなりません。教育は、「実践―認識―再実践―再認識」を繰り返す中で立ち止まることなく認識を高めるプロセスであり、絶え間なく学び、成長する過程でもあります。教育者は、実践の中で常に意識を改め、行動を反省し、行動しながら学び、プロとしての信念を強くもつ必要があります。子どもたちが必要とするものを重視し、子どもたちの利益を最優先に考え、彼らの発達の権利と遊びの権利を守らねばなりません。我々はまた、命を大切にし、子どもたちを尊重し、マニュアルではなく自然のルールに従うべきです。子どもは自然の一員で、彼らの成長のプロセスも自然のルールなのですから、我々はそのルールに従い、逆らってはなりません。

四環遊びグループの子どもたちの生活は遊びから始まります。遊ぶのは子どもの天性で、子どもたちは遊びを通じて学び、心身が健康に発達します(図3)。遊びグループは子どもたちに自由に遊ぶ時間と空間を十分に与え、多様な活動の中で子どもたちはいろいろなことに興味をもつようになります。また、カリキュラムも子どもたちの好奇心や学ぶ意欲を引き出すように組まれます。教師は、子どもたちの「大きな遊び仲間」として童心を忘れず、子どもたちの気持ちや心を理解し、細かいところにも配慮しながら全身全霊で教育に取り組まねばなりません。また、子どもたちと共に遊びを楽しみながら、自然な素材を見つけ、さまざまな創造の条件を与え、多種多様な遊び方を生み出し、子どもたちが心ゆくまで遊べるようにすることも重要です。例えば、オリンピックの競技種目のロゴカードを二組印刷してしりとり遊びをさせたりペアを作らせたり、象形文字の識別や文字並べをさせたりします。また「つかみ取り」の遊びでは、ひとりかふたりの子どもにアーモンドやピーナッツを一掴みさせて数を数えさせたりします。保護者も子どもの遊びに加わって、最初の先生としての役割を発揮することができます。子どもに付き添う過程は、正に教育に参加する過程であり、保護者と教師は平等な教育のパートナーなのです。

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図3.子どもたちが考えた石蹴りと梅花杭(棒杭を伝って歩く遊び)の新しい遊び方

皆さん、こちらの絵(図4)をご覧ください。これは我々のビッグファミリー、四環遊びグループの絵です。遊びグループの中で、これは家であり、家の中には我々の事務室、活動部屋、図書室があります。子どもたちが玩具で遊んだり、先生の読み聞かせを聞いたり、体操をしたり...。10数年の活動を通じて、我々は、子どもたちは皆天使のようで、遊びグループが四環の子どもたちにとって「子どもの家」であり、他のどの幼稚園よりもよいのだとつくづく感じます。家が遠すぎてやむなく他の幼稚園に転園したけれど、結局戻ってきた子もいれば、放課後も残って、遊び足りないからもっと遊びたいと言う子もいます。

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図4.四環遊びグループ、我々のビッグファミリー

四環遊びグループは民間の草の根組織であり、これまでさまざまな紆余屈折を経験してきましたが、我々はとても楽しんでいます。我々は、困難を乗り越えてこそ成長でき、自分自身や教育に対する見方も変わります。教育とは行動に立脚したものであり、行動があってこそ教育なのです。言うのは簡単で行動に移すのは難しいですが、実践しないと真の教育はわかりません。実践は理論を検証する基準でもあり、最も重要なのは功利主義を退けることです。よい教育とは一種の修行であり、長期にわたる文化の蓄積です。よい教育は子どもたちに豊かで楽しい幼年期の思い出を残すことができます。


※この記事は、CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議の講演録です。

筆者プロフィール
Shih-Tsung-Chang.jpg 張 世宗

アメリカのプラット学院(Pratt Institute)建築学修士、コロンビア大学芸術学修士、教育学博士、国立台北教育大学芸術及び造形設計学部教授。同学部長、おもちゃとゲームデザイン研究所所長、国立台北師範学院視覚芸術教育センターセンター長、シンガポール Practice Performing Arts School 海外顧問などを歴任。


zhang_yan.jpg 張 燕

北京師範大学教育学部教授、北京師範大学流動児童教育問題研究センター主任、「四環遊びグループ」の創設者。中国就学前教育研究会・就学前教育事業の発展と管理学会理事、北京市就学前教育研究会常務理事、北京市保育教育協会理事、北京市緑葉保育者研修室主催者、中国OB教授協会児童早期教育専門委員会主任。

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