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小学生の『ライブ』感覚を取り入れたデジタルメディア利用に関する実践研究

河村智洋 (CRN外部研究員)

2003年5月23日掲載

要旨:

本研究は、新しいメディアが、子ども達にとって、どのように意味のあるものとして使えるようになるかを考察するものである。研究を行うにあたり、子ども達が参加するメディアを取り入れたワークショップを行った。ワークショップでは、子どもたちに新しいメディアの使い方を考えさせること、子ども達と一緒に面白い使い方を探していくことを重視した。このワークショップから、(1)子ども達へのITの導入する際は大人が教えるのではなく子どもが自由に触れて使ってみること、(2)子ども達の感性で新しい技術の可能性や利用方法を探ること、(3)世代を超えたコミュニケーションを行うことの3つの点が重要であることがわかってきた。
■はじめに

本研究は、新しいメディアが、子ども達にとって、どのように意味のあるものとして使えるようになるかについて考察するものである。

研究を行うにあたり、子ども達が参加するメディアを取り入れたワークショップを行った。ワークショップを用いた研究手法は、このようなワークショップを以前から試みており、本研究テーマに対して非常に有効と考えたからである。ワークショップでは、子どもたち自身に新しいメディアの使い方を考えさせること、また、子ども達と一緒に面白い使い方を探していくことを重視している。

1995年から2000年までの5年間行われた「マルチメディア家族キャンプ」を例にあげよう。小学校高学年の子ども20人と保護者を対象としたこのキャンプは、夏休み期間中に3泊4日で行われ、もっとも新しいメディアを使い、さまざまな体験活動が期間中に行われる。慶応義塾大学や東京大学、武蔵工業大学など多くの大学や専門学校の学生達がボランティアスタッフとして参加するが、学生自らが新しいメディアを使った企画を考えることにより、彼ら自身にとっても良い体験学習になっていた。

この「マルチメディア家族キャンプ」を通してわかってきたことが大きく3つある。

第一に、子ども達へのITの導入は大人が教えるのではなく子どもが自由に触れて使ってみることがとても重要だということ。大人の先入観でメディアの使い方を子ども達に押しつけてしまったら、大人の考えたことができるかできないかということだけで、何も新しい使い方が出てこない。そうではなく、子どもたちの自由な発想でメディアに触れる機会を設けることにより、子ども達は自ら新しい使い方を自然と生み出す。また、実際、子どもたちは教えなくても勝手に使い方を学び、お互いに教え合う能力を持っていた。

第二に、子ども達の感性で新しい技術の可能性や利用方法を探ることがとても重要だということ。遊びの中で大人と子どもが一緒になって最先端のテクノロジーのポテンシャルや使い方を探ることが非常に有効であることが分かった。われわれ大人の中には、メディアの使い方に対する固定観念があり、新しい使い方を考え出すという点において限界がある。それに対して、子ども達はなんら固定観念を持たずに自らの本能に従って新しい使い方を創造していく。もちろん子ども達だけでは使い方が偏ってしまう可能性もあるが、そこに大人も加わることによって、お互いが良い影響を与えながら新しい面白い使い方を開発していくことができる。

第三に、世代を超えたコミュニケーションの重要性である。同世代だけでこのようなワークショップを行うこともひとつの可能性ではあるが、やはり異世代の人たちとコミュニケーションをしながら行うことによって、さまざまな異なる視点からものを見ることができ、それぞれの能力がより発揮されているのではないかと思われる。

また、「マルチメディア家族キャンプ」を毎年行う中で、モバイルの重要性に目を向けるようになった。ちょうど日本でも携帯電話というモバイル端末が急速に普及していった時代であり、それまでのデスクトップパソコンの前でコンピューターを使う時代から、何かが起こっている「現場」で情報を発信したり受信したりすることがとても重要だとわかってきた。そのため、このキャンプでも携帯電話やPDA、各種モバイル端末がどんどん使われるようになった。同時に携帯電話は、従来の音声通話だけの端末からiモードのようなインターネットメールやウェブ機能を搭載したものへと変化し、それらが急速に普及し、写メールのようなカメラのついた携帯電話まで出現するようになった。このような環境変化の中で、携帯電話を使った全国一斉に桜の花を読む俳句の企画やお年寄りと子どもと若いスタッフが一緒に行うワークショップなどを筆者は行ったが、これらの経験から、より現場からのライブで情報を受発信することが重要になってきたことを感じた。

このような経緯や新しいメディアの発達によって、実際何かが起こっている現場に行き、そこから発信し、コミュニケーションする「ライブ」というコンセプトが研究テーマとしてあがってきた。そこで、今回は「ながやまチーきち」で、新しいメディアを使ったライブの実験的イベントを行った。以下、その報告と考察をまとめる。


■可能となりつつある新しい映像のスタイル

本研究を行うにあたり、最近のデジタルメディア、特に映像に関する大きな変化に注目した。これまでのテープに録音/録画することが当たり前の時代から、急速に映像のデジタル化が進んでいる。蓄え型の映像ではなく、自分が使いたいときにさっと出てくるような映像の使い方が現実のものとなりつつあるといえる。

情報環境の変化(ユビキタスとモバイル)と新しい情報環境として、以下のものがあげられる。

モバイル・インターネット(2.5世代携帯電話&第3世代携帯電話)
モバイル(パソコン・PDA)
ホットスポット(パソコン・PDA)
インターネットカフェ
自宅の固定パソコンのブロードバンド化

これら新しい環境に適応した形態を考える。


■研究で利用するメディアシステム

本研究は、NTTドコモ、シャープ株式会社、東京海上研究所、慶応義塾大学大学院石井研究室の協力のもと、次世代携帯電話&ウェアラブルを中心とした新しいライフスタイルの創造を目指した研究プロジェクトの一環として行われた。特に、次世代携帯電話FOMAの映像コンテンツを中心に扱っている。

FOMAが発売されて1年になるが、2002年の現状ではまだ一般化に至っていない。それは、多分にコンテンツが遅れていることがあげられる。つまり、ハード面の開発に、それをどう使うかのソフト面が追いついていないのである。例えば、リアルタイムでの映像通信(TV電話)はFOMAの大きな特徴ではあるが、その特徴へのこだわりが強すぎ、大人がFOMAの多地点中継を行うときに見られるように、顔を見ながら話をするTV会議文化になってしまっている。自分の顔を相手に伝えるだけではなく、自分が見ている映像を見せる、あるいはものやデータを見せるなど、モバイルならではの使い方の中に本質的な使い方があるのではないだろうか? ここが我々の研究の出発点である。


■「ながやまチーきち」における実験結果

1.子ども達に無線による映像送信を体験してもらう
2002年5月25日(土)晴れ
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『パソリンクを作ろう』
実際にTV局で使われている短距離映像通信装置「パソリンク」を組み立てる。
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09:45 受付開始 名札作り ・ 導入では、新規の子と慣れている子の交流が問題となる。

10:10 子どもを2グループに分ける。説明

10:20 パソリンクを組み立てる。双方が組みあがったら、アンテナを使って映像を送信する。
・ 組み立てに手間取った。
・ ハウリングの発生
・ 組み立てに興味を示さない子どもがいた。

11:10 スタッフ&子どもで自由に遊ぶ。
・ 兄弟・友達等、自分に近い人はグループで分けたが、通信ができるようになるとそれぞれが違うほうへ行って、通信するようになった。
・ どこにむかって話すか、どう映っているかがわかりにくい

11:40 片付け

11:50 お茶会
 
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考察

結果として、簡単に無線で映像が送れることは、理解してもらえたようだ。特に組み立てには興味を示さなかった子どもが映像がつながったら、校舎を行き来しながら遊び始めた。離れたところと映像でやりとりできることに本質的な面白さがあるようだ。



2.テレビ中継を使ってゲームをする
2002年6月1日(土)晴れ
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『中継をやろう』
別の空間をビデオ映像で中継する。絵と音のみの情報を使って、離れた場所の人と遊び、ビデオ中継というものについて考える機会とする。
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09:45 受付開始。名札を書いてもらう。簡単な自己紹介

10:15 「かるた」遊び
1. てるてるぼうずが映像上に登場。
2. みんなでかるたとりをする。
3. 得点集計をして一番の人を拍手&表彰式。
・ 子ども達のアイスブレイキングとして使用。うまくいく。

10:25 中継の説明
子どもを2グループに分け、今日のゲーム(間違い探し&これは何でしょう)の説明をする。

10:35 間違い探しゲーム
1. 映像&音声を切って5分間の作戦タイム。
2. 先攻後攻のジャンケン。先攻チームがまず配置につく。
3. 映像を切った状態(音声は生きている)で、先攻チームが5箇所変更する。
4. 映像をつなげ、3分でどれだけ当てられるか。当てた数が得点になる。
5. 後攻チームが先攻チームと同様なことを行う。
・ 間違い探しゲームでは、子ども達は、ルールをきちんと理解してくれて、楽しんで、ゲームをやってくれたように思う。
・ 「対戦する」というだけで、子ども達は、かなり夢中になってくれる。
・ ゲーム性も、この世代には、非常に強いモチベーションになることがわかった。

11:05 休憩

11:15 これは何でしょうゲーム
1. 映像&音声を切って5分間の作戦タイム。
2. 先攻後攻のジャンケン。
3. 先攻チームが映像を切った状態(音声は生きている)で、何かをクローズアップして撮影する。
4. 映像をつなげ、後攻チームに見せる。
5. 後攻チームは映っているものが何かを当てる。
6. 答えがわからない場合、先攻チームは少し下がって撮影をし、ヒントを出す。答えがわかるまで、繰り返す。
7. 最初の映像で正解すると2点、ヒントを見て正解すると1点が得点になる。
8. 後攻チームが先攻チームと同様なことを行う。
9. もう一回戦ずつ行う ・ 相手が映っているテレビ画面と撮影しているカメラが離れている場合、その違いが最初はわからないが、このゲームを通して、すぐに理解してくれる。 ・ 音を切って、映像だけを流すなどの工夫も、通信を理解するうえで、非常に良いアイデアであった。

11:40 片付け

11:50 お茶会
 
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考察

テレビ画面というメディアを使って遊ぶことにたいへん興味を持っていた。また「音声を切る」や「見せ方を工夫する」など、より楽しむためのルールを自分達で考え出して取り入れていたことには驚いた。子ども達だけでもかなり高度な使い方ができることがわかった。



3.街の中に出て、携帯電話のテレビ電話でゲームを行う
2002年7月6日(土)曇り
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『携帯電話でTV電話をやろう』
FOMAのTV電話機能を使い、別の場所にいる人とテレビ電話で会話をしながら、コミュニケーションをとることによって、目的を達成する。リアルタイムの動画通信ならではのコンテンツを提供し、その反応から、その可能性を探る。
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09:45 受付開始 簡単な自己紹介タイム

10:05 「かるた」遊び(詳細は6月を参照)。得点集計をして一番の人を拍手・子ども達のアイスブレイキングとして使用。うまくいく。

10:20 FOMAの説明 子どもを2グループに分け、今日のゲーム(七夕に織姫・彦星がうまく会えるようにみんなで助けてあげよう。2人は今日はじめて永山に来たので、居場所を教えてあげよう。)の説明。各グループから取材する人を1~2名選出する。実際にテレビ電話を使ってみる。
※外へ移動し、織姫と彦星を呼び出す

11:00 織姫と彦星は、はじめての場所で困っている。2人が会えるように手伝ってもらうように子ども達にお願いする。取材チームスタート
※途中で、300円でプレゼントを購入する。

11:15 校庭内のどこかで2人は出会い、子ども達に感謝する。

11:40 片付け

11:50 お茶会

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考察

大人がFOMAを使うと顔を見ながら話をするだけで終わってしまうことが多い。しかし、今回の実験では、顔同士のテレビ電話だけでなく、自分の居場所を知らせるために街の目印になるモニュメントや看板を映す、また、情報を伝えるために地図を映して説明するなど、かなり高度な使い方を教えていないのに自分達からはじめていた。このような使い方は、大人では、教えて、何度かやらないと出てこないが、子ども達はテレビ電話に対する思い込みがないから、新しい使い方をどんどん自分達で開発してくる。



■考察

今回、子ども達に新しいメディアを使ったワークショップに参加してもらい、さまざまな考察を得ることができた。特徴的なものを以下に二つあげる。

一つは、子ども達はメディア機器をすぐに使いこなせるようになることである。「マルチメディア家族キャンプ」を含め、1995年からメディアを使った子ども達の参加するワークショップを行ってきているが、当時、子ども達がPDAにPHSを接続し、インターネットを使ってメールやウェブサーフィンができるまで、24時間つまり約1日程度かかっていた。当時はその速さに驚いていたのだが、iモードの出現以降、説明を少しすれば1時間ほどでメールやウェブ機能を使いこなせるようになった。また、iモードなどのように操作が簡単になってくると、使い方をひとつひとつ教えなくても、できる子ができない子に教え、自然と皆のレベルが上がっていく現象も見受けられた。今回の実験で使ったビデオカメラや携帯電話にいたっては、子ども達の家にもそういった機器がすでにあり、家族が使っているのを見ていたり、あるいは自分でも少し使ったことがあったりすれば、ほとんど教える必要もなく使いこなせるようになった。特に携帯電話による映像通信は、つなぎ方は普通の携帯電話とほとんど変わらないため、子ども達はすぐに使いこなしていた。

もう一つは、離れた場所にいても映像を用いて通信することによって、これまでにはない新しいコミュ二ケーションが生まれる可能性があることである。例えば、身の回りに実際にあるものを見せながら話をする、場所を知らせるためにランドマークとなるようなものを写す、地図を見せながら説明するなど、これまで音声だけではできなかったコミュ二ケーションができることによって、離れた場所にいる子ども達のお互いの関係が、これまでにない密接なつながりを持ち、離れた場所にいてもコラボレーションを可能としている様子が見られた。具体的な事例をあげると、例えば映画の撮影で使われる技法のような、自分の目線で相手に伝えるカメラの使い方を子ども達は自然に行っていた。大人を対象に、このようなモバイルの映像通信実験を何度も行ってきたが、何も説明せずに初めての人がそれらを使うと、多くの場合、いわゆるTV電話的な使い方、つまりお互いの顔を見て話す使い方しかなされない。しかし、今回参加した子ども達は、顔を見ながら話をするだけでなく、自分が見ているものを相手に見てもらうためにカメラを自分の目線と同じ方向に向けて使っていた。それは、追視型とでも呼べるような新しい使い方である。また、この追視型の映像を見ていると、歩いているとき、走っているときの体の揺れといった身体感覚が非常にリアルに伝わってくる。また、考えているときや悩んでいるときには、画面が左右に振られたり、上や下などとんでもないものを写したりするなど、ある種の感情までもが映像から伝わって来ることが分かった。

そして、そのような使い方をしている子ども達の行動を観察すると、環境そのものが子ども達にとって次の何かしらの行動へ向かわせるきっかけとなっていることが感じられた。今回、学校の校舎や街の中で実験を行ったので、ある程度のストーリーは持っていたが、それ以上のハプニングを含めた面白いドラマがリアルな街という存在感の中から生み出されているように見受けられた。このような現象は、ひとつの場所に皆が集まっていては出てこないだろう。周りにリアルなものがある場所で、このような活動を行ったからこそ出てくるものであろう。

こうした実験を通して、新しいメディアを使うことでこれまでにない「ライブ」コミュニケーションが可能となり、それにより新しいメディアの使い方、そして新しいライフスタイルが生まれてくる可能性を感じることができた。例えば子ども達の学習面でも、教室での勉強とは違った新しい学びの手法のひとつとなる可能性もあるのではないだろうか。

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