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コロナ禍のアメリカの教育~個人のニーズへの対応と教育格差

山本 洋子(ブラウン大学教育学部特任助教授)

2021年1月 8日掲載

2020年世界各国で新型コロナウイルス感染症拡大防止による学校閉鎖が報じられる中、アメリカでは3月半ばから4月にかけて、次々と学校が閉鎖、またはオンライン授業に切り替わりました。9月からは新学年を迎えましたが、全米の学校はコロナ対策で対面授業がままならない中、子どもたちの学習をどのように支え、学力を保障するか、深刻な課題に直面しています。今回は、コロナ禍の中で浮き彫りになるアメリカの学校事情・教育問題を、我が家の子どもたちが通うロードアイランド州の学校生活の経験も交えながらお伝えしたいと思います。今回は、特に個人のニーズへの対応と教育格差という、主に二つのテーマに焦点を当てています。アメリカの公立学校といっても、州や自治区によって方針もカリキュラムもかなり異なります。アメリカの学校は、日本のように文部科学省といった国の機関ではなく、州や自治区が管轄となっているからです。ここで言及している経験は、ニューヨークとボストンの中間あたりに位置する、ロードアイランド州という東海岸の小さな州の一学校区での教育事情を反映しています。

学校閉鎖からオンライン授業へ

子どもたちが通う公立校(長男は高校、次男は小学校)では、コロナ感染率の急増に対応して、2020年の3月後半、1週間学校が閉鎖されました。その後、オンライン授業に移行し、6月の学年末まではオンライン授業が続きました。教員への1週間の集中研修後、授業がすべてオンラインで再開できたのは、かなりの驚きでした。もちろん、最初の数週間は順調とはいえませんでしたが、オンライン授業に切り替えることができたのは、それまでに授業でパソコンを活用していたことなど、ある程度の土壌があったことが大きいでしょう。また一学年の生徒数が約250人という小さな学校区というのも、移行がしやすい条件だったと思います。長男は4月の時点では高校1年生*1でしたが、中学に入った段階で学校から1人1台、ノートパソコン(クロームブック)がレンタルで支給されていました。

アメリカでは、小学校でも多くの学校が教科書を使いません。教材や資料は、先生方が選んだり自分で作成しています。同学年を担当する先生方で相談し、同じような教材を使う場合もありますが、個人が決める場合が多いので、同じ学校にいても、同じ教材で学ぶわけではありません。子どもたちの学区では、先生方がオンライン上でホームページのようなプラットフォームを作っています。長男は支給されたパソコンを使って、そこから資料や教材を読んだり、学校の課題をオンライン上で提出していました。そのため、先生方も生徒たちも、かなりパソコンの使い方やオンラインでの学習に慣れていました。次男は4月の時点で小学4年生でしたが、学校では以前から図書館での調べ物などパソコンを使った授業が頻繁にあったようです。オンライン授業に移行したときに、学校からレンタルでノートパソコンが支給されました。また、インターネット回線が整備されていない家庭に配慮して、無線インターネットも地域全般に無料で提供されました。特に最初は、ビデオ会議システム(Zoom)がつながりにくいなどトラブルがたくさんありましたが、それでも保護者や生徒の反応をみながら学校も変更を重ね、6月までオンライン学習を続けることができました。

コロナ禍の新学年

2か月の夏休みの後、8月末に新学年がはじまる予定でしたが、コロナ対応のための教員研修や教室の準備(机の配置換えなど)もあり、今年は9月半ばから新学年が始まりました。校舎消毒、マスク着用、ソーシャル・ディスタンス、換気、手洗い徹底を条件に、次男が通う小学校は、毎日登校できることになりました。小学生は自宅学習が大変ということで、毎日登校させることに踏み切ったようです。他方、長男の高校は、週に2日の登校となりました。高校は一クラスが小学校よりも大人数なため、教室の広さが十分でないと判断されたようです。州にもよりますが、アメリカでは16歳または18歳までは義務教育です。そのため、多くの生徒にとって高校は義務教育扱いになります。公立高校は入学試験がなく地元の高校に通う場合が多いのですが、それでも多くの学校では、学内で習熟度別にクラスが分かれています。長男の学校では、英語・数学・理科・社会・体育が必修です。それ以外は外国語(スペイン語・フランス語・ラテン語・中国語)、音楽、美術、コンピューター・ビジネス、教養科目(心理学・社会学など)など、幅広い選択科目から興味のある科目を選ぶことができます。実際には、必修科目があるため、毎年2科目くらいしか選択科目は取れない状況です。個人によって受ける授業もレベルも異なるので、生徒たちは大学のように、授業ごとに先生がいる教室へ移動するのです。授業ごとに全生徒が校内を移動するため、安全な方法をということで、今年度は全校で約300人いる生徒たちを二つのグループに分けることになりました。第1グループは、火曜・水曜登校、第2グループは木曜・金曜登校して対面授業を受けるという形になりました。月曜日は、2つのグループが交代で登校します。登校日でないグループの生徒たちは、自宅からZoomで授業を受けたり、ディスカッションに参加しています。9月からは、こうしたハイブリッド形式の授業が続いています。

生徒をグループに分けて交互に登校日を決めるというやり方は、他の地域でも行っているようです。他のの学区では、さらに安全性を確保するため、登校日を2週間単位で交代するところもあるようです。こうすれば、どちらかのグループに感染者が出た場合、そのグループの学生は全員2週間自宅から授業を受けるため、感染が広がりにくいのではないかと考えたようです。

チョイスと個人のニーズへの対応

こうした形で数か月ほど授業が行われていますが、あらゆる場面で個人のニーズに対応するための選択の余地(チョイス)が与えられています。まず、子どもが登校するかしないかは、各家庭のチョイスです。子どもが学校に通うことに抵抗のある家庭、年配の方がいる、または喘息など持病のある生徒に配慮した形です。小学5年生になった次男のクラスでは22人中、半数近くの生徒が登校しない選択をし、Zoomで配信される授業を自宅から受けています。遠隔学習を選んだ家庭に理由をきいてみると、自由時間を活用してやりたいことをさせたい、本人の希望によるなど様々でしたが、とにかく感染リスクを避けたいという家庭が多いようでした。選んだ後も状況や気が変わった場合には選択を変更できるというところが、チョイスと柔軟性を重視するアメリカらしいところでしょう。

普段からアメリカの学校には多くのチョイスが用意されています。ほとんどの公立校では制服がなく、服装にも制限はほぼありません。通学は、スクールバス、自転車、徒歩、車での送り迎えなどから選ぶ形になります。次男の小学校では、クラブ活動や課外活動に参加するかどうかも、本人の希望と選択によります。昼食も持参するか、学校の給食を注文するか選びます(経済的に大変な家庭には給食が無料で提供されます)。給食の場合は、2つのメニューから選べるようになっています。スナックの時間が毎日2回ありますが、何を持ってくるかは自由で、果物、クラッカー、またはクッキーを持ってくる子どもなど様々です。多様な家庭の価値観や個人の好みやニーズに対応した形になっています。

実は、チョイスが人の行動にどういう影響を与えるかについて、文化の違いを詳しく調べたリサーチがあります*2。シーナ・アイエンガー(Iyengar)という学者が行った数々の実験と調査です。例えば、ある実験調査では、小学校低学年の生徒に言葉遊びのテストを行っています。行ったテストは同じような内容ですが、チョイスの与え方を子どもによって無作為に変えています。子ども自身の好きな言葉のカテゴリー(鳥など)と使うペンを選ばせる、実験者が選んだカテゴリーとペンを与える、「母親が選んだよ」と言ってカテゴリーとペンを与えるという3パターンです。結果を比べると、白人系アメリカ人の子どもたちは、チョイスを与えられた子どもたちが一番よい結果を示していました。実験者や母親が選んだペンやカテゴリーを使った子どもたちの点数は振るわず、また、そのまま好んで言葉遊びを続ける時間も短いという結果が出ました。他人、特に親に強いられたと感じることが、心理面や意欲にマイナスな影響を与えたようです。ところが、同じ実験をアメリカに住むアジア系移民(日系と中国系)の子どもに行うと、まったく違う結果が出たのです。母親が選んだペンを使った子どもたちの点数が一番よく、続けた時間も長いという結果がでたのです。アイエンガーは、アジア文化に触れて育つアジア系移民の子どもたちは、母親が選ぶという行為を、白人の子どものように制約とは受け取らないのだろうと考えています。

選択があるということが学習成果や意欲につながるなら、アメリカでチョイスや個人のニーズにあった教育が重視されるのも納得でしょう。私たちが以前行ったリサーチ*3でも、そうした結果が出ていました。このリサーチでは、白人系アメリカ人と中国系移民の親に「質の高い幼稚園」はどのような園かたずねました。こたえてくれた様々な内容をコード化して分析すると、両グループとも「先生の質」を一番重要視していました。ただし、中国系移民の親は白人系アメリカ人の親よりも、先生の経験、資格、人間性などをより重視し、よい先生像について詳しく述べていました。対して、白人系アメリカ人は「子ども自身の選択による学び」「個人ニーズへの対応」「家庭への受容性(親の意見に耳を傾ける、ボランティアとして招くなど)」といった項目を、中国系移民の親よりも不可欠な要素としてあげていました。中国系移民の親たちは、幼稚園内の大きな判断は先生方にある程度お任せするという考えであるのに対し、白人系アメリカ人の親たちは子どもにチョイスを与え、家庭と個人のニーズに柔軟に対応する幼稚園を「質が高い」あるいは「理想」と考えていることがわかりました。このリサーチでは幼稚園についてたずねましたが、おそらく小学校についてたずねても同じような文化差が表れるのではないかと思います。

個人のニーズに合った教育を提供するというのは、包摂的教育(インクルーシブ教育)とも重なります。アメリカでは、学習障害や発達障害など特別なニーズがあると診断された生徒に対しては、保護者、担任教師、特別支援教師、専門家みなで相談し、個人に合った教育を提供することが法律で義務付けられています。そして、こうしたサービスを要求するのは、親と子どもの権利であることも強調されています。コロナ禍の中、子どもたちが通う学校でも、特別なニーズがある生徒たちは、望めば高校でも毎日登校できることになっています。特別なニーズの生徒と家庭は、特に学校や専門家のサポートを必要としていると認識されているからです。

教育機会の格差

個人のニーズにより異なる学習機会を提供するという教育は、「平等さ」よりも「公正さ」を重視しています。すべての子どもたちを平等に扱う教育では、さまざまな生徒の状態やニーズを不可視化してしまい、最適な教育が与えられないと考えられています。学校教育における「平等さ」と「公正さ」の違いを説明するときに、よく下の描写が用いられます。左は平等さを描き、右側は公正さを描いています。個々のニーズに合った資源を効果的に分配し提供することが公正なやり方で、みなの学習をサポートする最適な教育だと考えられているのです。

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絵:Interaction Institute for Social Change | Artist: Angus Maguire.

ただし、この公正さを追求した教育にも落とし穴があります。個人のニーズに対応する教育は、教育機会の格差を広げる可能性も備えているからです。個人ニーズの対応には支援を必要とする生徒だけでなく、ギフテッドと呼ばれる「同年齢の子どもに比べ、環境や経験では説明されないような、生まれつき高い能力や長けた才能を持つ」と判断される生徒たちも含まれています。こうした子どもたちに対しては、公立校でも小学校低学年から、算数の特別クラスなど、他の子どもとは異なる高度な内容やカリキュラムで教えるところがたくさんあります。ギフテッドの子どもたちは、普通のクラスにいると退屈し学習意欲が下がるため、能力に合った授業を与えるのが必要だと考えられているのです。州によっては、学年を飛び級できるのもこうした理由からです。

個人のニーズを重視したシステムですが、データをよく見ると、ギフテッド・クラスにいる生徒の家庭環境や人種的背景にかなり偏りがあるのです。白人系で経済力が高い家庭出身の子どもがかなり多く、人種的マイノリティの子どもが圧倒的に少ないという状況なのです。ギフテッド・プログラムへの子どもの推薦は、テスト等一律の結果に基づいて行われるのではなく、通常は、先生方が子どもを評価し推薦します。そのため、大多数を占める白人教師とマイノリティの生徒間には文化差などもあり、選別にバイアスがかかっている可能性が数々の研究*4で指摘されています。ギフテッドの子どもの特徴としては、幼少期からの並外れた言語能力、分析・記憶力などの認知能力に加え、計算や読み書きの能力や好奇心旺盛などが挙げられています。就学以前の子どもの学習や興味には、個人の性質に加えて家庭環境の影響が大きいという研究結果を踏まえると、ギフテッド的特徴は、家庭環境に左右されている可能性が高いと考えられるでしょう。

問題なのは、これらの教育機会の違いが後の学力格差につながってくることにあります。ギフテッド・プログラムでは学ぶ内容が進んでいるため、新たに生徒が後から入るのは難しい状態です。また、ギフテッド・プログラムでなくても、能力別に分かれたクラスでは、先生方の教育期待や教え方が異なるため、生徒の学習意欲や学力にどんどん差が出てくるという調査結果*5が出ています。学力格差は、アメリカ教育の大きな問題です。個人ニーズへの対応を通して、家庭や人種的背景が教育機会の格差拡大へとつながらないようにするにはどうすればよいのか、大きな課題です。

さて、コロナ以後、より明らかになったのがアメリカの教育格差です。我が家の子どもたちの学校では、1人1台パソコンが支給されたので、比較的順調にオンライン授業に移行できましたが、それは恵まれた状況だといえるでしょう。アメリカの公立校の財源は、国でなく、自治区になります。自治区で定められた固定資産税などの収入から学校に振り当てる予算が決められ、その地区の学校に支給されるのです。そのため、地区により、学校の予算が大きく異なります。予算が多い地区と少ない地区では、教材(国から支給される教科書はありません)・校舎・教員給与・課外活動などあらゆる「リソース」(資源)のギャップがあります。こうしたギャップが教育機会の格差を生むため、コロナ以前から教育分野では大きな問題としてとりあげられていました。

ロードアイランド州でも3月の学校閉鎖後、学校が端末を支給できなかったり家庭にインターネットが通ってない状況などから、オンライン授業ができない学校が数々ありました。課題は目に見える資源だけではありません。コロナや保護者の解雇に伴う親子のストレス、大人数家族の同居で学習場所が確保できない、あるいは高学年の子どもが下の子の面倒をみる必要があるなど、家庭でのオンライン授業は経済的に大変な家庭や生徒にとっては、あまりにハードルが高い状況なのです。個人の健康と安全性を重視しながら、どのように多様な生徒のニーズに対応し教育を保障するか、コロナ禍で「公正な」教育をどう追及するかということが各州で大きな課題になっています。


  • *1 この学校区では小学校が5年・中学校が3年・高校が4年になります
  • *2 Iyengar, Sheena. 2010. The Art of Choosing. New York & Boston, MA: Twelve.
  • *3 Yamamoto, Yoko, and Li, Jin. 2012. "What makes a high-quality preschool? Similar and different views among Chinese immigrant and European American parents." Early Childhood Research Quarterly 27: 306-315.
  • *4 代表的な研究。Ford, Dana Y., Grantham, Terek C., and Whiting, Gilman W. 2008. "Culturally and linguistically diverse students in gifted education: Recruitment and retention issues." Exceptional Children 74(3): 289-306.
  • *5 Good, Thomas L. 2014. "What do we know about how teachers influence student performance on standardized tests: And why do we know so little about other student outcomes?" Teachers College Record 116(1). Available at http://www.tcrecord.org ID Number: 17289.
筆者プロフィール
yoko-yamamoto.jpg 山本洋子
米国ブラウン大学教育学部特任助教授。専門分野は、教育・家族・子どもの発達と文脈的要因(ジェンダー・社会階層・文化など)。現在、日米の幼児と小学生の子育てや教育プロセスを調査するプロジェクトのディレクターとして調査を遂行中。

※肩書は執筆時のものです

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