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【ニュージーランド教育・子育て便り】第29回 小学生の経験した4回の遠隔教育

要旨:

ニュージーランドでは、新型コロナウイルスの市中感染が少数でも、確認されるとすぐ規制を強化してきました。子どもたちにとっても市中感染が確認されることは、即、遠隔教育への移行を意味します。その代わりに、学校へ戻るときにはかなり日常に近い形で戻ることができます。オークランドでは、今のところ4回の遠隔教育を経験しました。この形でのウイルス対応は、小学生の子どもたちとっては良かったようです。1年の間に4回の遠隔教育を経験したことを振り返ってまとめています。

この1年間、ニュージーランドは、新型コロナウイルスへの迅速な対応で世界に名を馳せました。日本からも注目され、幾度となく報道でニュージーランドの新型コロナウイルス対応を目にされた方も多いと思います。この期間の対応は、わずかでも市中感染が確認されたら、すぐに強硬にロックダウン、またはそれに準ずるような規制をしてウイルスを抑え込むというものです。それは子ども目線で見た場合、ニュージーランドで市中感染が確認されることは、即、多くの子どもが教育機関に通えなくなることを意味します。ニュージーランドの子どもたちの経験した新型コロナウイルスに対応した学校教育の特徴は、①遠隔教育への移行が頻繁に行われる、②学校に戻る時にはかなり感染のリスクが低いため、日常に近い状態で学校生活を送ることができる、という2点があげられると思います(学校でマスク着用を推奨されるようなこともありませんでした)。

ニュージーランド全土で多くの子どもたちが遠隔教育を強いられた期間は、2020年3月25日から2020年5月13日までに限られましたi。ただし、オークランドでは市中感染が何度か確認されたため、オークランドの多くの子どもたちは、2回目の2020年8月12日から8月30日まで、3回目の2021年2月15日から2月17日まで、4回目の3月28日から3月6日までと、他の地域よりも3回多い地域限定の遠隔教育期間を体験しました。本連載でも、1回目のロックダウン時の対応から学校再開までの様子をレポートしましたが、その後の2回目、3回目、4回目と、その回ごとに特色の違った遠隔教育の様子を振り返りたいと思います。最後にニュージーランド政府の教育機関評価局(Educational Review Office)が今年の年初に出したレポートについても触れたいと思います。

1回目の遠隔教育は矢継ぎ早に対応がなされ、教育省は遠隔教育ができるような支援に加えて、オンライン環境がない子どもには学習パックの送付、教育テレビの放映開始などを実施しました。遠隔教育の質を良くするというよりも、とりあえず何かするという意図が感じられました。初めての非常事態ということもあり、普段通りの学習を目指すのではなく、子どもたちが初めて直面するパンデミックという事態に精神面の健康にも気を使いつつ、かなりゆとりのある遠隔教育に落ち着いていった感じがありました。娘も1回目の遠隔教育時には、朝30分ほどビデオ通話で担任の先生と会話した後は、家での時間の使い方に自由度がありました。この際の詳しいレポートは第16回の記事をご覧ください。

2回目の遠隔教育は、オークランドで市中感染が4件確認されたことを機に警戒レベルが上がったことで行われました。この時は、唐突に学校に行けなくなり、予定していた行事もなくなり、娘も私も1回目のロックダウンの時とは違うショックを経験しました。この時は、オークランドのみが遠隔教育になったという点で、オークランドの子どもだけを取り残してはいけないという先生方の危機感が垣間見えた気がします。更に、この時は2回目でもあり、先生方の準備ができていたということからか、遠隔教育への熱の入れようが1回目の比ではありませんでした。毎日、時間割に沿って長い時間、遠隔教育が行われました。午前中は基本的にビデオ通話で授業三昧、午後も一部は授業があり、課題をこなすことにかなり時間をとられていました。

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送られてきた一週間の長い時間割

3回目の遠隔教育は、オークランドで市中感染が3件確認されたことで警戒レベルが上がり、行われました。この時は、新学年が始まって数日であることと、恐らくそこまで遠隔教育が長期に渡らないであろうという期待からか、どちらかというと1回目のロックダウン時に近いような、ゆとりある遠隔教育でした。期待通り、学校に行けなかった期間は3日で終了し、翌週から通学が可能になりました。この直後に警戒レベルが下がり、娘は無事に小学校のキャンプに行くことができました。

4回目の遠隔教育は、オークランドの3回目のロックダウン時の市中感染事例から直接の接触がないと思われる市中感染が確認されたことで、警戒レベルを引き上げて1週間の予定で行われました。この時は、3回目の時よりも先生方の危機感も高かったものと思われます。結局、3回目で確認された市中感染事例が広がっている可能性があったので、本当に1週間で遠隔教育が終わるという保証もない中で、再び、2回目の遠隔教育の時のような熱の入った遠隔教育が実施されました。この時実施されたものの中に、一つ印象に残った授業がありました。クラスの担任ではない先生が、高学年の子どもたち全員に向けて、オンラインでお菓子作りの授業を開催してくれたのです。3クラス合同で子どもたちがはしゃいでいる様子や、娘が「今までのオンライン授業で一番楽しかった!」と言っていた様子が印象に残っています。

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お菓子作りの様子

まとめて振り返ってみると、1回目の遠隔教育(ゆとりのあるタイプ)、2回目の遠隔教育(勉強をしっかり教えるタイプ)、3回目の遠隔教育(ゆとりのあるタイプ)、4回目の遠隔教育(勉強をしっかり教えるタイプ)で、それぞれ警戒レベルが引き上げられた時期や期間に応じて対応が分かれていました。クラスメイトや保護者の多くは、時間割もきちんとしていた「勉強をしっかり教えるタイプ」の2回目、4回目の遠隔教育を好んでいたようです。一方で、娘の場合は、自由に過ごせる時間が長い方が充実した時間を過ごせていたようで、1回目、3回目の遠隔教育の方が好きだったそうです。子どものタイプによって、どのようなタイプの遠隔教育がよいのかは異なるのだと思いました。それでも結局のところ、4回の遠隔教育を経ても、娘を含めて小学生の子どもたちが大幅に遅れを取ったようには見えず、私自身も、その都度、置かれた状況下では最善を尽くしてもらえたような気がしています。

2021年1月19日に教育機関評価局が出した調査結果iiを見ても、小学生レベルの子どもたちは、学習達成、感染への懸念、将来展望などの項目で、年齢の高い子どもたちに比べても楽観的な結果がでています。このレポートは3回目、4回目の遠隔教育が実施される前に出されたものですが、私個人の実感にも沿うものでした。総じて考えると、小学生の世代の子どもたちにとってはニュージーランドの新型コロナウイルス対応は、良い面が多かったのだと思います。1年前までは私も耳にしたことがなかったような「ニュージーランドにいることができて誇りに思う」「今ニュージーランドにいることができて幸せ」といった会話が、子どもたち同士の中で出てきていることも興味深く思っています。また、大人である私は、明日にでも市中感染が確認されたら日常が継続しない可能性を常にどこかで感じてしまっているのですが、小学生の子どもたちは、突然決定される遠隔教育と100%の日常という行き来に順応してきているようにも見受けられます。

最後に、良い話だけではなく、ニュージーランドで最も影響を受けたであろう、高校生世代についても少し触れておきます。小学生の話とは離れてしまいますが、度重なる遠隔教育の影響は、試験や単位に真剣に向き合わなければならない高校生の世代に非常に強く表れていた様子です。一般的には、遠隔教育を受けるスキルや遠隔教育から得るメリットも年齢が高い方が高いのではないかという説もありうると思いますが、教育機関評価局の調査を見る限り、ほぼすべての項目において高校生の回答に懸念すべき事項が並んでいます。中でも他の地域よりも多く遠隔教育が実施されたオークランドの子どもたちや、社会的経済的に弱い立場の子どもたちに負の影響が強く出たこと、マオリやパシフィカ(太平洋諸島からの移民)の世帯人数が多い傾向にあることにより、子どもたちから高齢同居者への感染を懸念して、欠席が長期化する傾向にあったことに起因した負の影響なども指摘されています。このレポートからの示唆は多くありますが、非常に簡潔に言うと、2021年は最も影響を受けた子どもたちに重点的に支援をすべき、というまとめになっています。


  • i) 一番厳しいロックダウンは2020年3月25日から4月27日までで、その間は全生徒が通学不可能でした。その他の遠隔教育ではエッセンシャルワーカーの子どもたちは学校に通学することができました。オークランドのみの追加の遠隔教育の対応は、第18回の記事でご紹介したレベル3に相当します。
  • ii) Educational Review Officeから出されているレポートLearning in a Covid-19 World: The Impact of Covid-19 on Schoolsについてはこちらをご覧ください。10,106名の生徒、694名の教師への調査をもとに64ページのレポートにまとめられています。
    https://ero.govt.nz/our-research/learning-in-a-covid-19-world-the-impact-of-covid-19-on-schools


筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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