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【教育学者の父親子育て日記】 第26回 習い事は楽しい?

要旨:

オリンピックに熱くなった今夏ですが、4年に一度の意味がわからない娘にとっては、好きなテレビ番組をなかなか観ることができない、フラストレーションが溜まった数週間でした。とくに、スポーツの素晴らしさを改めて感じた父親は、将来のオリンピック選手を育てるような勢いで、水泳の特訓を始めました。しかし、水と戯れ、楽しくプールで過ごしたい娘にとっては、迷惑な話でした。そういった経験を通して、親と子の意識のズレに嫌でも気づかされたのですが、世の中の多くの親子の間にも同じような意識のズレがあるように思えます。たとえば、習い事に関しても、子どもが楽しく感じていることと、親が満足していることとの間には、どうもギャップがあるようです。
オリンピック観戦

8月11日(土)午前8時30分
「パパとママばっかり、ずるいよー!」

娘が子ども向けのテレビ番組を観たくて、先ほどからせがんでいます。その気持ちはよく分かるのですが、こちらもそうそう簡単にテレビのリモコンを渡すわけにはいきません。何しろ、ロンドン五輪のテレビ中継で、金メダルを獲得したボクシング男子ミドル級の村田諒太選手の表彰式が始まるところなのですから。
「ちょっと待って。君の観たい番組はまた来週放送されるけれども、オリンピックは4年に一度しかないんだよ。」

娘をなだめながら、表彰式に見入っている私です。とくに、村田選手は、妻の勤務先である東洋大学の職員でもあり、オリンピック前からわが家では注目していたため、こうして見事に金メダルを獲得した姿を見逃すわけにはいきません。しかし、そんな私に娘も負けてはいません。

「そんなのウソだよ! 昨日もオリンピック観ていたじゃない。その前だって。ずっとオリンピックばっかり・・・  サヤカの好きなものも、ちゃんと観させてよ。」

確かに、娘の言う通りです。7月末にロンドン五輪が開幕してから、連日連夜、可能な限りオリンピック中継を観てきました。今回はヨーロッパでの開催ですから、多くの競技が日本の深夜にテレビ中継されており、観戦する方にとってはかなり厳しい状況です。夜の11時ぐらいに一度寝て、深夜2時ごろに眠い目をこすりながら起き出して、明け方まで中継を観るといった日々が続いていました(その意味では、オリンピック選手とはまた異なる状況ですが、観ている方もオリンピック選手並みに体力の限界に挑戦しているような気がします)。そのうえ、午前中や夜にも再放送で見逃した競技を観ることができるため、この2週間余り、わが家のテレビはかなりオリンピック色が濃くなっていたのは事実です・・・

とはいえ、それも4年に一度のイベントなのだから当然だと思っていました。しかし、娘からすれば、この期間中、毎日オリンピックは行われているわけで、何も珍しいものではないという感覚なのでしょう。

コーチ失格?

ここまでオリンピック観戦の話をしてきて、何だかわが家の夏は、家に籠もってテレビばかり観ていると思われるかもしれませんね。実際には、娘も、私も、8月に入るころには、こんがりと日焼けした肌を誇り、夏の太陽を満喫してきました。仕事仲間からは、「どこかリゾートにでも行って来たの?」という質問を受けますが、それほど優雅なものではありません。

日焼けの理由は、娘とのプール通いです。毎週末のように、娘と二人で近所の屋外プールへ出かけ、水泳の特訓(?!)です。とくに、オリンピックに触発され、改めてスポーツの素晴らしさを感じた父親は、将来のオリンピック選手になるかもしれない娘に水泳を教えるため、燃えていました。

以前にこの日記(第11回 「趣味は子育て!」)でご紹介しましたが、昨年の夏に娘をプールに連れて行ったときは、正直、「泳ぐ」というよりは水のなかで「もがく」といった様子でした。しかし、今年は違います。プールに入ると、嬉々として水中に潜ったり、蹴伸びをしたり、水と「戯れる」ところにまで進化を遂げていたのです。

娘の進化の理由は、保育園にありました。これも日記(第18回 「節約志向の子育て」)で書きましたが、昨年末に移った認可保育園には、なかなか立派な屋外プールが設けられています。そのため、6月末から天気が良い日には必ずといって良いほど、娘たちはプール遊びをしているのです。どうやら、プールのなかで友達と思い切り遊んでいるうちに、自然と水との戯れ方を身につけたようです。

たくましくなった娘の姿に感動しながら、「よし、こうなったら、もっと上手に泳げるようにしてあげよう」という気持ちが湧き上がってきました。実は、私は学生時代に水球をしていたことがあり、大学生のときには水泳指導員の資格も取得しました。ですから、子どもが生まれたら、自ら泳ぎを教えることを心待ちにしていたのです。

まずは、プールサイドにつかまりながら、バタ足の練習です。そして、ある程度バタ足の要領をつかんだら、両手でしっかりとビート板を持たせて、進みながらのバタ足です。ところが、慣れないうちは仕方のないことですが、両足とも膝が大きく曲がり、きちんと水を蹴ることができていません。そこで私は、片手でビート板を支えてあげながら、もう一方の腕を娘の足に添えて、曲がりすぎないようにして、正しいバタ足のやり方を覚えさせようとしました。すると、娘が毅然とした態度で私に言うのです。

「一人で、できるから、パパは持たないで。」

このとき、父親の限界を悟りました。私が手を出し過ぎると、娘には感じられたようです。コーチとして、失格ですね。彼女のプライドを感じ、娘の成長を喜ぶべきだなと思いながらも、ちょっと寂しい父親でした。しかも、一人で大丈夫と言いながら、ビート板をプールサイドに置いた娘は、バッシャーンとプールの壁から蹴伸びをして、手足をバシャバシャさせながら泳いで(というよりは沈んで・・・)いきます。そして、息が苦しくなったところで立ち上がり、「泳げたでしょ!」と私に聞いてきます。私は、「すごい、すごい」と言いながらも、内心、「僕が教えれば、もっときちんと泳げるのになー」と思ってしまいます。

親が子どもに何かを教えるというのは、難しいものです。親子だからこそ、それぞれ言い過ぎたり、ムキになったりしてしまう面があると感じています。きっと、他人の方が適度な緊張感を保ちながら、娘も素直にアドバイスを聞けるのかなと思います。そう痛感した私は、自ら泳ぎを教えるという長年の夢を諦め、インターネットで検索しながら娘のスイミング・スクール探しへと気持ちを切り換えたのでした。

習い事と親の満足度

そんなこんなで、私は娘を通わせるためのスイミング・スクールを調べたのですが、オリンピックを観ていると、さまざまな競技で親が子どもに英才教育をしてきた結果、ロンドン五輪の舞台に立っていることにも気づきました。砲丸投げの室伏選手、レスリングの吉田選手、卓球の福原選手といったメダリストたちをはじめ、最も身近な存在である親が、子どもを厳しく鍛えて、世界で活躍する選手にまで育て上げたということは、とにかくすごいことだなと思います。

確かに、子どもの性格などを十分に踏まえ、その子に最適なトレーニングを考えるうえで、親がもっている優位性は非常に高いと思います。しかし、それと同時に、身近であるが故に、親子関係と師弟関係に上手く一線を引くことができず、いろいろと大変な思いをしているケースもあるのではないかと思います。そういった場合は、むしろ他人である監督やコーチが、少し距離をとりながら適切なアドバイスをする方が、子どもの能力をより伸ばせるのではないでしょうか。

ところで、親がスポーツ選手だったため、日常的にスポーツが生活のなかにあったというようなケースを除けば、多くの子どもたちにとってはいわゆる「習い事」を通して、特定のスポーツに打ち込むようになっていくのだと思います。私自身も、幼稚園のころから通わされたスイミング・スクールが水泳との出会いでした。(この「通わされた」という言い方がポイントで、自分の意思というよりは、親に言われて嫌々通っていたのですが、いまではときどき泳がないと落ち着かないほどです。)

ちなみに、平成19年に文部科学省が、全国の公立小学校1~6年生ならびに公立中学校1~3年生とその保護者たちを対象に実施した「子どもの学校外での学習活動に関する実態調査」の結果(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/08/08080710.htm)によれば、小学生はどの学年でも3人に2人以上の割合で、何らかの習い事をしているとのことです。ちなみに、ここで言う「習い事」には、学習塾、家庭教師、通信添削などは含まれていません(習字、そろばん、英会話などは、学習系の習い事とみなされています)。

どのような「習い事」に参加しているのかを小中全体でみてみると、水泳、サッカー、武道といった「スポーツ系」や、ピアノなどの「芸術系」、習字といった「学習系」が多く、男子では「スポーツ系」が、女子では「芸術系」や「学習系」が多くなっていることがわかります。その結果でもあるのでしょうが、「一番好きな習い事」をみると、小中全体を通じて、男子ではサッカーや野球、女子ではピアノや習字の割合が高くなっています。(あるいは、「好き」だから、これらの習い事をしている子が多くなっているのかもしれません。)

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「子どもの学校外での学習活動に関する実態調査」(平成19年)文部科学省

   →Enlarge(画像をクリックすると拡大します)

また、Benesse教育研究開発センターが2008年に首都圏の小学1年生から中学3年生の子どもを持つ保護者(7,282名)を対象として行った「第3回子育て生活基本調査」(http://benesse.jp/berd/data/dataclip/clip0006/index3.html)によれば、子どもに習わせて最も良かったと感じている習い事は、男女ともに「スポーツ系」の習い事であり、男子では4割近く、女子でも2割の保護者が選択しています。文科省の調査は「学習塾」、「家庭教師」、「通信添削」、「けいこごと」という4つのカテゴリーを設けていますが、ベネッセの調査では「塾や習い事」をまとめてみています。そこで、以下の記述においては、「その他」というカテゴリーに含まれているもの(英会話、習字、そろばん)を「学習系の習い事」とみなし、塾、通信教育、計算・書き取り教室といった「塾」に類するものについては今回は考察の対象外にしたいと思います。

保護者が良いと感じる習い事の内訳をみてみると、男子では「地域のスポーツチーム」(主に野球やサッカーなどでしょうか)が最も多く、それとほぼ同じぐらいの割合で「スイミングスクール」が続いています。この2つとはかなり差がありますが、3番目に「スポーツクラブ・体操教室」がランクインしています。それに対して、女子は「スイミングスクール」が最も多く、その次は「芸術系」の習い事(楽器、バレエ・リトミック、音楽教室)、そして、「学習系」の習い事(習字や英会話など)と続いています。

ここで興味深いのは、女子の場合は文科省の調査が示すように「芸術系」・「学習系」の習い事を行っている割合が高く、ピアノや習字が一番好きな習い事だと答える子が多かったのに対して、保護者が「習わせて良かった」と最も感じているのは水泳に代表される「スポーツ系」の習い事であるという点です。

習わせてよかったのは「スポーツ系」の習い事
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「第3回子育て生活基本調査」Benesse教育研究開発センター(2008)

      →Enlarge(画像をクリックすると拡大します)

これはあくまでも私の想像に過ぎませんが、「芸術系」や「学習系」の習い事の場合、どのくらい上達したかということがどうしても親としては気になってしまうのに対して、「スポーツ系」の習い事に関しては、運動を通して体を鍛えるということを重視しており、どの程度その競技に関して上達したかということは、多くの親にとっては最重要な関心ではないためではないかと思います。つまり、芸術系や学習系の習い事と較べて、スポーツ系の習い事は参加しているだけで、親にとっては意義を認めやすいのかなと推測しています。

一方、子どもにとっては、きつかったり苦しかったりする「スポーツ系」の習い事(とくに水泳)よりも、ピアノや習字の方がやはりそれらの活動を行っていて楽しく感じるのではないでしょうか。しかも、スイミング・スクールの場合は、私がそうであったように、自分で進んで習い始めたというよりは、親にいつの間にか入れられていたというケースが多いのではないかと、勝手に想像しています・・・。(女の子は体を動かす遊びよりも、室内などでする遊びを好むからではないかといった分析をする人もいるかもしれませんが、それはステレオ・タイプ的なジェンダー観に影響され過ぎているようにも思えます。女の子でも活発な子は多いですし、男の子でも室内などでの活動を好む子は多いわけですから。)

もちろん、2つの異なる調査の結果を混ぜ合わせて、単純に論じることはできないのですが、それでも、子どもの意識と親の意識との間にあるズレを象徴しているようで、なかなか面白いデータだなと思いました。

娘と私の間にも、意識のズレがあるのでしょうか。改めて考えてみると、私は娘がきれいに泳げるようになることを、最初から目指してしまっていたようです。それよりも、まずは水と十分に親しみ、楽しみながら泳ぎを少しずつ覚えていくことが大切なはずです。それは、頭ではよくわかっていたつもりなのですが、ついつい親の欲が出て、少しでも早く上手に泳げるようになることを、娘に押し付けてしまったようです。そういった私の勝手な思惑を娘も敏感に感じたために、「パパは持たないで」というセリフが出てきたのかもしれません。

オリンピックのメダリストを育てた親も、きっと子どもとの間で意識のズレを感じたときが何度もあったのでしょう。それでも、親も子も、それぞれ信念をもって、その道を目指してきたのだろうなと想像しています。親子鷹で金メダリストを目指すというのは、なかなか大変ですよね。そんな当たり前のことを改めて痛感しつつも、「うちの娘もスイミング・スクールに通わせれば、もしかしたら将来のオリンピック選手になるかも・・・」と、またまた勝手に期待を膨らませてしまう、子どもにとっては甚だ迷惑であろうバカ親なのでした。
筆者プロフィール
lab_06_27_1.jpg 北村 友人(上智大学総合人間科学部 准教授)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校教育学大学院修了。博士(教育学)。 慶應義塾大学文学部教育学専攻卒業。 現在、上智大学総合人間科学部教育学科 准教授。
共編書に"The Political Economy of Educational Reforms and Capacity Development in Southeast Asia"(Springer、2009年)や『揺れる世界の学力マップ』(明石書店、2009年)等。
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