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インターネット・コミュニティの実験から見えてきたこと ~「デジタル・ネイティブ」から「スマホ・ネイティブ」へ~ (2)

要旨:

2013年度の研究は、子どもがクラス内の人間関係を生活のすべてに持ち込んでしまう、いわば「クラスの呪縛」を浮き彫りにした。そこで2014年度は、子どもが「クラスの呪縛」から自由になり、多様な他者と広く交流できる場として活用できるのではないかと、実験用のインターネット・コミュニティをつくり、高校生と大学生に交流してもらった。交流の実態と、そこから見えてくる若い世代のデジタルメディアの用い方やコミュニケーションの仕方について分析する。

2014年度の他の研究については下記を参照のこと。
https://www.blog.crn.or.jp/lab/02/20.html
https://www.blog.crn.or.jp/lab/02/21.html
中文
研究の概要

今回行った、ネット・コミュニティを用いた研究について見ていきます。

前述したとおり、この研究は慶應義塾大学経済学部の武山教授の研究室との共同研究の1つです。研究のためのネット・コミュニティとして、SNSをクローズドで立ち上げました。このSNSには、どの機能がどれくらい利用されるかを見てとれるように、コミュニティ機能(グループ掲示板)のほかに、日記機能やタイムライン機能など複数の機能を備えました。そして、このSNSを用いた交流を、首都圏の高校生5人と、武山教授の研究室に属する大学生5人に、約2か月間続けてもらったのです。

なお、高校生と大学生とは、事前に面識などはなく、SNSでの交流ではじめて知り合うという関係でした(大学生同士はもちろん、高校生同士にも知り合いはいました)。高校生は大学生が相手であれば、学習面にしても生活面にしても、知りたいと思うような情報が得やすくなるはずです。会って話したことがなくても、高校生にとって魅力的なネット・コミュニティになるだろうという期待がありました。

また、大学生には、SNSの運営もお願いしました。それは、自分たちが運営するネット・コミュニティを盛り上げようと、大学生が高校生にどのように働き掛け、高校生がどのように応じるのかということからも、両者のコミュニケーションのあり方がつかめると考えたからです。


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結論をいうと、今回のネット・コミュニティは、かつてのネット・コミュニティのようには活性化しませんでした。例えば、高校生、大学生ともに、日記はほとんど書きませんでしたし、コミュニティ機能として備えた掲示板への書き込みもごくわずかしかありませんでした。

具体的には、実験を行った1ヶ月間の間に、高校生からの日記の書き込みは、1件もありませんでした。また、試しに私自身が、日記を書いてみても、何の反応もありませんでした。大学生が数件、質問という形で長文のメッセージを日記に書きましたが、それに対する返答も2件だけしかありませんでした。そもそも、SNSに日記を書くということ自体に興味を持っていないように思われました。同様に掲示板機能も、まったく使われませんでした。結局、すべてのコミュニケーションがタイムラインで行われ、そこでは質問や発言に対し、コメントや返答があり、「いいね」がついたりと、完全にフロー型の機能のみ利用され、ストック型の機能は、まったく利用されないという結果でした。ただ、高校生側からの自発的な発言は、最初の挨拶のみで、後は、大学生や私の発信にコメントや「いいね」を返すという受け身的な行動しかみられませんでした。

大学生に対しては、やや受け身の姿勢を感じました。私の感覚では、SNSの運営側、つまりネット・コミュニティを主催する側に身を置くと、面白い投稿をしたり、返事がしやすい投稿をしたりして、他者の書き込みを積極的に促すだろうと予想していました。私も、また私と世代的に近い人たちも、自分が運営に携わったネット・コミュニティではそのようにしてきたと思います。いわば、成長過程にあるネット・コミュニティを活性化させようと、工夫していたわけです。ところが、現在の大学生には、それがあまり見られませんでした。

【研究結果に対する考察①】
リアルを前提としたコミュニケーション

研究結果から、ネット・コミュニケーションが活性化しなかったのは、大学生・高校生が「リアルをベースとしないコミュニティに慣れていないこと」が1つの要因として考えられます。

現在の大学生にしても高校生にしても、物心がついた頃には、インターネットが普及していたのはもちろん、その危険性も広く認知されるようになっていました。彼らは「インターネットで知らない人と関わってはいけません」という教育を幼い頃から受けているでしょうから、バーチャルな場で交流する相手は、リアルな場での知り合いがほとんどだったでしょう。すると、「リアルなものにインターネットがつながっている」「バーチャルはリアルの延長線上にある」という感覚を抱くようになるはずです。

先ほどご紹介したように、2013年度の研究から見えてきたことの1つに、現在の中高生が、リアルな場でのやりとりとインターネット上でのやりとりとの間に差を感じなくなっていることがありました。今回の研究は、そうしたリアルとバーチャルとの一体化が、リアル→バーチャルという方向でだけ起こることが多く、バーチャル→リアルでは起こりにくいことを示唆しています。そして、リアルとバーチャルとの一体化についても、一体化の方向が一方的な傾向にあることについても、程度に差はあるにせよ、現在の大学生にも似た傾向があるのではないでしょうか。

そうだとすれば、参加者の世代をどれほど近づけたところで、会って話したことがない相手と形成するネット・コミュニティは活性化しにくいでしょう。

【研究結果に対する考察②】
多様性が失われた情報環境

現在の大学生・高校生に対しては、「興味のあることにはのめり込むものの、興味がなければ力を入れないという気質」も感じます。

そうした気質が育まれる背景にあるのは、インターネット上の情報のクラスター(趣味嗜好が共通する小集団)化が進んでいることです。インターネット上にあまりにも多くの情報が集まるようになった結果、インターネットのサービスが、ユーザーの好みに合わせて情報を選別するようになりました。例えば、検索エンジンのGoogleでは、ブラウザで自分のアカウントにログインすれば、ユーザーによって異なる検索結果が表示されます。ユーザーは自分の知りたい情報を効率よく得られるようになる半面、興味のある情報しか目に入らなくなりますから、都合の悪い情報や反対意見などに触れる機会は減るでしょう。

このように、多様性が失われた情報環境の中で育ってきているのが、現在の大学生・高校生、およびそれ以下の世代なのです。彼らが多様性を前提としたネット・コミュニティにとっつきにくさを感じても、不思議ではありません。

【研究結果に対する考察③】
必要な情報は自然に現れるという感覚

実験用ネット・コミュニティにおいて日記機能や掲示板機能がほとんど用いられず、タイムライン機能の利用が目立ったことからは、ストック情報(蓄積される情報)とフロー情報(流れていく情報)に対する態度の違いが読み取れます。

現在40代半ばの私にとって、情報とは蓄積し整理するものです。これは、私だけでなく、私と同世代、さらにはもう少し下の世代にも共通するでしょう。例えば、日記機能を備えたSNSであるmixiが、かつて人気を博しました。日記にはある程度まとまった情報を書き込みますから、日記による情報交換はストック型の情報交換ということになります。特徴を挙げれば、日記が更新される頻度は高くても1日1回ほどと、体験してから書き込まれるまでの間にタイムスパンがあったこと、文が長文になる傾向があったことなどです。

一方、現在の大学生・高校生に代表される若い世代では、フロー情報がとても親しまれています。その要因は2つあると、私は考えます。1つは、検索の仕組みが発展したことです。これにより、デジタル情報は整理しなくても、検索すれば目当てのものが探り出せるという感覚が広がったのでしょう。もう1つの要因は、タイムライン機能を用いた、親しい複数人とのコミュニケーションの定着です。これにより、必要な情報は必要な時に自分の前に自然に現れるという感覚が育まれていると考えられます。

スマホやタブレットが普及し、多くの人が高機能な端末を簡単に利用できるようになったことを背景に、フロー情報のやりとり、つまりリアルタイムでの情報交換も急速に広がりました。LINEによる短文での情報交換を1日に何度も行っている若い世代には、タイムスパンがあり、しかも長文になりがちなストック情報はなじみにくいに違いありません。

また現在では、Facebookで始まった「いいね」、Twitterのリツイート、LINEのスタンプというように、他者の発言に対する自分の反応をワンクリックで行えるようになっています。これも、多くの言葉を用いたやりとりを繰り返し、議論を深めていく掲示板機能を、若い世代が必要としなくなっている主要な原因だと考えられます。

【研究結果に対する考察④】
新しいネット世代論

何度か言及した「デジタル・ネイティブ」という概念を思い出してください。1980年前後に生まれた、現在30歳代半ばくらいの人たちと、それ以降に生まれた人たちとは、子どもの頃からデジタル機器に接しているという共通点によって、従来は一括されていました。しかし、これまでに見てきたように、現在の大学生を上限とする世代、つまり20歳代前半までの人たちを境に、メディアや情報、コミュニケーションに対する感覚は、非常に大きく変わってきています。変化を最も促しているのは、スマホやタブレットだと私は考えています。スマホやタブレットに子どもの頃から親しんでいる人たちは、「スマホ・ネイティブ」として、もはや「デジタル・ネイティブ」から独立した存在と見たほうが適切でしょう。

本レポートの冒頭で述べたとおり、新しい機器が出現し一般化していくことで、「デジタル・ネイティブ」に含まれる複数の世代にも、メディアの用い方やメディアに対する感覚などにギャップは生まれました。しかし、それは、「デジタル・ネイティブ」が、そして「デジタル・ネイティブ」の上限より少し上の世代に属する私が、「スマホ・ネイティブ」に感じるギャップとは、本質的に異なると思います。

「デジタル・ネイティブ」内に従来見られたギャップであれば、「デジタル・ネイティブ」の上の世代は、下の世代が新しいメディアを使いこなしていることに驚いたとしても、それがどのようなものであるか、理解することができたでしょう。なぜなら、下の世代が手にしやすい機器の機能・性能に限界があり、新しい用い方といっても、上の世代がパソコンで行っていることの延長に過ぎなかったからです。

ところが現在では、機能・性能ともにウェアラブルコンピュータに近いスマホやタブレットが広く普及しています。つまり、「デジタル・ネイティブ」と「スマホ・ネイティブ」とには、ツール上の差がないわけです。すると、「スマホ・ネイティブ」は、「デジタル・ネイティブ」の先をいくようなツールの用い方ができるわけですから、「デジタル・ネイティブ」には想像もつかないほど大きな変化が起きることになります。

例えば、私の感覚では、リアルな場とバーチャルな場とは別々に存在しています。これは、「デジタル・ネイティブ」に属する多くの人にも共通すると思います。ところが、既に見てきたように、「スマホ・ネイティブ」にはリアルとバーチャルとの差がなく、リアルにつながったものとしてバーチャルを捉えています。私としては信じられない感覚ですし、「デジタル・ネイティブ」にとっても同様でしょう。

また、「スマホ・ネイティブ」内での変化も、「デジタル・ネイティブ」内の変化以上に急速に進むと思います。というのは、2013年度の研究の振り返りでご紹介したように、わずかの年齢差しかなく、同じように子どもの頃からスマホやタブレットに接しているはずの、大学生と中高生との間でさえ、大きなギャップが生まれているからです。

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まとめ

近年は、小・中学校、高校とさまざまな教育現場で、電子黒板などのデジタルメディアが使われるようになりました。政府も、子どもが1人で1台のタブレットが使えるような環境を、すべての小・中学校、高校などで整えようとしています。

デジタルメディアが教育現場で多く用いられるようになること自体は、もちろん私も歓迎します。しかし、支給された機材を子どもが有効に利用できるようにするためには、現在の子どもがデジタルメディアをどのように用いているか、そしてどのように人間関係を構築・維持しているかを、しっかり考察しなければなりません。「スマホ・ネイティブ」に見られるように、メディアに対する価値観やコミュニケーションに対する感覚が非常に大きく変化している現在であれば、なおさらでしょう。子ども同士のコミュニケーションを詳しく観察し、子どもの目線に立ちながら、デジタルメディアの用い方に工夫を重ねることが、今まで以上に求められると思います。

また、ここまでの考察で見えてきたように、メディアやコミュニケーションに対する「スマホ・ネイティブ」の感覚は、それ以前の世代とはかけ離れたものになってきており、理解することが難しくなってきているように思います。そのため、これからの教材づくりやメディアの活用方法の提案など、子どもを対象としたサービス全般の開発について、「スマホ・ネイティブ」である子どもたちの目線で、さらには子どもたち自身の参与の上でなされていく必要があると言えるでしょう。

そういったサービス全般の開発を主に先導する役割を担う大人世代は、まずこの点に気付き、開発におけるその重要性を理解したうえで、子どもたちの参与を促し、ともに開発していく道筋をつくっていく必要があるのではないでしょうか。

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筆者プロフィール
河村智洋(かわむら・ともひろ)

チャイルド・リサーチ・ネット外部研究員。1971年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程卒。修士論文では、「プリクラ」や「ベル友」を扱い自由民主党の「龍ちゃんプリクラ」、郵政省「ぷりめ~る」などの企画に携わる。その後も、子どものメディアを使った新しいコミュニケーションについて研究。CRNでは「子どもとメディア研究室」を担当。国立オリンピック記念青少年総合センター主催の「マルチメディア家族キャンプ」、廃校を利用した「新しい学びの場の実験 ながやまチーきち」、ウェアラブル・コンピュータをファッションやライフスタイルの視点から考える「メディアファッション」の研究などに参加。また、原宿地域の携帯用ポータルサイト「原宿BOX」(現在は、ラフォーレ原宿の公式サイト)の立ち上げに携わる。
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