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Koby's Note -Honorary Director's Blog

共生の医療、腸内フローラの医学

10月29日(金)、ヤクルト・バイオサイエンス研究財団主催の「腸内フローラシンポジウム」が開催された。毎年、この頃に開かれる恒例の会で、腸内フローラ(腸内常在細菌叢)という関心のあるテーマなので、可能な限り出席することにしてきた。

しかも、このシンポジウムは、歴史が古い。今回が19回目というから、20年程前から始まっている。もっとも、その前から、理化学研究所が主催で10回以上も開いたそうである。

いつものように今回もお招き頂いたが、今回のテーマは「腸内フローラとこどもの健康」なので、都合して全日参加した。何故「腸内フローラ」(以下IFと略す)に関心を持つかというと、小児科学の歴史の中では、第二次世界大戦前から取り上げられて来たテーマのひとつでもあり、戦後の免疫学の発達と共に、IFの果たす役割が腸管免疫と関連して、従来考えられていた以上のものであることが明らかになったからである。若い頃、私自身は、免疫学をライフワークにしようと考えていた事もある。

それ以外にも、もうひとつの大きな理由がある。医学の歴史によると、外からくる病気の原因として、一番最初に見つけられたのは細菌であり、したがって、医学歴史の中では、それを叩くことを中心にした治療法がまず大きく発達したのである。殺菌剤しかり、抗生物質(antibiotics) しかりである。しかし、IFは、腸の中で人間と共生して、お互いに助け合いながら生きている。人間の皮膚とか腸管以外の粘膜にもフローラ(常在細菌叢)はいて、それなりに役を果たしているのである。したがって、フローラを使った医療を、私は「共生の医療」と呼んでいる。今や社会は共生、共創の時代、学問も学際、文理融合の時代であるように、医療にも同じ考えのものが現れてきても不思議はないのである。

今回のシンポジウムでは、小児医療の中で、IFの細菌を選んで積極的に利用した成果が報告された。細菌を制する薬品を抗生物質、すなわちアンティバイオティクス(antibiotics) と呼ぶように、IFの細菌の中で、医療用に作られた生きた細菌製剤をプロバイオティクス(probiotics) と呼び、自然に得られる、IFのような細菌を増殖させる物質をプレバイオティクス(prebiotics) と呼ぶようになった。

今回のシンポジウムで取り上げられたテーマをみると、小児医療の現場では、まず第1に未熟児の治療ばかりでなく、赤ちゃんのいろいろな奇形の手術、小児癌などの治療で多発する感染症の予防と治療に、多くのプロバイオティクス、プレバイオティクス、それらを組み合わせたシンバイオティクスが利用されているのである。特に、母乳中にはプロバイオティクス、プレバイオティクスが存在するので、母乳哺育さらに母乳育児の重要性も、多くの発表者によって強調された。

第2は、アレルギー、すなわちアトピー性皮膚炎とか気管支喘息などの発症予防に、プロバイオティクスを生後早期に与えることが有効であるという報告である。

さらに、インドのコルカタ(カルカッタ)の恵まれない地域で、子ども達にプロバイオティクスを毎日飲ませると、飲ませなかった子どもより下痢にかかる頻度が有為に低下するという日印共同研究の成果も報告された。

今回のシンポジウムで最も驚いたのは、IFが心の発達に関係するのではないかという発表である。残念ながら医療現場の研究ではなく、マウスの実験である。生まれて間もなく、腸内細菌がちゃんと出来ないと、ストレスに対応する力が弱い、行動の発達が悪いというのである。実験動物とは言え、最近話題になっている発達障害の子ども達の増加を考えるのに重要なヒントになると思った。また、この数十年来の喘息の子どもの増加と発達障害の増加は、考えてみれば対比出来るかもしれないとも考えた。そのメカニズムはこれからであるが、腸は第2の脳であり、神経系を介して、さらにはIFの作る活性物質が第1の脳に作用しても不思議はないと思うのである。当然のことながら、プロバイオティクス、プレバイオティクスをとるために重要な母乳哺育も、あらためて役割を考え直さなければならない時にある。
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