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第7回 NY市におけるSchools AttunedR 5年間の歩みとこれからの課題

金子 晴恵 (アンダンテ西荻教育研究所 代表)

2008年8月 8日掲載

要旨:

NCLB(落ちこぼれ防止法)の施行以来、学校は常に数字での評価にさらされている。たとえば学校評価の指標の一つに、特別教育への紹介率があるが、Schools Attunedの成果に期待して、障害認定されたLD児が学区外から転入、入学してくるケースが増加しているため、第88小学校はこの数字がなかなか下がらない。教師の指導力や子どもたちの学習意欲の向上など、成果が着実に出ていることは、現場を見れば一目瞭然である。しかし、統一テストや様々な数値での学校評価には反映されない。Schools Attunedは、今後は既存の制度とのこうしたジレンマをどう解消していくかが課題になってきそうだ。
ニューヨーク市が教員研修のひとつにSchools Attunedを導入して5年が経った。5ヵ年計画期間を終えた現在も受講希望者は増えており、市教育庁は引き続きこのプログラムの提供を続けていくことになった。

教育庁特別教育課のウィリアム・ストーンさんは、Schools Attuned関係の開催日程や会場の調整、公立学校への指導などをコーディネートする中心的役割を担い、自ら講師もしている。「初日の感想欄に『また教育庁の無駄金使いだ』『上からの押し付けの研修なんて、時間の無駄だ』など批判的な言葉を書き込む教師が、最終日には『これまで受けた教員研修の中で一番良かった』と感想を寄せてくれるんだ」とストーンさんは胸を張る。

受講した教師らには概ね好評を得ているが、導入当初から関心が高かったわけではないそうだ。1年目の参加者の顔ぶれは、各学校の校長が適当に指名して受講させた教師たちがほとんどだった。特別教育課が担当であるため、「Schools Attunedは特別教育の教員が対象で、その他の教員には関係ないだろう」との誤解もあった。そのため参加する教師の意識や能力にかなりバラつきが出てしまった。これでは研修の効果を十分に発揮できない。また、Schools Attunedの理念を現場に根付かせるには、個人レベルではなく学校全体で取り組んだ方が成果を出しやすい。

そこでストーンさんらは「鍵を握るのは管理職だ」と考え、2年目から校長を対象とした講演会を開くなどしてアピールし、教師と管理職を一緒に受講させるよう求めた。校長自身がSchools Attunedを受講すると、以後は関心の高い教師に薦めるようになるし、自らが熱心なSchools Attuned賛同者となって、積極的に教員を送り込んでくる場合もある。

第166小学校のジャネット・ファレル校長が、まさにその代表例だろう。ファレル校長はストーンさんがSchools Attunedの講師として最初に指導した受講者の一人だ。今では全教員が研修を修了し、子どもたちにもすっかりSchools Attunedが浸透している第166小学校だが、「これは4年、5年とやってきた結果であって、最初からうまくいったわけではない」とファレル校長。秘訣は、まずリーディングなど専門科目の教師から受講させたことだった。専門科目教員は全ての学級で授業をするので、その様子を見た担任教師らがアドバイスを求めたり真似をしたりし始める。こうして興味を持ち始めた教師から3、4人ずつ順に研修を受けさせると、その度に口コミが広がり、受講していない先生にも「こういうやり方があるよ」と伝わっていったという。

一方、第88小学校のリンダ・キーナ校長は、「以前から地域の養護学校と連携するなど特別教育に力を入れていて、既に土台がある学校なので、Schools Attunedの考え方を定着させることにはそれほど苦労しなかった」と話す。同校のマリアン・ジョージビッチ先生も同意する。「Schools Attunedには学校全体が前向きな姿勢だったので、先生たちは積極的に参加したがったし、受講した先生が『良かった』というので、ますます関心が高まるのです」。ジョージビッチ先生は、昨年から始まったSAIL(Schools Attuned Implementation Leader )という研修を受け、校内でSchools Attunedをさらに活用するためにコーディネーターとして教材作りや教師らへの助言などをする。

現在、ニューヨーク市では10地区に各5校ずつ、Schools Attunedの重点校を指定している。第166小学校や第88小学校のように、校長の主導のもと全校を挙げて取り組む方が、効果が高いからだ。Schools Attunedを取り入れて成功している2つの学校だが、悩みもある。

NCLB(No Child Left Behind Act 落ちこぼれ防止法)の施行以来、学校は常に数字での評価にさらされている。校長は人事や予算など多くの権限を持つが、逆に成果を出せないと責任を問われることになる。そのため、日頃はどれほど「一人ひとりに合った学び」をめざしていても、州や連邦政府の学力テストが迫る時期には、試験対策重視に切り替えざるを得ない。

さらに、Schools Attunedの成果が、評判ほどには評価に結びつかないという矛盾も抱える。たとえば学校評価の指標の一つに、特別教育への紹介率(LDなどの判定を受けた生徒が特別教育の対象となる割合)という数字がある。この率が低いほど、教師の指導力が高いと見られるが、第88小学校はこの数字がなかなか下がらない。なぜなら、Schools Attunedの成果に期待して、障害認定されたLD児が学区外から転入、入学してくるケースが増加しているからだという。教師の指導力や子どもたちの学習意欲の向上など、成果が着実に出ていることは、現場を見れば一目瞭然である。しかし、統一テストや様々な数値での学校評価には反映されない。「教育や子どもは数字で測れるものではないのに」と、キーナ校長が強い口調になった。

ニューヨーク市がNCLB対策として導入したSchools Attunedだが、今後は既存の制度とのこうしたジレンマをどう解消していくかが課題になってきそうだ。

筆者プロフィール
金子 晴恵 (アンダンテ西荻教育研究所 代表)

自閉症や学習障害など発達障害児のための学習指導、親や教師の相談等に携わる。
また、ライターとして国内外の学校を取材し、各国の教育事情についての記事やエッセイを新聞・雑誌に執筆している。
著書に「先生が明日からできること。」(杉並けやき出版)
ブログ 「先生が子どもたちのために明日からできること
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