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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第45回 在宅学習の長期化とその問題点

要旨:

昨年12月以降、完全ロックダウンが続いてきたベルリンだが、4月18日までの延長が決まった。市民のストレスが高まる中、学校の再開は小学校を中心に段階的に行われてきている。しかし、在宅学習を継続している学年も多く、長期間の在宅学習による様々な問題点も生じている。それに対し、ベルリン市は一日も早く対面授業が実現するように、抗原迅速検査の無料配布や空気清浄機の追加設置を進めるなど、感染対策を講じている。

キーワード:
ドイツ、ベルリン、新型コロナウイルス、在宅学習、オンライン授業、デジタル機器、抗原迅速検査、予防接種、学習支援、シュリットディトリッヒ桃子

*本記事の記載事項は3月下旬時点でのものであり、規制内容などは随時変更される可能性があることをご了承下さい。

これまでの経緯と現状

ドイツではこれまで隔週水曜日に、メルケル首相と各州の長や感染学の専門家などが集まって、実際の感染状況に基づいて新型コロナ感染対策について議論をし、措置制定を行ってきました。しかし、「新規感染者数が10万人あたり50人以下」という目標になかなか達しないことから、12月以降、完全ロックダウンを再決行した結果、店舗は閉鎖が続き、家族以外の人と会うことは1回の会合につき1人までに制限され*1、学校・保育園は閉鎖されてきました。

さらに、1月からは、公共交通機関や店舗での医療用マスク(OPマスク、KN95マスクまたはFFP2マスク)の着用義務が適用されるなど、より厳しい措置がとられました。これらの甲斐あってか、2月から少しずつ状況は落ち着きを見せ、地域によっては800を超えていた10万人あたりの新規感染者数も、ドイツ全体で2桁台まで落ちてきました。しかし、それでも上述の目標値には到達しておらず、さらに、じわじわと増加してきているイギリスからの変異株により、感染が再び拡大してきていることから、3月3日の専門家会議で、ロックダウンはイースター休暇の直前、3月28日までの延長が決まりました。しかし、それでも感染拡大が止まらないので、3月下旬の会議でさらに最短でも4月18日までの延長となりました。

このように3か月以上のロックダウンが継続する中、市民のストレスはピークに達している模様です。ロックダウン下の専門家会議で、学校の再開は常に最優先課題でしたが、この状況を鑑みて、休校が続いてきたベルリン市内の小学校は、ようやく2月下旬から段階的に学校を開くことが許可されました。といっても、優先度が最も高いのは、家庭での学習が困難である小学1-3年生で、市内の学校では2月22日以降,クラスの規模を半分とした交代制授業で再開しています。高学年も3月9日から順次同様の形態で再開が許可されました。

一方で、ギムナジウムなど上級学校に関しては、各校の判断に委ねられてきました。息子の通うギムナジウムでは、アビトゥア*2受験生は1月から対面授業を再開していたものの、それ以外の学年は12月中旬以降、ずっと在宅学習が続いていました。それがようやく緩和され、5-6年生は3月9日から、また日本の高校1年生にあたる10年生も3月17日から対面授業と在宅学習を組み合わせた「ハイブリッド学習」が開始されました。

しかし、日本の中学生にあたる7-9年生は少なくともイースター休暇に入るまでは、引き続き在宅学習が続けられるとのこと。従って、7年生である息子は12月中旬から一度も登校しての対面授業を受けておらず、4月中旬のイースター休暇明けまで自宅で過ごすことが決定しました。すっかり自宅での学習に慣れた息子は、この決定に喜んでいましたが、時折、退屈するようで、今は「登校と自宅学習の半々がいいな」と言っています。

実は、2月中旬に一度だけ、前期(2020年8月から2021年1月分)の成績表をもらうため、息子は久しぶりに登校しました。クラスを3つに分けて、各グループ20分間のみの滞在、という徹底した感染対策だったようですが、それでも、クラスメートと久しぶりに対面して、楽しい時を過ごしたと言っていました。

このように長期間在宅学習が続いている状況ですが、最近は、それに対し問題点も多く指摘されるようになりました。在宅学習ではウイルス感染の可能性が低くなり安心ではありますが、毎日コンピューター画面とにらめっこしている息子を見ていると、それはそれで体力や視力の低下、人とのコミュニケーション不足など、親として色々心配になります。本稿では、長期間続いている在宅学習の問題点について記載します。

在宅学習の形態

ユネスコの集計によると、昨年来、新型コロナウイルス感染症の影響で、世界中の学校が休校となっていますが、その期間は過去約1年間で平均約5.5カ月に及ぶそうです。これは、学校年度の約3分の2に当たるとのことですから、その期間の長さが伺い知れます。これにより8億人超もの子どもたちが学習の機会を失ったとのこと。欧州での休校期間の平均は2.5か月とされていますが、ベルリンでは子どもたちに継続して学習の機会を提供するべく、去年の3月のロックダウン以降、学校閉鎖中は在宅学習が取り入れられています。

一口に在宅学習といっても、その形態は学校によって様々なようです。ベルリン市が提供している"Lernraum"というインターネット上の学習プラットフォームや、ドイツ連邦教育研究省の助成により開発された"HPI Schul-Cloud"などのクラウドなどを使用して、課題をダウンロードし、取り組んだらアップロードし、また双方向のリアルタイムでのオンライン授業を提供する、デジタル方式を採用している学校が多い模様です。特に、リアルタイムでのオンライン授業は、実際に会うことができないだけで、その他は対面授業と同じように教師やクラスメートと画面を通じて直接コミュニケーションをとることができるので、息子もわかりやすい、と気に入っています。

このように、ドイツでは国や州がオンライン授業のサポートを行っていますが、一方で、中には課題をクラウドにアップロードして生徒に配布、数日後に解答をアップロードするだけの先生もいるようで、教育内容や授業提供の方法は各学校や教師にゆだねられているようです。

また、小学校レベルですと、教師がコンピューターに詳しくない場合などは、全て印刷したプリントでやり取りするアナログ方式をとっているところもあるようですが、その場合、プリントの受け渡しのため、保護者が定期的に学校に出向く必要が生じることから、負担となっているようです。このように在宅学習では少なからず問題も生じているようですが、実際はどのような状況なのでしょうか。

在宅学習の問題点

1)保護者の負担
これはデジタル、アナログ方式にかかわらず、多かれ少なかれ生じていることですが、コロナ下では子どもだけでなく、親たちも在宅勤務を推奨されています。出勤すれば仕事に集中できる環境が待っているかもしれませんが、生活の空間でもある自宅での勤務だとそういうわけにはいきません。「オンライン会議と子どもの勉強の手伝いを両立するため、一日中カオス状態が続いている」、というのが現実のようです。

また、登校していれば子どもは学校で昼ご飯を食べてきますが、一日中家にいるとなると、1日3食の食事を用意するなど家事量が増加していることも、保護者にとって負担になっている模様です。特に、自分で学習する習慣がついていない小学生には、保護者がつきっきりで学習補助をしなければならないなど、その負担はさらに大きいと察します。

そして、この問題は保護者だけではなく、教師という立場でも同じです。息子の通うギムナジウムで行われたオンライン保護者会で明らかになったのですが、学校としては課題をアップロードするだけではなく、全教科で時間割に沿ってリアルタイムのオンライン授業を行っていきたいという意向があるようです。ところが、教師の多くは小さな子どもを抱えており、自宅から毎日、全ての授業をリアルタイムで提供することは難しい、というのです。確かに、教師も人の親でありますから、生徒の保護者たちと共通の悩みを抱えている、ということでしょう。この問題は、「毎日は無理でも、定期的になるべく頻繁にリアルタイムオンライン授業を提供するべく努める」ということでいったんの解決を見ました。

2)教師の負担大
対面授業ではすぐにできることも、在宅授業だと長時間かかることがあります。例えば、期末テストの結果を知らせるのに、学校であれば、一斉にテストを返して終わりですが、それがかなわない状態では、23人へ個別に連絡をしなければなりません。また、何らかの理由で、オンライン授業に不具合が生じた場合、学校であればIT担当の人が修復してくれるかもしれませんが、自宅で回線や機器にまつわる問題を解決するのに思った以上に時間がかかることも多いでしょう。

3)地域格差の露呈
ある地域のギムナジウムでは、時間割に沿って、リアルタイムのオンライン授業と課題をミックスした授業が行われており、このような学校に通う子どもたちは、毎日9-15時までかなりの量の課題をこなすため、コンピューターの前で奮闘しているようです。息子の学校も同様で、8時からのオンライン授業に始まり、午後2時ごろまで、ランチタイム以外は、彼も自分の部屋で黙々と勉強していることが多いです。

一方で、移民や低所得者など社会的弱者が多く住む地域の教師は「私のクラスには28人の生徒が在籍していますが、オンライン授業に出席してくるのは10名だけです。勉強面で後れを取っており、授業についていくのが困難な生徒たちや、保護者も含めてオンライン学習に対する認識などが後れている生徒たちは出席してきません。保護者に連絡し、子どもたちに学校から貸与されるタブレットを使わせるように伝えましたが、今はそのことを後悔しています。というのも、そのような生徒たちはタブレットを手にすると、チャット機能などのみを使って、全く勉強しないからです」との報告をしています。

この現象はベルリンに限ったことではなく、休校が続いている世界中の学校で起こっているようです。つまり、オンライン授業に対応できるようなパソコンやタブレットを子どもが使える環境にある家庭層と、そのような環境を整えることができない低所得層の二極化が進んでおり、貧富の格差が教育の機会すなわち学力の格差につながっていることが明らかになっています。上述の学校のようにたとえタブレットを貸与することができたとしても、教師や他の生徒が同席しているわけではなく、また保護者も教育に積極的に関わる状態ではない自宅でオンライン授業を受けているとしたら、勉強の後れを取り戻すのは困難な作業であることが想像できます。

4)子どもの心身への影響
ハンブルグ大学の研究により、スマートフォンやパソコンを長時間使用すると、子どもたちの集中力が低下することが指摘されています。また、現在、子どもたちのゲームをする時間はコロナ前より75%増加、ソーシャルメディアを使用する時間は66.38%増加している、との結果も出ています。上述のように、学校の勉強のため、課題をこなしたり、オンライン授業に出席するなど一日中コンピューターの画面を眺めている上に、息抜きのためゲームやソーシャルメディアの使用で画面を見ているとなると、一日あたりのデジタルメディア使用時間が非常に長くなり、これによる運動不足や視力の低下など、ネガティブな影響があることは容易に想像できます。

ロックダウン下でサッカーなどスポーツの練習も禁止されているので、息子も運動不足に陥っていることから、我が家では夫のジョギングに半ば無理やりつきあわせていますが、それでも、顔や体つきが以前よりふっくらしてきたことは否めません。

5)テクノロジーの問題
これは息子の学校でも起こることですが、月曜日の朝は、教師も生徒も一斉にサーバーにアクセスするので、それがサーバーに過大な負荷をかけ、ダウンすることがよくあります。その後、サーバーが復旧せず、一時限目のリアルタイムのオンライン授業が実施不可能になったこともありました。

また、市内のギムナジウムの9年生担当のある教師は、「学校からオンライン授業を行う場合、学校の無線LANが遅いので、40分の授業中、出席確認に10分かかることもある」と報告しています。さらに「ログインするだけでも難儀で、もしできない場合は、多くの生徒から個々にメッセージが送られてくるので、それに対応するだけでも非常に時間がかかる。また、音声が聞こえなかったり、画面がフリーズしたりしてしまうことも多い」とのこと。

生徒側でも似たようなことが起こっています。1台のノートパソコンを家族4人でシェアしていたり、1人1台デジタル機器を持っていたとしても、家の中で家族が一斉にインターネット回線を使用するので、接続が非常に遅くなってしまうなど、オンライン授業ならではの問題もあります。

我が家でも実際に、教師である私は自宅からオンライン授業を行い、息子はギムナジウムのオンライン授業に同じ時間帯に参加したことがありましたが、負荷が大きかったのか、インターネットの接続が悪くなってしまいました。そこで、ギムナジウムの先生に相談したところ、「秘書に連絡すれば、オンライン授業の時だけ登校して学校のパソコンを使うこともできますよ」との回答をいただきました。しかし、息子は「学校のパソコンはいまだにWindows7を使っていて、インターネットも家以上に遅いから、このまま家で頑張る」と言い、結局、在宅でオンライン授業を受け続けることになりました。その後も、なんとか親子で在宅勤務とオンライン学習を続けていますが、2人以上の子どもがいたり、夫婦そろって在宅勤務だと、さらにサーバーへの接続負荷が大きくなり、フラストレーションも比例して大きくなると思いました。

ベルリン市の対策

市はこの現状を鑑みて、対面授業の重要性を認識し、一日も早く、皆が対面授業に参加できるよう準備を行っているそうです。例えば、教師・保育士用感染対策として、抗原迅速検査1千万回分、FFP2マスク70万枚、空気清浄機、体温計支給のため、総額7千万ユーロ(約91億円)の特別コロナ補助金を、学校および保育園に支給しました。

15分ほどで結果が得られる抗原迅速検査に関しては、感染予防のため重要視されており、3月8日からベルリン市内でも、市民に無料テストが提供されています。このテストは週1回までであれば、何度でも無料で受けることができるので、いかにベルリン市がテストを用いた感染予防に注力しているかがわかります。教師・保育士用としては、さらにそれらとは別に、1週間に150万人分を確保、週1回の検査実施が勧められています。

市内で保育園を経営している義姉にも、市より連絡があったため、彼女は既に抗原検査方法の講習を受け、毎週水曜日に彼女の園で働く保育士全員に検査を行うことになったそうです。ちなみに、この検査で陽性となった場合は、より確実なPCR検査を受けなければなりません。

また、ワクチンの接種に関しては、ドイツ国内では12月下旬から始まっており、3月上旬の時点で、70歳以上の高齢者など二次優先グループが接種中です。教師・保育士は三次優先グループに入っていましたが、上述のように対面授業の再開が急がれることから、二次優先グループに引き上げられました。実際、教師である私や保育園経営の義姉にも接種手続きのお知らせが来たので、今後は教師・保育士の接種もすすむことが予想されます。

これ以外には、空気清浄機の設置をすすめることが挙げられています。現在は、市内の学校に空気清浄機が1,200台設置されているようですが、4月上旬のイースターまでに2,800台追加、さらに夏までに3,500台を追加で設置予定とのこと。ロックダウン中ではなかった昨年秋、子どもたちは窓を開け放った教室で、防寒対策のジャンパーを羽織りながら寒そうに授業に臨んでいましたが、空気清浄機の設置数増加はこのような状況を改善するものと思われます。

子どもたちへの市からの支援としては、休暇中に開催している語学や算数の補習授業(Ferienschule)や、コロナ下で始まった学習支援プログラムおよび特別支援が必要な子どもたちが受けるプログラム支援がありますが、これらも継続して行うそうです。

さらに、再び学校が休校になり、オンライン授業が再開された場合に備えて、上記とは別予算でタブレットを12,000台追加支給することを市は決めました。ベルリン市はドイツ政府からもタブレット5万台を受給しているので、計62,000台のタブレットが追加で市内の学校に支給されることになります。

最後に

新型コロナウイルスへの感染が爆発的に拡大していると、ロックダウンが必要となりますが、今回のように長期的に学校や保育園が閉鎖されたままであると、上述のように、子どもたちの心身には少なからず悪い影響が出てくると思います。また、保護者や教師などの大人、すなわち社会全体の負担を減らすためにも、ある程度感染状況が落ち着いてきたら、段階的、部分的でもよいので学校を再開する方が良いのかもしれないと、3か月以上自宅学習を続けている息子を見て思います。成績表をもらいに20分だけ登校した日に、楽しそうに学校生活の話をしてくれた彼を見て、家の外に出て、同年代の子どもたちと関わることの重要性を改めて実感した次第です。また、地域によっては、学校・保育園の閉鎖により家庭内暴力も増加していると聞きます。これらの問題を解決する意味でも、一日も早く学校が再開する日を望んでいます。



  • *1:3月下旬時点では、「友人、親戚及び知り合いとの私的な集まりは、自らの世帯及びもう一世帯に属する者による合計で最大5人までに制限される(14歳以下の子どもはこの制限人数には含まれない)」とされています。
  • *2:アビトゥアとはいわゆる「大学進学のための資格試験」で、主にギムナジウムでは12年生で受験します。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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