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【インドの育児と教育レポート】 第17回 離乳食は辛いの?

深町 澄子

2021年4月 2日掲載

2020年3月のロックダウンの開始以降、ずっと閉ざされていたムンバイのいくつかの小中学校が、オンライン授業期間を経て、2021年2月から部分的に再開されたそうです。子どもたちは久しぶりに友だちや先生方との再会を果たし、少しずつ教育活動が再始動しているそうです。しかし、全日開放ではなく半日や曜日ごとの登校でオンライン授業との併用をしている学校も多く、校内では2メートルのソーシャル・デイスタンスを保つために壁を取り払って教室を広くしたり、廊下のロッカーなどを移動して幅を広げたりするなど様々な環境整備を行った学校もあるそうです。学校が平常化するまでにはまだ少し時間はかかりそうですが、ムンバイの街に再びスクールバスが走り始めた光景をニュース映像で見ると、一時帰国中の身としては、遠く離れた日本からでも胸が熱くなりました。

そんな矢先、再び感染が拡大しているインド国内の州や都市ではエリアごとにロックダウンが始まっています。 マハラシュトラ州ムンバイでは4月5日注1より、再び夜間と休日の外出禁止に加え、食品や医薬品などの生活必需品を取り扱う店舗を除き商店やショッピングモールやレストランの封鎖、そして学校も再び閉鎖され、オンライン授業の再開となりました。1年ぶりに登校し、友だちとの再開を喜び合った子どもたちの落胆を思うと残念でなりませんが、こうした日々変化する状況下でも瞬時に対応する学校現場の教職員の方々のご苦労も多いことと思います。 「もう、慣れました」と笑いながら臨機応変に対応する子どもたちや保護者の言葉に、インドの人々の粘り強さや力強さを感じました。

しかし、未だに自宅でオンライン授業を受けている子どもたちも多くいます。また、オンライン授業の設備が整わないスラムや農村地域の公立学校の子どもたちは、学校の機能が停止したまま約一年間を家庭で過ごしました。家庭での学習への取り組みのばらつきや教員からの指導を受けることができず、学力の低下や生活習慣の乱れなどの課題が出ています。

その数はインド全土で約2,000校、70万人もの子どもたちにのぼると言われています。 こうした子どもたちを助けるための運動が始まり、大都市の富裕層の保護者たちや企業や教育関係者たちから寄付を募り、問題集など紙のプリントを子どもたちに配布したり、タブレットやインターネット環境の整備などに向けて動き始めています。すべての子どもたちが、再び学校に集い、ともに学ぶことができる日が早く訪れることを願います。

さて、我が家は2021年1月、ムンバイから日本へ本帰国となり、今年はお正月をおせち料理とともにのんびりと過ごしました。日本では、おいしく新鮮な食材がスーパーで簡単に手に入るので、お料理に精を出し、日本食の味わいに心も身体も癒されています。

しかし、それでも時々はインド料理が恋しくなるため、タンドリーチキン、ジャスミンライス、チーズナン、バターチキンカレー、キーマカレーなどを家庭で作ります。筆者がインドに転居する以前(2016年頃)に比べて、いまや日本のスーパーや輸入食材店などでは、インド料理のスパイスキットやレトルト食品がたくさん並んでおり、家庭でもインド料理を簡単に作れるようになりました。ほとんどのキットには日本人好みの味になるよう、何種類ものスパイスが事前にブレンドされており、失敗が少ないのが嬉しいです。別添えの辛みパウダーを使えば辛さの調整が自在で、とても便利だと感じました。インドでは、インスタントのスパイスキットも売られてはいますが、基本的には家庭料理では十何種類ものスパイスを家庭ごとの味に調合し、食材によってもいろいろな味付けに変化させて家庭料理を楽しみます。筆者がインドで挑戦しても、なかなか成功することができなかったスパイスのブレンドには、珠玉の技と経験が必要だと悟りました。

先日、日本のインド料理のレストランで見かけた器がとても素敵だったので、店員さんに詳細をうかがい、我が家用に同じものをインドから取り寄せました。 小包にはインドの50ルピー(約70円)の切手が24枚も貼られていました。こうしてインドから日本に小包が無事に届くことから、少しずつインドの生活も日常に戻っていることがうかがえます。さて、こちらがその器です。よくある銀のお皿とは一味違います。

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インドの切手
 
カレーの器

外側の褐色の部分は銅でできており、職人さんがひとつひとつ鉄の平釘を打ち付けて模様をつけています。内側はシルバーで、つるんとした感触です。重量感もあり重厚な器は中に入れたカレーが冷めにくいという利点があります。取っ手の部分は伝統的なインドの彫刻だそうで、ムガール帝国の時代から継承されている模様が入っていたり、ホテルや高級レストラン用などには、独自の模様が彫られるとのことです。日本でいうところの「家紋」に似ています。これを見て、ふと思い出したのは、インドの家庭の赤ちゃんの「お食い初め」のお祝いの席に参加したときの光景です。今回は、インドの「離乳食」についてレポートします。

インドの赤ちゃんの離乳食は辛いのか?

これは、多くの方が疑問に思っていることではないでしょうか。インド人の子どもたちはいつから辛い物を口にしているのでしょうか。以前、筆者の先輩にあたる秋田大学の准教授の瀬尾知子先生がムンバイに「食育」の調査にいらっしゃった時に、スラム街で母親にインタビューをしました。その際に貧しい母親たちから聞いた言葉が、今も胸に突きささっています。

「この子を育てるためには、与える食べ物を『辛いか』『辛くないか』で選別なんかできませんでした。食べられるものは何でも口に入れてあげます。子どもは常に空腹です。与えられたものは何でも食べます。よくむせています」

一方、富裕層の家庭では、日本と似たような「お食い初め」が各家庭で行われます。ハーフ・バースデイ・パーティー(6か月誕生会)が催され、その席ではダル・ライスという豆を挽いてお湯でといたおかゆを両親が銅と銀でできたピカピカの器から銀のスプーンで一口ずつすくい、そっと赤ちゃんの口の中へ運びます。おかゆの味付けは少しの塩のみので、辛いスパイスは一切使用してないそうです。離乳食が始まると、そこから少しずつ塩味が増し、ギー(Ghee)というヤギの油やマサラスパイスの入ったおかゆを食べたり、ポテトのすりつぶしにギーと塩とマサラを入れてマッシュポテトのようにして食べることが多くなるそうです。茹でたにんじんやほうれん草などをすりつぶしてダル・ライスに混ぜていきます。

貧富の差が子どもの食生活や食文化、また食育に大きく関わってくることがわかります。スラムの母親が「与えられるものは辛かろうが辛くなかろうが口に運んだ」と言っていましたが、それは3歳に成長した時の話で、実際には6か月の赤ちゃんに刺激物を毎日与えるとは考え難いので、お寺などの炊き出しや近隣からの寄付によってダル・ライスを時々は食べていたと推測できます。

保育園の給食は辛いのか?

筆者の友人に、ムンバイで保育園を3園経営しているインド人女性がいます。彼女の保育園では、徹底した安全・衛生管理のもと教職員と子どもたちに毎日給食を提供しています。インドのランチタイムは13時半ごろと日本より少し遅いのですが、調理員の方々は毎朝7時から料理にとりかかり、じっくりと煮込んだカレーやスープやチャパティなどを提供しています。フライドポテトやパスタなどはほとんど出さず、野菜や豆を中心としたベジタリアンの料理で子どもたちの肥満を防止し、健康な体づくりを基本方針としているそうです。

この園には、生後まもない赤ちゃんもいます。日々の成長に合わせて「離乳食」を作っていくのもこの園の大切な仕事です。母親への啓発的な意味をもたせているのでしょう、掲示板には「今週の献立」と書かれた横に、成長に必要な栄養素の図表やチップスやチョコレートなどのスナックや甘いお菓子を与えすぎないよう注意喚起するポスターが貼られています。

この園で目安とされている「離乳食」の内容について以下の表にまとめました。

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やはり、辛いものは提供していません。ほとんど日本の離乳食と変わらない印象を受けました。保育園の年中・年長組になると少しずつマサラやサフランやジンジャーやガーリックなどのスパイスが加えられていくそうですが、この園の給食にも、赤唐辛子(レッドチリ)は使用していないそうです。時々、乾燥した赤唐辛子をおやつ代わりにバリバリと噛んでいるインド人の子どもに出会うことがあります。乾燥していると生のレッドチリよりも辛みは少なくなるそうで、それほど危険なものではないといわれていますが、幼児期に刺激物を与えすぎない方が健康のために良いという考えが近年は浸透しています。

そして、この保育園に在籍する保護者25人に、筆者がアンケート調査を実施しました。こちらは「辛いものは好きですか?」「辛いものは毎日食べますか?」に対する母親と子どもの両者の回答です。

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このように、必ずしもインド人がみな辛い食べ物が好きというわけではないことがわかります。子どもの中には、辛い食べ物をほとんど食べない、または全く食べないという子どもたちが3割近くいましたので、幼い頃からの食生活や食習慣によって好みが変化していくことや家庭環境によっても辛い食べ物への嗜好は異なることがわかりました。

また、出身の地域によっても辛さの好みが異なります。 例えば、インド北部のパンジャブ地方などは辛い物をよく好んで食する人が多く、インド南部のケララ地方では、ココナッツミルクをふんだんに使用した甘めの食事を好む人が多いようです。北インドの方が南インドよりも辛い物をよく食べているというのは、インドではよく知られています。その中でムンバイは、インド国内の様々な地域から人々が集まる商業都市ならではの特徴として、宗教や文化の違う人々がそれぞれの考え方や生活様式で食文化も築いていており、人々の「辛さ」に対する考え方は全く異なっています。

たいていのインド人は、インド料理店で私たち日本人を見かけると「辛くないの?」「辛い食べ物は大丈夫?」と親切に声をかけてくれます。また、店員さんも「これは特に辛いからやめた方がいいです」などとアドバイスをしてくれます。特に子ども連れだと、食事中に何度も「大丈夫?」と様子を見に来てくれ、「辛すぎたら作り直します」とまで言って下さることもあります。これはインド人同士でも良く見かける光景です。

私たちのイメージとしてインド人は辛いものばかりを食べ、辛さへの耐性が強いという印象がありますが、実際には「辛さ」については、インド人ならではの配慮をしながら、他者とのコミュニケーションをとっているように見えます。

辛いスパイスは1歳を過ぎてから

インドの保健家庭省では、離乳食の時期にはあまり辛い物を摂取しないように予防接種の際の育児相談などで母親に注意喚起しているそうです。乳児期には、刺激物が口の中に入ると生理的にそれを受け付けず、反射的に舌で押し出したり、嚥下できずにむせるなど、呼吸器に関するトラブルに発展する可能性があるため、注意が必要です。小児科の問診時にも「辛いものは与えてないですね?」などとドクターが母親に確認することもあるそうです。一般的に、1歳を過ぎるとそれぞれの家庭の考えで、食事が与えられるようになるとのことです。

インド人の好む「マサラ」は独特な風味で、「これぞインドの味!」とうなずくスパイスです。「マサラ」はカレーにも入っていますが、インドのミルクティであるチャイに入っているスパイスだというのが一番わかりやすいのではないでしょうか。その「マサラ」を少しずつ離乳食のダル・ライスに混ぜていき、大人が食べている家庭の味に近づけていく方法がよくとられているそうです。

娘の通っていたインドのインターナショナルスクールのカフェテリアのランチメニューには辛いものと辛くないものがあり、子どもたちは自分の好みで辛いチャツネ(フルーツ等を煮詰めた甘いソース)をかけたり甘いケチャップをかけたりしていたそうです。このように個人によってばらばらの食文化をもつ国で、教育現場では「食育」をどのように扱うのかが興味深いところです。現在のインドでは「食育」は栄養バランスの教育が中心となっています。近年では、アレルギーへの関心の高さから、卵や牛乳をはじめオーガニック野菜や食品添加物の無添加の商品の需要が高くなっています。こうした食品への「安全」を求める声の高まりと同時に「辛さ」に対する意識も変化しており、特に高齢者においては、あまり辛い物を食べすぎると高血圧になり心臓に負担がかかることを示唆する論文や医療者の手記などが、SNSで拡散されたり新聞で紹介されたりしています。

今回は、インド人の赤ちゃんの離乳食について取材をしました。乳児期から辛いものを摂取するということはなさそうですが、1歳を過ぎたころから、家庭の中で少しずつ慣らされていくのだということがわかりました。しかし、同じ家族の兄弟姉妹でも辛いものは一切食べない子どもと辛い物を好む子どもがいるので、これは「語るに難しい問題」であることは間違いありません。

最後に、筆者は家族とともに再びインドの東海岸の都市、チェンナイへの転居が決まり、3月にムンバイからチェンナイに向けた引越しを行うこととなりました。現在、家財道具は現地に置いたまま、一時的に日本に滞在しているため、ムンバイの荷物を引越し業者さんに頼んで移送してもらわねばならず、リモートによる指示を出しての荷造り作業を行うこととなります。どうなることやら、無事に荷物がムンバイからチェンナイへと届くのかドキドキしています。

ムンバイで暮らした4年間で、子どもをとりまく環境の日本との違いやインドならではの伝統や習慣に驚きながらも、たくましく成長した家族の軌跡を改めて思い起こすと「語るに難しい国 インド」が以前よりも少し身近に感じられるようになっていたように思います。新型コロナの影響で突然、断絶されたムンバイ生活に未練を残しておりましたので、再びインドで生活を始めることができるというのは、とても嬉しいことです。

連載は、引き続き【インドの育児と教育レポート~チェンナイ編】として継続してレポートいたしますが、ムンバイのレポートはひとまずここで筆を置かせていただきます。拙いレポートではございましたが、読者のみなさまに少しでも現代のインド・ムンバイの生活様式や文化や教育について知っていただけたら嬉しく思います。次回は【インドの育児と教育レポート~チェンナイ編】をお届けします。ありがとうございました。「ダンニャワード(ヒンディー語でありがとう)」。



  • 注1 4月5日に追記。
筆者プロフィール
sumiko_fukamachi.jpg 深町 澄子 静岡大学大学院修士(音楽教育学)。お茶の水女子大学大学院博士課程(児童・保育学)にて発達支援及び読譜を中心とした音楽教育の研究中。
約30年間、子どものピアノ教育及び音楽教育に携わり、ダウン症、自閉症、発達障害の子どもたちの支援を行っている。2016年12月よりムンバイに移住。
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