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分科会③:幼稚園の室外運動のデザイン(CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議講演録)

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司会者:馬 麗莉(華夏未来幼児教育グループ総園長)
登壇者:陳 冬華(天津師範大学教育科学学院、津沽学院特任教授)、翁 麗芳(台北教育大学教授)、鄭 芸(上海市特級教師、上席教育研究員、専門は幼児の健康分野研究)

科学的で規範的、かつ安全で効果が高く楽しい、中国の特色をもった幼稚園における体育教育の展開(陳冬華)

中国の特色をもった幼稚園の体育教育においては、その中で身体の鍛錬、教育を行うとともに、子どもの発達の機能を十分に引き出す必要があります。幼児の身体動作を発達させ、発育を促進し、体の質を強化すると同時に、品性、知恵、心理、美学、社会性などを全面的に発達させる教育を実施しなければなりません。

ところで体の質の強化についてですが、体の質とは一体何でしょう?体の質には体格、身体能力および適応能力が含まれます。身体能力とは身体の素質と動作技能を指します。現在では身体能力だけが重視され、体格が蔑ろにされています。成長や発育の特徴、また身体つきを考慮せずに教育が行われており、子どもたちの姿勢も悪くなっています。幼稚園の体育は、目的と計画、構成を考慮し、さまざまな形式で幼児の年齢的な特徴に適した運動を積極的に行う必要があります。現在多くの場所で行われている活動は、子どもの年齢的な特徴に合致していません。例えば、全国各地で子どもがローラースケートをしている姿がみられたり、フリースタイルのバスケットボールが全国各地で行われ、試合まで行われたりしていますが、こうした試合は少数の子ども向けであり、すべての子ども向けではありません。子どもの発達において体育の果たす役割は非常に大きく、最も大切なことは身体を強く健康にすることです。運動で身体を鍛えることにより身体の各器官系統が鍛えられ、心拍数と呼吸数が高まることで、各機能が発達・向上します。しかし科学的に行わなければ、子どもの心臓血管系統を損ないかねません。

運動は、子どもの知力の発達において良好な身体的土台を作ります。この時期に大脳が発達し、それは運動と直接関係しています。神経細胞の突起が分岐する数や情報伝達の速度は、運動と非常に大きな関係があります。

体育は幼児の情操教育にも重要な意味をもっています。活動において、子どもは先生のお手本を見て、リズム感を養い、さらに動きの美しさを感じ、美を創り出すことができます。美の意味は広く、現実的な美、社会的な美、自然の美、身体の美、運動の美、意志や品性の美、建築・設備や服装の美などがあります。幼稚園の体育活動は、子どもの心身の道徳的美の全体的な発達に重要な意味と役割があり、決して軽視してはなりません。

幼稚園の体育活動は、グループ教育を中心とし、個人での自由練習を組み合わせて、全体に対して教えると同時に個人に合わせて教えるという原則に沿って実施されるべきです。幼稚園では教えることが必要で、特に体育では、動作を教えなければうまくできません。体操を教えなければ、子どもはどのように体操をしたらいいのかわかりません。例えば高く跳ぶ、遠くまで跳ぶ、軽く跳ぶなど、ある動作をさせるには、模範を示してどのように跳ぶかを教えなければなりません。模範を示さなければ、子どもは自分で考えて間違った動作をしてしまうかもしれませんが、形が間違っていると後で修正するのは難しいものです。そのため教えることは絶対に欠かせません。教える時はグループ授業として集団で行い、目的を明確にし、するべきことを具体的に示し、教師が誘導しながらも幼児を主体とし、柔軟に教え、個人に気を配ります。周到に計画し、適切に教えなければなりません。そして授業で学んだことを、普段の屋外活動に広げていきます。つまり、教えることと活動することは不可分の2つの面なのです。

幼稚園の体育活動の内容は、子どもの成長や発育の特徴に適合していなければならず、もしも適合していない場合は健康を損ない、怪我をすることもあります。また、体育活動は科学的事実に基づき実践されるべきで、易しいものから難しいものへ、低いものから高いものへ、順を追って進められるべきです。選択する内容は子どもが好きなものだけでなく、子どもにとって必要な教育も行わなければなりません。勇気をもつこと、強くあること、団結、協力、規則を守ることを子どもに教えるのです。異なる活動には異なる方法があり、先に何をやって後で何をやるか、内容と順序を科学的な根拠に基づき配置し、さまざまな手段と方法を合理的に用いなければなりません。さらに重要なのは、授業の各段階間の移行を規範化し、周到に行うことです。教えることと学ぶことを結び付け、1つの形式にこだわらないことです。面白さと教育性を結び付け、子どもたちが楽しく面白く練習できるようにし、身体を鍛えると同時に知識と才能を伸ばし、よい教育を受けられるようにするのです。

さらに中国の特色ある幼稚園の体育は、中国民族の伝統文化を継承し発揚するものであり、中国の民族的、国民的なスポーツのエッセンスを十分に取り入れなければなりません。教育部の陳宝生部長は両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)において、学校文化の開拓について述べ、武術や太極拳などの伝統的なスポーツに言及しました。体育活動は高い目標をもって進めることが必要で、こうした高い目標の設定にあたっては、子どものレベル、環境、条件など、子どもの心身の発達に適合していなければなりません。

以上をまとめると、中国的な幼稚園の体育は、身体の健康と教育と発達の機能を十分に体現していくものでなければなりません。中国的な幼稚園の体育はグループ教育を主要な活動とし、自由練習を組み合わせ、さらに民族の伝統文化を継承・発揚しなければならず、科学的で規範的で安全で高効率で楽しいものでなければなりません。

幼児園の室外運動のデザイン--台北と東京の幼稚園の実際の状況から(翁麗芳)

台湾は2012年に幼稚園と託児所を整理統合し「幼児園」とし、「幼児教育及び保育法」および関連規定を公布しました。幼児園の保育と教育の内容には、発達段階に適切な環境と学習活動を提供すること、身体の動作、言葉、認知、美的感覚、情緒の発達および人間関係などの能力を発展させること、基本的な生活能力、良好な生活習慣、積極的な学習態度を養うことが規定されました。

新しい法規には、台湾の幼児園の教師が最も恐れる規定、「幼児園評価」があります。公立も私立も、幼児園はみな評価を恐れます。政策によって、5歳の子どもはすべて、政府の補助のうえで入園できることになっています。我々私立幼児園は、台湾のニュー台湾ドルで言うと、1ヵ月2万ドル強から3万ドル(約8~11万円)の月謝であり、1ヵ月にわずか5千ドル(2万円弱)前後の公立幼児園との差は大きいといえます。そして、もし幼児園が上記の評価で基準に達していなければ、政府から園への補助金は支払われないことになり、結果として保護者の負担は大きくなってしまいます。

台湾の公立幼児園の環境は、都市に住んでいても山の上の先住民地区でも大体同じです。その設備もほとんど同じです。台北を訪れる人は台北101(台北市信義区にある超高層ビル)に行くことが多いですが、ここで紹介する信義幼児園は信義区にあり、ここは台湾全体で最も地価の高いところです。しかし、この幼児園は公立なので、台北市の他の公立幼児園と費用は同じ、つまり安いのです。すべての公立と私立の幼児園は屋外の遊び場を設けなければならず、幼児園の教師は毎日子どもの記録をつけなければなりません。毎日記録をつけていたら、どうやって子どもたちと一緒に遊ぶのかと私はいつも思います。

実は中国大陸と台湾の幼稚園は、一世紀前に日本の幼稚園を模倣することから始まりました。これが日本の幼稚園と比較する必要がある理由です。今から紹介するのは東京都のとある私立幼稚園です。このような幼稚園は特に珍しいものではありません。我々が見学に行ったこの日本の幼稚園には、約百名の子どもがいました。日本の幼稚園の基本的な要素は子どもを自然の中で生活させることであり、彼らの屋内での遊びはしばしば屋外にまで広がります。例えばこま遊びは屋内用ですが、子どもたちは屋外に持っていって遊ぶこともあります(図1)。教師たちは3歳の子どもにはこの活動、4歳と5歳の子どもにはそれぞれこの活動をさせる、といったように、計画的に活動させます。彼らは夜にキャンプ活動を行うこともあり、屋内のものを持っていって屋外で食事をすることもあります。ピクニックと同じです。

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図1

さて、都市部の園の子どもたちが水泳をしたいと思った場合、どうしたらよいでしょうか?日本の幼稚園にはたいてい、ビニールの折り畳み式プールがあり、夏にはそれを出して遊びます。多くの台湾の教師は、子どもが木に登ったら危険だと思いますが、日本の教師はまったく思いません。日本には、高価と思われるよじ登るための遊具は必ずしもありませんが、自然の大樹や砂場や小屋があり、子どもたちはそうした遊びが好きなのです。(図2)

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図2

我々台湾の教師は子どもに多くの知識を教えますが、運動の面ではあまり教えず、多くの保護者は「さらに遊ぶ必要はない。遊ぶなら家で遊べばいい」と言います。この点が、日本の幼稚園と台湾の幼児園の大きな違いです。昔から、園は幼児が遊ぶための楽園でなければならず、現在も我々はそのように言っていますが、台湾と日本を比べると、やはりかなり違うところがあると私には思われます。

異年齢集団の自由選択運動の環境デザインに関する実践研究(鄭芸)

幼稚園の、異年齢集団の自由選択運動には3つの特徴があると思います。第1は「楽しさ」であり、幼稚園の自由選択運動は完全に幼児の興味に基づいて行われ、こうしたすべての運動は幼児が自分たちで主体的に行います。子どもたちは参加者であって審査員ではないので、自分がうまくできたかどうか心配する必要もないし、焦りや不安もなく、いかなる心理的ストレスもありません。第2は「開放性」であり、自由選択運動は45分という時間において、完全に「空間的に開放」されているので、子どもは自分で取り組む活動を選択することができます。子どもたちは多くの空間を自由に行き来し、協力し、活動中の規則について意識を高めることができます。第3は「総体性」です。自由選択運動ではホリスティックであることがより重視されます。子どもたちが自分で選択した運動には、非常に豊富な活動がさまざまに配置されるので、子どもの動作の発達も相対的にホリスティックなものとなります。また、子どもは活動の中でさまざまな運動を体験して、自分を守る能力を鍛えます。そのため、他の運動形式に比べて、子どもの発達に対する総体性、特に子どもの自主性と社会性の発達がより強化されます。

実践方法について、いくつかのポイントを述べます。第1に時間の配分です。我々は普通午前に約45分、週に1回行います。運動を特色とした幼稚園なら、2~3回でもよいでしょう。また、季節の変化や子どもの興味によって、自由選択運動全体の環境づくりに適宜調整を行います。第2に形式です。我々は基本的に3つのパターンを採っています。1つ目はクラスを単位とし、幼稚園全体の基本的な環境、材料、規則意識、行動とルートなどを子どもたちに理解させます。2つ目は学年を単位とするもので、例えば我々の園では年中組には8つのクラスがあり、その8つの教室ごとに設定された活動から自由に選択できます。また年長組には9つのクラスがあり、同様に9つの活動から自由に選択できます。3つ目は異年齢の子どもを交流させることを考慮した形式で、異年齢の子どもをまぜて編成することによって、幼児は多くの新しい方法や遊び方の経験を得ることができます。

場所の計画については、各幼稚園は間取りが異なるので、企画者は各幼稚園の現在の環境に合わせて各活動の数と活動内容およびシーンを合理的に配置する必要があります。まず自由選択運動はどのように構築すればよいでしょうか?我々は以下のように提案します。1つ目は動作に基づくものです。上海の就学前教育課程の手引きでは、我々が従来強調してきた「歩く、走る、跳ぶ、バランスを取る、くぐる、這う、投げる」から、現在は17の動作に拡張されています。追加された動作は、例えば、ぶら下がる、押す、引く、放る、受け取るなどです。その目的は、腰まわりなど、体の各部位の充分な発達を徹底させることです。そこで活動の内容を決めるとき、この17種の動作を自由選択運動でどのようにして十分に行えるかを考える必要があります。2つ目は運動能力によるものです。研究によると、幼児の運動能力の習得の速さを考慮すれば、ある1つの運動能力を中心にして他の能力の発達を同時に行うことができます。

次に規則の浸透です。自由選択運動では、幼児の自主性を伸ばすと同時に、規則に対する意識の浸透を非常に重視します。そこでそれぞれが自由選択運動において、どこから入ってどこから出るかといったルートについて、はっきりと提示しなければなりません。

幼児の体育活動の配置と考え方について、いくつかの具体的な提案をしたいと思います。第1に、おもしろみのある選択運動をデザインすることです。選択運動の内容にテーマ、ストーリー、ミッションを設けて、ミッションの達成を目標とし、幼児のやる気を引き出すのです。常に幼児の発達レベルを考え、常に選択肢を豊かにすることで、活動をよりおもしろいものにするのです。また、補助的な物を追加して材料の多様性を重視することも検討します。材料の選択においては、シンプルでおもしろく効果的であることを重視します。幼稚園にどのようにシンプルな材料を追加できるかを検討し、研究すれば、子どもたちは喜び、また使われる頻度も増えます。

第2に、チャレンジ性のある選択運動環境をデザインすることです。幼児に、運動を通して自分で問題を発見し、自分で解決するようにさせることで、遊びがうまく機能します。こうすることで、幼児の運動についての知恵や問題解決能力および思考力も発達させることができます。

チャレンジの1つ目は運動能力のチャレンジです。例えば高跳びでは、年長組はどの高さが適しているか、年中組はどの高さか、年少組はどの高さかを設定し、それが達成できれば、課題が有意義なものとなります。2つ目は、もっている経験へのチャレンジです。同じ年齢層であっても、年齢が下がるほど月齢間の運動能力の発達に差があるので、難易度にも差を設ける必要があります。特に異年齢の子どもが混ざっている場合は、よく考慮しなければなりません。年齢が混ざっているとき、設定する課題は、異なる運動能力の発達レベルを満たさねばならず、そこにはそれぞれがもっている経験の違いも含まれます。

最後は精神面のチャレンジです。これは選択運動において最も子どもたちの主体性が求められるもので、教師が指導するのが難しいものです。子どもたちの挑戦する気持ちを育てたいと思う時、教師は子どもたちに寄り添い、子どもたちとコミュニケーションを取り、その中から経験を得て、どのように考えたらよいか、少しずつ進めていく必要があります。


※この記事は、CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議の講演録です。

筆者プロフィール
Donghua_Chen.jpg 陳 冬華

天津師範大学教授、中国教育学会就学前教育専門委員会常任委員、中国児童フィットネス研究協会常任副会長、人民教育出版社カリキュラム教材研究所特別編著者。天津師範大学教育科学学院、津沽学院、就学前教育学院教授。

Lee-Fong_Wong.jpg 翁 麗芳

教育学博士。国立台北教育大学幼児と家庭教育学学科教授。教育の仕事に15年従事し、台北で就学前の教員養成に携わりながら、幼児園評価、養成プログラム評価のため、毎月一回台湾全島および離島へ出向き、現場指導を行う。台湾の早期教育過熱現象を、親・教育者・行政の三つの角度から観察、グローバル時代における子どもの教育とケア政策のあり方を研究テーマとする。
主要著書:『子育て支援の潮流と課題』(共著)ぎょうせい2008、『世界の幼児教育・保育改革と学力』(共著)明石書店 2008、『アジアの就学前教育』・『多文化に生きる子どもたち』ともに明石書店、2006 ほか

Yi_Zheng.jpg 鄭 芸

上海市特級教師、上席教育研究員。幼児の健康分野研究で著名な専門家。上海市第2期小中学校カリキュラム・教材改革プロジェクト、幼稚園カリキュラム基準構成プロジェクトメンバー。上海市第2期カリキュラム改革幼稚園運動教材編纂チームリーダー。国家レベル幼児家庭教育高級講師。
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