CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【イギリスの子育て・教育レポート】 第20回 イギリス流 夏休みの過ごし方 ~サマープログラム体験記~

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【イギリスの子育て・教育レポート】 第20回 イギリス流 夏休みの過ごし方 ~サマープログラム体験記~

要旨:

今回は、息子が夏休みに参加した「サマープログラム」について取り上げる。イギリスの公立小学校の夏休みは、期間も時期も日本と似ていて、7月下旬から9月上旬。長い夏休みを有意義に過ごすためか、イギリスではさまざまなサマープログラムが行われている。その種類は、スポーツ系、デジタル系、音楽系、アート系、工作などの制作系、演劇系と多岐に渡る。息子は、ロボットやラジオ番組制作、サイエンスや教会で行われたサマープログラムに週に2~3日ずつ参加した。イギリスのサマープログラムのよい点は、幅広いジャンルのプログラムが用意されていること。課題は、質をよく吟味しないと期待外れな場合もあること。しかし、イギリスにはサマープログラムの質を担保する仕組みも用意されている。

Keywords: 橋村美穂子, イギリス, 小学生, 夏休み, サマープログラム, サマーキャンプ, サマーコース, サマースクール, オフステッド, ofsted, DBSチェック

この連載では、小学生の息子をもつ母親による「イギリスの子育て・教育」体験レポートをご紹介します。

長い夏休みが終わりましたね。いろいろな体験をして一回り大きくなったお子さんもいらっしゃるかもしれません。夏休みにしかできない体験をさせたいと思うのは、日本もイギリスも同じようで、イギリスでは夏休みにあちこちでサマープログラムが開催されます。息子もこの夏、複数参加しました。今回はイギリスでの「サマープログラム」体験を紹介します。

宿題が出ない夏休み。サマープログラムが各地で開催される

イギリスの公立小学校の夏休みは、日本とほぼ同じ時期・期間で、7月下旬から9月上旬まで約6週間。違うのは、宿題が一切ないことです。日本のように、ラジオ体操や学校のプール開放などはないので、夏休み期間中、学校と関わる機会は一切ありません。気候がよく、時間に余裕のある夏休みならではの体験をさせたいからか、それとも、共働き家庭の子どもの預け先を確保するためなのか、はたまた、暇を持て余してしまうからなのか、理由はいろいろあるでしょうが、イギリスでは幼児~小中学生を対象としたさまざまな種類のサマープログラムが行われています。

イギリスでは休暇中のプログラムのことを「キャンプ」と呼びます。「サマーキャンプ」「キッズキャンプ」と呼ばれることが一般的です。しかし、キャンプといっても、大自然の中でテントを張って宿泊するのではありません。イギリスで言う「キャンプ」とは、主に日中に行われる日帰りのアクティビティプログラムを指します。小学生向けのサマーキャンプの中で一般的なのは、学校の校舎を使って、民間企業が主催するプログラム。1日もしくは、1週間単位で申し込みます。スポーツやアート、工作など、いろいろなアクティビティを組み合せたものが多いようです(写真1)。一方で、1種類のスポーツやスペイン語などの語学、特定の楽器にテーマを絞ったものもあります。時間はプログラムによって異なりますが、だいたい朝9:00から15:30ごろまで行われます。料金も地域や内容によって異なりますが、私が知る限り、1日約10ポンド~30ポンド(約1,450~4,350円)程度。別料金で朝と夕方に時間延長や弁当提供をしてくれる場合が多く、共働き家庭には助かりますね。

report_09_270_01.jpg
写真1 近くのグラマースクール(選抜試験のある公立進学校)で開催されたサマープログラムのチラシ。
リーダーシッププログラムなど魅力的な内容が特徴です。

人気のあるコースは早めに満席になってしまうと聞いたため、5月からサマープログラムの情報収集と申込みを始め、この夏休みは週2~3回ずつ、プログラムに参加することにしました。それぞれご紹介します。

●アートセンターで、ロボットやラジオ番組を制作
最も息子が楽しみにしていたのが、アートセンターのサマープログラム。このセンターは、広大な公園、映画館などを併設した市の施設です。普段より子どもから大人まで幅広い年齢を対象にプログラムを提供しています。この夏休みには、0~5歳向けには親子で体を動かしたり、ものを作ったりする遊びを、6~17歳向けには以下のようなプログラムを提供していました。

  • 【アート系】ロボット制作/紙・木などの素材を使った工作/自画像などの絵画/陶芸や彫刻など
  • 【デジタル系】ラジオ番組制作/デジタルミュージック制作/ショートフィルム制作など
  • 【表現型】コメディや人形劇/小説にヒントを得て踊る創作ダンスなど
  • 【勉強&表現型】クリエイティブ・ライティングという小説や詩の執筆など
  • 【手芸系】布やフエルトなどを使って洋服や小物の制作など
アートセンターなので、スポーツ系や音楽系は少ないのですが、日替わり、週替わりで提供されるプログラムのバラエティ豊かさに驚きます。

息子はここで10:00~15:00の1日5時間、ラジオ番組制作やロボット制作のプログラムなどに参加しました。参加したプログラムの料金は内容によって異なり、1日約20~40ポンド(約2,900~5,800円)でした。

ラジオ番組制作プログラムでは、他の子どもとペアになり、パソコンを使って2分程度のラジオ番組を制作します。約2分の番組でも、シナリオ書きから、ナレーション、バックミュージックを入れるなどいろいろな仕事があります。「歴史に関する番組を作る」というお題のもと、息子がパートナーと相談して決めたのは、「ヘンリー8世にインタビューする」番組。ヘンリー8世とは、6度の結婚をしたイギリスでは有名な王です。できあがったラジオ番組は保護者にメールで送ってくれたのですが、息子がヘンリー8世役のスタッフに堂々と(もちろん英語で)インタビューをしていて驚きました。

また、ロボット制作プログラムでは、部品や電池を組み合わせて、それぞれ好きなロボットを作ります。「ロボペットを作る」というお題だったので、しっぽを振る犬や動物を作る子が多かったようですが、息子はドラえもんのタケコプターにヒントを得たロボットを作りました(写真2、3)。現地校の4年時に科学の授業で電気回路について学んでいたので、先生の説明もよく理解できたと話しており、ここでも予想外に息子の成長を感じることができました。

report_09_270_02.jpg
写真2 他の子どもたちが制作した動物型ロボット。

report_09_270_03.jpg
写真3 息子が制作したロボット。残念ながら飛びませんが、上部の羽が高速回転します。
また、緑や赤に光るロボットにするために、先生に質問して工夫したそうです。


●サイエンスを標ぼうしているが、「なんちゃってサイエンス」だったプログラム
アートセンターに加えて、期待していたのが民間企業主催のサイエンスのプログラム。ホームページでは白衣を着て実験している様子の写真が何枚も掲載されていたうえ、学校でもチラシが配布されたので、申し込んでみました。日替わりでテーマが違い、「通電(Electrifying)」「ロボット制作(Droid Building)」、変わり種では「魔術師学校(Wizard school)」などのテーマがありました。8:30~16:00で1日30ポンドと値段は少し高めでしたが、蓋を開けてみると、残念ながら少々期待外れ。「破壊の日(Day of Destruction)」というテーマの日にお迎えに行ったら、みんなでアニメのDVDを見ているではありませんか。また、「サイエンスで破壊」とは何をするのだろうと思っていたら、小石を飛ばすY字型のパチンコのおもちゃをアイスの棒で作るというちょっと「残念」な工作でした。しかし、「通電(Electrifying)」の回には、静電気を起こして髪の毛を逆立たせたり、みんなで輪になって電気が伝わるか実験したりするアクティビティがあり、帰り道には珍しくどんな活動をしたか楽しそうに話してくれました。当たり前なのですが、より「科学」らしいテーマを選ぶことが大切だったようです。

●近くの教会で行われた3日間限定の激安サマープログラム
この教会は、普段から未就園児親子向け広場や、高齢者向けのお楽しみプログラムなど幅広い層に向けたイベントを開催しています。夏休みは3日間限定で、小中学校に通う子ども向けのプログラムを企画してくれました。驚いたのは、その値段。10:00~14:00までのプログラムで、1日たった3ポンド(約435円)。教会がチャリティーの一環として行っていること、スタッフは大学生と思われるボランティアのお兄さんお姉さんだったことが激安の理由のようです。3日間のテーマは「サーカス」で、雰囲気を盛り上げるためのサーカス劇団風の飾り付けも、ダンスや歌、ゲームなどのアクティビティもよく企画が練られていました。教会のプログラムなので、宗教に関する講話もあったそうです。

サマープログラムの質を担保する2つの仕組み~国の監査と犯罪歴証明調査~

イギリスのサマープログラムのよい点は、子どもの興味に合わせてさまざまなジャンルのアクティビティが用意されていることだと思います。日本でもロボット制作などは聞いたことがありますが、演劇や創作ダンス、小説執筆や手芸のプログラムはあまり聞いたことがありません。一方で、課題は、プログラムによっては期待はずれな場合、質が低い場合もあることです。しかし、イギリスには、サマープログラムの質を担保する仕組みが2つあります。

1つは、国の評価機関であるオフステッド(ofsted)の監査です。サマープログラムの質を吟味するには、オフステッドの監査を受けている団体かどうかが1つの判断材料になります。オフステッドは学校評価をする国の機関ですが、サマーキャンプや塾など民間企業の監査もします。オフステッドが関わっているメリットは、内容に問題があった場合、オフステッドに苦情を言えば対応してくれる点です。息子が通ったサイエンス教室の会社もオフステッドの監査を受けています。とはいえ、内容の質すべてを把握しているわけではないので、サマープログラムの内容の吟味は、オフステッドの監査を受けているかどうかに加え、やはり、口コミ情報やママ友との情報交換が大事であることを痛感しました。

もう1つは、DBSチェックという、プログラムスタッフの犯罪歴証明調査です。イギリスでは、ボランティアであっても子どもに関わる活動をする人はすべてDBS(The disclosure and barring service)チェックという、犯罪歴がないことを証明する調査を受けなければなりません。アートセンターの案内書にもDBSチェックを受けたスタッフが担当することが明記されていました。子どもの安心・安全という最も大事な「質」を担保する仕組みは日本にもあればよいのに、と思います。

息子は当初、英語でサマープログラムに参加することに消極的でした。夏休みに入り、英語からやっと解放されると思ったのに、また英語を話す生活か・・・と思ったそうです。しかし、現地校で学んだことをサマープログラム内で発揮できる機会に恵まれ、少し自信がついたようです。9月から現地校では最高学年である6年生になる息子。夏休みで得た体験を生かして、より学校生活を楽しんでほしいと願うばかりです。

次回は「未就園児ファミリー向け広場」をお届けします。お楽しみに。

筆者プロフィール
橋村 美穂子(はしむら・みほこ)

大学卒業後、約15年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育総合研究所で幼稚園・保育所・認定こども園の先生向け幼児教育情報誌の編集長を務め、2015(平成27)年6月退職。現在は夫、息子と3人でイギリス中西部の街バーミンガム在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP