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【子どもから学ぶ:発達心理学への招待】 第1回 運動と心の発達

要旨:

発達心理学では、知識や経験が未熟な子どもを対象に、様々に工夫した研究を行い、人が環境からどのような影響を受け変化していくのかを検討しています。本連載では、現代的なトピックを取り上げながら、心理学者がこれまでに子どもから学んできた興味深い知見について、他の分野の研究内容にも触れながらご紹介していきます。

Keywords:
運動、発達、コンピテンス、早期専門化

今回のオリンピックでは、日本人選手の活躍のおかげで様々な競技の魅力に改めて気づいた方も多いのではないでしょうか。体育の日を含めたこの間の連休に、新たなスポーツにチャレンジされた方もいらっしゃるかもしれません。近年、子どもの運動不足による運動能力や体力の低下(中村,2011)が問題とされ、学校や自治体単位での取り組みが行われています。幼少期の運動は、身体ばかりでなく心理面の発達にも関わるものです。本稿では、主に幼少期の運動とスポーツに目を向け、心身の発達における意義について考えてみたいと思います。

子どものからだが危ない

文部科学省(2016)では、1964年からこれまで毎年、全国の小中学生を対象に「体力・運動能力調査」を実施しています。これによると、体力水準が高かった1985年に比べて2014年の小中学生の運動能力は、握力やソフトボール投げなど様々な種目で低下しています。運動発達の専門家である中村和彦先生(2004)はご著書である「子どものからだが危ない!」で、今の子どもたちの運動能力や体力の低下が将来の健康に関わると危惧しています。神経系の発達が著しい幼児期は、様々な動作を獲得してそれが身についていく時期とされます(Gallahue & Ozmun, 1998)。その時期に運動をあまりせずに自分の体の動かし方を知らず体力が低い子どもは、とっさのときに怪我を防ぐ動きができなかったり、病気への免疫力が低下してしまうと考えられるからです。

中村先生(2011)は、体の動かし方の発達を促す36の動作を提案しています。図1は、それらの動作の一部について日常的にどれくらいしているか、私たちの研究グループ(PEERSプロジェクト)が2013年から2016年にかけて、関東から九州までの地域にお住まいの約260名の4歳児に実施した調査結果をまとめたものです。図を見ると、「走る」、「跳ぶ」、「渡る」といった項目が上位に挙がっています。お父さんやお母さんと一緒に歩いているお子さんが、走ったり跳ねたり、大きめの隙間がある縁石を渡ってみたりと、普段の生活でよく見られる動作です。「投げる」や「蹴る」といった動作も多く、これは屋外でよく見られるボール遊びが反映した結果でしょう。

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図1 4歳児に見られる動作の比較
注:するは「よくする」・「たまにする」の合計、しないは「しない」・「あまりしない」・「経験がない」の合計


一方、「組む」動作の頻度は他に比べて少なく、男女間で統計的に比較すると女児の方がより少ないという特徴が見られます。ご家族や友だちと組み合うような遊びは、どちらかといえば男児にイメージしやすい動作ではありますが、4歳時点ですでに性差が生まれていることが伺われます。また、「まりつき」動作は男女ともに少なく、男児の方がとくに少ないという特徴が見られます。実は、この動作はオリジナルの36動作には含まれてなく、中村先生から個人的に、難易度の高い動作として薦められ作った項目でした。実際に幼児に「まりつき」をしてもらったある調査(佐々木・石沢,2014)でも、この動作は他に比べてかなり難しく、個人差も大きいことが報告されています。「まりつき」は眼と手の協応性とリズミカルな動きを必要とする複雑な動作ですから、大人でもやってみると難しいと感じる方がいます。「まりつき」ができるかどうかの違いは経験によるところが大きいようですから、ボールを使ってお子さんや年齢の低い子どもたちと遊ぶ場合には、投げたり蹴ったりするばかりでなく、地面につく動作をやってみるのも良いでしょう。

PEERSプロジェクトの調査では、友だちが多い子どもほどこうした動作を豊富に経験していることもわかっています。幼児期には、なるべく多くの友だちと男女が混じって遊ぶことで、色々な動作を経験して体の動かし方を学ぶことができると言えるでしょう。

習いごととしてのスポーツ

ご家族やお友だちとの遊びを通じて体を動かす以外に、近年では幼い頃から習いごととしてスポーツに取り組むお子さんも増えています。Benesse教育研究開発センター(2011:現ベネッセ教育総合研究所)が首都圏在住の小中学生がいるご家庭に実施した調査によると、小学校1年生でも全体の57.4%のお子さんがスポーツ系の習い事を、47.4%が学習系の習い事を、26.3%が芸術系の習い事を頑張っているようです。なかでも、スポーツ系ではスイミング(小学生全体で31.0%)が人気で、地域のスポーツチーム(21.7%)もおよそ5人に1人が所属しています。PEERSプロジェクトの調査(3歳時点では約340家庭、4歳時点では約260家庭)でも同じような結果であり、やはりスイミングが一番人気です。

この調査で、私たちが保護者の方にお子さんが習いごと(スポーツ系に限らず何でも)を始めたきっかけについて尋ねたところ、3歳から4歳にかけて本人の意思であるという回答が10ポイントほど増えていました(3歳:18.0%、4歳:29.5%)。幼児期においても年齢が上がるにつれて、ゆるやかに子どもが意思決定の主体になっていく様子が伺われます。

幼児期において習いごとが好きで楽しそうに頑張っている子どもは、コンピテンスが高いという結果も得られています(梅崎他,2014)。コンピテンスとは、「お話が上手」とか「数を数えるのが得意」など、人との関わりや学習、運動など様々な面での有能さを示すものです。同様の結果は、スイミングスクールに通う小学生を対象にした他の調査(佐々木,2009)でも得られており、積極的に取り組んでいる子どもがコンピテンス(この研究ではスイミングの有能感)が高く、自己受容感の高さにつながることが報告されています。

しかし、最初は自分でやりたいと思い、好きで楽しみながら始めたことであっても、そのスポーツに必要な動きばかり練習していると、他の動作が苦手になったり、そのスポーツが嫌いになって辞めてしまうこともあります。カナダのアイスホッケー・チームに所属する子どもを対象に、6歳から始めて中学生になっても継続している群と辞めた群を比較した研究があります(Wall & Côté, 2007)。この研究では、辞めた群は継続している群に比べて、アイスホッケーのパフォーマンスを上げるために低年齢の頃から筋力トレーニングや走り込みなどを多くやっていたことが示されています。子どもにとってこれらのトレーニングは楽しいものではないため、アイスホッケーをやりたいという内発的動機づけが低下し、興味をもてなくなってしまったと考えられます。

このように、幼い頃から特定の種目に特徴的な運動に取り組む早期専門化(early specialization)に対して、複数の種目に通じる多様な運動を試すことは早期多様化(early diversification)と呼ばれます(Wall & Côté, 2007)。トップアスリートの中には、早期多様化的な運動への関わりから大成したケースも少なくありません(Côté, Baker, & Abernethy, 2007)。日本人選手の例を挙げれば、北京オリンピックの男子400メートルリレーで銅メダルを獲得した朝原宣冶さんは、中学時代はハンドボールに所属し、高校に入学して本格的に陸上競技に取り組んだ際も始めは走り幅跳びが専門でした(中村,2011)。

大人が関わる際に大切なこと

このように、子どもたちには、様々な遊びやスポーツを通じて楽しみながら体の動かし方を学び、コンピテンスや自己受容感を高めながら、成長する過程で自分に合った種目を見つけてもらいたいものです。それには、周囲の大人がどのように接するかも大きく関わります(Petitpas et al., 2005)。親やコーチが勝利にこだわりすぎたりチームメイトと比較することが多いと、子どもは自己中心的で結果主義になる傾向にあると言われます。一方、子どもが努力する過程を大事にし、頑張っていることを褒めて、自分で考えさせる機会を増やせば、運動やスポーツばかりでなく他の生活場面でもポジティブな態度で過ごす子どもに育つと考えられます。

私は今も、機会があれば青少年たちと一緒にサッカーをするようにしています。すっかり動けなくなった自分をみじめに思う一方で、「子どもってすごいな」、「頑張ってほしいな」と素直に感じる大事な時間です。


引用文献

  • Côté, J., Baker, J., & Abernethy, B. 2007 Practice and play in the development of sport expertise. In R.Eklund & G. Tenebaum (Eds.), Handbook of Sport Psychology, (pp. 184-202; 3rd edition). Hoboken, NJ: Wiley.
  • Gallahue, D. L., & Ozmun, J. C. (1998). Understanding motor development: Infants, children, adolescents, adults. McGraw-Hill Humanities, Social Sciences & World Languages.
  • 文部科学省(2016)平成26年度体力・運動能力調査結果の概要及び報告書について http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa04/tairyoku/kekka/1261311.htm(2016年10月3日閲覧)
  • 中村和彦 (2004) 子どものからだが危ない!―今日からできるからだづくり 日本標準
  • 中村和彦(2011)運動神経がよくなる本-「バランス」「移動」「操作」で身体は変わる! マキノ出版
  • Petitpas, A. J. et al. 2005 A framework for planning youth sport programs that foster psychosocial development. The Sport Psychologist, 19, 63-80.
  • 佐々木卓代 2009 子どもの習い事を媒介とする父親の子育て参加と子どもの自己受容感-スイミングスクールを対象とした調査から-,家族社会学研究,21,65‐77.
  • 佐々木玲子・石沢順子(2014)観察的評価からみた幼児の基本的動作の習得度と評価の有効性についての検討,体育研究所紀要,53,1-9.
  • 梅崎高行他,2014 子ども期の社会性の発達に関する縦断研究プロジェクト(7)-子どもはいかにして習い事に出会いコンピテンスを育むのか-,日本教育心理学会第56回総会発表論文集, 520
  • Benesse教育研究開発センター(2011)第4回子育て生活基本調査(小中版)http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/kosodate/2011/hon/pdf/data_06.pdf(2016年10月3日閲覧)
  • Wall, M., & Côté, J. 2007 Developmental activities that lead to dropout and investment in sport. Physical Education and Sport Pedagogy, 12, 77-87.
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (首都大学東京 都市教養学部 准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、早稲田大学において博士(人間科学)を取得。山梨大学教育人間科学部を経て、現在は首都大学東京都市教養学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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