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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第26回 息子の卒園とラーニングストーリー

要旨:

息子が幼稚園に入園することが決まり、「小さな子ども向けの園」を卒園しました。今回は、ニュージーランドの幼児教育でよく用いられる評価方法であるラーニングストーリーを園児たちの前で振り返る卒園の様子を紹介します。

ニュージーランドの幼児教育に対して、日本で注目を集めるもののひとつに、ラーニングストーリー(当地ではポートフォリオと呼ぶことも多くあります)と呼ばれる特徴的なアセスメント方法があります。このラーニングストーリーというのは、子どもたちの紡ぐ学びの過程が教師によって記述されているものです。一人ひとりの子どもが園で何かに取り組んでいる時の様子が描写的に記述されていますi。一つひとつのエピソードは、一人の先生から見たストーリーとして完結しているので、それ自体読み物として読んでも面白いのですが、幼い頃の過ごし方から順に読んでいくと、小さい頃からのストーリーが積み重なり、より発達した遊びや過ごし方へと変わっていっている様子が読み取れます。なお、2年3か月の在園期間の息子のラーニングストーリーのファイルを数えてみると、写真のみ、文章中心のページなど様々ですが、60枚以上にも及びました。今回は、そのラーニングストーリーが息子の「小さな子ども向けの園」卒園時に使われた時の様子をご紹介します。


report_09_400_01.jpg report_09_400_02.jpg
息子のラーニングストーリーのファイル
(左:表紙。子どもの大きな写真が貼られていることが多い。
右:1ページ目。入園した時に家庭では日本語中心であることを伝えると、タイトルをインターネットの翻訳で日本語にしてくれた。)


 息子の卒園について紹介する前に、まず息子の通っている園と卒園の仕組みについて説明します。この度、息子が卒園した園は、地域の非営利団体として1歳半からの子どもを預かっている園です。ここに通っている子どもたちは、3、4歳を過ぎると地域の幼稚園に空きが出るのを待っており、空き次第、卒園するという流れが主流です。そして、その幼稚園では園児たちが5歳を過ぎると卒園し、小学校に順次入学していきます。現在、小学校の入学のタイミングは年に8回あり、5歳の誕生日を迎えた子どもたちから卒園していきます。つまり、5歳になって幼稚園から小学校に上がった子がいると、その分、ドミノ式に幼稚園に空きができ、年に8回のタイミングで、幼稚園に新たに入園できる子が出てくるという仕組みになっています。というわけで、息子も幼稚園に入園することが決まり、小さい子ども向けの園から卒園することになりました。

 卒園の前日に、息子のために特別なマットタイム(みんなで一緒に先生のお話を聞く時間)を用意したいので、できれば家族(うちの場合、夫婦)そろって園に来て欲しいということを先生から伝えられました。この卒園の特別な日をハッピーキンディーデーというのだそうです。夫もこの特別な日のために急遽、在宅勤務に変更し、1時からに設定してもらったマットタイムに参加しました。

さて、特別なマットタイムでは、息子用の玉座のような椅子が園児たちの前に用意されました。そこに息子が座り、隣で先生が「今日は特別な日」という歌詞の歌をギター片手に歌ってくれました。その後、息子はこの日のためのガウンを着せてもらいました。この服には特別な意味があるそうで、長い糸が何本も垂れているのですが、一つ一つの糸(strand)はこの園で過ごしたときに出会った友だちやその家族を表しているのだそうです。その服を着せられた後、先生が「ここには特別なストーリーがあるよ」と歌いながら、宝物を入れる木の入れ物からファイルを取り出しました。このファイルが息子のラーニングストーリーです。そして、そのラーニングストーリーの分厚いファイルのページをめくりながら、息子、私たち保護者、園児たちに対して話を展開していきます。その場での息子や息子以外の園児とのやり取りもありますし、めくったページに沿った内容なので正確な抜粋ではありませんが、その様子が分かるように少し内容をご紹介します。


report_09_400_03.jpg ガウンの糸の説明を聞く様子


「ある日、〇〇(息子の名前)が園に来ました。私たちは、彼を迎え入れました。2018年10月のことでした。こんなに小さかったんですよ。これが小さいときの〇〇、これがお父さんとお母さん、これがお姉ちゃんです。いろいろなものを作るのが得意で、私たちは彼をエンジニアとか建築家と呼んでいました。彼が作ったものを振り返ってみましょう。ブロックとかトラックとか、砂場でいろいろな箱や板を使って特別なコースを作ったりしていました。これは一番の仲良しだったお友達の△△ですね。この頃は車が好きでした。これはロックダウンの時のお家での写真です。オンラインでもお話ししましたよね。またすぐ会いましょうね。いつでも幼稚園での様子を教えに来てください。いつか大きくなったら戻ってきて素敵な園を建ててくれるかもしれませんね」


report_09_400_04.jpg ラーニングストーリーを見ながらの会話


締めくくりに、園に残された子どもたちに対して、これを見たら思い出して欲しいという意味で、息子からのちょっとしたプレゼントを渡しました。息子は、ティラノサウルスのおもちゃが良いというので、そのようになりましたii。「また、遊びに来てね」と言っていただき、拍手でこの会は終了しました。こうして30分ほどの時間をかけて、一人の子どもの入園から卒園までのストーリーを園児たちの前で振り返って頂き、終了後、そのファイルを頂きました。

我々大人でも、昔のアルバムを見ながら親しい人同士が集まると盛り上がると思いますが、そのような時の気持ちに近いでしょうか。園児たちも時折、自分も写真に写っていたりするので、概ね喜んで見ていました。息子も、普段よりだいぶ大人っぽい表情を見せていました。

 こうした卒園時のラーニングストーリーの使い方は、多くの園で行われているのかどうかは分かりませんが、息子の園だけではないようです。小さな頃から成長した分厚い記録を親やみんなの前で読んでもらう場は、小さな子どもにとって、とても素晴らしい経験のように思えました。ラーニングストーリーの中身も大切なものですが、渡され方の思い出も加わり、より大切なものになったような気がします。


注記

  • i 例えば、息子の場合には、砂場で何かを作った時に工夫した様子や友だちとの会話の様子などが事細かに記述されているようなものが多くあります。
  • ii 本1冊であったり、ぬいぐるみであったり、最後に渡す物は家庭により異なります。



筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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