本稿は、2019年9月25~27日、インドネシア・ジャカルタで開催されたCRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)第3回国際会議にて行われた講演録です。
※肩書は当時のものです
マレーシアの幼児教育におけるSTEAM

2015年に私がマレーシアで行った研究をみなさんと共有させていただきます。スライドでお見せするのは、私が在籍する大学のスタッフ研究員が行ったPERMATAという幼児教育プログラムを開発するための予備調査の結果です。カリキュラムは、効果的なコミュニケーションスキル、環境に関する意識、プリスクールでもICT&STEM・STEAM教育を行うことを強調して、2025年までに全改訂されます。それではSTEMとSTEAMについてご説明しましょう。STEMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を意味しますが、これはただの頭文字というよりも、一つに統合された包括的な教科です。芸術(Art)を含めるとSTEAMとなり、これらの教科を統合することで、生徒は健全な一個人として、関連する知識や概念とスキルを身に着けることができます。現在、マレーシアの教育省は、読書(Reading)または宗教(Religion)を表すRを加えたSTREAMに力を入れています。STEAM教育は、21世紀において重要です。なぜなら技術的スキルだけでは十分といえず、人道的側面も必要だからです。

私たちの予備調査は、以下の4つの質問に答えることを目的として行いました。
- 幼児カリキュラム、主にPERMATAカリキュラムにおいてSTEMまたはSTEAM教育を導入することは実行可能か、または適切だろうか。
- 3-4歳児を対象にSTEM・STEAM教育を導入することは可能だろうか。
- 研究対象の3-4歳児の間で、興味、コミュニケーション、協調性と並んで、質問する、調べる、創る、振り返る能力におけるSTEM・STEAM教育の効果とは?
- 園内での幼児教育・保育者に対するSTEM・STEAM教育トレーニングが、保育者自身が認識している教育学上の知識、スキル、態度に及ぼす効果とは?
理論的枠組み
2013年、全米研究評議会は、STEM・STEAMスキルを必要とする職業が増加していることを発見しました。STEAM学習が加わることで、科学と技術の革新に人的価値が加わりました。幼児期の適切なSTEMカリキュラムは、子どもたちのやる気をひき起こし、基礎学力や理由付け、仮定、推測、アイデアの分析といった知的技術に精通させます。3E(調べる(Explore)、実験する(Experiment)、体験する(Experience))を通した遊びを基本にした学習である幼児教育PERMATAカリキュラムと、STEM(問題解決型学習)を融合することで、探究(Inquiry)および3C(共同する(Collaboration)、創る(Create)、コミュニケーションをとる(Communicate))を通して、3Eの概念をさらに掘り下げることができます。たとえば、子どもが水で遊んでいる場合、水を調べているのでしょうか? 水の実験をしているのでしょうか? 水の流れを体験しているのでしょうか? 水で濡れることを発見しているのでしょうか? 水はつかめないと理解できるでしょうか? 私たちは実験をするだけでなく、実際に体験してほしいのです。

ここで、問題解決型・探求型学習(Project-based Inquiry Learning: PIL)アプローチの、質問する、調べる(実験する)、創る(作品を設計し作る)、振り返るという4段階についてお話しします。一つ目の段階では、子どもたちは質問をし、その質問に基づいて2つの探求マップを作ります。一つは教科についてすでに知っているマップ、もう一つはこれから知りたいことのマップです。調べる段階では、実験等を通して先生と生徒がアイデアや概念を探ります。そこで学んだことから、創る段階へと移ります。たとえば、子どもたちがお湯の中にお茶やコーヒーの粉末を溶かして遊んでいるとしましょう。コーヒーを作っているときに、なぜ水は黒く変わるのでしょうか? 水は特定の物を溶かします。「溶解する」ではなく、「混ぜる」といった単純な言葉を使うことで、子どもたちは理解します。台所にある多くのものを使って、子どもたちに色を混ぜて見せることができます。振り返る段階では、出来上がったものについて話します。たとえば、水をろ過する、またはお茶を


次にモジュールがどのように作られたのかについてお話しします。まず、カリキュラムを見てみましょう。第1段階は、質問する、です。子どもたちには言語スキルがないため、完全な質問文の作成は教えられないとできないでしょうが、部分的な質問文を作ることはできるかもしれません。子どもたちは家庭で完全文を話すことを教えられていないため、できるものと期待すべきではありません。たいていは1単語か2単語、またはポツリポツリとした単語です。この水には何が起こったのでしょうか? どこへ行くのでしょうか? 先生は子どものアイデアを質問や文章に言い換えます。科学の概念とスキルをカリキュラムの中で特定する際に、カリキュラムの中で次に来る国語スキルを明らかにし、必要な技術的ツールと組み合わせてプロジェクトを考え、モジュールを作成します。私たち先生がモジュールを用いることで、その実験が実施されます。子どもたちが関連付けて作品を創れるように、モジュールはシンプルになっています。
研究チームが作成したSTEM・STEAMのワークブックには10のモジュールがあります。
プロジェクト1 | 輪ゴムで動く車 |
プロジェクト2 | 3R(減らす・Reduce、再利用する・Reuse、リサイクルする・Recycle) |
プロジェクト3 | テラリウム |
プロジェクト4 | 絞り染め |
プロジェクト5 | たい肥作り |
プロジェクト6 | 傘 |
プロジェクト7 | 鶏と卵 |
プロジェクト8 | ぼくの・わたしの船 |
プロジェクト9 | 紙 |
プロジェクト10 | Y字型パチンコ |
完全なモジュールセットとは、学習結果があり、アクティビティを実施するために、先ほど述べたような4つのステップがあることを意味します。この研究では、子どもたちへの効果を調べるために、事前と事後にテストを行いました。また、先生をトレーニングするため、そして発達に適した12のSTEMプロジェクト/モジュールの正当性を立証するために、3日間の総合ワークショップを行いました。
方法
調査対象は19か所のPERMATAセンター(幼児教育施設)における幼児教育者22人と子どもたち約160人を含みます。
結果
子どもたちへの効果については、質問する、調べる、創る、振り返るスキルのすべてにおいて改善が見られましたが、おそらく3-4歳児では質問を形成するスキルが完全に発達していないために、質問する、がもっとも低い数値になりました。
コミュニケーション能力と協調性にも正の効果がありました。先生たちは、特にPERMATAカリキュラムにSTEMを統合させる自分たちの能力について肯定的でした。STEMをPERMATAカリキュラムに統合することは可能であり、また、3-4歳児がSTEAMやSTEM教育から学ぶこともできるといえます。
たとえば、子どもたちが学校の近くで車を見て、おもちゃの車を調べます。知っていること、そして知りたいことについての探索マップを作ります。そして調べる段階に入ります。子どもたちはおもちゃの車で遊び、車のパーツの名前や、何人乗れるのかということを学びます。左、右、前、後ろ、上、下、タイヤ、ナンバープレート、数字といった概念を学びます。絵を描けば、それはアートになります。このように、美術、科学、算数/数学がプロジェクトの中で分かれているのではなく織り交ざっています。車の中の走行距離計や、ハンドルの形、タイヤの形などを見せてあげてください。信号機とは何なのか、信号はいくつあるのか? 車に関連する歌を歌ってください。車に乗る「ごっこ遊び」をしてみてください。子どもたちはまた、輪ゴムの特性である弾力性を学ぶこともできます。創る段階では、何をするのかを話し合います。車の設計、タイヤを作る材料を集めるなど。廃材を使うことで、プロジェクトの費用は安くすみます。ペットボトルやジュースの紙パックを切ったり、色を塗ったり、輪ゴムを結んだり、タイヤをなおしたり、古いCDを使ってタイヤを作ったりすることで、道具を使うことを学びます(先生の補助付き)。タイヤには他にどんなものを使うことができるのか? 子どもたちはおもちゃの車のパーツを数えたり、測ったりして作品を試します(技術)。子どもたちは、ものを作るとき、アイデアにあふれているのです。


振り返りの段階では子どもたちは作品について話し、先生と体験を共有し、次回どのようにしてまた作ることができるかと尋ねるでしょう。
この調査は以下のようにまとめることができます。
- 先生はトレーニングを受けたことでSTEM・STEAM教育について理解し、PERMATAカリキュラムで学ぶ子どもたちに教えることに対して自信をもつことができたと報告した。
- 3-4歳児は十分STEM・STEAM教育で学習できる発達段階にある。
- STEM・STEAMモジュールを使うと、「創る」と「振り返る」スキルが飛躍的に伸びた一方で、「質問する」と「調べる」スキルは、平均的な伸びにとどまった。
- この研究では、教先生と子どもたちがともに大いに楽しみ、プロジェクト後には達成感を得た。
- 子どもたちと先生がともにこの予備調査を通じてSTEM・STEAM教育について多くを学び、将来的にさらに関わりたいと報告した。
- 先生たちはSTEM・STEAM教育を既存のPERMATAカリキュラムに取り入れることは容易だと回答した。
- 先生たちは、自分たち独自のSTEMモジュールを考案できるよう、さらなるトレーニングを受けたいとも述べた。(自由回答形式の教員アンケートより)
まとめ
機会あるごとに、子どもの周囲にある概念をより理解させ、さらに探究させましょう。
- 機会さえ与えられれば、3-4歳児でもSTEM・STEAM教育で学ぶことが可能である。
- 研究で用いられたPIL教育学の4段階(質問する、調べる、創る、振り返る)は、STEM・STEAMを幼い子どもたちに教えるのにもっとも適している。
- 幼児教育カリキュラムには、STEM・STEAM教育の要素がすでに存在しているが、それを見つけて活用するのは先生次第である。
- STEM・STEAM教育は、一つの教科ではなく、意味のある体験を通じて子どもの包括的な発達を促すツールである。
提案
- 国のカリキュラムにSTEM・STEAMを統合させる指針が必要である。
- STEM・STEAM委員会を設置し、幼児教育提供者の間で導入と連携を促す。
- STEM・STEAMトレーニングと教員研修のための専門施設を設置する。
- さらに調査を行い、STEM・STEAM教育の導入に向けた政策のデータと園児と先生の能力に関するデータを収集する。
- すべての教育段階において、政府はSTEM・STEAM教育に対する投資を増やす必要がある。
- 学校や幼児教育施設でのSTEM・STEAM学習をサポートするために、国の主要産業組織の支援パートナーシップを増やす必要がある。
質疑応答
Q1:STEMに興味があり、これまでに小学校の3、4年と教員の調査を2回行ったことがあります。おっしゃったようにSTEMを導入することで、子どもたちに好影響があり、小学校や幼児教育段階でも導入されるべきだと思います。私の質問は、幼児期または幼稚園においてどのように工学の部分を取り入れるのかです。幼児教育の場でのSTEMの導入例はありますか?
A1:幼児レベルでの工学はデザインや組み立てが重要です。アートの側面ではデザインの色や飾りといった芸術的価値にフォーカスします。たとえば子どもが鶏小屋を作りたければ、プロジェクトの一つは鶏のライフサイクルと卵について学ぶことになります。子どもは鶏の羽を見たことがなく、足が何本あるかも知りません。鶏が卵を産んでいるビデオを見せてあげましょう。子どもが鶏小屋を設計する際には、飾りや色をつける必要が出てきます。工学ではないかもしれませんが、そこにはアートがあります。私たちが想像するような高いレベルの工学ではありませんが、この段階の子どもたちが手始めに取り掛かるには、これで十分です。
Q2:子どもたちは質問をすることに慣れていないためによい質問をすることができません。どのようにして子どもたちを促したらいいでしょうか。何かよいヒントはありますか?
A2:もちろんスムーズにはいきません。先生たちから、「園児たちを刺激し、質問を引き出すのが大変だ」と報告を受けています。文章にすらなっていないかもしれませんが、質問形式に誘導することは可能です。ゆっくりと訓練することができます。まず、子どもに「これについて知りたいですか?」と聞くと、子どもたちは、はい、または、いいえ、と答えるでしょう。答えられるように質問を変えてみてください。「鶏が木に住んでいるのか、それとも鶏小屋に住んでいるのか知りたいですか?」村では木に暮らす鶏もいますが、他の場所では鶏のために鶏小屋を作ります。 質問をさせるのは幼い子どもたちのSTEM教育におけるハードルです。子どもたちは読んだり書いたりできなくても、言葉を聞き、理解することができます。私たちは常に質問を使って話しかけることができます。リテラシーは読み書きだけから生まれるのではありません。私たちの今日の環境は、とても豊かです。心配しないでください。教えるというのはこういうことです。導いてあげてください。
Q3:STEM・STEAM教育プログラムをどのようにシェアし、広めているのですか?
A3:私立の園や保護者の間では、今では幼児教育の重要性を理解しています。保護者には声を大にしてその重要性を語り続けてもらう必要があります。保護者の口コミはとても大切です。保護者は、先進的なSTEM教育を行っている幼稚園に子どもを通園させたいと考えます。そのようにして広めています。