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【11月】杭州幼児師範学院でチャイルドケアリング・デザインを発表

東アジア子ども学交流プログラム第3回会議を、10月31日、11月1日の2日間に亘って、浙江省の省都杭州の浙江師範大学杭州幼児師範学院で行った。

 

中国の歴史の中で10世紀から13世紀にかけて宋という王朝があったが、杭州はその南宋時代の首都であった。農業生産の活発な長江のデルタ地帯に出来た杭州は、各国との交流が盛んで、アラビア人、日本人、韓国人などが行き来していたそうである。あのマルコ・ポーロも訪れたという。

浙江省自体は海あり山あり河川ありの自然豊かな州であるが、杭州は風光明媚な西湖に接した街である。人口約660万の都市で、地下鉄こそないが、夕方になるとバスでメインストリートは喧騒を極めていた。しかし、成田空港から直行便で3時間、時差1時間という距離で、気楽に行けるプラタナス並木の落ち着いた街でもある。

中国といえば中華料理の話になるが、東京や横浜で有名な「楼外楼」というレストランがある。その元祖とも言うべき150年以上の歴史をもつ本場の「楼外楼」が西湖の岸辺に建っており、そこに招かれて、昔ながらの旧式の建物の中で本場の料理を味わう事が出来た。その中にあった草魚料理が有名で、確かに味も良かった。

たまたま結婚式の披露宴が開かれており、新郎新婦は正に日本と同様、タキシードに白いウエディングドレスでお客に挨拶をしていた。聞くところによると、花嫁は途中で中国服に着替えるそうである。招かれたお客の服装はまちまちで、お洒落をしている人も仕事着の人もおり、新郎新婦にお祝いを言っていた。

今回の会議には残念ながら初日しか出席出来ず、杭州幼児師範学院の先生方に大変ご迷惑をお掛けしてしまった。筆者は「チャイルドケアリング・デザイン」と題して、子どもの事を考え、子どもの視点に立って色々な「モノ」や「コト」をデザインしなければならないという話を申し上げた。その中で、ギリシャのアテネで1970年代後半に開かれた「ペディキスティックス(Pedikistics:子ども都市工学)」の話や、1981年、私が国際小児科学会会長を務めていたときに東京で開催した国際小児科学会のテーマ「子どもと都市」、今は亡き親友のProf. R. A. Aldrichがアメリカ・ワシントン州シアトルで1980年代初めに立ち上げた "Kid's City Project" 、そして六本木ヒルズの回転ドア事件の話などを申し上げた。

不慮の事故は、1~4歳、5~9歳の子どもではいずれも死因の第1位、10~14歳では第2位となっていることからも1)、都市とか建物のチャイルドケアリング・デザインは勿論必要であるが、そういった問題だけではない事も明らかである。特に、教育現場で多発している「いじめ」や「不登校」の問題をみると、学校の校舎は勿論であるが、それこそ教育技術、教科書、教具、教育制度などのチャイルドケアリング・デザインが必要な事は明らかである。もっとも、「いじめ」などは特殊であり、家庭や社会の在り方も考慮したチャイルドケアリング・デザインを考えなければならないのではなかろうか。

チャイルドケアリング・デザインの基盤理念として、「子ども学」がある。子どもに関係するあらゆる学問分野の研究者が一緒になって考えない限り、良いデザインが出来ない事は明らかである。事故などに関係するものでは工学系の研究者の協力が絶対に必要であり、また教育問題に関係するものでは、子どもが遊ぶ喜び、学ぶ喜び、そして生きる喜びいっぱいに育つ為に、脳科学系の研究者の協力が重要である。

以前にも述べた脳の三位一体学説からみると、大脳辺縁系の情動の心のプログラム、当然の事ながら楽しさ、喜びなどに代表される心のプログラムが、教育などで大きな役割を果たしている事が脳科学的に明らかになっている。また、小児科学の歴史の中では、愛情を充分受けられない子ども、特に乳幼児は育たないという事が昔から知られていた。

チャイルドケアリング・デザインの科学的基盤を、今こそ子ども学的研究によって充実させなければならない時にあると、杭州を離れる飛行機の中で思った。



1) 統計情報部「平成18年人口動態統計」

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