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名誉所長ブログ

Koby's Note -Honorary Director's Blog
名誉所長ブログでは、CRNの創設者であり名誉所長である小林登の日々の活動の様子や、子どもをめぐる話題、所感などを発信しています。

過去の記事一覧

年末のご挨拶

2010年(平成22年)もいよいよ終わり、CRNは来年4月に設立16年目に入ります。ノルウェーのベルゲンで開かれた国際会議で、子どもに関心を持ついろいろな立場の人達が、インターネットのやりとりによって、子ども問題を解決し、世界のよりよい未来を築こうと話し合ったのが1992年、わが国ばかりでなく世界に向け、われわれもそれを実践しようと、ベネッセコーポレーションの支援を受けて、CRNの日本語と英語のサイトを立ち上げたのが1996年、続いて2005年には中国語サイトも立ち上げることが出来ました。

この15年間を思い出すと、月日の流れが如何に早いかを実感します。この間、いくつかの国際機関や外国の大学からも注目され、連携を深めています。CRNがよくここまで育ったものと感無量であり、ご協力、ご支援いただいた皆様には感謝の念で一杯です。

この1年間も、お陰様で、CRNの国際活動は活発になり、5月には、韓国・晋州にある晋州教育大学より、「子ども学研究所」設立計画のため招かれて、CRN所長として、子ども学の講演を行いました。7月には、中国・杭州で開かれた環太平洋乳幼児教育学会(PECERA)"Early Childhood Education in a Changing World" に参加し、「子ども学」という考え方を紹介しました。そして11月には、北京の中華女子学院にて「第6回東アジア子ども学交流プログラム」を開くことが出来ました。その冒頭のキーノート・レクチャーでは、子どもは遺伝の情報と文化の情報で育つことを、CRN所長として述べました。

もちろん、国内で開かれた7月の日本赤ちゃん学会、10月の日本子ども学会もCRNにとっては重要な学会でした。特に日本子ども学会に、米国NICHD(国立小児保健・人間発達研究所)で子どもの成長・発達と保育の関係を研究されたSarah Friedman女史(心理学者)をお招き出来た意義は大きいと思います。女史は、お茶の水女子大学、甲南女子大学、武庫川女子大学、NHK放送文化研究所、ベネッセ次世代育成研究所5周年記念シンポジウムでもご講演され、わが国の子どもに関心を持つ研究者にとって、子ども学研究の正統的方法論を学ぶよい機会になったと思います。

最近のIT技術や方法論の進歩に鑑みて、今年はCRNの3回目のサイトリニューアルを行いました。それにより、検索機能やコメント機能、記事のサマリーやキーワードも追加され、より読みやすく、またアクセスしやすくなったものと思います。

2011年も、この2010年のCRNの流れを継承し、一同力を合わせて、サイトのコンテンツを中心に、よりよいものにする所存です。皆様のご指導、ご支援何卒宜しくお願いいたします。

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読売新聞大阪本社の子育て支援事業

読売新聞大阪本社は、社会的意義の大きい子育て支援事業を行っている。20年程前に始まった「よみうり子育て応援団」と称する、子育ての専門家、研究者、さらに親の代表者などによる一般向けの講演会、相談会やシンポジウムのようなものである。それに加えて、5年程前から始まった事業もある。日本全国で行われている民間の子育て支援運動の中から、良い運動、ユニークな運動などを選んで表彰し、賞を差し上げ、専門家も派遣して運動を支援する「よみうり子育て応援団大賞」である。御縁あって、始めた当初から私も楽しくこの事業をお手伝いさせていただいている。

今年は、この11月13日(土)に応援団大賞などの授賞式と、「知りたい、みんなのしかり方」というテーマで応援団が大阪のドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)で行われた。

応援団の各賞は応募団体220程の中から5団体が選ばれた。大賞は京都市の「京都子育てネットワーク」(代表 藤本明美さん)で、京都にあるいろいろな子育てサークル約170団体を、「親には子育て仲間を、子どもには遊び仲間」をスローガンに、ネットワーク化したものである。

奨励賞としては、福井県坂井市にあるNPO「パパジャングル」(代表 荒巻仁さん)という、本の読み聞かせを軸に、父と子のキャンプ、運動会、山登り、料理教室、放課後の遊びや勉強などを行っている父親の団体と、北海道士幌町の「ぱん・ぱん・ぱんぷきん」(代表 松浪智子さん)という、特別に作った「子育て支援カー」で広大な農業地域をまわり、子ども達に土曜日の居場所を作り、移動図書館、移動教室などを行って勉強させる運動も展開している団体に賞が与えられた。

応募した団体はいずれもレベルが高く、優劣つけ難かったので、残念ながら賞金はないが選考委員特別賞を2団体に贈ることになった。熱心な話し合いと公平な評価によって、東京の世田谷区で30年程前から、子ども達に冒険あそびをさせる先駆的な活動をしている「プレイパークせたがや」(理事長 西郷泰之さん)と、福岡市で、商店街の空き店舗を利用して子どもをいろいろと遊ばせる運動を展開している大学生の団体「きんしゃいきゃんぱす」(代表 山下智也さん)であった。

応援団のテーマ「知りたい、みんなのしかり方」も、やりとりが活発で、時間の経つのを忘れる程であった。司会進行は、千葉商科大学の宮崎緑さんの見事な手さばき、口さばきによって行われた。参加した専門家の方々は、恵泉女学園大学の大日向雅美さん、母親として発言した女優の奥山佳恵さん、京都大学教授の心理学者である子安増生さん、子育て支援を実践していて、その昔応援団賞を受賞したNPOハートフレンド代表の徳谷章子さんであった。あらかじめ集めた質問を整理して、それに答える格好で行われたが、当日参加しているお父さんからの直接の質問も加わった。

話し合いの内容は、大変興味深く、私にとっても大変勉強になった。敢えて私の考えをもうひとつ加えるならば、お父さんとお母さんの二人が一緒に叱らないことも重要と思う。片方が叱ったら、しばしば一緒になることが多いが、片方は必ずサポーティブにまわり、折を見て何か良い事を誉めることである。お父さん、お母さんから一緒に叱られたら、子どもにとっては救いがなく、追いつめられてしまうと思うのである。

少子化が進み、子育て問題が多発する中、全国各地域で頑張っている子育て支援活動をサポートする、読売新聞大阪本社のこの事業の、草の根の力を強化する役割は極めて大きいものと思った。この11月13日土曜日の午後、楽しい半日であった。

(関係記事は、10月5日(火)、11月14日(日)、11月28日(日)の読売新聞大阪版朝刊に掲載)
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厚生労働省は、11月を「児童虐待防止推進月間」と決めている。もっとも、内閣府が決めた11月の第3日曜日の「家族の日」と言う日もある。お互いに関係なくはないが、「家族の日」は虐待と重ならない方が良いように思う。それは温かい感じの日にしたいと思うからである。しかし、お互いに御都合があるのであろう。

児童虐待防止推進月間の行事のひとつとして、11月9日(火)に、この春までお手伝いしていた子どもの虹情報研修センター主催で行われた公開講座「子育てとやさしさ」に招かれて話をした。私の講演タイトルは「やさしい親になるには~子ども虐待からマタレッセンスとパタレッセンスを考える」であった。

虐待する親を考えると、親になることの重要性は明らかである。生まれた子どもが、乳児・幼児・学童と育ち、思春期・青年期を経て大人になり、やがて結婚して親になる。女の子が親になる時がマタレッセンス(成母期)であり、男の子がなる時がパタレッセンス(成父期)である。

文化人類学者マーガレット・ミードのお弟子さんで、子育ての文化人類学を研究したダナ・ラファエル女史は、マタレッセンスの重要性を強調している。赤ちゃんを産んだ母親は、どちらかというとあまり注目されずに、ほとんどの周囲の目が生まれたばかりの赤ちゃんの方に向いてしまっているが、むしろ、なったばかりの母親の方をもっと大切にすべきだと言うのである。

公開講演で私が述べたことは、ひと昔前までは、赤ちゃんが生まれれば、自然に母親になり父親になったと思われているが、今では、なり損ねている母親、父親が多くなっている現実があることを学ばなければいけない。虐待する親はその中の大きなひとつの代表であると言える。

親になるには、本能的な生まれながらの心のプログラムや、小さい時の育てられ方などが関係するとよく言われるが、子育てをしている人を見たり、赤ちゃんにふれ合ったりする機会が、少子化社会では少なくなったことも関係しよう。その昔は、親の子育て、隣の人の子育て、子育てを助ける子ども達の姿などをよく見てきた。しかし、最近は子どもの数の減少とともに見る事は少なくなり、子ども同士で遊んでいる時でも、赤ちゃんをおんぶして遊んでいる子どもの姿は全くと言ってよい程、見ることはなくなってしまった。したがって、現在親になるには、子どもの時、子育てする親や他人の姿を見たり、学校教育の中で子育ての学習を体験したりすることも必要になってきたことを述べた。

そんな考えを持つようになったひとつの理由は、チンパンジー学者のJ.グッドールさんの話からである。ある時、グッドールさんに、チンパンジーの母親は自分の子どもを虐待するかと尋ねたところ、兄弟姉妹の末の方の女性チンパンジーでは起こることがあるとおっしゃった。子育てする姿を見る機会がないと、生まれ出たものが何だかわからず、驚き狂乱して、わが子を放出したりしてしまうのだそうだ。しかし、そんなチンパンジーでも、何回か妊娠・出産を繰り返すと、立派に子育てするようになると言うのである。すなわち、子育てのあり方を学ぶからなのである。

幸い、私のそんな話の後のスピーカーであった鳥取大学の髙塚人志先生は、小学校、中学校の子ども達ばかりでなく、医学部の学生、さらには社会人まで、赤ちゃんとのふれあい体験をさせる授業の話をされた。勿論、大学生や社会人になると、子育て教育というよりは、コミュニケーション教育を目的としていて、単なる子育て教育を越えている。話し言葉の通じない赤ちゃんとのやりとりで、コミュニケーションの基本を学ぶというのである。

重要なのは、髙塚先生が、子育て教育では、単に赤ちゃんとの接触ばかりでなく、理論的にカリキュラムを組んで、子ども達には特に礼儀作法を含めていろいろな方法で子育て教育を行っていることである。鳥取県や石川県では、全ての小学校、中学校でその教育を取り込む運動がおこっているという。少なくとも、少子化問題解決には有用で、全国的な動きになることを祈る次第である。
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食育はいつ始まるか、いつ始めるべきか

「食育」という言葉が、世の中を走り始める前、「食習慣はどのようにして出来るのだろうか?」といろいろと考えたことがある。それは、1970年代の中頃だったと思うが、ランセット誌に発表された、母乳哺育の論文を読んで、その発想に驚いたからである。

その論文は、母乳哺育の始めから、すなわち赤ちゃんが母乳を飲み始めた時点からの経過にともなって、分泌する母乳の成分を分析してみると、いろいろと変化が起こっていると言うのである。つまり、母乳中の脂肪成分の濃度は上がり、pHも上昇する、しかし、たんぱく成分にはあまり変化がないのである。これは、母乳の味(風味)が変化することを意味する。簡単に言えば、母乳の味はクリーミーになり、酸味は弱くなるのである。

この報告者は、この味の変化が、赤ちゃんに食事の始めと終わりを教え、食欲のコントロールに役立っているという。確かに、ミルクでは始めから終わりまで味は単一であり、始めも終わりもない。だから赤ちゃんはミルクを飲み続け、太り気味になってしまうのである。大学で小児科の助手をやっていた1960年代は、ある意味でミルク全盛時代であり、ミルク会社のスポンサーで行われた「赤ちゃんコンクール」の優勝児は丸々太った赤ちゃんであった。今で言えば、肥満児コンクールだったと言える。

ところが、11月の「母子保健」(母子衛生研究会発行)によると、食育の始まりはもっと早いというのである。微量ではあるが、母親の食事成分が羊水中に出ていて、それを飲むことで胎児は味を学んでいるというのである。確かに、味を学ぶには、味覚以外に方法はない。しかも、味のセンサーである舌の味蕾は、妊娠100日の胎児ではちゃんと出来上がっているのである。したがって、食育は胎児期から始まっていると言える。

一寸考えても、食文化は色々とある。わが国のような味噌・醤油文化ばかりでなく、インドのカリー文化、韓国の辛子文化などなど。したがって、それぞれの文化の中で、人間は生きていくために、それぞれの食文化の味のエッセンスを、胎児の時から学ぶ必要があるのかも知れない。

大切なことは、子ども達の食育に対するお母さんの責任として、おいしい料理を作り、テーブルを囲んで楽しく食事をする事は、勿論大切であるが、それだけではない。妊娠とわかったら、生まれて来るわが子のために、健康な生活をするばかりでなく、食生活も豊かにして、食文化の基本もおなかの赤ちゃんに教える必要があると言えるのである。特に、日本の食文化がいろいろと世界的に評価されている現在、その伝承のためにも、これは重要である。

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共生の医療、腸内フローラの医学

10月29日(金)、ヤクルト・バイオサイエンス研究財団主催の「腸内フローラシンポジウム」が開催された。毎年、この頃に開かれる恒例の会で、腸内フローラ(腸内常在細菌叢)という関心のあるテーマなので、可能な限り出席することにしてきた。

しかも、このシンポジウムは、歴史が古い。今回が19回目というから、20年程前から始まっている。もっとも、その前から、理化学研究所が主催で10回以上も開いたそうである。

いつものように今回もお招き頂いたが、今回のテーマは「腸内フローラとこどもの健康」なので、都合して全日参加した。何故「腸内フローラ」(以下IFと略す)に関心を持つかというと、小児科学の歴史の中では、第二次世界大戦前から取り上げられて来たテーマのひとつでもあり、戦後の免疫学の発達と共に、IFの果たす役割が腸管免疫と関連して、従来考えられていた以上のものであることが明らかになったからである。若い頃、私自身は、免疫学をライフワークにしようと考えていた事もある。

それ以外にも、もうひとつの大きな理由がある。医学の歴史によると、外からくる病気の原因として、一番最初に見つけられたのは細菌であり、したがって、医学歴史の中では、それを叩くことを中心にした治療法がまず大きく発達したのである。殺菌剤しかり、抗生物質(antibiotics) しかりである。しかし、IFは、腸の中で人間と共生して、お互いに助け合いながら生きている。人間の皮膚とか腸管以外の粘膜にもフローラ(常在細菌叢)はいて、それなりに役を果たしているのである。したがって、フローラを使った医療を、私は「共生の医療」と呼んでいる。今や社会は共生、共創の時代、学問も学際、文理融合の時代であるように、医療にも同じ考えのものが現れてきても不思議はないのである。

今回のシンポジウムでは、小児医療の中で、IFの細菌を選んで積極的に利用した成果が報告された。細菌を制する薬品を抗生物質、すなわちアンティバイオティクス(antibiotics) と呼ぶように、IFの細菌の中で、医療用に作られた生きた細菌製剤をプロバイオティクス(probiotics) と呼び、自然に得られる、IFのような細菌を増殖させる物質をプレバイオティクス(prebiotics) と呼ぶようになった。

今回のシンポジウムで取り上げられたテーマをみると、小児医療の現場では、まず第1に未熟児の治療ばかりでなく、赤ちゃんのいろいろな奇形の手術、小児癌などの治療で多発する感染症の予防と治療に、多くのプロバイオティクス、プレバイオティクス、それらを組み合わせたシンバイオティクスが利用されているのである。特に、母乳中にはプロバイオティクス、プレバイオティクスが存在するので、母乳哺育さらに母乳育児の重要性も、多くの発表者によって強調された。

第2は、アレルギー、すなわちアトピー性皮膚炎とか気管支喘息などの発症予防に、プロバイオティクスを生後早期に与えることが有効であるという報告である。

さらに、インドのコルカタ(カルカッタ)の恵まれない地域で、子ども達にプロバイオティクスを毎日飲ませると、飲ませなかった子どもより下痢にかかる頻度が有為に低下するという日印共同研究の成果も報告された。

今回のシンポジウムで最も驚いたのは、IFが心の発達に関係するのではないかという発表である。残念ながら医療現場の研究ではなく、マウスの実験である。生まれて間もなく、腸内細菌がちゃんと出来ないと、ストレスに対応する力が弱い、行動の発達が悪いというのである。実験動物とは言え、最近話題になっている発達障害の子ども達の増加を考えるのに重要なヒントになると思った。また、この数十年来の喘息の子どもの増加と発達障害の増加は、考えてみれば対比出来るかもしれないとも考えた。そのメカニズムはこれからであるが、腸は第2の脳であり、神経系を介して、さらにはIFの作る活性物質が第1の脳に作用しても不思議はないと思うのである。当然のことながら、プロバイオティクス、プレバイオティクスをとるために重要な母乳哺育も、あらためて役割を考え直さなければならない時にある。
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