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【インドの育児と教育レポート】 第15回 新型コロナによる休校中のオンライン授業 (3)~中学編

前回に引き続き、娘が通うインターナショナルスクール(中学校)のオンラインによる授業の様子を、ご紹介します。

IB中学校での教科学習と突然始まったマラティー語

インターナショナル・バカロレアのMYP(Middle Years Program)では2か月ごとに単元学習が進みます。各教科の大きな課題に沿って、「何を学ぶか」「どんな要素があるのか」「何を選択するか」をすべて子どもたちが自ら調べ、自己決定します。ペアやグループによる学習もありますが、オンライン学習の期間中は個人で学ぶことが多くなります。

こうしたIBの学習が始まった矢先に、インドのマハラシュトラ州の教育省は、学校教育における公用語の扱いについて、従来の英語とヒンディー語以外に、主にマハラシュトラ州で話されるマラティー語の必修化を決めました。今年度は試験的に、小学校1年生と中学校1年生を必修化の対象としました。娘はちょうど中学1年生(Grade6)注1に進級したタイミングでしたので、インド人ではなくてもマラティー語を履修しなくてはならなくなりました。

ヒンディー語で「こんにちは」のことを「ナマステ」と言いますがマラティー語では「ナマスカール」と言います。このように語尾が少しだけ変化し、似ている単語もありますが、多くは全く違う言語となります。娘は、第2外国語のフランス語と必修となったマラティー語の2科目に特に苦労していました。ライティングよりもリスニングやスピーキングが多い授業なので、スクリーンに向かってマイクで声を出して発音することに、なかなか慣れずにいました。マラティー語では、初めは蚊の鳴くような声で発表していましたが、先生もイヤホンをつけているため、娘の小さな声でも聞き漏らすことなく、毎回の発言を大きな声で褒めてくれていました。少しずつ自信をつけた娘は、2か月でスムーズな自己紹介ができるようになりました。

以下は、8月からの中学での授業の内容を簡単にまとめたものです。

教科 単元学習 内容
英語 ①PEELと覚えるパラグラフの活用
②比喩表現 Similar Metaphor
英文(物語)の登場人物の性格を読み取るために以下のプロセスを完成させる
P...Point (要点)
E...Evidence(根拠)
E...Explain(説明)
L...Link (関連)
マラティー語 ①基本的な挨拶
② 動詞
③インドの国
④自己紹介
インドの国旗・国歌・国花・国鳥などについて学び、愛国心を育てる
フランス語 ①文法
②数詞
③挨拶
④諸外国
⑤自己紹介
・フランス語を公用語としている国の中から1か国を選択し、その国について調べ学習をする
数学 ①分数の加減乗除
②通分と約分
③正の数・負の数
④比
・除法では、割る数の分母と分子をひっくり返し逆数にしてかける日本のやり方とは異なり、割られる数を逆数にするのがインド式
・-(マイナス)の符号のついた加減の計算演習
※ソフトウェアを用いた演習
理科 ①(実験の前に)計画書の書き方
②個体と液体
③物質の溶け方
④紙の強さ
⑤ビスケットの溶け方
⑥実験結果のまとめ
・実験の計画書を作成する
・いろいろな水溶液の性質を調べる
・氷が解ける様子を観察する
・3種類の紙の強度を実験で調べる
・3種類の異なるビスケットを水に溶かし、観察する
・結果・考察をまとめる
実験の写真を添付する
※パワーポイントによる実験のまとめ
社会 ①自分のアイデンティティ
②諸外国の文化・信仰・民俗
・自分を取り巻く環境や精神や文化等を図表にまとめる
・日本の文化や作法について調べてまとめる
※手書きの用紙を撮影しファイルをアップロードする
デザイン ①絵本作り
(E-Book)
②フィードバック
・国連の17の持続可能な開発目標(SDGs)から一つ選択し、その内容をみんなに伝えるための絵本を作成する
・作成した作品を生徒が鑑賞しフィードバックを得る
※絵本作成ソフトを使用しタッチペンで作画をし、完成品をPDFでアップロードする
演劇表現 ①読み聞かせの方法
②間合いとパンチワード注2
・読み聞かせの方法を考え、相手に内容がうまく伝わる方法を考え、その技法を学ぶ
※実際に声を出して読み聞かせを行い、録音をアップロードする
体育 ①チームビルディング
②ヨガ
・チームワークとは何かを学ぶ
・スポーツにおけるチームワークの必要性について話し合う
・実際の運動は行わず座学のみ
※ヨガのポーズを撮影してアップロードする
美術 後期履修
音楽 後期履修

娘にとって、オンライン授業で一番難しかったのは、数学だったようです。わからないことがあると筆者に助けを求めることもありましたが、日本語で説明すると混乱して理解しにくいとのことで、友だちと一緒に英語で考えるようになりました。オンラインチャットで、分数の途中計算式を確認しながら、通分したり約分したりする方法を定着させていきました。

最小公倍数や最大公約数などについて、小学校ではしっかりと学習した機会がなく、いきなり通分とはずいぶんハードルが高いと思いましたが、授業では分数の単元に入ると、これらの倍数や約数の概念も踏まえながら、分数の加減乗除までの解法を一気に学んでいきました。日本の算数では、4年生から順次学習していきますが、それに比べると、インドのインターナショナルスクールでは、ずいぶん急ピッチで進みます。先生からホワイトボードに問題が提示されると、それを手元のノートに手書きで計算式や図を記し、制限時間内で解答すると一斉に答え合わせをします。この方式は、普段の授業風景とそれほど差はありませんが、マイクのスイッチをオフにしているので、わからない問題があると「もう!できない!わからない!」と大騒ぎしながら格闘している姿は、オンラインの授業ならではの子どもたちの本音が漏れる場面でもありました。学校とは違って、かなりリラックスした状態で授業を受けている印象です。

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数学「文字式のきまり」よりオンライン授業後に先生に送信するノートの写真

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数学「分数の通分と逆数」より バタフライメソッドの方法と分数除法の覚え方

英語の授業では、長文読解を基本とした内容の読み取りを行っています。一斉授業ではなく個人の活動になるため、与えられたタスクに沿ってコツコツと文章を書いていました。レポート提出では、英語で3,000ワードと、中学1年生の娘が大学生並みの論述をしていたのには驚きました。また、比喩表現の方法も間接的・直接的とそれぞれの書き換えを学習し、文章表現の幅が広がりました。

デザインの授業は、美術とは違い絵画の技術を評価するものではありません。自分が伝えたいことがどうしたらわかりやすく相手に伝えられるかを考えて、作品やプレゼンテーションを一から構築して仕上げるのが課題でした。娘はアイデアを想起する場面で一番悩んでおり、とても大変そうでした。しかし、一度、製作に取り掛かると一気に進み、色や大きさを工夫して何度も何度も校正し、満足のいく作品に仕上がったようです。

絵本作りは、専用のソフトを使用して行うため、作画も色入れもすべてデバイスを用いて行います。ICTのスキルが活かされる場面です。

以下は、娘が作った絵本の要約です。国連のSDGsから「飢餓」の問題を取り上げました。

「ムーンライト」

あるところに、両親を早くに亡くした貧しい女の子がいました。そこはスラムの一角です。女の子は古び汚れたテディーベアといつも一緒です。夜になると、女の子は月あかりをたよりに食べ物を探して街に出かけます。あるレストランの裏口で、その日に余った食材を分けてくれるシェフ、マークに出会い、毎日のように通うようになります。お月様はいつも女の子を見守ります。月日が流れ、女の子は大人になりました。スラム街に近い街の一角に「フードバンクレストラン」をオープンします。子どもたちがおなかいっぱいご飯をたべることができるようにという願いがこめられています。
もちろん、そのレストランのシェフはマークです。

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娘が絵本作成ソフトで作った絵本

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先生と生徒と保護者の三者面談もオンライン
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三者面談の予約のタイムテーブル

10月末には、前期中間試験が終わり、その成績をもとに個人面談が行われます。これは保護者が希望すれば、すべての教科の先生と個別に面談することができます。面談の予約管理システムも学校オリジナルのプログラムが開発され、専用のサイトへのリンクがメールで送信されてきました。サイト上で面談を希望する先生の名前をクリックすると空き時間の一覧が表示されるので、保護者の都合に合わせて予約することが可能です。筆者は面談日の終日、予定を空けて臨みました。予約サイトで「すべての教科担任」をクリックして、予約時刻を「自動」と設定すると、すぐさま1日の面談スケジュールが分刻みで提示されました。これにはとても驚きました。こうして一人の先生につき7分間の面談時間が確保されました。

そして、この面談には保護者にも教師にも参加条件があります。
「ネガティブな発言はしないこと」
「子どもの素晴らしい点を見出して話すこと」
「生徒の作品や学習成果のファイルを熟読した上で面談に参加すること」

私たち保護者は、この面談について、我が子の良いところを認め、誉め、伸ばしていく姿勢を心がける良い機会であると捉えています。実際の面談では、先生から今期の娘の成績について通知がありました。評価は8段階で1・2は「努力が必要」、3・4は「定着している」、5・6は「よくできている」、7・8は「大変すばらしい」、という評価基準です。娘が一番苦手とし、日々苦労していた数学で思いがけず8を頂いたことに親子で驚きました。コツコツと計算ドリルを繰り返す日本人ならではの気質が評価されたのでしょうか、テストの結果やノートのまとめを提出しての総合評価だったとのことで、オンライン授業でここまで娘をサポートし、学力をつけてくれた先生に感謝しました。

ここで、インドの珍しい習慣を一つご紹介いたします。数学の先生から保護者宛てに、お祝いのメールが届きました。日本では、成績に対して先生から個人的にお祝いのメッセージを頂くことはまずありませんので、このようなインドと日本の習慣の違いにとても驚きました。

さて、正解がはっきりしている言語や数学は絶対評価であるのに対し、デザインやドラマなどの技能教科はどのように評価基準を定めているのか興味深いところです。インド人の子どもたちの、幼い頃から養われた宗教観や感性、IT大国ならではのデザインの知識の豊富さなどが作品に大きく影響しているように思います。インド人生徒の作品は本当に素晴らしく、子どもたちの思いがしっかりと伝わってきます。娘も丹念に根気よく作品制作に取り組んでおり、かなり自信があったそうですが、成績にはあまり反映されなかったと少し悔しさをにじませていました。

このような試験と三者面談が2か月毎にあり、子どもたちは常に学習成果をフィードバックしていくようです。そして、「今の自分に必要なスキルや知識は何か」「次は何を目標に学習しようか」ということを明確にしていきます。また、それを自身の言葉で、先生の前で保護者に説明をすることが義務となっていますので、必然的に私たち保護者も学習内容や子どもの学びの足跡をしっかりと理解し、その学びに対してさらなる探求心を刺激する言葉がけや質問などの投げかけ、また、生活の中での学習の動機づけとなる体験など、様々なサポートが求められます。あくまでも学習の主体は子どもですが、親はその学びを見守るだけでなく、最後まで見届けることが大切であることを思い知らされます。

今後、子どもの学習が進み、その内容の難易度が高くなっていくにつれ、保護者の対応も苦慮することが予想されます。忘れかけた自身の記憶を引っ張り出して、その場を取り繕って適当な生返事をするのか、それとも子どもと一緒にもう一度学び直すのか、答えはとてもシンプルなのだそうです。「素晴らしいことを学んだね、あなたはとても努力しているね」と子どもを認め、褒めて称えることが、保護者の役目なのだそうです。インドからはるか遠いアメリカに一時帰国中の校長先生から毎週届く「学校通信」の言葉に我が家は親子で励まされています。世界中に散っている先生方や仲間と常に「オンライン授業」を通して繋がっているので、だれもが「ひとりじゃない!」と心強く感じていることだと思います。まだしばらくはオンライン学習が継続しますが、家族とともに子どもの生活リズムを整え、通学時と同様に規則正しい生活を心がけたいと思います。

次回は、インターナショナルスクールのオンライン授業(高校編)をレポートします。


  • 注1 娘の通うインターナショナル・スクール(IB認定校)では、小学校が1~5年生、中学校が6~10年生、高校が11~12年生となっております。
  • 注2 強調したい言葉のどこにアクセントを置くかというセリフ回しの練習です。

筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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