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ブログの中の子どもたち

要旨:

2005年度の後期に、ティーンズ・ネットの中で「中学生・高校生ブログランキング」という企画を行った。ブログランキングとは、ブログを書いている人が登録して自分のブログからのクリック数を競うシステムである。それを使って、今の子ども達がどのくらいブログを利用しているのか、どのような意識でブログを作っているのか、どのようなコミュニケーションが行われているかについて調査した。
はじめに

2005年度の後期に、ティーンズ・ネットの中で「中学生・高校生ブログランキング」という企画を行った。ブログランキングとは、ブログを書いている人が登録して自分のブログからのクリック数を競うシステムである。それを使って、今の子ども達がどのくらいブログを利用しているのか、どのような意識でブログを作っているのか、どのようなコミュニケーションが行われているかについて調査した。


メディア環境の大きな変化

ここ数年メディア環境が急速に変化している。もっとも大きな変化は携帯電話であろう。携帯電話の第3世代への移行が進み、誰でも手軽に高速なデータ通信をモバイルで利用できるようになった。そのため、さまざまな新しい機能が携帯電話の中で実現されつつある。100万画素を超える高解像度のカメラの搭載により、誰もが高機能のデジタルカメラを持ち歩くような感覚になった。そして、その写真は携帯電話から電子メールに添付して、すぐにでも世界中に発信することができる。携帯電話のテンキーを使ってメッセージを添えることも簡単だ。もちろんメールだけではない。インターネットのホームページも携帯電話用にカスタマイズされ、「いつでも」「どこでも」便利な機能を我々に提供してくれる。つまり、パソコンを持ち歩かなくても多くの人がインターネットの恩恵を得ることができるようになった。

また、携帯電話ならではの機能も増えてきている。電話の機能に映像を加えた、いわゆるテレビ電話が簡単にできたり、GPS機能を使って自分の位置を測定したり、目的地を案内してくれたりもする。2次元コードの読み取り機能や、ICチップを使ったおさいふ機能、ワンセグ等によるテレビ放送受信など、これまでにない新しい技術が次々と導入されている。その他にも新しい機能が次々と搭載され、誰もが使える総合コミュニケーション端末として携帯電話は進化してきている。

もうひとつの変化はインターネットの変化である。ADSLやCATV、光ファイバーなどの高速ブロードバンド通信が多くの一般家庭に普及し、定額で、いつでも高速のインターネットを楽しむことができるようになった。それによって、家庭のパーソナルコンピュータによるインターネットの使い方も変わってきた。特に最近顕著なのが、SNSやブログのようなWEB2.0と呼ばれる技術の普及である。ホームページを製作する知識がなくても簡単なインターネットの知識があれば、誰でも簡単にクオリティの高いホームページを製作することができるようになり、個人を中心とした新しい情報発信の分野が確立されつつある。また、製作が簡単なだけではなく、それらのホームページにはもともとコミュニケーションを活性化するための機能が備わっており、これまでにない密なコミュニケーションが可能となっている。

さらにネットやパソコンで映像を誰でも簡単に扱えるようになってきたことも、ここ最近の大きなトピックであろう。例えば、IP電話の中で急速に普及している無料の「スカイプ」というソフトウェアがある。これまでも無料でクオリティの高い音声の通信ができていたが、昨年末からそれに映像が加わり、簡単に以前とは比べものにならないほどの高画質のテレビ電話ができるようになった。これまでは、一部の企業で使われるだけだった高価なテレビ会議システムが誰でも簡単に使えるようになったのである。また、ビデオキャストのような個人が映像を配信するシステムも出てきた。これまでは技術やコストの面で、個人と企業ではコンテンツの出来映えや普及がまったく違っていたが、これらの技術が出てきたことによってその差がなくなってしまっている。そして、コンテンツそのものが重要になり、マスコミの出す情報より個人が生み出すコンテンツのほうが信頼を得るという逆転現象が起きはじめている。

新しいメディアの中での子ども達

おそらく、このような急速な情報環境の変化は人類が誕生して初めて迎える大きな変化といっても過言ではない。日に日に新しい商品が発売され、新しい技術の発表が行われている。もう数年前が遠い昔のように感じる人も少なくはないのではないか。これらの変化の中で育つ子どもたちは、これらの技術をどう受け止めどう使いこなしていくのだろうか。

これまで子ども達のインターネットというと真っ先に注目されていたのが、携帯電話でのインターネットであった。ここ最近では、それにブロードバンド・インターネットが加わった。特に現在の小学生や中学生は、親がすでにパソコンを使いこなしている世代であり、家庭にはブロードバンドに接続されたパソコンが入ってきている。我々が子どものころにリビングにテレビがあったように、普通に高速ネットワークにつながったパソコンがリビングに置かれているのだ。そのような環境で育った子ども達は、初めてのネットワークメディアヘの接触がブロードバンドPCだったという世代が増えてきている。彼らにとってインターネットにつながったパソコンはテレビのようなものである。学校から帰宅後の、メールチェック、ホームページの閲覧や掲示板、チャットなどは、日々の生活のひとこまに過ぎない。

<参考>
100人のティーンズへインタビュー中間報告書
~メディアをどう使いこなしているのか~

新時代の子どもたちとの接触
~小中学生へのインタビューとワークショップを通しての考察~

このような環境に育った子ども達が、かつてポケベルでのモバイルコミュニケーションを生み出した女子高生のように、まったく新しいインターネットの使い方をしていても不思議ではない。当時、外に出ている社員の管理のために生み出されたポケベルは、子ども達の間では日々の情報を直接相手に伝えるツールとして爆発的に普及した。そこで簡単なメッセージのやりとりをしながら、当時の子ども達は学校生活を送っていたのだが、今やその機能は携帯電話のメール機能として誰でもが使うものになっている。そして、今の子ども達は、ブロードバンドパソコンを使いこなし、携帯電話も使うという新しい世代として育ちつつある。

<参考>
ブロードバンド・インターネットと3G携帯がもたらしたもの


子ども達が書くブログの調査


インターネットにあふれるさまざまなサービスの中でブログに注目したのは、パソコンと携帯電話がシームレスに融合し、WEB2.0という世界にもフィットしているものとしてブログをとらえたからである。実際、ここ数年でブログを書く人はかなり増加してきているが、その中で子ども達はどのような活動をしているのかに興味を持った。

そこで、子ども達がどのようなブログを書いているかを調査することにした。そのために、子ども達が書いているブログを集めなければならなかったが、その方法としてランキングシステムを運営することにした。いくつかの子ども向けランキングサイトというのも存在しているが、他の分野のランキングサイトに比べると数が非常に少なく、子ども自身も興味を持つ可能性が高かった。また、人に読んでもらうというモチベーションでブログを書いている人が多く、自分のブログを他の人により多く見てもらうためにランキングに登録することは非常に自然な行為である。「人気ブログランキング」はその最大手であるが、そこで上位に行くことは非常に難しく、子ども達をターゲットとしたブログランキングは少なかったので、ティーンズ・ネットの中に「中学生・高校生ブログランキング」というコーナを作った。システムに関しては、無料のランキングシステムレンタルサイトのものを使用している。

最初は、活発なブログ活動をしている子ども達のブログのコメント欄に「ランキングを始めます」という趣旨のコメントを入れさせてもらった。コメントを入れた多くの子ども達が、ランキングに参加してくれた。

中学生・高校生のブログ研究

*2006年5月末で500を超える登録がありました。
※現在では企画を終了しております。

中学生・高校生のブログ研究

今回はランキングサイトの運営だけでなく、ランキングサイトに登録された中学生・高校生のブログの中から面白いブログを紹介することをブログで行った。子ども達は、自分のブログが他の人に評価されるということを非常に歓迎してくれた。応援のコメントがかなりよせられた。また、このブログは、他のランキングでも上位にあがり、ランキングとの相乗効果でかなりのヒット数を記録することができた。

中学生・高校生のブログ研究
※現在では企画を終了しております。


子ども達が書くブログ

ここで、「中学生・高校生のブログ研究」でわかった中高生のブログと大人のブログの違いについて簡単に触れておきたい。実際、いろいろなブログに接してみると子ども達が書くブログというのは、大人が書くブログとはずいぶん違う。

○全体のデザインが派手
大人は、デフォルトのデザインのまま、ブログをやっていることが多い。

○文字の大きさや色が独特
ものすごく大きな文字や、小さい文字を使ったりする。色もかなりカラフル。大人から見ると読みにくいととらえられてもおかしくないような見た目になる。

○へんな文字の書き方をする
いわゆるギャル文字。

○文字を画像で表現する
普通にテキストで入力する文字では、満足しないのか、わざわざ画像で文字をつくって表現している。文字のアイコン化が進んでいる。

その他にも
○写真を多用する
○写真を加工する
○紹介文の工夫
○更新頻度が高い
○新しいのに簡単に移る
○文章の特徴
○ランキングの解説を書き換える。

など、大人には見られないさまざまな特徴が見られた。詳しくは、「中学生・高校生のブログ研究」を参照していただきたい。


考察

ブログは、HTMLの知識がなくても、簡単に見栄えの良いHPを作ることができるということが一般的には言われているが、実はそれだけではない。インターネットの新しい潮流としてWEB2.0という言葉があるように、これまでの静的なインターネットから、コミュニケーションやWEB同士の連携を前提とした新しいインターネットへの移行が始まりつつあり、その代表的なシステムがブログである。そして、子ども達はその流れを自然と取り入れているように感じられる。

また、子ども達のブログでの活動を観察していると、子ども達はブログというシステムの中でも、自分なりの自己表現をしようと様々な工夫をしていることがわかる。大人のブログだと、手を抜くところ、例えばデザインや紹介文、写真などに対し、反対に力を入れることによって、自分の個性を表現しようとしている。

また、子どもたち独特の文化、特殊なテキスト文字、字の大きさを極端に変化させる、非常にカラフルな色使い、別の文字を組み合わせて旧来の文字を作り出す「ギャル文字」など、大人のブログにはない独特の世界を作り出している。

これまでのインターネットの歴史を体験してきた大人と違って、直接、今のインターネットに入ってくる子ども達は、非常にストレートに新しいインターネットの感覚を身に着けつつあるようだ。そういった意味でも子ども達のブログは、情報共有への欲求と他との差別化、自己表現など、子ども達が持っているネットへの感覚がストレートに出ているメディアだと思う。

子ども達にとって、インターネットはもう特別なものではなくなってきている。これまでの手紙、新聞、雑誌、ラジオ、テレビなどの代替ではなく、まったく新しいインターネットならではのシステムや表現、コミュニケーションが生まれつつあるように思える。


終わりに

この研究を通して見られたように、インターネットの技術的な部分は誰もが使えるところまでになったという印象が強い。反対に、そのプラットフォームをどう使い、どんな表現をして、どうやりとりし、そこからどうメリットを享受するかというコンテンツの重要性が高まってきている。これまでのインターネットだと、コンテンツよりも技術や表現などでごまかしが効いていた部分があるが、もうそのようなところは自然に淘汰されて、本当に必要な部分に直接アクセスするようになってきている。

技術からコンテンツに重要性が移行してきたということは、情報を発信する「人」の重要性が高まったということであろう。今後は、これらの技術をどううまく使いこなして自分自身のオリジナルコンテンツを表現できるかに重点が移ってくると思われる。

子ども達は、直接この世界に入ってくる。そんな子ども達がどのような表現をするのか、どのような感性を持っているのか、コンテンツの面からも研究を進めていきたい。

<参考>
メディア分野における子ども達との新たな関係の必要性

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