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研究室

第2回 体験型ソーシャルスキル・トレーニング(SST)の研究と実践

長田 有子 (CRN外部研究員)

2009年12月25日掲載

要旨:

子どもの人間関係のつくり方・保ち方を教える方法としてのソーシャルスキル・トレーニング(以下、SST)は、基本的には言語的教示によるものであった。しかし、就学前~低学年の軽度発達障害児においては、言語的教示では理解できない状態であるため、子どもにとって受け入れやすい音楽やメディアを使用した体験型のSSTを開発してきた。本稿ではこのSSTの臨床仮説を述べ、次に軽度発達障害児の集団精神療法における実践をもとにした検証データを紹介し、今後の課題等について述べたい。


※この原稿は、2006年に執筆されており、これに続く連載の内容と多少の違いがあります。あらかじめご了承ください。

本原稿は、2006年からCRN研究室内で連載予定の「体験型ソーシャルスキル・トレーニング(SST)研究室(仮称)」の第1回目にあたる。音楽を使用したケアデザインを発表しCRNの研究として幼児や低学年の子どもを対象に様々な実験研究を行ってきた著者は、独自に開発した発育支援のための体験型ソーシャルスキル・トレーニング(SST)を発達障害の集団精神療法や被虐待児の施設において実践してきた。その検証データや実践内容などを10回程度に分けてまとめる予定である。この体験型SSTプログラムは、日本子ども学会や日本音楽療法学会においても発表されている。


1. はじめに


注意欠陥多動性障害(ADHD)、非言語学習障害、特定不能な広汎性発達障害、高機能自閉症、アスペルガー症候群(AS)などの軽度発達障害の疾病をもつ子どもは近年増加傾向にある。一般児童の中にも6.3%(2002年文部科学省発表)の子どもに問題行動があると報告されており、不登校や集団性・社会性の欠如、人の心を理解できない、友だちと遊べない、アイデンティティの拡散、親子関係の葛藤など様々な問題が存在する。これらの子どもには二次的障害として自尊心の損失があり、対人関係に恐怖や不安を持った状態があり、誤った適応行動となるパターンを学習しているケースが多く見られる。

子どもの人間関係のつくり方・保ち方を教える方法としてのソーシャルスキル・トレーニング(以下、SST)は、これまで基本的行動として、あいさつ、自己紹介、上手な聴き方、質問する、仲間の誘い方、仲間の入り方、あたたかい言葉かけ、気持ちをわかって働きかける、やさしい頼み方、上手な断り方、自分を大切にする、トラブルの解決策を考えるなどを言語的教示によって教えられてきた。しかし、就学前~低学年の軽度発達障害児においては、言語的教示では理解できない状態であり、集団の中に入れない子どもにとっては、その場を共有することさえ困難である。これらの基本社会スキルは、経験してこそ身につけられるものである。そこで子どもにとって受け入れやすい音楽やメディアを使用した体験型のSSTを開発してきた。この体験型SSTは、軽度発達障害をもつ子どもの集団精神療法のみならず、被虐待児のセラピーとしても使用されている。まず、このSSTの臨床仮説を述べ、次に軽度発達障害児の集団精神療法における実践をもとにした検証データを紹介し、今後の課題等について述べたい。

2.「臨床仮説」


A. 超言語療法(Para Verbal Therapy)を使用する


超言語療法とは、エヴリン・ハイムリッヒ(Evrlyn Heimlich)によって開発された心理療法であり(Kenneth E.Bruscia 著「即興音楽療法」)、種々の表現メディア(言語、音楽、マイム、動き、心理劇、描画、絵画、コンピュータ)を使いながら、その時々の観察、アセスメントと治療を行う方式である。

この療法の特色は、言葉に障害のある子どものためにコミュニケーションのチャンネルを開くことにあり、コミュニケーション治療という目的のために種々のメディアや素材を用いるということである。柔軟性のない構造をセッションにはめ込んだり、その内容を固定したりするのではなく、その都度子どもからの反応によって柔軟にプログラムを変更しながらセッションを進めていく。この療法は言葉のでない子どもに対していかにコミュニケーションをとっていくかという視点から生まれたものであるが、子どもが興味を持ちやすい音楽やメディアを取り入れた方法により、容易に集団にとけこみ活動を促すことを可能とし、基本的社会スキルを学ぶ場を提供することができる。

B. 5つの領域によるセッションを使用する


セッション内容は、1)社会スキル領域、2)知覚領域(聴覚)、3)知覚領域(視覚)、4)粗大運動領域、5)行動・情緒領域、の5つの領域からなり、セッション中、児童の行動観察を行いながら領域を移行する。コミュニケーションチャンネル、メディア、役割の変更、あるいは他の局面を同一に保った上での素材の変更を行った。

(a) 超言語療法の4つの段階


1の段階
非言語的な音と動きでそのこと以外になんら関連性のあるものを持たず、リズムや言葉のないメロディーや身体の動きを創造したり再生したりする。

2の段階
何かを象徴したり意味したり言及したり子どもの感情に何らかの形で比喩的に関連づける非言語的な音と動きを使用する。人物や出来事や感情を描き出すために楽器、操り人形、粘土、ジェスチャー、マイムなどを行う。

3の段階
比喩を使って子どもの感情や問題に間接的に言及するような言葉をともなった音や動きと、子どもの感情に直接的に関連するような言葉をともなった音や動きを使用する。このレベルには治療に関係ないような、わき道にそれたおしゃべりも含まれる。

4の段階
子どもの感情、葛藤、あるいは問題に直接関係することを言語化したり、話し合ったりすることである。この段階ではセラピストは移行してさらに「出会い」の段階に進むことができる。

(b) メディアの選択

セッションの構成には音と動きの表現様式が含まれるが、音が主体か、動きが主体か、で使用されるメディアが異なる。子どもがどのような感覚様式(聴覚的、視覚的、触感的、運動感覚的)を使用するかまたは必要とするかによって選定される。

(c) 役割の決定

子どもとセラピストがお互いの関係においてどのような役割を担うかを決定することが重要な要因となる。1)役割が表出的であるか受容的であるか、2)リーダーの役割であるか、フォローの役割であるか、3)互恵的であるか同期的であるか、の役割を変更しながら進行する。

(d) 素材の選択

整然とした反応が得られるように構造化されているべきではあるが、自発性を促すような自由なものでなければならない。子どもの反応を受け入れるだけの柔軟性も必要である。感情や運動の緊張を放出するために十分に自由なものでなければならないが、その放出を抑制し制御できるよう構造化されている必要がある。興味を引き、注意力を維持させるだけの変化も必要である。

(e) 移行

移行とはコミュニケーションチャンネル、メディア、役割の変更、あるいは他の局面を同一に保った上での素材の変更である(図1)。図1は、一例としてあげるが、コミュニケーションモードから別のコミュニケーションモードへといかに多くの移行の選択技があるかを示したものである。開発されたプログラムはこれらのコミュニケーションチャンネルを変更しながらセッションを進める。

(f) 出会い

出会いとはコミュニケーションの作戦によって生じた感情的葛藤、問題、症状にセラピストが直面し、取り組み、解決するためのすべての試みと定義することができる。出会いにはコメントすること、明確化、解釈、直面などを含む様々な技法がある。

このSSTのセッションの中では、 これら(a) (b) (c) (d) (e) (f)の手法を応用し特別支援の領域 の項目からプログラム目標を導きだし開発する。表現メディアと共にCG(コンピュータ・グラフィックス)、コンピュータ・ミュージックも新しいメディアとして使用する。現代の子ども達にとっては、新しいメディアは非常に興味を持つ対象であり、容易に集中を促し、集団を伴った活動への導入となる。また視覚情報と聴覚情報を取り入れた活動は、意識的目的行動、情動行動、自律反応を多く導き出すことが可能である。

C. 特別支援マニュアル(LD・ADHD特別支援マニュアル 平成13年森孝一著)における社会性、視覚、聴覚、粗大運動、行動・情緒、の5つの領域からセッションプログラムを制作する


どのような機能に問題を抱えているのか、あるいはどのような対人関係に問題を持つのか観察するうえで、各セッション毎に課題を取り入れる。観察する視点は別紙のとおり。これらを各セッションプログラムの課題にし、実行させ、その反応を記録した。

D. スクリプトの埋め込みを行う


対人関係に問題を持つ子どもは、集団性、社会性の中にあるスクリプトを持ち合わせていない。そのスクリプトをセッションの中で埋め込むことを行う。例えば、遊ぶというスキーマの中には相手、ルールの存在、ルールを守る、勝ち負け、点数、話す、聞く、待つ、参加、拒否など様々の変数がある。それらの変数にデフォルト値を与え埋め込むことにより、共通の文法を持ち文脈を理解できるようになる。人間は、画像や音声が途切れていても、補って全体像を見ようとする本能がある。子ども達にとってルールがわからなくとも、とりあえず人のまねをしてみる、指示されるまで待っている、他者とのやりとりの中で葛藤しながらそれらを身につけていくことが可能である。個々が習得できていない集団性 、社会性の中にあるスクリプトのデフォルト値をあらゆる抽象度で埋め込みをする。どのスクリプトが埋め込まれるかはその個人によって異なる。また道徳的な社会ルールはセッション毎ごとにルールとして取り込み、実行されることによりご褒美シールがもらえるようにトークン式行動療法を取り入れた。

E. 復帰の現象


スクリプトは自分のもつ基準スクリプトと照らし合わせながら後で埋め合わせて理解することができる。再生時に基準スクリプトは、正しい順番に戻される。またスクリプトと特別なスクリプトは別々に保存されない。つまり後から埋め込まれたスクリプトは正しい順番に保存され、後から特別なスクリプトとして区別されることはない。例えばBというスクリプトが埋め込まれた場合には、しっかりとAとCの間に保存され、それは再生される時にはABCという順番になる。年少児は共有スクリプトを必要とするが、支えがなくともテーマを発展させるだけの能力を身につけているので一端獲得されたスクリプトは自らの中で応用させることができるのである。

他者との関係は、新規で恣意的な出来事であるので、SSTによって馴染みのある因果的な出来事になるようにセッションを組み立てることが大事である。一般に年少児は、出来事については記憶に頼るとされる。また人は因果的に物事を理解しようとする本能がある。因果的な出来事にすることにより再生率が高くなる。無関係な要素は順番が入れ替えられたり、忘れたりするので無関係にならないように因果性をもたせ、出来事にしたセッションの中でスクリプトに埋め込む作業を行う。そして楽しい集団としての記憶のぬりかえを行い、新たな自己概念の確立をすることが可能となる。

3. 結果と考察


行動観察を中心とした発達アセスメントに基づいた特別支援計画(LD・ADHD特別支援マニュアル平成13年森孝一著)を使用して、セッション前と後に親に子どもの状態を5段階にチェックしたリストの回答をもとめた。以下に10回のSSTの実行前と後においての参加者全員の平均値を図2と表1に示す。(2003年国立成育医療センターで行った軽度発達障害児のための集団精神療法において実地)

学習スキル、社会スキルにおいてwilooxon検定した結果、統計的にP<0.05の有意差が認められた。セッション開始2回後に友達と遊べるようになったり、登校できるようになったりした子どもがいた。さらに1回でも、間違った適応行動を改めることができる子どももいたことから、SSTにおける体験は、1回でもスクリプトを埋め込むことができると思われる。以上より、この10回セッションの結果として、就学前~低学年の発達障害の子どもにとって体験型SSTの社会スキルにおいての有効性は示された。

プログラムの有効性について


発達段階にあわせた、5つの領域における音楽を用いたセッションを10分程度で興味が持続する内容にまとめたものを1時間内にシーケンスして(つなぎ合わせて)行っているので、学校において問題行動を取る子どもでも、集中が途切れることなく集団行動を容易に行うことができる。

表現メディアを使用する超言語療法を使用することにより、意識的目的行動、情動行動、自立反応を多く導きだすことができた。また「ふりかえり」として良い行動を強化させるための「良い子悪い子表」を用いたが、良い子シールを貼られるとパニックになる子どもでも、対象操作による喜びを得ることができるプログラムにより、よい行動を強化して認識させることができた。その強化はスクリプトとして1回でも埋め込むことができ、行動修正をすることが可能となると考えられる。音楽を用いる体験型のSSTは、社会スキルに有意差を認めることができた。集団行動をとる事が困難であったり、社会的規範が理解できない子どもにとっては、エピソード体験となり、各自に欠けているスクリプトを埋め込むことができたと考えられる。またその事は、学校や友達関係において復帰されて再現された。

しかし、今後子どもの成長過程において、親の意識や、とりまく環境の変化に対応していくために長期にわたるSSTまたは、ペアレント・トレーニングが必要とされると思われる。SSTと同時にペアレント・トレーニングを行ったために、カウンセラー、医師、セラピスト、が連携を取りながら治療行為に及ぶ事ができ、親と子どもの関係の修復、親の意識改革も行われ、親子関係を再度構築する機会となり、治療体制において効果をあげている。

今後ますます子どもが自由に遊ぶ場がなくなり、さらに少子化の時代になる。核家族文化になっていく子育て環境の中で、異年齢の遊び集団が消失し、子どもにとって集団性、社会性が身につきにくい状況が生まれ、学級崩壊などの問題はさらに深刻化していくだろう。ゆえに集団性や社会性を習得することが困難な軽度発達障害をもつ子どものみならず、一般的に子どもにとって社会スキルが身につきにくい時代となっていく。今後さらに受け入れやすい音楽やメディアを使用した体験的に学べるSSTが就学前から実践されることも必要ではないかと思われる。さらにプログラムのCD-Rテキストを制作し、広く汎用されるようにしていきたい。なお、体験型SSTは、筆者が講師を務める「体験型ソーシャルスキル・トレーニング指導者養成・認定講座」などで受講することができる。

<SST関連文献>

L.ミチェルソン/D.P. スガイ/ R.P. ウッド/ A.E. カズディン「子どもの対人行動」岩崎学術出版 1987
L. マトソン/T.H. オレンディック「子どもの社会的スキル訓練」金剛出版 1993
森 孝一著「LD・ADHD 特別支援マニュアル」平成13年度版 明治図書出版
Kenneth E.Bruscia 著「即興音楽療法」人間と歴史社

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