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Teens Research Netの活動報告書

川上真哉 (CRN外部研究員)

2006年6月16日掲載

要旨:

家庭へのパソコンやインターネットの普及が進み、また学校への設置と授業での利用が広まる今日、子どものインターネット利用者数は増加している。だが、利用者である大人が"インターネット利用者としての子ども"を明確に意識していないことが考えられる。通常は意識されにくい"インターネット利用者としての子ども"の実態を明らかにするために、我々はインターネット上の子どもに注目し、実際に彼らとコミュニケーションを取りながら、子どもたちのインターネット利用実態を調査した。
はじめに

家庭へのパソコンやインターネットの普及が進み、また学校への設置と授業での利用が広まる今日、子どものインターネット利用者数は増加している。近年の子どもが関わった事件のいくつかでは、関係した大人の利用だけでなく、当事者である子ども自身がインターネットを利用していたことが大きく取り沙汰されている。この背景には、インターネットをあまり利用していない大人の存在と、利用者である大人が"インターネット利用者としての子ども"を明確に意識していないことが考えられる。

インターネット上の関係性には直接の関係性とは異なる性質がある。その最も重要な1つは匿名性である。通常、我々は見ただけで、相手が大人であるか子どもであるかを判断することができるが、インターネット上ではテキストや画像のコンテンツを読まなければ判断する材料を得ることさえできない。その上でコンテンツの信憑性を考慮して対象が大人であるか子どもであるかを判断することになる。このように、インターネットを利用した状況では、相手が子どもであるか否かという簡単な判断が、直接会う状況に比べて、より負荷の高い行為となるのである。

また、匿名性の高いインターネット利用状況では、人と人とが対等の関係にあることが暗黙のマナーとなっているが、現実社会における大人と子どもの関係性から推測すると、利用動機においては、関係性を築く対象が大人あるいは子どもに限定されていると思われる。例えば、コンテンツがあらかじめ大人向けや子ども向けとしてデザインされているものが多く、それらの利用者は対象を大人、あるいは子どもに限定しているのではないだろうか。

このように、通常は意識されにくい"インターネット利用者としての子ども"の実態を明らかにするために、我々はインターネット上の子どもに注目し、実際に彼らとコミュニケーションを取りながら、子どもたちのインターネット利用実態を調査することにした。


Teens Research Netの概要

子どもとメディア研究室では、2004年秋にコミュニティサイト・カフェスタ内にサークル「Teens Research Net (TRN)」を立ち上げ、以降、様々なサークル内企画を通じて子どもたちとのコミュニケーションを行ってきた。サークル会員が集うサークルのホームページや各会員のホームページの相互訪問や、メッセンジャーやチャット、掲示板等のネット上のコミュニケーションツールを利用したやりとりを通じて、子どもたちのカフェスタやインターネットの利用実態について、約1年間に渡っての参与観察を行った。


Teens Research Netの活動

TRNの活動は、カフェスタ利用者の子どもたちからサークル会員を募集し、サークル内で様々な企画を行い、その都度サークル会員の参加を呼びかけ、参加してくれた会員にカフェスタのアイテムをプレゼントする形式で行われた。


TRN会員数の推移


TRNは2004年11月から活動を開始し、当初は数名の会員数でスタートしたが、2005年の12月には75人の会員数にまで増加した。月ごとの会員数の推移を下のグラフに示す。

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尚、この会員数には正式な退会を行わないまま、カフェスタ(及びTRN)をやらなくなった子どもの人数も含まれている。会員数は年間を通じて増加しているが、11月から12月にかけて会員数の増加が多く、逆に3月から5月にかけて増加が少ない。11月から12月の時期は、秋の様々な行事が一段落し、次の12月にはクリスマスやお正月、冬休みをひかえ、子どもたちの気持ちが軽くなり活動的になることが、この時期の増加の背景にあるのではないかと考えられる。同様に夏休み期間になる7月から8月にかけての期間も増加の多い時期である。3月から5月にかけては、年度代わりの時期で、学校や家庭での用事も多く、新しい生活に慣れるまでは、そちらに気持ちが向いているために、増加が少ないのではないだろうか。


アンケート企画


アンケート企画は、カフェスタの機能であるMyHP上で行うアンケート機能を利用して、アンケートを行い、その集計結果をサークルに報告すると、謝礼としてカフェスタのアイテムをプレゼントする仕組みである。アンケートは回答者数に下限(20回答)を設け、結果に対するコメントを付けることを報告条件とした。当初は無制限に謝礼を出していたが、会員数の増加に伴い、プレゼントするアイテムの購入費用と処理手続きの限界から1人につき5件/月の制限を設けることになった。それでも一ヶ月に10人前後の会員から40~60件の報告が寄せられた。WEB上のアンケート機能は、子どもでも簡単に、多くの他者とコミュニケーションを行うきっかけを提供できる優れた仕組みであると思われる。


季節企画

季節毎に、特別企画として様々なコンテストを行った。これらの企画は毎回テーマを決めて、会員には作文か画像加工をして応募してもらい、優秀な作品にアイテムをプレゼントする活動である。下の表に各季節企画と参加人数、コメントを示す。


時期 テーマ 人数 コメント
2004年 冬休み 読書感想文コンテスト 3名 長文が敬遠された
写真日記コンテスト 2名 画像の利用は少なかった
2005年 3月 フォーラム企画
友だち紹介キャンペーン
3名
若干名
議論の進展・深化は無かった
Cafesta友だちの紹介が多かった
6月 俳句・川柳コンテスト 2名 1人当たりの応募数は多かった
夏休み 日本全国フォトツアー 2名 画像の利用は少なかった
12月 クリスマス企画
形式自由作文
応募者全員プレゼント
10名強 参加が多かった
冬休み 書き初め/描き初めコンテスト 6名 画像の利用が増えた


季節企画を通じて、子どもたちはコンテスト形式にはあまり積極的に参加しないという様子が見られた。これらの企画では、子どもたちに作文や画像加工などの創作活動を要求し、その分の負担を強いるものであったにも関わらず、負担の結果として賞品が得られる保証もないために、気軽に参加できるものではなかったと思われる。特に画像の利用が必要な企画への参加は少なく、デジカメ等の画像機器の利用は少なかった。2005年の12月に行ったクリスマス企画では応募者全員プレゼントとしたため、多くの応募があった。その後に行った冬休みの企画では、画像加工を求めたものであったが、それまでの企画に比べて参加人数が増えた。これは、直前のクリスマス企画に参加して、参加する楽しみを感じてくれたことと、プリンタ複合機の普及によって画像利用が進んでいることが背景として考えられる。また、この冬休み企画では小学生の参加が多く、画像関係の利用は低年齢化が進んでいる様子が観察された。


考察

TRNの子どもたちは、全てがインターネットを自在に使うエキスパートばかりではなかった。カフェスタを始めたばかりで殆どコンテンツも無いような子どもや、始めたけれども何をしたらよいのか分からない子どもも少なからず存在した。特に小学生の会員は"入ったけど何をしたらよいか分からない"子どもが多かったが、TRNでは会員になった子どもに対して、アンケート企画の参加方法を説明し、子どもが回答するアンケートの実施と報告という行為に対して、プレゼントという反応を与えることによって、コミュニケーションが進み、またカフェスタやTRNに積極的に参加するようになった。インターネット上のサークルTRNは、子どもたちに"コミュニケーションサイトで何をしたらよいか"という1つの遊び方を提供することができたと思われる。子どもの利用者に対しては「コミュニケーションサイトなのだからコミュニケーションをすればいい」というような漠然とした説明ではなく、「何処に何を書いて、登録して、そうするとこういう反応がある」というような具体的なやり方や仕組みがある方が、利用しやすいと思われる。これは現実社会でも同様であり、子どもの集団活動などでは通常、大人や年長者が指導者として存在し、それらが新しく入った子どもに対しても、「何をするのか」を具体的に指導するものである。インターネット上にはこれまで指導者的な役割を持つ年長者が存在するような組織がほとんど作られていなかったが、TRNの活動を通じて、そのような組織が有効であることを実感することになった。


おわりに

これまであまり意識されてこなかったインターネット上の子どもたちとコミュニケーションをとり、彼らの様子を観察していると、多くの子どもが"子どもらしく"活動しているように感じられた。一般に大人であれば「何をしたらよいかわからない」といった発言はあまり見られないし、言葉遣いにも注意して丁寧な表現を心がけるのであるが、多くの子どもたちはストレートに話し言葉で、思ったままのことを発言していた。それと同時にテキストに装飾を加えることを好む子どもも多く、テキストが単に言葉を文字にしたものというだけでなく、感情を言葉に乗せたり、コミュニケーションに対する心的態度を表現したり、あるいは芸術的な要素を加えたりする様子が見られた。例えば、最近はプリクラも多くの機能が付いて、装飾面での表現能力が発展しているが、子どもたちにはそのような装飾や表現方法に関する豊富なポテンシャルが秘められているのではないかと感じた。 

しかし大人同士の関係に慣れた(あるいは、子どもとの関係性に不慣れな)インターネット利用者にとっては、そのような"子どもらしい"装飾や態度を目にした時、抵抗無く受け入れることは難しいかもしれない。実際、大人の基準で考えると、多くの子どもたちの表現は攻撃的だったり、独善的だったり、失礼な書き方に当たるであろう。しかし、「子どもたちは、そういうものかもしれない」と考えると、インターネット上での発言だからと言って急に大人のような発言ができるわけでもなく、それらが当たり前のことではないだろうかと思われてくる。例えばマナーなど、インターネット上の様々な基準は大人が基準になっている。インターネット上では常に礼儀正しく、公平かつ中立、そして我慢強くて冷静な態度が望まれる。しかし、子どもたちにそれらを求めたとしても、無理であろう。子どもたちは、今まさにそれらを習得している最中なのだから。

子どものインターネット利用が広がるにつれて、子どもたちが"子どもらしく"インターネットを利用している様子が、今後とも様々な場面で見られるようになるであろう。いずれ子どもたちの基準に立ってインターネット利用のあり方自体を考え直す必要が生じてくるのではないだろうか。

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