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Koby's Note -Honorary Director's Blog

11月は児童虐待防止推進月間-親になることを考える

厚生労働省は、11月を「児童虐待防止推進月間」と決めている。もっとも、内閣府が決めた11月の第3日曜日の「家族の日」と言う日もある。お互いに関係なくはないが、「家族の日」は虐待と重ならない方が良いように思う。それは温かい感じの日にしたいと思うからである。しかし、お互いに御都合があるのであろう。

児童虐待防止推進月間の行事のひとつとして、11月9日(火)に、この春までお手伝いしていた子どもの虹情報研修センター主催で行われた公開講座「子育てとやさしさ」に招かれて話をした。私の講演タイトルは「やさしい親になるには~子ども虐待からマタレッセンスとパタレッセンスを考える」であった。

虐待する親を考えると、親になることの重要性は明らかである。生まれた子どもが、乳児・幼児・学童と育ち、思春期・青年期を経て大人になり、やがて結婚して親になる。女の子が親になる時がマタレッセンス(成母期)であり、男の子がなる時がパタレッセンス(成父期)である。

文化人類学者マーガレット・ミードのお弟子さんで、子育ての文化人類学を研究したダナ・ラファエル女史は、マタレッセンスの重要性を強調している。赤ちゃんを産んだ母親は、どちらかというとあまり注目されずに、ほとんどの周囲の目が生まれたばかりの赤ちゃんの方に向いてしまっているが、むしろ、なったばかりの母親の方をもっと大切にすべきだと言うのである。

公開講演で私が述べたことは、ひと昔前までは、赤ちゃんが生まれれば、自然に母親になり父親になったと思われているが、今では、なり損ねている母親、父親が多くなっている現実があることを学ばなければいけない。虐待する親はその中の大きなひとつの代表であると言える。

親になるには、本能的な生まれながらの心のプログラムや、小さい時の育てられ方などが関係するとよく言われるが、子育てをしている人を見たり、赤ちゃんにふれ合ったりする機会が、少子化社会では少なくなったことも関係しよう。その昔は、親の子育て、隣の人の子育て、子育てを助ける子ども達の姿などをよく見てきた。しかし、最近は子どもの数の減少とともに見る事は少なくなり、子ども同士で遊んでいる時でも、赤ちゃんをおんぶして遊んでいる子どもの姿は全くと言ってよい程、見ることはなくなってしまった。したがって、現在親になるには、子どもの時、子育てする親や他人の姿を見たり、学校教育の中で子育ての学習を体験したりすることも必要になってきたことを述べた。

そんな考えを持つようになったひとつの理由は、チンパンジー学者のJ.グッドールさんの話からである。ある時、グッドールさんに、チンパンジーの母親は自分の子どもを虐待するかと尋ねたところ、兄弟姉妹の末の方の女性チンパンジーでは起こることがあるとおっしゃった。子育てする姿を見る機会がないと、生まれ出たものが何だかわからず、驚き狂乱して、わが子を放出したりしてしまうのだそうだ。しかし、そんなチンパンジーでも、何回か妊娠・出産を繰り返すと、立派に子育てするようになると言うのである。すなわち、子育てのあり方を学ぶからなのである。

幸い、私のそんな話の後のスピーカーであった鳥取大学の髙塚人志先生は、小学校、中学校の子ども達ばかりでなく、医学部の学生、さらには社会人まで、赤ちゃんとのふれあい体験をさせる授業の話をされた。勿論、大学生や社会人になると、子育て教育というよりは、コミュニケーション教育を目的としていて、単なる子育て教育を越えている。話し言葉の通じない赤ちゃんとのやりとりで、コミュニケーションの基本を学ぶというのである。

重要なのは、髙塚先生が、子育て教育では、単に赤ちゃんとの接触ばかりでなく、理論的にカリキュラムを組んで、子ども達には特に礼儀作法を含めていろいろな方法で子育て教育を行っていることである。鳥取県や石川県では、全ての小学校、中学校でその教育を取り込む運動がおこっているという。少なくとも、少子化問題解決には有用で、全国的な動きになることを祈る次第である。
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