私がアメリカで勉強していた1950年代に、その昔は蒙古症と呼ばれたダウン症が、21番目の染色体が1本余計にあることが原因であると明らかになった。それは先天異常を中心とする新しい小児科学の始まりとなる大きな出来事だったので、今も印象的なこととして覚えている。
「ホーホー」の詩は、短いので、まず紹介しよう。
「ホーホー」 ホーホーとなきます。 パサパサととびます。 くらいところにいます。 さがしてみてね。 きょうのよる まっています。 |
最近の保育のあり方をみると、昔の保育とは大きく異なっていると感じる。私は医者であるので、身近な例として女性医師について話をしよう。
女性医師が結婚し、赤ちゃんが生まれると、まず問題になるのは保育園探しである。医師として仕事を続けるためには、赤ちゃんを預ける場所としての保育園が必須だからである。戦前であれば、医師の家庭は経済的に豊かで、生まれた我が子を世話する女中さんを雇い入れ、女中さんの住む部屋を用意することもできた。この頃、女中さんがいる家庭は少なくなかった。一方、1920年代に生まれた私が小学生の頃、今の保育園に当たるものは「託児所」と呼ばれていた。当時私は、この「託児所」を、生きていくために働かなくてはならない母親が仕事の間に子どもを預ける施設、つまり、社会的に恵まれない人々のための施設であると感じていた。
しかし、社会が発展し、豊かになるとともに、誰もが希望通りではないにしろ、学校に入り、勉強して、なりたい職業につくことが可能な社会になった。敗戦によるアメリカの占領政策の良い影響もあってか、日本政府は男女平等政策を進め、女性の社会参加が実現し、女性無しには社会が機能しなくなってきている。それに伴い、女性の働き方も多様化し、赤ちゃんを預ける時期や方法、産休・育休の取り方も人それぞれ異なるため、それに応えるべく、多様な保育制度が必要になっている。先進国のひとつとして、世界の経済もリードしているわが国の保育園は、女性の就業を可能にするだけでなく、男女が協同して社会を維持するための子育て支援システムとして考えなければならない時代になっている。このような子育て支援システムがなければ、現在の社会を機能させることができないのである。
さて、もともと「託児所」として始まった保育園であるが、その教育的側面について考えてみたい。何も知らないで生まれてきた赤ちゃんは、育っていく中で、食べることから排泄の仕方まで、生活に必要な心と体のプログラムを学びながら、発達する。それは、日々、生活を支援してくれる大人から教えられているのである。勿論、これらは、学校で知識中心に教える教育と同じではないが、広い意味で、「教育」の中に入ると言えるだろう。特に、乳幼児に対する教育は特殊で、学校に入ってから始まる教育の準備や、「しなければならないこと」「してよいこと」「してはいけないこと」などの「しつけ」も含めて、日常的に子どもの生活を支援する中で教えていく必要がある。私は今後、これを「保育教育学」として体系づけなければならないと考えている。
"ECEC"とは、"Early Childhood Education and Care"の略であるが、上述の私の考えを表現するのに適していると思った。私と同じような考えを持つ人が、外国でも主流になりつつあることは、大変うれしいことである。6月30日のECEC研究会を受けて、「保育」の中にある教育性を科学的に整理して新しい保育のあり方を体系づけることにより、現在問題になっている「幼保一元化」を、日本でも、なるべく早く実現して頂きたいと思った。
]]>
まず、開会式でご挨拶をさせて頂いた。はじめに、小児科医として「子ども学 "Child Science"」という考えに至った背景を述べ、つづいて、日本子ども学会10年の歴史について話をした。そして、子どもの体の成長と心の発達には「生きる喜び "Joie de vivre"」を持つことが重要であることを申し上げた。その「生きる喜び」を生み出す仕組み、特に脳の働きについて考える学問を「子ども生命感動学 "Child Bio-emotinemics"」 と呼ぶ私の考え方についても説明した。そして、おもちゃは、子どもを「生きる喜び」でいっぱいにする力を持っているが、このサミットの中で、その理由を考えて頂きたいと出席者にお願いして、挨拶を終えた。
つづいて、二つの基調講演を頂いた。榊原洋一CRN所長(日本子ども学会副理事長、お茶の水女子大学教授・小児科医)より「子どもの発達とおもちゃ」、春日明夫先生(東京造形大学教授)より「おもちゃは世界の文化財」というタイトルの講演であったが、いずれも内容豊かで、学ぶことが多かった。
午後は、二つのセッションが行われた。第一部は「遊びとおもちゃのセッション(発達・環境・福祉)」であったが、私は、第二部の「世界の遊びとおもちゃのワークショップ」のセッションが特に興味深く、個人的に関心をもった。
第二部の一つ目は、ドイツのPeter Hanstein先生のセッションであった。彼は、家庭と自然を大切にする心を柱に、木や竹を使ったおもちゃの会社「Hape社」を中国に設立して、世界の子どもたちに供給している。その体験を、おもちゃを作る理念と共に話された。二つ目は、タイのVitool Viraponsavan先生からのセッションであった。彼は建築家で、ゴムの木の廃材を利用しておもちゃを作る「Plan Toys社」を設立しており、おもちゃの製造を地球温暖化の防止に役立てることを考えていて、感銘を受けた。
日本国内ばかりでなく、外国からもおもちゃに関心を持つ沢山の研究者、学者が集まり、議論することができた意義は大きい。更に、「グッド・トイセッション」として日本グッド・トイ委員会が選定したグッド・トイの展示もあり、来場した人が、実際におもちゃに「触れる」「動かす」ことができた点は、特に良かったと思う。いろいろな視点から考えて、「世界おもちゃサミット」は、今後も続けていただきたいと思った。
]]>