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第3回 Schools AttunedRを実践に生かす

要旨:

ニューヨーク郊外にある公立第166小学校 のファレル校長は、5年前に自身がSchools Attunedを受講して感銘を受け、その後次々と教員を研修に送り出した。実際、Schools Attunedを取り入れてからの4年間で、当校では子どもを特別教育へ紹介するケースが60%も減った。校内を歩いてみると、廊下の掲示板に貼り出された生徒の作品に目が行く。それらを見ると、Schools Attunedが子どもたちにも浸透していることがうかがえる。Henry Gradstein校の子どもたちは、誰もが強い機能と弱い機能を持っていること、工夫しだいで自分の強みを生かし弱い部分をカバーして学べることを学ぶ。
2007年晩秋、ニューヨーク郊外にある公立第166小学校 (P.S.166 Henry Gradstein School ヘンリー・グラズステイン校) のジャネット・ファレル校長は、テーブルいっぱいにドーナツとお菓子を用意して出迎えてくれた。特別教育(Special Education)教員を経て校長となったファレルさんは、5年前に自身がSchools Attunedを受講して感銘を受け、その後次々と教員を研修に送り出した。取材の時点で未受講の7、8人が一月後に研修を控えており、終われば当校の全教職員がSchools Attunedを履修したことになる。

 

学校の規模はpreK(就学前クラス)から5年生まで各学年5~8クラス、全生徒数は約1100名いる。1学級あたりの生徒数が30人前後で、これは標準的な米国の学校と比べると、かなり多い。学校の評判が広がり、越境して通ってくる生徒(特に学習障害の子ども)が年々増えているのだ。

実際、Schools Attunedを取り入れてからの4年間で、当校では子どもを特別教育へ紹介するケースが60%も減った。つまり、教師の教え方の幅が広がった結果、かつて特別教育の対象とみなされていた子どもたちが通常学級での授業についていけるようになったことを示している。また、学校全体の学力の底上げに成功していることも、州の学力標準テストの結果に表れている。米国の多くの地域が抱える事情と同じく、この学校も移民の家庭の子どもが多く、なんと90~95%の生徒の家庭が英語を母語としていない。このような条件で成果を出すのは、そう易しいものではなかっただろう。

校内を歩いてみると、廊下の掲示板に貼り出された生徒の作品に目が行く。それらを見ると、Schools Attunedが子どもたちにも浸透していることがうかがえる。たとえば、「Flowering Strengths (長所を伸ばそう)」は、花びらの一枚一枚に自分の良い所や得意なことを書きこんでカラフルに飾った絵。「Eddy & I(エディと私)」というのは、「注意」機能に問題を抱える少年エディの物語を読んで、エディと自分の得意不得意について考え、表現した作品だ。こうした活動を積極的に取り入れることで、Henry Gradstein校の子どもたちは、誰もが強い機能と弱い機能を持っていること、工夫しだいで自分の強みを生かし弱い部分をカバーして学べることを学ぶ。

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Flowering Strengths


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エディと私



教室の子どもたちの席には、それぞれに小さな紙が貼り付けられていた。ある子の机には「I'M SMART(ぼくはかしこいぞ)」「COPS(おまわりさん)」など学習の手立ての合言葉が書かれている。いずれもSchools Attunedの受講者がもらう資料「Management Resources」に掲載されているアイデアの一つで「I'M SMART」は調べ物や問題を解いたりする時、「COPS」は作文の時のポイントを思い出すための頭文字だ。各自が自分の学習に有効な手立てを目につくところに貼って、意識している。

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机上のIMSMARTとCOPS


このような手立てはどの教室にも掲示されているし、授業でもしょっちゅう登場する。当校で最初にSchools Attunedを受講した一人で、5年生担任のジェニファー・トリズラーノ先生は、作文の推敲の仕方を教える授業で「ではCOPSを思い出しながら、この例文を直してみましょう」と生徒たちに問いかけていた。COPSはCapitalization(大文字)、Organization and Overall appearance(語順と全体の見栄え)、Punctuation(句読点)、Spelling(綴り)のそれぞれ頭文字を取っている。「ピリオドが抜けている」「ここは大文字に直さなければいけない」と、次々に子どもたちの発言があがった。トリズラーノ先生は、「こうしたテクニックは以前から行っていたことだが、Schools Attunedで学んだことによって、今までのやり方が間違っていなかったと再認識すると同時に、他のやり方もあることを知った。すべての神経発達機能を使う授業づくりを心がけ、子どもたちが苦手な部分を鍛えるための学習活動も取り入れている」という。

トリズラーノ先生と同時にSchools Attunedを受けたローリー・ロビロット先生は、それまで実践していたことをより系統立てて考えられるようになったと話す。「学習者としての子どもを理解できるようになった。たとえば、書字運動機能に弱さがあって書くのに時間がかかる子にはプリントを先に手渡しておくなど、今まで気づかなかったようなことにも気づいて配慮できる。また、子どもたちにも自分の学び方を認識させ、『私は視覚的に理解するタイプなのよ』などと新しい担任に自分で伝えられるように育てている」。

ファレル校長は、「教師たちに指導スタイルを変えてほしかった」のだと打ち明ける。しかし管理職が頭ごなしに言っても、教師たちには伝わらない。Schools Attunedを受講させることで自分の指導の傾向に気づき、自分自身で変えていってくれることを狙ったのだ。校長の思惑は見事に当たり、Schools Attunedに参加した教師は、自分の授業に子どもを合わせるのではなく、子どもたちに合わせて自分の授業を変えていくことを自ら実践するようになっていった。

次回以降、Schools Attunedを受けた先生たちの授業の特色をさらに詳しくみていくことにする。


第4回

筆者プロフィール
金子 晴恵 (アンダンテ西荻教育研究所 代表)

自閉症や学習障害など発達障害児のための学習指導、親や教師の相談等に携わる。
また、ライターとして国内外の学校を取材し、各国の教育事情についての記事やエッセイを新聞・雑誌に執筆している。
著書に「先生が明日からできること。」(杉並けやき出版)
ブログ 「先生が子どもたちのために明日からできること
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