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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第27回 小学校のキャンプ

要旨:

ニュージーランドの小学校高学年で実施されるキャンプは、小学生時代に行われる校外学習の中でも非常に大事にされているようです。娘の小学校でも先日3泊4日のキャンプが行われました。その準備から命綱を付けるほどの本格的なキャンプでのアクティビティの内容までをお伝えします。

ニュージーランドの子どもの学校外での学習はEOTC(Education Outside the Classroom)と呼ばれます。直訳すると「教室の外での教育」です。現在10歳の娘は、小学生になってから何度か演劇を観に行ったり、歴史的な施設を訪ねたりしてきました。EOTCの中でも最も大きな行事となるのが、宿泊を伴った行事である、小学校高学年(年齢的には8歳後半から10歳くらい)iで行われるキャンプです。ニュージーランドの人に言わせれば、小学校生活のハイライトとでも言うべきもののようです。娘の小学校の場合には、野外宿泊施設に行き、3泊4日に渡り様々なアクティビティを実施してきます。キャンプといってもテントではなく簡素な宿泊施設で寝ます。EOTCには細かなガイドラインが存在しておりii、また関わる人も多様でたくさんいるため、全てを把握して計画するには、たとえ教師であっても、知識だけではなく経験もかなり必要なのではないかと感じます。娘の小学校でも、キャンプ担当の先生の知識と経験の豊富さ、キャンプにかける情熱は並々ならぬものだなと思いました。今回は、そのような一大行事であるキャンプに娘が参加したときの話をお伝えしたいと思います。

娘の学校で配られた、キャンプに関する一番最初のお知らせは、キャンプ実施の3カ月以上前になりますが、キャンプに同行する保護者ボランティアの募集でした。娘の小学校では、キャンプのボランティアをするためには無犯罪証明の提出が義務付けられています。ボランティアで参加したい保護者は、募集人数を超えるほど集まるようです。保護者向けの説明には、いつも小学校にボランティアなどで貢献している人を優先して選ぶとの文言がありましたが、先のEOTCに関するガイドラインを見ると、アウトドア教育への理解や保護者自身の経験といったものも重視しているのだろうと思われます。いかにも大変そうな保護者のボランティアではありますが、これに率先して多くの人が手を挙げることも私には新鮮でした。逆にこれだけ大変なことに、数か月前から応募し、選ばれたうえでの参加なのだと考えると、ボランティアとして参加することは、とても喜ばしいことなのかもしれません。

その後、保護者向けの説明会が開催され、キャンプ参加費用の支払い期限の案内、持病のある生徒の医薬品に関する情報提供、持ち物リスト、子どもの状況確認(高所恐怖症があるか、水への恐怖心があるかなど)、参加同意書、などが続きました。これらについてはほとんど内容の予想がつくと思いますが、保護者説明会、費用の支払い、持ち物リストについてだけは少し補足したいと思います。保護者説明会はキャンプの概要の説明会として、キャンプに子どもを参加させるすべての保護者を対象に実施され、一日の流れ、子どもたちが楽しんでいる様子を見せられ、キャンプを経験すると子どもたちがいかに成長するかといったことの説明がありました。また、保護者が不安に思うであろうことについても説明がありました。私の場合は、ニュージーランドのアウトドアアクティビティのハイレベルさiiiで考えれば、アウトドア活動が得意とは言えない娘が安全に参加できるかどうかが多少気になっていました。が、質問するまでもなく「各アクティビティに参加するかしないかは決して強要されることはありません。やりたくない場合はやらなくて構いません。キャンプの活動は何年も実施してきており、必ず全員が安全に行って安全に帰ってくるという自信があります」という先生の説明を聞くことができ、安心しました。他にも、睡眠時遊行症、夜尿症などの配慮すべき症状がある子どもには、安全に配慮したり、恥をかかせたりすることのないように対処したいので教えて欲しいといった説明もありました。

参加料金は3泊4日で360NZドル(日本円で約30,000円)でした。支払い処理は学校の支払い全般を管理しているウェブ上での決済で済みました。また、3泊4日分の大量の持ち物リストに私は目がくらみそうになりましたが、極めつけはキャンプ中に食べるためのお菓子を焼いて持参するというものです。しかも娘本人が準備しなければならず、作っている姿を撮った写真も必要とのこと。子どものキャンプの持ち物準備に気を配りながら、更に子どもにお菓子作りをさせながらの写真撮影とは、私にとってもなかなかハードなキャンプ前日でした。子どもたちがシェアするために各自持ち寄ったお菓子類は、4日間のモーニングティーとアフタヌーンティーのいずれかの時間に振舞われるそうです。


report_09_402_01.jpg カップケーキ作り


子どもを送り出してしまうと、4日間も子どもがいないからと久しぶりの大人だけの時間を満喫したりする方も多いようです。私たち家族は娘のいない生活に慣れず、満喫とまではいかず「早く帰ってきてほしいね」などと言いながらの長い4日間でした。帰りのバスが到着する時刻に学校に迎えにいくと、子どもたちは一様に誇らしげな表情をし、先生方もまたやり切った表情で帰ってきました。保護者も4日間頑張った子どもたちを大いに歓迎している雰囲気でした。

家に戻ってきてから、肝心のキャンプで何をしてきたのか娘に聞いてみました(イメージしにくいものについては、絵を描いてもらったのでご参照ください)。

  • 1日目...4時間のトレッキング(山歩き)、サッカー、マッドスライド(泥水の中を滑りおりる)、劇や音楽などの披露(夜)
  • 2日目...フリスビー、高所での飛び移り★、高所での丸太渡り★、火起こし、浮き輪を装備し川を歩く、暗所でロープを頼りに15分ほど歩く(夜)
  • 3日目...キャンプサイトにある物探し(キャンプサイトにあるものの中からa,b,cなどそれぞれのアルファベットで始まるものを探して紙に書き込む)、用意されている複雑な障害物コースに挑戦、ジップライン★、マウンテンバイクに乗って野山を駆け巡る(上級・中級・初級の3コースが用意されている)、アーチェリー、キャンプファイヤー(夜)
  • 4日目...オリエンテーリング


report_09_402_02.jpg
左上:マッドスライド(急斜面から泥水の中に滑り落ちる)
右上:高所での飛び移り(高所に設置された木の板を飛び移る。下には命綱を持ったインストラクターがいる)
左下:高所での丸太渡り(2本の高い木に渡された細い丸太の上を歩く。下には命綱を持ったインストラクターがいる)
右下:ジップライン(上にいるインストラクターが準備のできた子どもを押し、子どもは滑り下りる。下にも命綱を持った大人がいる)
尚、絵ではシンプルに命綱を1人で持っているようにしていますが、近くに3人子どもが待機していて、1人の子どもが命綱を持ったインストラクターの背後でサポートしており、一緒に体重が重りとなって、アクティビティをしている子どもを支え、安全性を高めているそうです。


この中には、娘が怖がって参加を辞退したものも含まれていますが、本当に盛沢山なことがお分かりいただけると思います。そして、★は命綱をつけて行われるもので、娘は15メートルの高さだと説明を受けたと言っています。高さの正確性はともあれ、命綱を要するその本格的なレベルに圧倒される方も多いのではないでしょうか。それぞれのアクティビティは、アウトドア施設の専門スタッフが教えてくれる上、8~10人の各グループにボランティアの保護者が2人ずつ付き、しっかりサポートしてもらえたようです。そのためか説明も分かりやすく、一人ひとり丁寧に見てもらうことができ、とても楽しいらしいのですが、話を聞くにつけ、日数も長くアクティビティも盛沢山で、子どもたちはみんなよく元気にこなしてくるなと感心してしまいました。

小学生のうちに4日間も親と離れて生活し、自立への一歩を踏み出すという意味で大切な行事なのかもしれません。新型コロナウイルスが流行る前は、キャンプ後に子どもたちから保護者に向けたキャンプの報告会も実施されていました。保護者の意識をキャンプに参加した子どもたちだけに集中して向けてほしい、子どもたちを輝かせてあげて欲しいからという理由で、その報告会には他の兄弟を連れてこないように言われているほど、この報告会も大事にされていたものでした。しかし、新型コロナウイルスの感染対策のため報告会は実施されませんでした。

それでも、そもそも今回のキャンプは、キャンプ日程の直前に新型コロナウイルス対応で3日間警戒レベルが引き上げられ、キャンプ実施の可否もギリギリまで検討されていたものでした。そうした中で警戒レベルが下がり、予定通り実施することができたのですが、キャンプから帰宅した翌日から1週間はまた警戒レベルが上がってしまいました。まさにキャンプの間だけ警戒が解けたようなタイミングで、保護者向け報告会がないのは少し残念ですが、子どもたちもこの状況下でキャンプに行けたこと自体に感謝している様子です。


注記

  • i ニュージーランドの基礎データ
    https://www.blog.crn.or.jp/lab/01/91.html
  • ii EOTCの80ページにわたるガイドラインや関連情報が整理されています。
    https://eotc.tki.org.nz/EOTC-home/EOTC-Guidelines
  • iii ニュージーランドはバンジージャンプ発祥の地でもあることからもご想像できる通り、アウトドア・アクティビティが盛んです。その高度、速度、難易度などどのような視点からみてもハイレベルだと感じます。



筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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