CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【インドの育児と教育レポート】 第14回 新型コロナによる休校中のオンライン授業 (2)~中学編

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【インドの育児と教育レポート】 第14回 新型コロナによる休校中のオンライン授業 (2)~中学編

インドのロックダウン開始から半年以上が過ぎ、インド国内の感染者数は800万人を超えました(2020年10月31日現在)。しかし、一日あたりの感染者数は徐々に減少傾向にあることから、ムンバイの街もロックダウン解除に向けて少しずつ動き始めています。3月にインドから日本に一時退避していた駐在員の何人かは、インド政府の許可を得たチャーター便にて、9月末から10月にかけてデリーやムンバイやチェンナイなどの主要都市へ戻りました。しかし、多くの駐在員は未だ日本での退避生活を余儀なくされており、長引く避難生活や在宅ワークに不安を隠せません。

10月22日に、インド国営の航空会社からインドと日本を結ぶ定期便が運航されることが決まりました。こちらは新型コロナの影響で日本に残留していたインド人を日本からインドへ移送することが目的ですが、空席があれば日本人も搭乗することができます。また、同時期に日本の民間航空会社も減便をしての定期便の運航再開を決めています。ただし、羽田とデリーを結ぶ便のみで、今のところはムンバイへの定期便の再開目途は立っていません。インドに残留した日本人家庭や、チャーター便にてすでにムンバイに戻られた駐在員の方々にお話を伺うと、外出は控え、生活に必要な食料などは現地のドライバーさんに買い出しをお願いして生活をしているとのことです。

このような環境下で、オンラインによる学習を継続している子どもたちの適応力や忍耐強さに驚くとともに、様々なソフトやアプリケーションを駆使して授業を組み立てて下さる学校の先生方に感謝しています。今回から3回にわたり、6月に現地のインターナショナルスクールの小学校(Primary)を卒業し、8月から中学校(Secondary)に進級した我が家の二女(11歳)と、現地のインターナショナルスクール(IBDP)からオンライン授業を受けている日本人高校生の様子を順次レポートします。

オンライン授業には欠かせない 毎晩のデバイス充電

「オンライン授業について何か一言」と尋ねると、娘からは真っ先に「充電!」と返答がありました。毎日の授業で7時間もの間、インターネットに繋がれた状態でスクリーンとにらめっこをしているのですから、途中で電池が切れてしまわないように、授業の休み時間や昼休み、そして就寝時には必ずタブレット端末を充電するように心がけているそうです。授業中は、自宅の部屋間を移動したり自分の作品をカメラで見せたりするので、電源コードは抜いた状態で授業を受けているためです。

デバイスの管理と共に、子どもたちにとって重要なことがいくつかあります。まず、一番大切なことは、インターネットリテラシーやネチケットです。これらは、ロックダウン以前から小学校で学んでいたので、中学に進級したからといって特に改めて教育されることはありませんでした。しかし、新学期の初めには、クラス替えで離ればなれになった友だちと、授業中にこっそりと個人間でのチャットをする生徒が多くいました。もちろん我が家の娘もその一人でした。ほどなくして先生方の知るところとなり、いわゆる「緊急学年集会」がオンラインで開催され、子どもたちに長時間のお説教が下されました。かなり厳しく注意を受けたため、その後は「隠れチャット」は減りました。ただし、先生に質問しにくい時には、こっそりと先のチャットでお友達にアドバイスを求めているようです。生徒指導をオンラインで行うことについては、この時代ならではの仕方ない措置ですが、果たしてお説教の効果はどのくらい長続きするのか興味深いところです。

学習面だけでなく生活面や精神面をオンラインでサポートするに足るだけの力量が学校や教員にあるのか、オンライン学習のソフト機能がどこまでそこに対応できるのかを見極めたいと考えます。また、オンライン学習をサポートするには、家庭環境も重要です。

我が家でも、娘は自習時間になると床に寝そべってデバイスを触ったり、好きな音楽をかけながら勉強したりと、自由な振る舞いが見られます。1日中、ずっとデバイスの前に座ってスクリーンを見つめているのは、苦痛で不健康だろうと思い、大目に見ることにしています。娘のお友達の話からも、クラスメイトの子どもたちもオンライン授業への取り組みの要領を得たようで、力を抜くところと集中するところをちゃんとわきまえています。また、そのような「リラックスタイム」を授業の中に意図的に設定している先生方の計らいも見て取れます。はじめのころはどうなることかと心配していましたが、子どもたちは自分でスケジュール管理しながら日々の課題をこなしています。とても頼もしい成長です。

また、娘にとってはオンライン授業で必要なデバイスの操作を習得することも重要な課題でした。オンライン授業を受けるためのアプリケーションが教科によって何種類か使い分けられているため、それぞれの操作方法を覚えたり、アプリの特性を理解して音声やカメラの切り替えタイミングを計ったりするなど、慣れるまでに様々な工夫をしていました。ほとんどの教科学習は、キーボードでタイピングをするかタッチペンで入力をします。手書きの学習時には、作品や回答をカメラで撮影したものをアップロードしています。

普段のオンラインの授業中は、カメラは双方オンの状態ですが、マイクは先生のみがオンにし、生徒側の音声は聞こえないようにしています。質問がある時のみ、生徒はマイクをオンにして「先生!」と発声すると、「はい、どうぞ○○さん」と指名してくれます。このやり取りは、その授業に参加している10数名の生徒全員の前で行われます。クラス全員の前で手を挙げて発言するのは、日本の授業では見慣れた光景ですが、娘の学校ではわからないことがあるときは、授業中であっても離席して個別に先生のところに質問に行くスタイルでしたので、これはかなり勇気がいるなと思いました。案の定、我が家の娘は恥ずかしがってほとんど質問をすることはありません。傍で聞いてみると、質問をしているのは圧倒的に男子の方が多く、女子は静かに学習しているという印象です。時々、先生の方から大きな声で娘の名前を呼んで「大丈夫?」と声をかけてくれますので、一人一人の様子をスクリーンの向こうから見守っているのがわかります。

我が家では、筆者も夫も在宅で仕事をしています。部屋を分けていてもお互いの声が聞こえてしまうこともあり、娘は大切な説明などの時は先生の声を聞き洩らさないようイヤホンを使用します。時には、インドならではの「dha(ダッ) tha(タッツ)pha(パッ)bha(バッ)」など子音発声時の破裂音で耳が痛くなることがあるようで、苦笑いしながら、イヤホンを耳から遠ざけている姿が見られます。

中学生になり、オンライン授業を受けるための環境を自ら工夫して生み出す努力をしている娘の成長がいたるところで見られます。

インターナショナルスクール(IB校)中学校のオンラインによる1日

インドでは、まだロックダウン中のため、インドにいる生徒も含め、全員がオンラインによる授業を受けています。学校の開始時刻は、インド時間で7時50分(日本時間11時20分)で、1日に80分授業が4コマあります。ランチタイムを挟んで午前・午後に各2コマずつ行われ、終了はインド時間で14時(日本時間17時30分)です。第11回で小学校についてレポートしましたが、中学校の一コマは小学校の約2倍の授業時間となっています。

我が家は、現在日本に一時退避帰国をしていますが、娘の学校の時間に合わせて、生活はインド時間で過ごしています。朝は日本時間の10時に起床し、夜中の2時に就寝という生活です。そのため、食事の時間は、朝食が10時半、昼食は14時半、夕食が19時という具合です。家事の観点でいうと、あえてインドのとの時差を考慮した生活を送るための遅い起床の弊害として、朝のゴミ出しが間に合わない、洗濯物が乾かない、早い時間帯の宅配便が受け取れないなどいくつかの問題はありますが、娘に合わせた生活スタイルがこの半年で定着しました。親にとっては、この生活リズムを作ることがオンライン学習の一番の課題だったように思います。

さて、中学校に進級して、小学校との一番大きな違いとは何でしょうか。これは、日本と同じで「教科担任制」になったことです。娘の学校にはホームルームがあり、担任もいますが、ホームルームをもたず選択教科の授業に出席するだけという学校も珍しくありません。

娘の学年は総数約80名で8クラス編成です。一クラスの生徒数は8名から10名で担任は1名です。小学校のような副担任はいません。その代わりに各教科の担当の先生が、毎回の授業で出席をとり子どもたち一人一人に声をかけてくれます。朝の会は毎日、オンラインホームルームで10分間程度行われています。担任の先生と挨拶をしたり週末の出来事を生徒同士で話したりしています。クラスの人数が少ないため、朝の会はあっという間に終了し、その後娘は急いで教科授業の支度をしてアプリで面接授業にログインします。先生の中には、始まりの5分間ほどは、生徒たちとの雑談を楽しんだり、リラックスのためのヨガのBGMを流したりして、オンライン授業に入るまでの心の準備時間を設けている方もいます。どの先生も大きな声で「おはよう」と笑顔で声をかけてくれるので、まるで学校で実際に会っているのと同じような感覚でいられるとのことです。

オンラインの授業中は、各家庭に宅配便で送られた学校指定の制服(半袖ポロシャツ)を着用することが義務となっています。文具や学用品などもすべて学校から支給されます。ですが、我が家の娘のように新型コロナの影響によりインド国外に滞在している生徒は、私服で参加することが認められました。インドは、モンスーンが終わり、夏の暑さが戻ってくる時期ですが、日本はこれから冬支度です。カメラに映る長袖姿の娘を見て、社会科の先生が、インドと日本の気候の違いについて学習の題材にしてくれたこともありました。

授業が終わり放課後になると、15時から16時までの1時間はオンラインの課外クラブの時間となります。クッキング、コーディング(プログラミング)、カインドネス(福祉活動)などがあり、主に生徒たちが企画をします。校長先生に相談して許可が下りると、そのクラブは活動開始となります。活動中は顧問の先生が毎回、オンラインのクラブに参加して、生徒の活動を監督しています。必要な時には助言をするなど生徒たちの活動を見守っているそうです。オンラインの課外活動は自由参加ですが、学校への登校が再開したら、正式な課外クラブは運動系・文化系などそれぞれの外部コーチによる活動が始まる予定です。

また、このオンラインの課外クラブの時間帯と並行して、先生方との個別の質問時間が設けられています。その日の授業でわからないことがあった場合は、生徒から希望する先生のところへアプリケーションを利用して面談を申し込むことができます。先生方は勤務時間中、自宅からオンラインで授業を行っています。放課後に生徒からの呼び出しがないと思って油断して回線をつなぎっぱなしにしたままペットの相手をしていたところ、突然生徒からの面談依頼が入り、ペットと戯れている姿がそのままスクリーンに映し出され、先生が大慌てをするというような、ほほえましいハプニングもあったそうです。

3月からずっと行われてきたオンライン授業期間の中で、ひとつ、大きな変化がありました。娘の中学校では、オンライン期間中は毎日の宿題を生徒に課さないことになりました。長引くロックダウンの中で、先生方も試行錯誤しながら授業を継続してきましたが、生徒に宿題を課しても、それに対して先生がフィードバックすることが時間的に不可能であることが報告されました。昨年度、生徒がアップロードした膨大な数と量のファイルが、教師によっては開けられることなく学年末を迎えてしまったケースがあり、相互に負担を減らすという意味で、授業中に終わらなかった場合のみ、単元ごとの課題を家庭学習とするという方針に変わっています。また、学習ソフトを活用して正答の丸付けを機械化している点もオンラインならではの取り組みです。例えば、数学の計算演習では、途中式もタッチペンで手書き入力しなくてはならず、生徒がズルをしたり計算機に頼ったりすることができないような仕組みになっています。正答が出るまで何度も何度も書き直して格闘している姿を近くで見ていると、「機械を相手にこんなに苦労してかわいそうに」と思いましたが、娘曰く、この方がノートにすべて手書きするよりも簡単なのだそうです。どんなに雑な手書きでも正しい文字や数字を判別するという学習ソフトの秀逸さに、世の中のAIの進化を見たように思います。

このように、中学部のオンライン授業は自主的に自立して学習することが求められ、小学校の時と比較すると親の介入や手助けはほとんど必要ありません。生徒が自ら時間を管理し、授業時間内にタスクを終了することや見通しをもって課題に取り組むことなど、自己責任で学校生活を送っています。先生からの指示も明確となり、学習成果が視覚的に確認できるシステムが構築されてきたため、ロックダウンが始まったばかりの混乱と不安のオンライン授業を思い出すと、大きな進歩と発展を感じます。先生方のオンライン授業のスキルも向上しているため、より分かりやすく、よりコミュニケーション豊かな環境に変化してきていることを実感します。まだしばらく継続するであろうこの生活を、親子で楽しみながら、規則正しく過ごしていこうと思っています。

最後に、我が家のインド時差生活による諸問題はどうしているかという点について。洗濯物は午後に干して一昼夜テラスに掲げ、翌日の昼間に取り込みます。宅配便は「置き配願います」の札を玄関のドアノブにぶら下げておくことで、午前の早い時間にわざわざ布団から起き出す必要がなくなりました。あまりお行儀が良いとはいえませんが、時差生活をするための苦肉の策です。それでは、次回も引き続き「中学校のオンライン授業」についてレポートします。"Stay Home, Stay Safe."


筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP