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【カナダBC州の子育てレポート】第12回 新型コロナウイルス状況下のBC州公立学校の新学期

要旨:

BC州では数か月のロックダウンが終わり、経済や社会活動が新しい様式で再開されていく中、新学期が始まる9月には公立学校も再開されます(大学やカレッジはオンラインラーニングを続行中)。6月の一時的な学校再開とは異なり、今回の再開には新たな方針が打ち出されました。なかでもラーニンググループという新しい概念を中心に、どのように再開されるのか、再開を控えた保護者の疑問や不安をレポートにしてお伝えします。

keywords:
新型コロナウイルス感染症、学校再開、ラーニンググループ、ソーシャルディスタンス、オンラインラーニング

新型コロナウイルス感染症に対する治療薬もワクチンも発見されておらず、依然予断を許さない状況が続いています。そのような中の7月末、BC州教育省は9月からの新学期では、公立学校で(キンダーガーテンから12年生まで)授業を全日再開することを発表しました。

BC州は3月半ばからロックダウン措置がとられたこともあり、これまでは新型コロナウイルスの感染者数が比較的抑えられていました。州政府が発表した再開計画では、第1フェーズから第4フェーズへと進む4つのフェーズに分けられた社会経済活動再開計画があり、6月第3週目から第3フェーズに入っています注1

BC州再開計画(BC's Restart Plan)
フェーズ1 必要不可欠な外出のみ、社会的距離の確保、営業停止
フェーズ2 必要不可欠な外出のみ、社会的距離の確保、営業停止命令のあった店舗も含む営業の再開
フェーズ3 州内の安全な外出、幼稚園~高校、高等教育の対面授業再開
フェーズ4 海外渡航、コンサートや国際会議等の大規模な集まりの再開

この第3フェーズの学校活動に関連したところでは、人の集会は室内では50人までとなっていて、公園やビーチ、キャンプ場は2メートルのソーシャルディスタンスを保ったうえでの使用が認められています。レストランやカフェ店内での飲食は、1グループにつき6人までです。子どもたちの泊りがけのサマーキャンプ(こどもの夏季集団課外活動)は州内で禁止されていますが、日帰りサマーキャンプは人数を減らして開催されています。しかしながら、第3フェーズに入った同じころ、特に週末の連休明けに感染者数の増加があり、制限が再び引き締められるというような状況も続いていて、保健局からはソーシャルバブル(社会的な輪)と呼ばれる友人や家族間の行き来を極力小さなものに保つように言われています。最終目標は第4フェーズで、これはワクチンや治療薬が出てきた後、あるいは集団免疫ができた後、以前のような日常生活に戻るフェーズです。

これとは別に、公立学校にはステージ5から1へと進む5つのステージがあります。集団の上限人数が保たれた対面式授業が行われるのがステージ2で、秋の学校再開はここに位置します注2

幼稚園~高校の学習枠組み5ステージ(Five Stages Framework for K-12 Education)
ステージ5 全員がオンライン学習
ステージ4 一部例外ありのオンライン学習
ステージ3 対面授業&オンライン学習
ステージ2 全日、ラーニンググループ注3:対面授業
ステージ1 全日、通常通りの学習:対面授業

再開するにあたり、換気や手洗いなど衛生面の対策強化は言うまでもありませんが、州政府が掲げているステージ2の以下のルールが興味深く、保護者間での論争にもなっています。

  • 学校再開はキンダーガーテン・クラスからグレード12まで、週5日間の全日開校。
  • 6月のようなオンライン学習と並行したハイブリッド形式ではない。常時コンタクトをとってもよいスタッフ、教員、児童(生徒)の集まりである、ラーニンググループを60人までとする(ハイスクール以上は120人)。細かくは学校の裁量に任されている。
  • ラーニンググループは、担任の先生が受け持つ20人程度の1クラス、音楽の授業など合同で同じアクティビティを行う場合は複数のクラス、高校の場合は、選択コース等を合同で受講する複数のクラスなどから成り立つ。

小学校、中学校段階では、従来の対面式授業ではないものの、時間割や学校のクラス構成は最小限の違いにとどめることとし、以下のルールが提示されています。

  • 座席を離す
  • 休み時間、ランチ、授業間の子どもの移動を時間差でずらす
  • 屋外で活動する時間を増やす
  • 個人で行う作業を増やし、ソーシャルディスタンスを取りやすくする
7月末に発表されたこの計画は、一保護者としても以下の点に矛盾を感じています。

学校再開時の登校が強制的である

3月半ばにパンデミック宣言が出され、春休みの途中から州内の公立学校は休校となりました。4月半ばから公立学校ではオンライン学習が始まり、6月にBC州は3週間ほど学校を分散させて再開させました。これについては、「子どもを危険にさらした」、「試験的だった」という意見も多くあるなか、それでも再開はハイブリッド形式で、保護者にとっては、子どもに引き続きオンライン学習をさせる、または分散登校をさせるという2つの選択肢がありました。ステージ2である9月の学校再開では、夏休み前のように、公立学校が提供するオンライン学習を受けるという選択肢はありません。現在通う学校から離れ、各家庭で個別にオンライン学習のプログラムを受けさせるか、またはホームスクーリング注4を行うことはできますが、夏休み前のように公立校が提供するオンライン学習を受けるという選択肢はありません。つまり、公立学校に籍を残し、公共資金で学びを続けたい場合、在籍校でのオンライン学習はできないため、安全面に疑問を感じていても、子どもの登校は強制となります。この強制であることに対し、保護者からは公平ではないと不満の声が上がっています。基礎疾患がある場合や、高齢者と同居している家庭、子どもに特別なニーズがある場合など、個人の努力とは関係のない理由により感染リスクが高まることから、やむを得ず子どもを登校させない判断をとらざるを得ない家庭がでてくるからです。これまで地域の人々を幅広くインクルーシブに取り込んできた学校コミュニティが、分断されることにもなりかねません。

社会的な輪を極力小さく抑えるように言われている中、常時接触可能な人数が一気に膨れ上がる

クラスター感染が各地で発生し、BC州の感染者数は第3フェーズ後確実に増加しています。それを受けて保健局からは、たとえば一定の友人家族や両親といったソーシャルバブル(Social Bubble)と呼ばれる「社会的な輪」をなるべく小さく保つように言われてきました。学校再開後の9月からは、その輪の中の人数が一気に膨れ上がることになります。これは、人との交わりを新型コロナウイルス発生以前の60%以下に保つことで感染者数曲線がフラットに保てるのでそうするようにという保健局からの要請と矛盾していています注5

両親がリモートではなく通勤して働いている場合、学校や病院など公の仕事関係者、下の子と上の子が別々の学校へ通い、学童のようなアフタースクールにも入っている家庭の場合は、集団の数は、それぞれラーニンググループの人数が同様に60人とすると、常時接触する人数がこれまでの何倍にも膨れ上がることになります。そもそもフェーズ4である現時点で、室内における人数制限が50人なのに対し、学校ではなぜ60人または120人という人数が許されるのかを疑問視する声もあります。「社会的な輪」の人数が膨れ上がってしまうのは明らかで、それにより感染者数がどれほど増加するのかが気がかりです。

たとえば休んだ教員の代講をする代講教員は、担当する集団以外にも複数の学校のラーニンググループを指導するため、職場が広域にわたりリスクも大きくなります。また、ラーニンググループで感染者が出た場合、症状のない子どもなどの自宅待機に関する情報がいまだに不明瞭です。学校内で感染者が出た場合には、校内に生徒児童やスタッフ教員を一時的に移す隔離場所等を作り、個人が特定されないように学校側が配慮するともいわれています。一方で、親兄弟等家庭内で感染者が出た場合でも、生徒児童あるいは教員スタッフ本人に症状がない場合は、学校への登校や通勤が認められています。これは多くの企業や店舗で一人でも関係者に感染者が出た場合、営業を完全に停止し、その場所も一定期間閉鎖するという方針とは全く異なります。そして、多くの家庭がロックダウンによってすでに経済的に多大な被害を受けています。政府からの支援金があったとはいえ、再開していない業種もあり、再開していてもパンデミック以前の経済状態に戻れていない業種も多々あります。自宅待機の人数が増えれば、仕事に出られないため家計への影響も大きくなります。日本の集団主義の社会と異なり、個人の考えを重視するカナダの社会において、自主的な自宅待機といった周りへの配慮への理解は、どれぐらい期待できるでしょうか。学校社会で感染した場合には、自らすすんでパーティーなどに参加して感染した結果とは異なるわけで、そうした配慮への理解が難しいのではないでしょうか。

ソーシャルディスタンスをとらなくてもよいのに直接的な接触は避けなければならない難しさ

こちらカナダでは、9月になってから、公共交通機関や大きな店舗では、マスクの着用が義務となっていますが、、ソーシャルディスタンスをとることが重要視されています。これまで半年近く、とにかく自分の社会的な輪の外にいる人に対しては2メートル以上のソーシャルディスタンスをとるよう、保健省から言われ続けてきました。集団外ではソーシャルディスタンスをとるものの、「学校は特殊な集団であり、一定の人間関係の間で接触が起こるため、ラーニンググループの中ではソーシャルディスタンスをとらなくていい」という州政府のルールに対する不安があります。また、「ソーシャルディスタンスをとらなくてもよいのに直接的な接触を避ける」というのは、難しい感じがあります。特に低学年の子どもたちの場合、コミュニケーション自体が身体的な表現を使ったものであることも多いからです。また、屋外での授業を増やしたり体育館といった広い空間で授業を行うよう考慮することも言われていますが、天候に左右されやすい上に、娘の学校のように全校生徒が450人もいるとなると、体育館を使用できる頻度にも限りがあります。教室内の空間サイズは変えようがなく、たとえば1年生では23人までが一教室に入るとなると座席を離すことにも限界があり、さほどの距離を保つことができません。保護者は学校敷地内に入ることも許されず、こういった学校内の対策も実際には保護者の目に触れることはありません。

こうした状況の背景には、休校による子どもたちへのデメリットが新型コロナウイルスの脅威よりも大きく、多少の感染リスクを伴っていても学校再開のメリットの方が勝ることがあります。休校のデメリットとして大きく取り上げられているのが、子どもたちのメンタルヘルスについてです。そして、高等学校などでは学習の大きな遅れ、また休校による家庭内のストレス増加や家庭内暴力への発展なども考えられます。低所得などを理由に食事を十分に与えらえていない子どもに対し、BC州では、缶詰やシリアル、果物や野菜をリュックサックに詰めて週末に学校で手渡すプログラムが存在し、学校が休校になればこういった児童・生徒が食事にありつけないということも出てきます。注6

一方で、新型コロナウイルスについてはまだ不明な点が多くあります。これまでの傾向から・・・

  • 子どもの感染例が少ない
  • 子どもから感染する例が少ない
  • 子どもは重症化しにくい
ということが言われてはいます。

子ども間での感染がまれだという議論がありますが、たとえば、アメリカ・ジョージア州の泊りがけサマーキャンプでは250人以上が感染したという事例がありました。ソーシャルディスタンスを厳守していなかったという点が指摘されていますが、こちらのサマーキャンプを数回見かけても、ソーシャルディスタンスを守っている様子は一切見られません。カナダでは日帰りのサマーキャンプでのクラスター感染があり、日本でも部活内の大きなクラスター感染がニュースになりました。また、ここ数週間のアメリカでの子どもの感染数増加は著しく、重症化例として挙げられる川崎病のような症状は、子どもに特有だともいわれています。

BC州の6月の学校再開は、学校関連での感染が職員2人だけにとどまったことで成功したとみられています。しかしながら、実際に分散登校に戻った生徒児童数は30%近くにとどまり、分散登校であったことからソーシャルディスタンスをとる空間的余裕もありました。しかし、今度はそうはいきません。スタッフや教員の行き来が難しくなることから、特別なニーズを要する児童生徒へのサポートが手薄になることへの懸念も考えられます。屋外での活動時間を増やすことに関しては、冬になると天候に左右されることを考えると、マイナス10度や20度になる北米内陸部では物理的に不可能です。そして、6か月近く狭い人間関係(社会的な輪)の中で過ごしてきて、風邪すらひいていない子どもたちが一気に集団生活を始めたときの新型コロナウイルス以外の病気の蔓延も懸念されます。

大人もパンデミックによりメンタルヘルス問題が深刻化しており、それは、初期の絶望感からパンデミックが長期化したことによる怒りへと変化が見られるようだ、とメディアでも報じられています。学校集団の中で、「感染」という名の打撃が起きれば、それに対する怒りの爆発も起きる可能性もあります。たとえば「感染者は誰だ」という犯人捜しや、すでにアジア人の多いバンクーバーのような大きな都市では、中国が発生源と考えられている新型コロナウイルスによるパンデミックへの怒りがアジアンヘイトとなって現れています。学校コミュニティの中で、人種的背景が明白である娘に対する周囲からの目については、杞憂で終わって欲しいとは思うものの不安を憶えないとは言いきれません。前回、多様性を見据えたBC州のインクルーシブ教育を肯定的にとらえたレポートを書きましたが、状況が変わった今、コミュニティはインクルーシブであり続けることができるのかどうか、移民としてこれまで頼もしく思っていた点に大きな疑問を感じ始めています。

7月末に9月8日の学校再開を発表した教育省は、わずか数日後にその日付を撤回、準備期間を設けると宣言した翌日、学校再開を9月10日とし、10日11日の2日間を生徒児童が学校生活の新しい様式に慣れるオリエンテーション期間と定めました。8月26日に教育省は、学校再開前の最終発表をしましたが、内容は7月末に出されたものと大差がありませんでした。マスクが学校に配布され、ソーシャルディスタンスをとれない場所では着用するのが望ましい、中学生以上の生徒、教員やスタッフは着用を義務化することが新たに加わりました。懸念していた保護者に選択肢がない点においては、署名活動が行われたり、教育省に直々にリモート学習を求めたりする動きがありますが、教育省の発表では「公立学校のリモート学習への資金は確保されており、必要があれば行うものの、決断はそれぞれの学区にゆだねる」としています。そして、娘の通う学校の学区事務局からは同日にメールが届いたものの、リモート学習については一切触れていませんでした。新しく加わった内容は、基礎疾患等の特別な配慮が必要な理由がある子どもをもつ保護者は、通学する予定の学校の校長に連絡をとるように、という一文のみでした。

教育省の8月末の発表は、引き続き保護者の疑問に答えることがないままで、私たちは9月に入り、学区の事務局と学校から送られてくる知らせを待っているところです。パンデミック宣言からこれまでで一貫して感じるのは、学校関連に関しては通達にスピード感があることです。方針が固まりきらなくても発表を行い、世論を取り入れながらそれが修正されていっている印象があります。その一方で、細かいガイドラインは各学区や学校に委ねられ一律でないため、SNSなどで情報が飛び交うことでBC州全体の保護者の不安を掻き立てているようにも感じられます。

新しいウイルスを正しく恐れるべきだとはいえ、未知の点が多く、明らかに公立学校の再開が手探りな状態であることは、方針が徐々に発表され、その都度変更や修正がなされていることからも明らかです。未知のウイルスとの闘い、不明瞭な方針での学校再開、そして、国境が閉鎖されている今、飛行機に乗って気軽に母国へ一時帰国も許されません。これまで異なっていることはよいことであり、それを受け入れられていると思っていたインクルーシブな社会や多文化共生社会が、すべての人にとって平等とはならない今回の方針を通して、それが分裂するかもしれず、移民である自分たちの存在の危うさも感じているところです。


筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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