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研究室

保育預かり初期のストレスとSIDS危険因子の関係について

伊東和雄(有限会社マスターワークス)
中村徳子(託児ママ マミーサービス)

2013年12月 6日掲載

要旨:

保育環境に視点を置き、預かり初期のストレスとSIDS(乳幼児突然死症候群)危険因子との関係に着目し、過去15年間、31例の保育施設で発生したSIDSについて調査、分析を行った。その結果、預かり初期のSIDS発生は顕著に多く、また発見時のうつ伏せ寝や発症当日体調不良だった児が有意に多かった。このことから保育施設におけるSIDS対策について考察し提案を行う。

キーワード:
SIDS危険因子, うつ伏せ寝, 体調不良, 慣らし保育, 預かり初期のストレス
Ⅰ.はじめに

SIDS(乳幼児突然死症候群)は未だ完全な原因解明には至っていないが、睡眠時の無呼吸からの覚醒反応の遅延が基本病態であることが知られており、さらにうつ伏せ寝や両親の喫煙、授乳環境(人工乳)、児の暖めすぎなど、いくつかの危険因子が明らかにされ、それらの危険因子を養育者へ知らせることによって、SIDSの減少に大きく寄与していることは周知の通りである。一方スウェーデンの報告で、若い両親が乳児を連れて旅行やアウトドア活動を行う機会が多くなり、家庭以外でのSIDS発症例が増加していることが報告されており、モノを言わない赤ちゃんが知らない間に疲労がたまりSIDS発症リスクが高まると警告した*1

またアメリカ小児科学会では、SIDSが保育施設における滞在時間数から予測される数の2倍以上発症しているとの指摘があり、特に預かり始めの一週間でSIDS発症の3分の1が、さらにその2分の1が預かった初日であったことが報告された。さらに同学会では、普段うつ伏せ寝にしていない乳児が、預けられることによって、慣れていないうつ伏せ寝にされた場合のSIDSリスクは19.3倍にもなると警告した*2

わが国においては保育施設のSIDSに関する大がかりな調査報告はないが、「130の小さな叫び」*3、「保育園での事故・突然死」*4など、保育環境における突然死の調査、分析を行った資料において、預かり初期の突然死について指摘した。また独立行政法人日本スポーツ振興センターの「突然死月別発生状況調査」*5においても、保育所で預かり初めの多くなる4月に最も多く突然死が発生していることが報告された。

これらのことから、預かり初期の乳児の疲労や環境変化に伴うストレスがSIDS発症に関与している可能性が考えられる。

Ⅱ.調査研究の目的

「保育環境」に視点をおき、預かりからの時期とSIDS発症の関係、さらにSIDS危険因子との関係を調査し考察を行った。

Ⅲ.調査方法

直接関係者に連絡を取り、保育施設におけるSIDS事例の聞き取り調査を行った。

対象となる時期は過去約15年間であり、回答が得られた調査数は31例であった。

Ⅳ.結果および分析

1.月齢、年齢

0才児が26名(6カ月未満児 17名 54.8%、6カ月〜1才未満児 9名 29.0%)1才児が5名(16.1%)であった。現在SIDSの定義は1才未満であるが、過去15年間の分析であることから1才児も含めて分析した。

2.預かりからの時期とSIDS発生の関係

ⅰ. 発症数の割合
 31名中17名(54.8%)が、預かりから1ヵ月以内の発症であった。

   
初日 4名(12.9%)
2日目〜1週間以内 5名(16.1%)
2週目〜1ヵ月以内 8名(25.8%)
1ヵ月〜2ヵ月以内 4名(12.9%)
2ヵ月〜1年以内 10名(32.3%)

ⅱ. 一日あたりの危険度(図1)
 ⅰに示したSIDS発生頻度をもとに、発症数を該当日数で割ったものが、図1のグラフである。

lab_09_01_01.jpg

計算式は該当期間ごとに「SIDS発症人数÷該当日数=一日あたり危険度」とし、それぞれ下記の計算式に基づいた。なお各年によるばらつきを排除し計算を容易にするため、1週間は7日、1ヵ月を30日として計算した。

初日 :4名÷1日=4.00
2日目〜1週間以内 :5名÷6日=0.83
2週目〜1ヵ月以内 :8名÷23日=0.35
1ヵ月〜2ヵ月以内 :4名÷30日=0.13
2ヵ月〜1年以内 :10名÷300日=0.03

初日のSIDS発生頻度(4.00人/日)は、2ヶ月〜1年以内の発生頻度(0.03人/日)の133倍であった。さらに、預かりからの時期1ヵ月以内(17名÷30日=0.57)を、1ヵ月〜2ヵ月以内、及び2ヵ月〜1年以内の群と、一日あたりの発生頻度を比較した。(図2)

lab_09_01_02.jpg

その結果、預かり初期の1ヶ月間における危険度は、1〜2ヵ月の4倍、2ヵ月〜1年以内の17倍もの差があった。

3.発見時の体位

うつ伏せ寝 19例(61.3%)
仰向け 11例(35.5%)
不明 1例( 3.2%)

以前からSIDS対策として仰向け寝を基本としている保育施設が多いにもかかわらず、うつ伏せ寝での発見が6割を超えており、いかにうつ伏せ寝による危険度が高いか、この調査からもうかがえる。

一方、仰向け寝でも発症していた。こどもの寝顔が見えているからといって安心できない。気づいた時は呼吸停止だったということもあり得る。今回の調査においても、こどものすぐ側にいて表情(寝顔)、声、体の動きなどに異常と感じられないなかで、気付いたら呼吸停止だったという例が多かった。

4.発症当日の体調

良くなかった 21名(67.7%)
通常だった 6名(19.4%)
不明 4名(12.9%)

発症当日、体調が良くなかった児が多かった。

体調不良の内容は、例えば微熱がある、ミルクの飲みが悪い、食欲がない、軽い風邪のような症状、機嫌が悪い、よく泣く、元気がない、何となくいつもと様子が違うなど、通常は保育施設で預かる範囲の体調であるが、体調不良要因の一つには、スウェーデンの報告にもあるように、預かり初期の環境変化に伴うストレスも考えられる。

Ⅴ.まとめと考察
  1. 保育預かり初期に起こるSIDSの危険性が高く、それらを一日あたりの危険度で表すと、初日はそれ以降の100倍近い危険度があり、1ヵ月以内でも、1ヵ月以降の4倍さらに2ヵ月以降の17倍であった。このことから乳児の環境変化に伴うストレスが、SIDS発症要因となっていることが強く疑われる。

  2. また本調査によると、預かり一週間以内に29.0%が発生し、初日にはそのうちの44.4%が発生していた。これは、預かり一週間以内に3分の1、その2分の1が初日に発生したとするアメリカ小児科学会(前述および文献2)の報告に近似していることから、国際的に見ても同様の傾向があることが考えられる。

  3. 保育環境におけるうつ伏せ寝が少ないと推測されるにもかかわらず、発見時うつ伏せ寝だった児が6割を超えていた。このことからうつ伏せ寝とSIDSは保育環境においても強い相関が疑われる。

    なお保育施設での午睡時において、どの時期(何年頃)に、どのような体位管理をしていたか、という実態を把握することにより、うつ伏せ寝によるSIDS危険度分析を進めることができる。そのためには、わが国の保育施設における午睡時体位管理に関する大がかりな調査が望まれる。

  4. 発症当日に体調が良くなかった児が67.7%と多かった。体調不良の内容は保育の許容範囲であり、SIDSのような深刻な結果を想像しがたいものである。さらに保育側も体調の良くない児には注意をはらった保育を行っており、まさかこの程度の体調不良が生命の危機につながるとは想像出来ない状態で発症している。

    これがSIDSの本当の怖さなのかもしれない。

  5. 調査の困難さとSIDS解明の重要性
    今回の調査は容易ではなかった。その理由として家族との話し合いが困難な状況となる場合も多く、施設から箝口令が敷かれているもの、深い悲しみやショックから関わった保育者が心身ともに深刻な状況に陥るケースなど、関係者はけっして積極的には口を開こうとしない現実がある。

    この調査はこうした中でもこどもの命を無駄にしたくない、SIDSを撲滅したいとの願いから、個人や施設が特定されない範囲での開示のみという条件で勇気をもってお話いただいた31例の結果である。今回調査への関係者の協力に感謝するとともに、SIDSの解明とその理解により、こうした出来事を撲滅するための努力の重要性を痛感した。

    また、こうした環境のなかで実際に起こるSIDSに対し、保育施設で乳児を亡くした保護者および関係した保育者へのサポート機関や相談窓口の設置が強く望まれる。

    さらに、今回の分析からは除外したが、ALTE(乳幼児突発性危急事態)も数例あり、SIDS同様に預かり1ヵ月以内に高率で発症していた。

    保育環境において起こったこれら全ての突然死について、調査、分析、実態解明を行い、関係者の理解を促し、乳児の不幸な突然死と、とりまく関係者の不幸な出来事が無くなることを願ってやまない。
Ⅵ.提言

今回の調査および分析の結果から、保育環境におけるSIDS対策として以下を提言する。

  1. 預かり初期にSIDS発症が多いことを認識し、特に注意すべきである。

  2. 仰向け寝の徹底、特に寝返りなどで仰向けからうつ伏せになるという体位変化にも注意すべきである。

  3. こどもの午睡時には定期的な呼吸確認を行う。その際は見るだけでなく、ゆるやかな刺激覚醒(児をやさしく撫でるなど)を行うべきである。

  4. 乳児の体調把握、特に「いつもと違う」様子に注意を払う。

  5. 保育者、保護者双方が、預かり初期のSIDSリスクを共通認識し、慣らし保育を導入すべきである。その際、それぞれのこどもの体調、状態にあわせた当初保育時間の短縮や、慣らし保育期間の延長なども併せ考慮すべきである。

  6. SIDSに関わった保育施設および保育者を対象としたサポート機関、相談窓口の設置が強く望まれる。
付記

本報告は、第9回SIDS国際会議(2006.6.4 横浜市)において発表した内容に、詳細の追加および改訂をおこなったものである。

なお本調査、分析ならびに報告は、東京女子医科大学教授 仁志田博司先生から丁寧なご指導、ご助言をいただくことによってまとめることが出来た。この場を借りて深く感謝の意を表したい。


この記事は、「小児保健研究」2006年第65巻第6号 836-839「保育預かり初期のストレスとSIDS危険因子の関係について」を転載したものです。


    文献
  • *1 仁志田博司:乳幼児突然死症候群とその家族のために. 東京:東京書籍 1995.8.1
  • *2 American Academy of Pediatrics: REDUCING THE RISK OF SIDS IN CHILD CARE. Copyrightⓒ2004
  • *3 径一ちゃんの死をムダにしないために保育を考える会:130の小さな叫び. 東京 1982.12
  • *4 大阪保育研究所:保育園での事故・突然死. 東京:あゆみ出版 1990.11.20
  • *5 独立行政法人日本スポーツ振興センター:学校の管理下の災害-19-基本統計 2004.3.31
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