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【ニュージーランド子育て・教育便り】 第25回 潮干狩り

要旨:

日本と同じ島国のニュージーランドは、海の幸に恵まれており、子どもと釣りをしたり潮干狩りに出かけたりすることもできます。海洋資源保護のために、ニュージーランドでは魚の種別に、捕っていい大きさや収穫量の上限が決められており、専用のアプリで確認することができます。今回は、こうした規制を確認しながら行ってきた潮干狩りの様子を紹介します。

ニュージーランドは、日本と同様に四方を海に囲まれた島国で、海の幸に恵まれています。日本でニュージーランド産の魚を口にしたことがある方も多いのではないでしょうか。ニュージーランドでは、個人的な楽しみで海釣りiをする場合には特別な免許は必要なく、一般の人でも釣りができる場所は身近にたくさんあります。何が釣れるのか聞くと、オークランドの中心部をすぐ傍に臨む場所でも、鯛(snapper)がよく釣れるというのですから驚いてしまいます。車で少し中心部を離れれば、岩蟹が捕れる浜や、ウニや二枚貝などを収穫できる場所もあります。

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オークランドの中心部を臨む釣りスポットのひとつ

このようにニュージーランドでは、海洋魚介類を収穫できる場所がたくさんありますが、収穫できるものの大きさや数は魚の種別によって細かく決められています。このルールは、第一次産業省のウェブサイトiiにも公表されていますし、無料アプリiiiをスマートフォンにダウンロードしておけば、釣りの最中でも簡単に捕った魚を確認することができます。例えば、オークランドでよく釣れる鯛ですが、30cm以下の場合は海に戻さなければなりませんし、一日の釣数限度も7匹までと決められています。常に釣りを趣味にしている人なら確認するまでもないかもしれませんが、子どもとたまに楽しみたい程度の人にとっては、図鑑のようにチェックできるこのアプリは便利です。規制サイズ以下の魚を捕ったことがわかれば250NZドル(日本円で約2万円、2021年2月現在)の罰金、制限以上の数を収穫すれば250NZドルの罰金、規制の3倍以上も収穫すると起訴されてしまいます。

移住してきた頃に受けた移民向けセミナーでも、ニュージーランドは海洋資源の保護に熱心であることや、収穫ルールに則って楽しむ重要性が強調されていました。趣味として釣りを楽しむ人の中には、母国でも海産物を多く食べる文化の人も多いようです。それでも、母国の常識で収穫するのではなく、ニュージーランドのルールを学び、その範囲で楽しむことをこの時に学びました。私たちは、そもそもそんなに簡単に釣りができるとは思っていませんでしたから、この話を聞いた時には、そんなに気軽に釣りができるのなら、いつかニュージーランドのルールの範囲で、子どもと一緒に収穫した魚や貝などを使って、新鮮なお刺身や日本風の料理を子どもと食べられたらいいなと思ったのでした。

今回は、夫の韓国出身の同僚がカニを捕りに行ったという話をきっかけに、息子の夏休みの冒険と称し、夫と3歳の息子が簡単にできそうな潮干狩りをしてきてもらうことにしました。ここは、息子が生まれる前に娘を連れて3人で行った場所でもあります(娘は残念ながらこうしたアクティビティが苦手で、潮干狩りはこの一度きりでした。今回も私と留守番していたいということで家にいました)。収穫するのはザルガイ(cockle)という二枚貝です。ハマグリを少し小ぶりにしたような見た目に、癖のないアサリのような味の貝です。出かける前に、専用アプリを一緒に確認。オークランド地域での収穫の上限は一人50個、大きさの制限はないことも確認し、着替え、収穫用の入れ物を用意。夫と息子2人分ですから「全部で100個までだから、きちんと数えてきてね」と言い含め、日差し対策を万全にして送り出しました。

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浜辺にも多言語で案内があり、貝の数を数えている息子の様子。

時間帯が良かったのか、泥の中に立てば足で貝を感じ、泥に手を突っ込めば貝がすぐつかめるほどだったということです。そのため、冒険と称して大げさに送り出した割には、到着すると、ものの20分もたたずに上限個数に到達してしまったとのことです。あまりにもあっさりと終わってしまい、帰宅も予定よりだいぶ早かったのですが、3歳の息子には十分だったようです。家に帰ってきた時には、倒れこむように寝ていましたし、起きて早々、貝が泥の中に住んでいること、足を濡らしながら収穫したこと、数を数えたこと、水で洗ってきたこと、などなどを熱心に教えてくれました。私と離れて行った体験を一生懸命語ってくれ、自分で収穫した貝を食べるのも格別の様子で、本当に良い経験だなと思いました。私が喜んでいると「また捕ってきてあげる」と言ってくれ、頼もしい限りです。

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泥の中に手を入れるだけで簡単に収穫できたとのこと

さて、自分の食文化を子どもたちに伝えたいという私の願いがありますが、フライパンでニンニクとオリーブオイルで蒸し焼きにした貝は大喜びで食べてくれた一方、みそ汁は食が進まない様子でした。「ニュージーランドで収穫した貝で日本の食文化も伝えられました!」と書ければよかったのですが、そこは一筋縄ではいきませんでした。ただ潮干狩り自体は楽しかったようなので、息子の場合は、もしかすると数年後には海釣りに出かけ、鯛を釣ってきてくれるのではと期待しています。その時はめげずに鯛を使った和食を作り、日本の味を伝えてみたいと思っています。

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100個の貝

後日談:私と娘に潮干狩りの場所と捕り方を教えたいから一緒に行きたい、と息子にせがまれ、今度は家族4人で行ってきました。私や娘よりずっと上手に収穫する息子の慣れた様子に感心してしまいましたが、夫に言わせれば1回目よりもずっと上達しているとのこと。アウトドアの経験が乏しい私は、小さな子が自然の中で育つ姿に驚かされました。


注記

  • i 川や湖での釣りは免許が必要です。
  • ii 第一次産業省のウェブサイト
    https://www.mpi.govt.nz/fishing-aquaculture/recreational-fishing/fishing-rules/
  • iii アプリの構成は、「制限・告知」「教育情報」「一般情報」の3つの構成になっています。「制限・告知」では地域を選ぶと魚の種別に大きさや数量の規制が確認できます。また収穫が制限されている場所の情報も確認できます。「教育情報」では魚介類の扱い方、釣りの方法、測定方法が紹介されています。「一般情報」には、不法漁獲者の通報方法、メーリングリストへの参加、更新日時などが確認できます。



筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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