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【教育学者の父親子育て日記】 第27回 デジタル時代の子育て

要旨:

デジタル時代の子育てだからこそ、生身のコミュニケーションを大事にしたい父親です。しかし、デジタル・ネイティブの娘は、確実に機械オンチの父親を置き去りにして、最先端の技術に慣れ親しんでいます。そんな時代に、親は子どものことを心配しながらも、先端技術への適応能力の高さに感心したりしています。とはいえ、昨今、インターネットに関連したトラブルが子どもの世界でも頻発していますので、心配は募るばかりです。デジタル時代の子育ては、インターネットなどからの情報の多さゆえに、親の方も子育てのあり方を迷ってしまうのだと思います。もっと柔軟に、自分らしい子育てのあり方を考えていきたいですね。

物足りない父親

9月16日(日)午前10時30分
「ねえー、次はサヤカに貸して!」

先日、仕事で使う必要に迫られ、タブレットPC(多機能携帯端末:アップル社のiPad)を購入したのですが、この新しいオモチャ(?)に娘は興味津々です。私がソファーに座ってメールをチェックしていると、その横に張り付いた娘が、しきりに自分にも使わせて欲しいとお願いしてきます。
「ダメダメ、これはパパがお仕事で使うものなんだよ」
「何で? パパだけ、ずるい!」
「ずるいって、何だ。これはパパのものなんだし、お仕事で使っているのだから、君にずるいなんて言われる筋合いはないよ」
「だって、サヤカも使いたいんだものー」
父と娘の会話は、平行線をたどるばかりです。

しばらく前から、娘はスマートフォンやタブレットPCに興味をもっていたようです。テレビのCMなどで目にしたり、保育園の友達との会話で親御さんがもっている機器のことを自慢し合ったりして、それらに関心を寄せるようになっていました。そして、厚紙で自分用のスマートフォンを作って、「おばあちゃまに電話するんだ」と言っては、悦に入ったりもしています。

ときには、「ねえ、パパはどうしてスマートフォンじゃないの?」と質問されることもあります。娘からみると、旧い型の携帯電話を使い続けている父親は、物足りなく思えるのでしょう。それに対して私は、「パパはいまの携帯電話で十分だから、スマートフォンは要らないんだよ」と答えてきましたが、内心、言い訳めいているなと、我がことながら苦笑いをしていました。

と言うのも、実は私はかなりの機械オンチで、携帯電話すらもまともに扱えないようなレベルだからです。どれほど苦手にしているかと言えば、2年半前まで携帯電話に電話番号を登録することができなかったようなレベルなのです。以前に勤務していた名古屋大学では、私の機械オンチぶりをよく知っている学生たちが、面倒がらずによくサポートしてくれたものでした。

しかし、名古屋から東京に移ることになったとき、いつもお手伝いをしてくれた学生たちの一人に言われました。
「先生、東京の学生はみんな忙しいだろうから、きっと先生のお手伝いなんて、してくれませんよ。そもそも、上智大学のような都会的な大学の学生さんたちは、先生のそんな姿を見たら、びっくりしてしまうと思いますよ。」
そして、「いますぐここで、番号登録の仕方を覚えてください。それから、携帯のメールも使えるようになってください」と、厳しさのなかにも優しい気持ちがこもった口調で命じられたのです。

これでは、どちらが教師で、どちらが学生か分かりませんね・・・。いまでもそうですが、いつも、しっかりした学生たちに支えられて、何とか教師を務めてきたのです。また、このセリフから明らかなように、携帯電話のメールも使い方が分からず、他人からメールが来ても返事をできずにいたのです。

そんな学生さんの気持ちに感謝しつつ、丁寧に教えてもらいながらもなかなかやり方が分からず、30分近くも悪戦苦闘したところ、何とか番号登録の仕方とメールの使い方を覚えたのでした。

そして、これこそが、私がスマートフォンをもっていない理由なのです。つまり、そのときに登録の仕方を覚えた携帯電話をいまも使っているのですが、もし買い替えてしまうと、また一から使い方を覚えなければなりません。上智の学生たちも、名古屋の学生たちと同じように親切なので、頼めば使い方を教えてくれると思うのですが、またまた使い慣れるまでは苦労するのかと想像すると、新しい携帯電話に買い替える気には到底なれません。

したがって、「パパもスマートフォンにしたら」と、どれだけ娘に言われても、きっといま使っているものが壊れてしまうまで、私は旧型の携帯電話を使い続けることでしょう。


デジタル時代の子どもと親

そんな父親の姿とは対照的に、生まれたときからインターネットやパソコンがある環境のなかで育っている、いわゆる「デジタル・ネイティブ(Digital Native)」世代の娘は、易々と新しい電子機器にも順応していきます。(デジタル・ネイティブとは、「生まれたときから、もしくは物心ついたころから、デジタル技術やそれを活用したインフラや環境(インターネットなど)と、それに伴う『ものの考え方』などに取り囲まれて生活し、親しんできた人たち(世代)」のことを指しています。

くだんのiPadも、いつの間にか、娘の方が私よりも使いこなすようになっていました。知らない間に、壁紙の写真が変わっていたり、私が気づかなかったゲーム・ソフトを見つけたりするのです。そういった先端技術への適応能力の高さを見ると、やはりデジタル時代の子どもだなと、感心してしまいます。

ただし、適応し過ぎるのも、考えものです。娘がiPadを使うときは、インターネットへのアクセスを切ってあるので、それほど多くのことはできないだろうと高を括っていたのですが、放っておくといつまででもいじり続けるのです。そこで、iPadの使用は1日1回、15分以内、というルールを決めました。なかなか15分でスパッと止めるのは難しいようですが、「そろそろ15分だよー」という私の言葉を聞くと、それなりに頑張って、止めるようになってきました。

ところが、私も自分がダメだなと思うことがあります。それは、平日の夜、妻が仕事で帰りが遅いときなどです。仕事帰りに娘を迎えに行き、帰宅してから大急ぎでお風呂に一緒に入り、それから大慌てで夕食の準備をするのですが、娘が構ってもらいたがって台所で私にまとわりつき、なかなか夕食の支度をできないときがあります。そんなときは仕方なく、「iPadを使っていいよ」と一声かけると、あっという間に大人しくなります。これまでは、こういったときにはテレビやDVDを観させていたのですが、最近はそれがiPadに取って代わられています。すると、どう逆立ちしても15分で夕食の支度をするのは不可能ですから、ついつい30分以上も使わせてしまうといった結果になります。

親と子どもの間で決めたルールを、こうしてなし崩し的に緩めてしまうのは良くないと、重々承知してはいるのですが、やはり日常生活の現実のなかで、常にルールを守るというのは難しいですね。これも、やっぱり親の言い訳なのでしょうが・・・

ベネッセ教育研究開発センターが2008年に実施した「子どものICT利用実態調査」によれば、小学生の3割、中学生では5割近く、高校生は9割以上が携帯電話を所有しており、自宅でパソコン(自分専用あるいは家族との共用)を利用しているのは、小学生の62.7%、中学生で70.5%、高校生は78.2%だということです。こうしたデータからも、いまの子どもたちにとってデジタル関連機器が身近であることがわかります。

ただし、小学生の6割近くは、友達にメールを送ったりするのではなく、基本的に家族との通話に携帯電話を利用している様子もうかがえます。このことは、つい最近まで携帯電話でメールを送るということができなかった、まさに「デジタル・イミグラント(Digital Immigrant)」の典型である私にとっては、少しホッとしたデータでした(デジタル・イミグラントとは、デジタル・ネイティブの命名者でもあるピーター・ソンダーガード氏が考案した言葉で、デジタル・ネイティブ以前の世代を指しています)。

とはいえ、携帯電話で友達にメールを送る頻度は学年が上がるにつれて上がっていき、中学生の46.2%、高校生では40.4%が一日に11回以上メールを送っています。さらに、一日に101回以上メールを送ると答えた人が、中学生では6.1%、高校生で3.6%いるということは、私にとっては驚きでした。何しろ、私は一本のメールを打つのに、たいてい2~3分は費やしているため(といっても、短いメッセージを打つだけなのですが・・・)、101回以上というとそれだけで4~5時間を費やす計算になります。

もちろん、私のような機械オンチとは異なり、メールを打つことがこれだけ習慣化している子は、あっという間に一本のメッセージを打ってしまうのでしょうから、そんなに長時間を費やすことはないでしょう。しかし、そうは言っても、かなりの時間をメールのやりとりに費やしていることは、容易に想像がつきます。

また、ここで示されたデータをみると、携帯電話もパソコンも、全般的に女の子の方が活発に利用している傾向があることもわかります。こうしたデータなども、娘をもつ親としては、やはり気がかりではあります。とくに昨今は、インターネットに関連したトラブルが、子どもの世界でも頻発しているので、親としては心配が募ります。その一方で、娘の安全を考えると、携帯電話を身に付けさせておきたいと考える親が多いのだろうなとも、想像しています。

娘が心配で携帯電話を持たせるのも親なら、そのために、今度は携帯電話からインターネットにアクセスして何か危ないことに巻き込まれたりしないかとか、いわゆる学校裏サイトなどを利用していじめに加担したりしていないかなど、かえって心配を募らせてしまうのも親ですよね。

デジタル機器やデジタル環境との接し方をどのように子どもに教えれば良いのか、その答えはなかなか見つからないというのが、率直な感想です。そんなことをつらつら考えていると、実はまさにインターネットなどからの情報に振り回されながら、「正しい」子育てを目指してしまうのが、デジタル時代の親なのだなと痛感しました。

そして、完璧な子育てなんてない、という当たり前の事実に改めて気づかされるのです。どの親と子も、それぞれの親子の関係があり、各々の子育てのあり方があるだけです。しかし、まさにデジタル時代にはさまざまな情報が世の中に氾濫しているため、子育てではこうしなければいけないとか、絶対に何をしてはいけないなどといったことを、どうしても親は考えてしまいがちです。あまり型にはめすぎず、自分らしい子育てのあり方を柔軟に考えたいと、いつも思ってはいるのですが、実際にはなかなか難しいですよね。


娘の本心?!

現代日本にデジタル・ネイティブとして生まれ育っている娘ではありますが、いつも仮想空間にひたってばかりいるわけではありません。たとえば、この日記でも以前にご紹介したように(第17回「好きこそものの上手なれ」)、わが家では娘が寝る前に絵本を3冊ほど読み聞かせることが習慣化していますが、このごろは自分で何冊もの本を読めるようになってきました。いまになってみると、いつごろから絵本の読み聞かせを始めたのか思い出せないのですが、娘は赤ん坊のころから絵本が大好きでした。そして、その成果がいま表れており、図書館へ行くたびに20冊近い絵本を借りてきては、夢中になって読みふけっています。

最近は娘が選ぶ絵本も、物語が複雑化して、長いお話になってきています。そのため、就寝前に3冊をまともに読むと、一時間ぐらいかかってしまうことも珍しくありません。これでは、寝かしつけるどころか、娘が寝るのを邪魔しているのではないかと思うほどです。また、私の方が先に眠くなってしまい、娘に叱られながらも生理的欲求に打ち克つことができず、絵本を読み終わらないうちにこちらが眠りに落ちてしまうことも珍しくありません。そのため、いまでは絵本を読み聞かせる前に、かならず私も寝る支度を整えることにしています。

こんな日々を送るなかで、娘は親の想像を超えて、どんどん成長しています。こちらが歯磨きなどで慌ただしくしていると、いち早く寝る準備を整えた娘が、布団のうえでおとなしく絵本を読みながら待ってくれています。しかも、絵本を3冊読んだら寝るという約束に関して、娘の方から「もう2冊読んだから、パパはあと1冊読めばいいよ」と言ってくれるのです。こんな風に、親のことを気遣うことができるようになってくれたのだと感激した私は、「大丈夫、大丈夫。ちゃんと3冊読んであげるから」と宣言し、張り切ってしまうのでした。

また、絵本以上に娘が好きなのは、私が適当に創作するお話のようです。登場人物の名前や場面設定などを娘と一緒に考えながら、荒唐無稽なストーリーなどを語りかけると、目をキラキラさせながら聴いてくれます。そんな娘の様子をみるにつけ、やはり生身のコミュニケーションが一番大事なのだなと、改めて意を強くする父親です。

そして、調子に乗った父親は、先日、娘がiPadを夢中になって操作しているところに、「ところで、サヤカは、パパのお話とiPad、どっちが好き?」と聞いてみたのでした。もちろん、自信をもって。そんな父親に投げかけられた、娘からの回答は、無邪気な一言でした。
「もちろん、iPadだよ!」
何も言い返せない、父親なのでした・・・。デジタル時代の子育ての道は、厳しいですね。

筆者プロフィール
lab_06_27_1.jpg 北村 友人(上智大学総合人間科学部 准教授)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校教育学大学院修了。博士(教育学)。 慶應義塾大学文学部教育学専攻卒業。 現在、上智大学総合人間科学部教育学科 准教授。
共編書に"The Political Economy of Educational Reforms and Capacity Development in Southeast Asia"(Springer、2009年)や『揺れる世界の学力マップ』(明石書店、2009年)等。
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