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【タイの子育て便り】第3回 新型コロナウイルスによるロックダウン下のオンライン学習について

前回お伝えしたように、3月18日より教育機関は閉鎖となり、小学5年生である娘の通うインターナショナルスクールは、翌日の3月19日からオンライン授業に切り替わりました。結局、このオンライン授業は6月の学期末まで約3か月間続きました。今回はその様子をお伝えしたいと思います。

学校閉鎖の翌日からオンライン学習開始

娘の通うインターナショナルスクールでは、学校閉鎖が通達された翌日の朝からオンライン学習が始まりました。わずか1日でオンラインに移行ができた背景には、普段の教育現場にICTが根付いていたことが大きいでしょう。そもそも生徒たちには1人1台タブレット端末が支給されており、日々の授業の解説や問題演習、文章やアート作品の制作など、ありとあらゆる教育活動をタブレットで行い、自身の成果物を提出、seesawというアプリを通じて教師、クラスメイト、保護者に共有しています。また保護者と学校間の普段の連絡も、基本的にはメールあるいはポータルサイトを通して行われ、子どもの成果物や成績表の確認、面談の予約、ドキュメントへの署名、ランチのオーダーなどすべてオンラインで行われます。ハード面のみならず、教師、生徒、保護者の3者ともにICTを通じての教育活動や連絡の経験値があるといったソフト面でも、恵まれた状況があったと言えるでしょう。

ほぼすべての教育活動をオンラインで実施

学校のカリキュラムはIB(インターナショナル・バカロレア)に則っており、Transdisciplinary Learning(教科を超えた学び、クロスカリキュラム)の考えに基づいた探求ユニットが中心にあります。生徒自身で設定したテーマを探求し、自分の意見を相手に伝わるように表現することに重きが置かれています。通常から、集団一斉ではなく各自が進めるような学習内容が多かったことも影響するのかもしれませんが、娘の学校では私の知る限り、オンライン学習に移行したからといって中止になった活動はないのではないかと思います。それぞれの活動について、オンラインでどのように行われていたかを簡単に紹介します。

◎授業
23人のクラスを半数ずつ2グループに、授業時間も前半と後半に分けます。そして、授業時間の前半にZoomによる講義を行ったグループは後半に自習を、前半に自習を行ったグループは後半にZoomによる講義を行います。生徒たちは講義時間が半分になり、教員は同じ講義を2度行うことになります。Zoomのルールは、基本はマイクをミュート(音声停止)にし、生徒は自身が発言したいときは挙手、あてられるまで待つこと。音声を切るのは家庭での雑音が拾われるの防ぐため、発言を教員がコントロールするのは同時に発言し始めると収集がつかなくなるためです。体育や音楽などの実技科目は、動画やメールで与えられた課題を各自が家庭で行い、その姿を撮影した動画を提出します。

◎テスト
オンライン学習の期間中、算数と英語のテストが、先生と生徒マンツーマンでZoomを通して実施されました。先生が口頭で読み上げた問題を、生徒は口頭で回答、あるいは紙に書いて提出することで回答します。先生からのフィードバックは点数ではなく、算数に関しては回答状況でレベル(クラスの指定)が、英語に関しては注意事項を書いたメールが届きました。

◎卒業制作発表会
卒業制作発表会は、6年生が卒業の記念に、探求活動の集大成を行う会です。方法は自由で、ポスター、作文、音楽、踊りなどありとあらゆる表現方法を駆使して行います。例年なら学校に保護者が招待され発表会が催されるところを、コロナ対応で集合型の会の開催は控えることになったため、学校がウェブ上に特設サイトを制作してくれました。生徒は、そのサイト内で自身の成果をムービーにまとめ、共有しました。ライブで見られなかったことは残念でしたが、サイト制作にしたことで、記録が永久的に残ること、そして、より多くの学校関係者の方に見てもらえることなどのメリットに目を向け、先生や子どもたちは前向きに捉えていました。

◎卒業式
6月の学期末には、卒業生はその保護者も参列しての卒業式が行われます。しかし今年の卒業式はFacebookによるリアルタイム配信でした。式の内容は、校長先生からのお言葉、卒業生からの答辞など従来の式典と同じものもあれば、卒業生全員が同じポージングで自宅にて撮影した写真やこれまでの思い出の写真を編集したムービー、楽器や歌など一芸に秀でた子による自宅からのパフォーマンス披露、最後は各クラスがZoomで合唱した録音を繋げた歌声ムービーが上映されるなど、オンラインならではの技術を活かしたプログラムもありました。
保護者も自宅からの参加となりました。またFacebookにしたことにより参列者に制限がないため、兄弟や海外にいる祖父母も参加できました。卒業証書を直接渡すなどのやりとりはなく、友人たちと会えなかったことは残念でしたが、遠くにいる家族に卒業式を見届けてもらえたことは思わぬ幸運でしたし、卒業式が取りやめとなった学校も多い中でありがたいことだと思いました。

◎異学年交流会
娘の学校では、普段から生徒に学年縦割りでのクラスが指定されており、月に数回、縦割りのクラス対抗でイベントが行われます。この活動はレクリエーションの要素が強く、例えばタイ伝統の水かけ祭りの時期には水鉄砲を使って水かけごっこをしたり、普段なら体操やドッジボール大会が実施されます。
オンラインによる交流会は、指定されたレクリエーション(風船を何回落とさずに膝蹴りできるかなど)を自宅で行った結果をチャットボックスに書き込み、クラスでポイントを計算し競うといった具合でした。最初はどのように行われるか見当もつかなかったため、説明を受けても理解できず戸惑いが大きかったのですが、それよりもクラスメイト以外の異学年の友人の存在を久しぶりに感じられてとても楽しかったそうです。また、保護者にとっては、どんな活動も工夫次第でオンライン学習で実現できるという学校側の気概を感じることができる機会となりました。

◎バースデーパーティー
娘の学校では、クラスの誰かが誕生日の日は、ホームルームの時間を少し使ってお菓子を食べてバースデーソングを歌うことが恒例になっています。オンライン学習になってからは、放課後にZoomでクラスメイトが集まって誕生日会が行われていました。会では、各自お菓子を食べながら喋った後、画面をシェアして映画を鑑賞したり、ダンスや歌を一緒に楽しんでいました。学校での会と比べて、時間の制約もなく、自宅であることも手伝って、長時間にわたって盛り上がっていました。

◎保護者面談
先生、生徒、保護者との3者面談もZoomで実施されました。一番のメリットは、父親も参加できたことです。移動の負担がなく、双方ともリラックスした雰囲気で行うことができ、大変有意義でした。

以上、それぞれの活動が、それぞれの性質に合わせたプラットフォームで行われました。中には「オンラインでうまくできるの?」と思うものもあり、全てが作り込まれた完成度の高いコンテンツとは言い難いのも現実です。しかし、どの試みに対しても、学校側がとにかく何でもやってみて自宅での学習を楽しいものにしようとする"アイディア"や"チャレンジ精神"が伝わってきて、ロックダウン下のステイホーム中の私たちにはありがたく感じられました。外に出られない毎日の中、タブレットを通じてとはいえ、先生や友達の顔が見られる、話ができる環境があったことは、子どもの精神の安定に大きく貢献していたと思います。

report_09_376_01.jpg ひたすらタブレットに向かいます。

保護者からみたオンライン学習の成果と課題

3か月にわたる娘のオンライン学習をそばで見ていて、一保護者として感じたオンライン学習ならではの成果と課題を簡単にまとめたいと思います。

【成果】

(1)伝える力の向上
Zoomによる授業では、講義時間が半分になる上に1人ずつ挙手であてられての発言になるため、生徒に与えられる発言時間はわずかです。しかも、場を共にしていないため、発言までの経緯が見えづらく、言葉を用いないコミュニケーションも通用しません。コミュニケーションに制限のある中でも、自分の考えや質問を、先生やクラスメイトに伝える力が必要になってくると思います。

(2)聞く力の向上
(1)で述べた制限の中から出てきたクラスメイトの発言を、理解せねばなりません。また先生の解説も、同じ教室にいれば簡単に問い返すこともできるのでしょうが、オンライン学習では後からのメール対応になってしまいます(授業中のチャットは集中を妨げるとの理由で禁止)。そのためか、娘を見ていると、以前よりは先生やクラスメイトの発言を漏らさぬよう真剣に聞く態度が身についてきたように感じます。また、理解が不足した場合に、発言者の意図を汲み取って文脈を補う努力が必要とされることは、よい訓練になっているように感じました。

(3)得意教科のレベル向上
オンライン学習では、授業時間内に課題に取り組む場合は、各自のレベルに応じたものを与えられ、自身の裁量で進めることができました。通常の教室での学習時には、全員ができるまで待つ、クラスメイトが解いたものを見る、先生の解説を一緒に聞くといった協調的学習にあてていた時間が、個人での課題への取り組みのみにあてられた結果、娘は、得意な分野については進度が速くなる傾向にあったようです。

【課題(保護者としての不安)】

(1)書く機会の減少
オンライン学習に移行する以前から、タブレットでの学習の課題として、書くことの少なさを保護者として感じていました。移行してからは、それまで紙だった数少ない提出物までもがオンラインになり、学習の中で書くことがほとんどなくなってしまいました。無論、この状況に不安を感じていたのはあくまでも保護者だけかもしれません。学校は、例えば計算なら筆算を紙に書くことは禁止、ストラテジーを使って頭の中で計算することを教えています。(例:96+73の場合、そのまま筆算するのではなく、100+73-4と頭の中で考えて解く。)

次項からは、前述した成果の裏返しでもあります。

(2)参加に消極的な生徒への配慮
Zoomを使っての限られた時間では、どうしても積極的で発言力のある生徒が授業の中心になってきます。発言することが苦手な生徒のフォローまで行き届かないのではないかと、心配になることがありました。

(3)プロセスよりパフォーマンス評価
日々、学習の成果物をアプリ上で共有する生徒たちは、パワーポイントやムービー、プレゼンテーションなどのスキルが高く、表現力に長けています。それもまた一つの重要なスキルではありますが、学校に行かず自宅でオンライン学習する中では、先生に努力の過程が見えづらくなるのではとの懸念をもちました。

(4)苦手教科の後回し
個人での学習において、苦手教科の課題は進みづらく後回しになる傾向があります。

そして、最後は身体的な影響です。

(5)体力、視力の低下
これはオンライン学習だけでなく、ロックダウンの影響でもありますが、長らく日光を浴びることなく自宅でタブレットを使っての学習の毎日を過ごした結果、娘は視力が落ち、以前の快活さは失われたように感じました。また娘のお友達の間では、自宅にこもる生活が続いて太ってしまい、学校の再開時に、以前の制服が入らなかったという話も珍しくなく、深刻な運動不足が心配されます。

以上、ここまで保護者の観点で、生徒側の成果と課題を述べてきました。加えて特筆しておきたい課題は、先生の負担増加についてです。短期間でこれまでの教材をオンライン学習用に焼き直す作業、保護者への連絡、教室なら一度で済むことを何度にも分けて説明するなど、一保護者である私が思いつくだけでも相当な業務の増加が挙げられます。そのような中でも、毎日の子どもたちの学びを守り、明るい笑顔で画面越しに話しかけ続けてくださった先生方には、感謝しかありません。

まとめ

未曽有のコロナ禍で学びの場を奪われるケースも多い中、娘はオンライン学習の機会をいただくことができ、学力の面でも、先生やクラスメイトとの繋がりという点でも、とてもありがたかったと思います。しかしオンライン学習は、やはり実際の学校の現場に敵うものではありません。この3か月を通して感じたのは、当たり前のことでしょうが、学校は勉強のためだけにあるのではないということです。学力の維持はオンライン学習で、あるいは独学でも努力次第でできるでしょう。しかし、学校生活を通して友人と協働し学び合うことが、どれほど重要な活動であったかと思い知りました。オンライン学習は、小学5年生の娘にとっては、学校の代替にはならず、あくまで補完的な存在でした。

1日も早くこのパンデミックが終息し、世界中の子どもたちが安心して学校に通える日が来ることを願ってやみません。

筆者プロフィール
松本 留奈(まつもと・るな)

京都大学大学院教育学研究科修士課程修了 修士(教育学)。民間シンクタンクを経た後、ベネッセ教育総合研究所にて、幼児から高等教育分野まで幅広い分野における各種調査研究を行う。2018年、夫の転勤に伴いタイ・バンコクへ渡航。現在に至る。2児の母。
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