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【教育学者の父親子育て日記】 第10回 「模範的な親」への道険し?

要旨:

夜なかなか寝ようとしない娘を相手に、さまざまな駆け引きを試みる妻と私だが、効果的な対策を見いだせない日々が続いている。「早寝、早起き、朝ごはん」ならぬ、「遅寝、遅起き、朝食抜き」の娘に、「模範的な親」たらんとしてがんばってみるのだが、それは心の余裕を失う結果になってしまっているように思える。娘に翻弄される自らの姿を振り返るなかで、いわゆる「良い親」になろうとし過ぎるよりも、現実の生活のなかで出来る限りのことをする大切さに改めて気付いた。そして、ときには他の子の親たちと悩みを共有することで、自分の気持ちを楽にしてあげることも必要ではないだろうか。
寝ずとも育つ?

9月1日、水曜日、午後11時30分。

もう夜中と言ってもいいような時間になりましたが、娘はまだ寝ません!

わが家では、ほぼ毎晩のように娘を寝かしつけるための駆け引きが、親子の間で展開されています。よく「寝る子は育つ」と言いますから、娘にはぜひともしっかりと睡眠をとって欲しいのですが、おそらく共働き家庭の多くがそうであるように、わが家の夜はバタバタとしてしまい、どうしても寝る準備が遅れる傾向にあります。なぜなら、妻が迎えに行くにせよ、私が迎えに行くにせよ、仕事が終わってから保育園に着くのは6時から6時半ごろであり、娘と一緒に自宅に帰るころには7時前後となってしまいます。それから急いで妻が夕食の支度をしている間に、私が娘をお風呂に入れたりしていると8時ぐらいになります。したがって、夕食を食べ終えるのは8時半から9時近くになってしまうこともあります。

また、私の帰宅が8時ごろになってしまう日には、妻と娘には私の帰宅を待たずに食事をしてもらい、その後、お風呂に入ることになります。さらに、私が仕事関係の方や学生さんたちとの食事会に参加したり、出張などで東京にいないときには、これらのすべてを妻が一人でこなさなければならないため、さらに時間がかかることになります。

そうこうしていると、寝る準備が整うのは9時半ごろになるのが常です。しかし、ここから駆け引きが始まるのです。よく考えれば当たり前なのですが、日中は保育園で過ごしているため、夜になって親と一緒に過ごせる時間は、娘にとってとても貴重な時間のはずです。もちろん、私たちも、少しでも一緒に時間を過ごしたいのはやまやまですが、娘の生活リズムを整えるためにも早めに床に就く習慣を徹底させなければなりません。お互いにそうした思いを抱えながらの駆け引きです。

まず、妻や私と遊んだり、お話をしたりしたくてたまらない娘は、いろいろなものを持ち出してきます。とくに、絵本を何冊も抱えてやってきては、それらを読んでくれたら寝ると言うのです。確かに、絵本の読み聞かせは大切なことですし、親子のコミュニケーションを深めるうえでも、とても意義のあることだと、頭ではよく理解しています。それに、妻も私も、基本的に絵本を読んであげることが好きですから、一緒に楽しめば良いですし。そのために、2週間に一度、近所の図書館で10冊以上の絵本を借りてきては、面白いお話やドキドキするお話を、娘と一緒になって楽しんでいます。

ただ、そうそう何冊も絵本を読んでいたら、いつまで経っても寝られませんし、そもそも正直なところ一日の仕事が終わって疲れた身には、30分も40分も絵本を読み続けることはかなり辛い作業になります。ときどき手抜きをしてストーリーを端折ったりするのですが、以前に読んだことのある絵本の場合ですと、娘はこちらが感心するぐらいによく記憶していて、きちんと読むようにと怒られてしまいます。そのうち、絵本を読んでいるうちに私の方がウトウトしてしまい...、やはり娘に怒られます。

さあ、何とか絵本を読み終わり、部屋の電気を消して、寝る態勢を整えます。もう10時を過ぎていますから、さっさと眠りにつかせたいという思いで、こちらも少々焦り気味です。ところが、ここからが次の段階です。娘のおしゃべりが全開になります! 布団に入っても、ぺちゃぺちゃ、ぺちゃぺちゃと、際限なくお話を続けます。○○ちゃんや××くんが、ああした、こうしたといったお話や、おじいちゃんやおばあちゃんと遊んだときのことなど、話題が尽きることはありません。だんだんイライラしてきた私が、「いい加減におしゃべりをやめなさい」と少々強めの口調で言うと、いきなり「ママとパパが大好き!」などと何の脈絡もなく宣言したりするので、こちらも気勢を削がれてしまいます。そうこうするうちに、11時になり、11時半になり、ときには12時近くになってしまったりするのです。こうなってくると、起きているのは娘だけで、その横で妻と私が先に寝てしまったなどということも、一度や二度ではありません。

このような有様ですので、これまでにもいろいろと対策は練ってきました。まず、保育園にお願いをして、お昼寝の時間を少し短めにしていただきました。昼間にたくさん寝てしまうと夜の寝つきが悪くなり、その結果、寝不足で保育園に行くとお昼寝をし過ぎてしまうという、悪循環があるのではないかと考えたのです。しかし、少々の調整ぐらいでは、親と一緒に起きていたいという娘の気持ちにはかないません。もちろん、おそらく(私の勘違いでなければ)そういった気持ちを娘がもっていてくれることは、親としてとても嬉しいのも事実です。ただ、そうとばかりも言っていられません。

そこで、次に、絵本を読み終えたら家中の電気を消して、親も一緒に寝てしまうことにしました。親が起きているから、娘も起きていたいと思うのですから、私たちも一緒に寝てしまえば良いはずです。結局、これが一番効果的で、しばらくは娘の一人おしゃべりが続きますが、最後には諦めて寝るようになりました。(ただし例外の日もあり、一人で夜中までぺちゃくちゃとおしゃべりをしているときがあるのですが、こうなると妻も私もイライラしてきて、寝るどころではなくなってしまいます...。)

この対応は、思わぬ副次的効果を私にもたらしてくれました。娘と一緒に10時過ぎには私も寝てしまうため、仕事が溜まっているときには朝早く起きるようになり、かつては典型的な夜型人間だったのが、すっかり朝型人間に変化しました。ときには4時や5時に起きて仕事をしたりしていますが、朝早くは静かで、何の邪魔もなく集中できるため、仕事の能率も良いように思います。


遅寝、遅起き、朝食抜き

こうして就寝時に展開される親子の駆け引きについて改めて書き記してみると、私自身がある考え方にとらわれてしまっていることに気づきました。ここまで書いたことをお読みいただくとお分かりのように、「~しなければならない」とか、「~することが大切だ」といった、子育てに取り組む親たちが一般的に信じている「常識」や「理想」を私は目指しており、それが十分に実現できていないときに、自分の身を反省したり、ときには自らを責めたりもしているのです。

そのような後ろ向きの気持ちに拍車をかけるのが、巷に広まっているさまざまな言説です。たとえば、民間主導で「早寝 早起き 朝ごはん」全国協議会(平成18年4月設立http://www.hayanehayaoki.jp/)が立ち上げられ、子どもたちが健やかに成長するために、適切な運動、調和のとれた食事、十分な休養・睡眠といった基本的な生活習慣を徹底させましょうという「早寝 早起き 朝ごはん」運動を推進しており、こうした動きを文部科学省もバックアップしています。もちろん、こうした運動で主張されていることが大切なことはよく分かるのですが、自らの娘が「遅寝 遅起き 朝食抜き」といった真逆の行動様式をとっている親にとっては、耳が痛い話です。そうなのです、娘は遅寝・遅起きのみならず、朝ごはんをあまり積極的に食べないのです。別に食が細いわけではなく、夕食はとてもよく食べますし、保育園での昼食もしっかりと食べているようです。そんな娘をみていると、朝からカレーライスやかつ丼を食べることを好む父親(←私のことです...)の娘とは思えません。

また、少々前の調査結果ですが、社団法人日本小児保健協会がまとめた「平成12年度幼児健康度調査報告書」(平成13年3月発表http://www.jschild.or.jp/book/report_2000.html)によれば、午後10時以降に就寝する子どもの割合について昭和55年、平成2年、平成12年にそれぞれ調査した結果を比較すると、3歳児では22%→36%→52%と変化してきているそうです。また、起床時刻も多少遅くなってきてはいるのですが、就寝時刻が著しく遅いため、昼寝を除いた睡眠時間が短くなっていることが推測されると報告しています。こうしたデータなどを踏まえたうえで同協会は「子どもの睡眠に関する提言」(http://www.jschild.or.jp/com/011112.html)をまとめ、子どもにとって質のよい睡眠をとり、健康的な生活習慣を築くことが大切であり、寝つきをよくするためにも就寝時刻と起床時刻をなるべく一定にして、朝食をしっかりとるようにとアドバイスをしたうえで、子どもの健康的な睡眠のために「家族一緒に努力をするように」と激励しています。そして、「親の生活習慣は、そのまま子どもに影響します。小さい頃から夜更かしの習慣をつけないようにしてください。この時期は、成長に必要なホルモンが睡眠中にたくさん分泌されるので、良質な睡眠をとることは、とても大事です」と指摘しています。

ここまで明確に指摘されると、わが家と似た状態の親御さんたちは、「その通りです」と自らを振り返って反省するしかない状況に追い込まれるのではないでしょうか。もちろん、子どもの健康に関することですから、できるだけの努力をすべきだとは思います。ただ、ここで指摘されているようなことを意識しつつ、現実の生活との間で折り合いをつけていくことも必要だと思います。実際、最初に説明をしたように、仕事が終わってから子どもを迎えに行って、それから急いで夕食やお風呂の準備をしていると、時間をできるだけ効率的に使うような工夫をするにしても、限度があります。そうした状況のなかで、親としての理想的な態度を目指そうとすると、私はときに「良い親」になろうとし過ぎて、心の余裕を失ってしまっている場面があるように感じたりします。むしろ、どうせ私自身は「模範的な親」には程遠い存在なのだからと、自分のなかで割り切ってしまう時があってもよいのではないでしょうか。そもそも、「模範的な親」かどうかなど誰にも判断できないはずですし、自分の子どもが大人になったときに、どんな親だったかなと振り返ってもらうことで、初めて親としての自分が少しはみえてくるのではないかなと思います。そして、良い親だったかどうかは、そのとき子どもに判断してもらうしかないのでしょう。

先日、保育園の夏祭りがあり、他の保護者の方たちとお話をしたら、子どもが夜なかなか寝なくて困っているのは決してわが家だけではなかったことが分かり、何だかホッとしました。もちろん、他の家でもそうなのだから、自分の娘がなかなか寝なくても良いといった話ではないのですが、どこかに罪悪感を抱えてしまっている身としては、悩みを共有できただけでも少し気が楽になったのも事実です。実は、その意味では、調査対象のうちの約半数の3歳児が午後10時以降に寝るという、先に示した日本小児保健協会のデータをみたときも、私は何だかホッとしてしまったのです。それは、本来、同協会がこのデータを示して伝えたかったメッセージ(おそらく「危機感をもちましょう」ということを言いたかったのでしょう)に対する反応としては期待外れのものかもしれませんが、やはりそれが私の正直な感想でした。

この「父親子育て日記」も、「教育学者といっても子育ての素人なので、こんなに迷いながら子どもと向き合っているのですよ」ということを、とくに子育て真っ只中の親御さんたちを中心に伝えさせていただくことを目的に始めました。この日記を通して、育児に迷ったり悩んだりしているお母さんやお父さんたちと、「こういうことってありますよね」とお互いに共感をし合い、少しでも気が楽になれることを願いながら、これからも綴っていきたいと思います。




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筆者プロフィール
カリフォルニア大学ロサンゼルス校教育学大学院修了。博士(教育学)。
慶應義塾大学文学部教育学専攻卒業。
現在、上智大学 総合人間科学部教育学科 准教授。

共編書に「The Political Economy of Educational Reforms and Capacity Development in Southeast Asia」(Springer、2009年)や「揺れる世界の学力マップ」(明石書店、2009年)等。
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