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【教育学者の父親子育て日記】 第11回 趣味は子育て!

要旨:

子育てに仕事にと慌ただしい毎日を過ごすなかで、なかなか自分の時間を作ることができずにフラストレーションを感じたりしている。そんな日々を見つめ直し、あえて「趣味は子育て!」と宣言し、娘と向き合う時間を楽しむべきだと開眼した。また、世のなかに流布する育児に関する言説に対しては、あまり神経質にならずに、自分なりのやり方で子どもと向き合っていくことを大切にしたい。
9月18日(土)午後3時半

娘が、得意げに水に浮かんでいます。腕と腰に浮き輪をつけて、いっぱいの浮力を得ながら、プールのなかで楽しそう。本当は自由に思い切り泳ぎたい私ですが、娘の水遊びにお付き合いの週末です。

平日は保育園へ送り、仕事をして、家に帰ると家事の手伝いと娘の寝かせつけで、そのまま一緒に眠ってしまう。休日は、平日にできなかった家事を分担して片付けつつ、娘の遊び相手をしたり、それぞれの実家に娘を連れて行って「おじいちゃん・おばあちゃん孝行」をしているうちに過ぎてしまう。 こんな毎日を送っていると、なかなか趣味のために時間を割くといったことはできません。幼少のころから水泳をしていたので、ときにはスポーツ・クラブで思う存分泳いだりもしたいのですが、ままならないのが現実です。

しかし、こんな毎日を過ごしているなか、自分の考え方を変えることによって、もっとポジティブな気持ちで日々を過ごせることに気づきました。それは、「これをしたいけど時間がない」とか、「あれをするには忙しすぎる」などと言い訳ばかりを並べるのではなく、むしろ「趣味は子育て!」と宣言してしまうことでした。なかなか時間がないなどと愚痴ってしまいましたが、実はそんな毎日が決して嫌なわけではないのです。娘が成長していく姿を見守っているなかで本当にいろいろなことを感じたり、考えたりする日々は、むしろ楽しくて仕方がありません。ときに、体力的に厳しい場面もありますが、基本的に子育ては親の人生を充実させてくれるという意味で、どんな趣味にも優るものだと思います。

考えてみると、途上国の教育について研究をしたり、大学で教育社会学を教えたりすることも、仕事ではあるのですが好きでやっていることですので半分趣味のようなものです。忙しい毎日のなかでも、楽しみながらやっている仕事は苦になりません。それならば、育児こそ、最も楽しみながら取り組めるものではないでしょうか。


世間の目を気にせずに

「イクメン」という言葉が流行りだしたころ(1~2年ぐらい前でしょうか)、若いお父さんたちが欧米製の格好良いベビーカーを選び、子どもにおしゃれな服を着させて、ファッションの一部のように娘や息子の世話をしていると、少々揶揄するような論調の記事が、ある新聞の生活面に掲載されたことがありました。そのとき、新米パパだった私は、思わずムッとしてしまいました。ファッションのように子育てをしたって、それはそれで良いじゃないですか。お父さんが子育てを格好良いことだと思って、何が悪いのでしょうか。かつてのお父さんたちがなかなか育児に参加しなかった(あるいは仕事が忙しくてできなかった)ことを思えば、ファッションの一部のように捉えていたって、ちゃんとお父さんたちが育児に参加することは、良いことだと思います。なぜなら、どんなに格好つけていたって、子どもがおもらしをすればオムツを換えてあげなければならないし、お腹が空いたと泣けば食事もさせてあげなければなりません。ちょっとぐらい見た目を気にして、何が悪いのでしょうか。むしろ、そういったお父さんたちは、「僕の趣味は育児です!」と堂々と宣言してしまえば良いと思います。

そんなことを感じていたのですが、最近は「イクメン」も定着してきたようで、あまりネガティブに捉えられることもなくなってきたようです。今回、民主党の目玉政策の子ども手当が支給されるとのことで、わが家にも通知が届きましたが、育児産業はビジネス・チャンスと考え、とくにお父さんの子育てグッズなどが目玉商品として強調されたりしているようです。

このように「イクメン」という言葉が定着し、お父さんたちの育児参加がより好意的に受けとめられるようになってきたことはとても喜ばしいのですが、いわゆる世間的な評価を決めるうえで新聞をはじめとするマスメディアがもっている大きな影響力のことを考えてしまいます。そうした意味で、マスメディアに携わる人には、自分たちの報道が人々の見方や考え方にどれだけ強いインパクトをもたらし得るのか、当たり前のことではありますが、常に意識をしていていただきたいものです。

たとえば7月末に、今年の4月に実施された「平成22年度 全国学力・学習状況調査」の結果が公表され、その内容が多くの新聞で報道されましたが、私は一部の報道に違和感を覚えました。それは、3歳から6歳の間の幼児教育の経験を児童生徒に聞き、学力調査の正答率との関係をみたところ、小6と中3のどちらも全教科で、幼稚園に通っていた子の正答率の方が、保育所に通っていた子よりも高かったということを伝えていた記事です。この結果に関して、全国国公立幼稚園長会の会長は「幼稚園は、充実した遊具や広い運動場で体験を通して主体的な学びを積み重ねている。勉強が難しくなる6年生ごろから学習意欲で差が出るのでは」とコメントしたといいます。それに対して、全国保育協議会の会長は「保育所の教育が幼稚園より劣るわけではない。十分な説明や前提なしにこんな結果が公表されると、利用者に不安や誤解を与えないか」と心配しているとのことです。(この記事は、多くの人の関心を惹いたようで、インターネット上でもさまざまなコメントを読むことができます。)

また、国立教育政策研究所による調査結果をみてみると、人数的には非常に少ないのですが、「(幼稚園と保育園の)どちらにも通っていなかった」と回答した児童生徒の正答率が、どちらかに通っていた子たちよりも10~15ポイント程度低かったことは、気になります。ただし、この回答を選んだ子どもたちの間でも、さまざまに異なる状況があるのでしょうから、一概に幼稚園や保育園に通わせないことは良くないと決めつけることはできません。

今回の調査結果に関しては、記事のなかでも「今回の調査は幼稚園や保育所へ通った経験と正答率を重ね合わせただけで、家計や子どもが育つ環境など他の要素は調べていない」と認めていますが、それならば尚のこと、なぜこのような報道をする必要があるのか、疑問に思わざるを得ません。記事自体が認識しているように、幼稚園あるいは保育園の出身であることと正答率との間に単純な因果関係があるとみるのではなく、その他の要因も含めて分析をしないと実際の状況が正確にみえてこないのは明らかです。(このデータから分かるのは、幼児教育の経験と正答率との間にあくまでも何らかの相関関係があるに過ぎないということであって、因果関係については明らかではありません。)

ただ、そういったデータの解釈に関する問題に加えて、こうした記事を掲載することによって、人々に伝えようとするメッセージが何であるのか、ということも考えなければなりません。パッと記事を読むと、いたずらに保育園に子どもを預けている人たちの不安を煽ることになるのではないかと、心配になりました。多くの親が、朝から夕方まで、あるいは夜間に、いずれにしても長時間にわたって幼い子どもを預けることに、心のどこかで何となく引っ掛かりを感じているのではないでしょうか。しかし、共働きであったり一人親であったりと、さまざまな理由によって子どもを預けざるを得ないのが現実です。そうしたなか、前回のこの日記でもわが家の夜の過ごし方をご紹介しましたが、多くの親は子どもと触れ合える時間にはできるだけ愛情を伝えようと一生懸命に接しているのだと想像します。そうした親たちは、この記事をどのような気持ちで読んだのでしょうか。

できるだけ異なる立場や見方の人たちのコメントを載せるようにしていたとはいえ、こうした記事には、書き手(ならびに新聞への掲載を判断する人)がどのような意図をもっていたにせよ、「幼稚園に通わせた方が子どもの学力は高くなる」というメッセージを広めてしまう危険性がかなり高いと思います。このようなメッセージは、データの解釈の観点からも正確であるとはいえないことは、すでに述べた通りですが、こうしたメッセージにもとづく「世間の目」などは気にせずに、私たちは子育てと日々、向かい合っていきたいですね。

どんなに忙しくとも、「趣味は子育て!」と宣言して、少しでも娘と向き合う時間を確保したいと、いつも思っています。しかし、この夏もバタバタと出張が続き、なかなか十分に娘とともに過ごしたり、妻の手伝いをしたりすることができませんでした。そんな夏の終わりである9月末に、モスクワで開かれた「世界幼児教育会議(World Conference on Early Childhood Care and Education)」に日本政府代表団の一員として出席する機会を得ました。この会議は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が主催し、130以上の国の代表団や数多くの国際機関、NGO、関連団体などの人々が集まり、3日間にわたり熱のこもった議論を交わしました。子育てを趣味(!)とする私としては、教育学者の立場からこれらの議論に加わりつつも、それと同時に父親としていろいろな話に耳を傾けて、自らの育児の参考にしようという思いも強かったです。この会議で行われた議論のなかでも、幼児教育に関するさまざまな統計データが世界中で集められているが、それらの解釈については十分な注意をしなければならないということが、やはり多くの関係者から指摘されました。会議の様子については、ユネスコのホームページから知ることができますが、次回のこの子育て日記でも報告させていただく予定です。


記事に関するご意見、ご感想は、ページ末尾にあります「コメント欄」にお寄せください。


筆者プロフィール
カリフォルニア大学ロサンゼルス校教育学大学院修了。博士(教育学)。
慶應義塾大学文学部教育学専攻卒業。
現在、上智大学 総合人間科学部教育学科 准教授。

共編書に「The Political Economy of Educational Reforms and Capacity Development in Southeast Asia」(Springer、2009年)や「揺れる世界の学力マップ」(明石書店、2009年)等。
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