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研究室

第4回 被虐待児における音楽療法の適用(1)

長田 有子 (CRN外部研究員) 

2010年12月10日掲載

要旨:

被虐待児は、心理的な問題のみならず、記憶機能の問題など認知機能の問題を持つと指摘されている。特別支援の領域調査を行うと、学習スキル領域、社会スキル領域、行動・情緒領域の問題だけでなく、知覚領域、粗大運動領域の問題が見られる子どもが多い。そのような子どもの場合、治療的環境における生活の中での心理的援助やプレイセラピーなど心理的な面に働きかける援助だけではなく、知覚機能に働きかける援助が有効であることが推測される。本研究は、そのような知覚機能に働きかける音楽療法の効用を考察することを目的としている。前年度は、情緒障害児短期治療施設の子ども達に集団音楽療法を行い、その観察結果から音楽療法の効用について考えた。初年度ということもあり、メンバーを固定せずに各回希望する子どもが参加していた。その結果、音楽療法が子ども達に意味があることが示唆されたが、各回参加メンバーによりグループの動きが大きく異なり、より精緻な検討ができなかった。そこで、本年度は、アセスメントをもとにメンバーを固定して、半年間のセッションを実施し、半年間のセッション前後で評点の差を調べ、その効果を調べることにした。
I. 目 的

本研究は、体験型のSSTとしてケアデザインされた音楽療法プログラムの効用を調べることを目的とする。

II. 方 法

1. [対象者]
情緒障害児短期治療施設A園に在籍している被虐待児の内で、集団の療法に適すると思われる児童の中で、特別支援の領域調査(資料1)により知覚領域に問題を有すると推測される8人
2. [実施場所] 情緒障害児短期治療施設A園
3. [実施調査期間] 2005年10月より2006年3月
4. [手続き]
選定された8人中、6人は隔週で各1時間、計7回の集団グループ療法を行った。A園の職員が同席し観察した。またそのセッションの様子はビデオ撮影された。残りの1人は個別のセッションを隔週で計7回行った。1名がセッション途中で転園となったため、分析から除外した。
5. [評定]
本研究の評価は、担当職員による子どもの評価(特別支援の領域調査、資料1)を軸に、子どもに行った知覚(視覚系・聴覚系)検査、セッション場面のビデオ観察、担当職員やセラピストの印象も含め、多面的に行った。
評価の軸となる担当職員による子どもの評価は、半年間のセッション前後に児童の担当職員によって行われた。評定者は、対象児の変化を捉えやすくするために、対象児の日常生活を見ている担当職員とした。またセッション前後の評定者は、評定基準の一貫性を保つため、同一人物とした。

(1) [セッション前に行ったアセスメント]
       A.担当職員の評定による子どもの評価    
          特別支援の領域調査
         (学習スキル領域、社会スキル領域、知覚領域、粗大運動領域、行動・情緒領域)
       B.子どもに実施した検査    
          視覚テスト、聴覚テスト
(2)[セッション中の記録] 
      A. ビデオ観察
      B. 職員による観察記録
       C. セラピストによる記録
(3)[セッション後に行った調査] 
      A.担当職員の評定による子どもの評価   
          特別支援の領域調査
        (学習スキル領域、社会スキル領域、知覚領域、粗大運動領域、
           行動・情緒領域の領域)
       B.子どもに実施した検査
         視覚テスト(資料2)、聴覚テスト

6. [発達アセスメントの結果と対象児童の選定]
2005年年8月、小学生を中心に小集団活動に適すると思われる19人について、スクリーニングチェックとして、特別支援マニュアル(森、2001)から学習スキル、社会スキル、知覚(視覚系、聴覚系)、粗大運動、行動・情緒の5つの領域からなる5段階評価を各子どもの担当職員が実施した。その結果を基に、知覚領域に問題をもつ子ども8人を選んだ。
上記8名以外の11名の子どもは知覚領域(視覚系、聴覚系)において問題を持っていなかったが、社会スキル、行動・情緒の領域においては、得点が低かった(表1)。
選定された8人は視覚、聴覚領域において得点が低く、また社会スキル、行動・情緒の領域においても得点が低かった。以下の8人を対象に半年の同じメンバーによるグループセッションを行った。

      小2年7才女子  Ck
      小3年8才男子  Tk(集団では落ち着かないため個人セッションに参加)
      小4年9才男子 (セッション途中転園)
      小3年8才女子  Az
      小4年9才女子  Yk
      小6年12才女子 Aa
      小6年12才男子 Kz
      中2年13才女子 Sk

表1 知覚領域に問題を持つ8名とそれ以外の11名の平均点 lab_04_04_1.jpg

7. [実施プログラム]

(1)プログラム作成の背景となる仮説
プログラムを行うにあたり、以下の仮説を用いた。
子どもがストレスを受けた時に対処する方法として2つの様式が存在する。(Lazarus,1994)
1. 情動に焦点化した対処様式
(何が原因かわからず注意をそらすことにより情動の静穏化を図る様式)
2. 問題に焦点化した対処様式
(ストレスの原因になった問題の解決を通じて結果的に情動の静穏化を図る様式)
  1の様式は「回避」 avoidanceとなり、知覚を閉じ感覚刺激を受けいれない態勢をつくることによりストレスを回避あるいは防衛する様式である。2は認知発達した後に可能となる解決の手段としての様式であり「状況の意味の再評価」 reappraisalとなる。これは言葉の出現により自らの状況を語ることによるストレスを解除する方法である。

被虐待児においては、虐待によるストレス対処様式として、情動に焦点化した対処様式(何が原因かわからず注意をそらすことにより情動の静穏化を図る様式)が行われ、「回避」 avoidanceとなったために視聴覚の知覚が未発達になることが起こるのではないかと推測される。またある程度認知発達した後に、解決の手段として、問題に焦点化した対処様式(ストレスの原因になった問題の解決を通じて結果的に情動の静穏化を図る様式)を取るようになり、「状況の意味の再評価」 reappraisal が行われると、「自分が悪い子だから罰を受ける」と思い自己評価が低くなるということも考えられる。

音楽を媒体にする療法では、視覚領域、聴覚領域における課題を興味あるものを対象として提示することが可能である。よって、「回避」によって未発達であると推察される視聴覚の発達を促すことが出来る可能性がある。さらに社会スキルとなるルールづくりの提示においては、紙芝居(視聴覚への働きかけ)を行う際に、即興音楽による表象の提供(場面状況に合った音楽による聴覚への働きかけ)をすることによって場面状況を理解しやすくすることが可能であり、音楽を使って情緒をより理解しやすくする。好ましい行動に対しては、トークンとしてシールをあげることで、成果を視覚化できるようにした。お互いにルールが守れている時は評価しあい、共通の経験を持った。さらにこれらのセッションにおいて、楽しくいられるようなポジティブな雰囲気を作ることによって、行動・情緒を安定させることが可能であると思われる。
(2)実施プログラムについて
  以上の臨床仮説を使用し、セッションにおいて使用されるプログラムを開発した。
またSSTの実践プログラムは、特別支援マニュアルのチェックリスト項目から目的を設定し制作した。検査時に見られた状態として、短期記憶はあるものの、書くという動作が遅いために表記できないということがあった。したがって聞きながら手拍子をする、見ながら言う、聞きながら見るという平行処理を必要とする行為を多くセッションの課題に取り入れた。またセッション課題は新しいものを増やさずに、同じ課題を繰り返し行うことで不得手な項目を伸ばすことを目的とした。以下に課題を表記する。

1) 手拍子しながら歌うという平行処理をする課題曲を毎回増やす。
2) 繰り返し歌うことで、苦手感を克服するように働きかける。
3) 他の子どもと一緒にリズムを合わせることにより協調性を養う。
4) 短期記憶強化のためにリズムにあわせながら数唱を2桁から始まり7桁まで行う。
数字が1秒表示された後に1秒消滅しさらに1秒同じ数字が表示されるランダムに数字が変わるソフトを制作した。そのソフトを使って、数字が表示されている時には和音がなり、音がなくなった時に数字も消え、子どもが覚えた数字を唱える課題を繰り返した。最初は全員で数唱を行い、子ども達が慣れてきたところで各自子どもを指名し順番に答えさせた。
5) 瞬時性視覚トレーニングのコンピューターソフトを用い、音の補助をつけて視覚系課題を行う。
プロジェクタで大きく投影するので画面は2m×3mの大きなスクリーンになるために同じ形を見つけるためには、角から角へ見渡すことにより瞬時に目を動かす作業が必要になるマッチングソフトを制作し、使用した。多くの学習障害の子どもが持つ眼球のサッケード運動(衝動性運動であり、点と点をすばやく見る力)の障害を克服する課題である。
子どもは各自指名されて好きな形を手で押さえる。その場合マッチングする場合には、オブジェクトが高いところではジャンプしたり、あるいは手を伸ばしてタッチしたりしなければならない。タッチされたものは、セラピストによりマウスでマッチングされ、重ねられると色が黒に変わり終了するようになっている。課題は、子どもの興味を持続させるために簡単な形から複雑な形までさまざまなバリエーションのものを用意した。
6) 追順性視覚トレーニングのコンピューターソフトを用い、音の補助をつけて視覚系課題を行う。
7) 紙芝居を即興演奏つきで行い社会ルールを学ぶ。
紙芝居の話しの展開の状況を理解するために即興音楽をピアノにより演出する。即興音楽は映画音楽の手法を使いモード旋法によって情緒の明るさ、暗さを演出する。
8) 社会スキルのために行動表をトークン方式(応用行動療法の中で使用される方法でご褒美としてシールを与え評価する)で用いる。
紙芝居終了後にストーリの中から理解度を確認するためにセラピストから質問をして子どもに自由に答えさせる。その中から子どもたちが決めたルールをセッションの行動表に記入する。
9) 粗大運動のために風船によるアイコンタクト課題を行う。
全員で風船を落とさないようにする風船バレーのようなもの。次の人に渡す時にはアイコンタクト或いは名前を呼んでから渡す。同種の課題で、二人でペアになって向かい合って立ち、一人が袋を持ち、もう一人がスーパーボールを音が鳴り終わったら相手に1回バウンドさせて投げ、相手が袋の中にキャッチするという課題も行う。
10) 子どもからの自発的リクエストがある場合には、それに応じた応用課題にする。
11) 興奮を抑えるために凝念を行い(目を閉じておへその周りに手で丸をつくるように 組め深く複式呼吸を10数えるまでする)、呼吸を整えてセッションを終わる。


III. 結果は次回12月17日の更新で掲載いたします。
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