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【インドの育児と教育レポート】 第16回 新型コロナによる休校中のオンライン授業 (4)~高校編

深町 澄子

2021年1月29日掲載

新型コロナウイルスの影響は未だ収束を見ることができませんが、インドでは対面授業での学校再開に向けて少しずつ計画が進んでいます。マハラシュトラ州では2月よりオンライン授業と分散登校を併用しての学校再開が可能となります。ムンバイ市内の多くの私立学校では子どもたちや教職員が密にならない環境を整備し、マスク着用や自家用車での送迎などの条件付きでの登校が始まる見通しです。

我が家は、インドには帰国することができないままオンライン授業が終了するため、娘は一旦、学校を退学し、日本で居住地の公立小学校に転入しました。ムンバイで養われた感性やITによる学習の経験はとても大きな財産になったことだと思います。

さて、今回は、娘の在籍していたインターナショナルスクールの高等部のオンラインによる授業の様子を、ご紹介します。この学校はムンバイ市内に2つのキャンパスがあり、それぞれ幼稚園から高校まで一貫教育となっている大規模な国際バカロレア認定(IB)校です。娘とは別のキャンパスに通う高校2年生の 胡井萌 えびいもえ さんに取材をし、インドのIB校での学校生活やオンライン授業の様子をご紹介します。萌さんは、ご家族と一緒に2013年からインドに居住し、小学2年生からずっとインターナショナルスクールで学んでいる、サッカーの得意な高校生です。

2020年10月に取材を行いましたので、今回ご紹介する内容は、8月に新年度がスタートして、ちょうど2ヵ月が過ぎたころのものとなります。

オンラインでの学校生活の1日

高校は1学年10クラスあり、1クラスの人数は10名で担任が1名ですが、このクラスはホームルームのクラスであり、教科の授業は選択制です。教科ごとの生徒の人数も15名から20名と少なめです。授業時間は、朝7時50分から午後2時50分までで、これは小・中学部と同じ時間割です。

授業は週に5日、中学部と同様に、1日に4コマの70~85分(通常時は90分)授業があります。授業と授業の間には各15分間の休憩があり、お昼休みは50分間です。さらに、国際バカロレアのディプロマ・プログラム(IBDP)*1では、2日に1回スタディホール(Study Hall)という時間が授業内に与えられ、生徒は自主勉強や先生への質問や相談などにその時間を活用しています。授業の時間割は以下のようになっており、水曜日は、ロングホームルームの時間が確保されています。教科の授業が選択制の中で、クラスの友だちや担任の先生とゆったりと時間を共有することができる大切な時間です。

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オンライン授業の時間割です。
※水曜日にはホームルームがあるため時間割が異なっています。

また、学校には、カレッジカウンセラーという進路担当の先生が常駐していて、生徒の大学選びの相談に乗ってくれます。アメリカやイギリスをはじめとした外国の大学情報が簡単に入手できるため、自然と視野が広がります。

この学校の生徒は小学校5年生からパソコンを使い始めており、日本のようなパソコン教室や特別な授業での利用ではなく、本人専用として1人1台を毎日の授業で文房具の一部のように使用しています。日ごろから、テスト、宿題、学内のお知らせの確認などの全ての作業にパソコンを使用してきたため、2020年3月に、インド政府によるロックダウンに伴うオンライン授業が始まりましたが、オンラインのみの授業となっても、特別な問題は生じることがなく、とてもスムーズに授業を受け始めることができたそうです。

高校での開講科目と特徴的な教科

IBDPでは、6つのグループ(教科)と3つの必修要件を履修することになっているそうです。この高校で開講されている教科について、萌さんが選択グループごとに表にまとめてくれましたので、参考にしてみてください。ご本人が履修している科目は赤字になっていますが、外国語科目の「日本語」はこの学校では開講されていないため、特別に学校の許可を得て、オンラインで受講しているそうです。IBDPのオンライン授業は、IB校の生徒であれば世界中どこにいても、受講することができます。

グループ1
言語と文学(母国語)
英語A
グループ2
言語習得(外国語)
フランス語B、スペイン語B、ヒンディー語B、(日本語B
グループ3
個人と社会
ビジネス、経済、心理学、歴史、政治
グループ4
理科
生物、化学、物理、地理・環境、コンピューターサイエンス、デザインテクノロジー
グループ5
数学
数学AA(Analysis and Approaches:微分積分が中心)、数学AI(Applications and Interpretations:統計・確率など)
グループ6
芸術
音楽、美術、演劇
必修要件 Theory of knowledge[TOK] (「知の理論」と呼ばれる、批判的思考を育む取り組み)
必修要件 Extended Essay(履修した科目の内容を論文にまとめる)
必修要件 CAS:Creativity/Action/Service(創造性・活動・奉仕 )プロジェクト

教科自体は、日本の高校と比べても、さほど変わらない印象です。しかし、TOK「知の理論」はIB校の特徴的な教科です。批判的思考を育み、「知る」プロセスについて学びます。また、「デザイン」や「演劇」などは、日本では専門学科以外で開講されることは少ない教科です。しかし、特にインドでは「演劇」に力を入れている学校が多く、伝統的かつ宗教的な意味をもつ科目として演劇専門の講師を招いて「理論」と「実践」の両者を学んでいます。また、「シェイクスピア」の作品を題材に、比喩表現や口語表現やセリフの言い回しを学び、実際に生徒が舞台で発表をするなどしています。中学部でも、その基礎を学んでいることが、娘の様子からわかります。

以前に幼児の家庭教育の編で触れましたが、インドでは未だに、性役割や階級による職業の区分が歴然としており、コックさんが料理を、メイドさんが家事を、テーラーさんが裁縫を、カーペンターさんが家具や家の修理を、シッターさんがチャイルドケアをという具合に、家庭の中で発生する仕事の役割分担が明確になされています。そのため、生活に必要な知識やスキルを、あえて学校で学ぶという機会は少ないようです。したがって日本のような「技術・家庭科」という教科は存在しません。

萌さんの選択している美術の授業では、オンライン授業ならではの特別な工夫があるそうです。実際に作品を描いて提出をする課題(鉛筆画など)では、2つのデバイスを用いて授業を受けることもあるそうです。1台はパソコンでビデオ通話しながら、先生とのコミュニケーションをとり、もう1台のスマートフォンのビデオカメラを用いて、描いているものをフォーカスしながらビデオ通話をするのだそうです。こうすることで、作品をよりはっきりと先生に見ていただくことができ、また先生の顔を見ながらアドバイスを受けられる利点があるのだと思われます。完成品を写真に撮って提出するだけでなく、途中の製作過程でのアドバイスが受けられるのは、相互に有益な手段だと思います。現場の先生方の様々な工夫や、家庭での環境整備により、きめ細かい指導が受けられるようになっていると感じました。

以下は、実際に授業で製作した萌さんの作品です。丁寧に描きあげられた作品や、IB校で良く行われる「マインド・マップ」の一例です。「マインド・マップ」とは、物事を整理したり、関連付けたり、論理的にまとめるための思考を視覚化したものです。娘も小学校の時から、日常的に学校や家庭でこのようなフロー図を書いていたので私もなじみが深いのですが、このような高校生のマインド・マップを見てみると、小学生や中学生とは段違いの思考力の幅広さがあり、関連付けの上位、下位の優先などに工夫が見られ、文章や単語の語彙力にも感心します。

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デザイン技術(デザインテクノロジー):等角図の練習
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Theory of knowledge: TOKで習う内容を表したマインドマップ

また、必修要件の一つであるCASプロジェクトでは、「仲間と共働して運動を学ぶ」という観点で、単にゲームのルールを覚える、スキルを身に着ける、試合をする、体力をつけるなどというだけでなく、運動を通して、チームワークについて考えたり、その運動の特性や危険性について学び、それを他者に教える際のスキルを学ぶことなどが盛り込まれています。オンラインで行っているため、なかなかみんなで同じ場所で動くことは叶いませんが、自ら発信する立場での身体の動きの見せ方を工夫したり、カメラワークを研究するなど、日常では意識しないことにまで気を配っているのがわかります。

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CASプロジェクトの中で行うStrike: No limits (プロジェクト)

授業中に困っても オンラインならすぐに解決!

萌さんへの取材の中で、筆者が最も感心したことは、「学習で困ったことがあったら、恥ずかしがらず、すぐに先生へ質問する事を心がけている」という点でした。さらに、「誰かが質問するとクラスのみんなの為になるので、できるだけクラスメイトがいる時に質問をしている」との返事に、震えるほどの感動を覚えました。前回の中学部のレポートでは、「人前では恥ずかしくて質問ができない」や「蚊の鳴くような声」で返事をする我が家の娘の話題をお伝えしていましたが、同じ学校に通っていても中学生と高校生では意識が全く異なることに気が付きました。 高校生の萌さんの言葉からは、学習に対する前向きな姿勢が、決して利己的な欲求ではなく、クラスメイトとともに学習環境を作り上げていく協調的な学びにつながっていることがうかがえます。

また、プロジェクトや成績のことなど個人的な質問がある時は、クラスのビデオ通話の終了後にひとり残って、先生と一対一で質問や相談などをするそうです。他にも、学校が終わった後に質問があれば、先生やクラスメイトにメッセージを送るそうです。その場合、先生方は勤務時間外なので、本来は即時に返信する必要はないのですが、ほとんどの先生方が時間外にもかかわらず、すぐに返信してくれることがとても嬉しく、助かっていると話していました。

萌さんにとってのオンライン授業のメリットは、いつでも先生に質問や相談できることや、オンライン授業に切り替わる前と比較すると、先生方がネットを通してのコミュニケーションを大切にしてくれるようになったことだそうです。課題やCASプロジェクトの事を、チャットツールを用いて、場所や時間を問わず、いつでも相談することができるというのは、とても心強かったと思います。とは言っても、やはり学校で仲間や先生と過ごす当たり前のような時間が失われたことには寂しさを隠せません。

オンライン授業のデメリット

長引くオンライン授業を継続する中、今、萌さんが感じているのは、やはり学校に登校し授業をうけるスタイルの方が、自分には合っているということでした。友人との交流だけではなく、授業においては、「デザイン」や「美術」などの実技を伴う科目を履修しているため、実際に学校に行かないと様々な不自由に直面するようです。

「デザイン」の授業では、日本の技術の授業のように、のこぎりやプレーナーを使いプロダクトを作るそうです。しかし、一般家庭にはそのような専門的な工具はないので、やむを得ず段ボールやサンボードなど材質を変えて、加工しやすいものを利用しているそうです。授業以外でも、友達と昼休みに話したり、カードゲームをしたりするなどの楽しみがオンラインではなかなか得られないので、やはり早く学校に行き、みんなに会えることを願っている萌さんの気持ちがひしひしと伝わってきました。

友だちとのコミュニケーション

「在宅でのオンライン学習中に、友だちとはどのようにコミュニケーションをはかっていますか」という筆者からの質問に対しては、以下のように話してくれました。

「友達とは毎日一回は連絡を取っています。絶対に取ろう!と努力しているわけではなく、学校のことや、プロジェクト(CAS)のこと、面白い動画のことなど、いろんなことを話すので、自然に連絡を取ることになっています。メッセージを送らなくても、友達のソーシャルメディアの投稿を見て、「○○ちゃんは今○○してるんだ~」など、離れていてもすぐにわかります。アメリカに引っ越した友達の誕生日を祝ったりもします。友達とサッカーや体を動かすことは制限されていますが、ビデオ通話を通じて頻繁に連絡を取り合っています。特に仲が良い友達とは、1日10回以上連絡をとっています」

ソーシャルメディアが発達しているからこそ、離れていても簡単に連絡がとれ、相手の様子をうかがい知ることができるというのが、まさに現代を生きる私たちのコミュニケーションの特徴であると感じました。世代に関わらず、このような便利なツールによってつながりを求めることや不安を解消することが、当たり前の日常になりました。

しかし、こうしたネット社会やソーシャルメディアの扱いには、特に注意が必要なことは言うまでもありません。萌さんは、メディアリテラシーについてどのように考えているのでしょうか。

情報の信ぴょう性・信頼性を求めて~情報の全てが真実とは限らない!

この学校では、メディアリテラシーはオンライン授業を始める前から、英語、社会、保健体育、美術などの様々な教科を通して学習してきました。我が家の娘も同様でしたが、学校で小学5年生からパソコンを使い始めた時から、ネットの危険性や、間違った情報・フェイクニュースの見分け方、プロパガンダ、OPVL*2 (ソース/sourceを分析、査定するテクニック)などのメディアリテラシーについて多くのことを学んできました。

その中でも萌さんが特に気をつけていることは、「ネットの情報を鵜呑みにしない」ということだそうです。今の世の中には、フェイクニュースがあちらこちらに溢れています。最近では、ネットのデマにあおられ、日本だけでなく多くの国でトイレットペーパーが大量に買い占められたことを例に挙げ、その問題点について話してくれました。

買い占めを行った人々は、製紙業界から提供される信頼できる情報を無視したり、誰が書いたかわからない、何の根拠もない情報を頼りに行動したりした結果、トイレットペーパーの在庫がなくなり、本当に必要な人が買えない事態になりました。もし、人々に情報を分析、査定する力があれば、これは防ぐことができた騒動であると、萌さんは明言していました。萌さんは、「情報は全て真実とは限らない」ということを念頭に置きながら、日々、氾濫する情報に惑わされず、怪しいと思ったときはOPVLを使い、その信頼性を確認するようにしているとのことです。

さすが、高校生ともなるとコンピューターなどのデバイスの取り扱いや、ソーシャルメディアとの付き合いも上手になり、メディアリテラシーを身に着け、自身で情報を管理している様子を知ることができ感心しました。情報による社会の不要な混乱を防ぐためにも、このようなメディアリテラシーの習得は大切なことだと思います。 そして、新型コロナウイルスに関する情報も、「正しく伝え、正しく受け取る」ことが大切であると改めて感じています。

オンライン授業を継続している子どもたちに、エールを送ります。そして、1日も早く、日常が戻ることを願っています。

最後に、萌さんから「オンライン授業を通して感じたこと」を述べてもらいました。

オンライン授業を通して、感じたことは先生への感謝です。もちろん、突然オンライン授業が始まることになり、思い通りにいかない事があると思います。しかし、年配の先生方(あまりパソコンが使えない先生)も含め、生徒ら全員が授業についていけるように、コミュニケーションを頻繁にとってくださったり、サポートセッションを行ってくださったり、勤務時間外でも質問に答えてくださったり、懸命に取り組んでくださいます。オンラインでも生徒らが楽しめる課題など、作るのはとても大変だと思いますが、毎日の授業がおもしろく、とても満足しております。先生方の努力を感じながら、私も不満を言わずに学習に励んでいます。

  • *1 国際バカロレア・ディプロマ・プログラム(IBDP)は、 16 歳から 19 歳までの大学入学前の生徒を対象としており、 最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格を取得できる教育プログラム。
  • *2 ①出所(origin)、②目的(purpose)、③価値(value)、④限界(limitation)という4つの概念で分析する手法。

筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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