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【実録・フィンランドでの子育て】 第6回 フィンランドでの出産

要旨:

この連載では、教育・福祉先進国と言われ、国民の幸福度が高いことでも知られるフィンランドにおいて、日本人夫婦が経験した妊娠・出産・子育ての過程をお伝えしていきます。フィンランドに暮らすって本当に幸せなの? そんな皆さんの疑問に、実際の経験を踏まえてお答えします。第6回の今回は、出産前から出産後、育児中にどのような手当やサポートがあるのかについて報告します。

キーワード:
ベビー・ボックス, 出産・育児手当, 妊娠出産, 子育て支援

これまでの連載記事では、妊娠が発覚してから健診を行ってくれるネウボラや、実際の出産の様子をお伝えしました。今回は、出産前から出産後にかけて、フィンランドではどのような手当を受け取ることができるのか、実際に受け取った感想も含めご報告していきます。

KELA(フィンランド社会保険庁事務所)

KELAとは、フィンランド国民及び在住者(ビザの種類によって一部除く)のウェルビーイングに関わる様々なサービスや手当てを提供する社会保険庁事務所です。出産・子育てに関わる手当てだけでなく、失職した際に提供される失業手当、所得が少ない場合に国から支給される住居手当、義務教育以後の高等教育を受けるために一定期間支給される学業手当、病気の際に医療費などを支援する疾病手当、所得がないあるいは少ない場合に一定の生活を保障する生活保護手当、障害や慢性的な病気を有する人を支援する障害手当、老後の生活を支える年金など、社会福祉に関わる様々な手当がKELAから支給されています。

母親手当と育児パッケージ

フィンランドの育児パッケージ、ベビー・ボックス(通称KELA BOX)は、聞いたことがある方も多いかもしれません。ベビー・ボックスは、出産に際しKELAから提供される母親手当の一つで、赤ちゃんの衣服や上着の他に、赤ちゃんのお世話に必要な体温計、爪切り、歯ブラシなどの道具や出産後の母親をケアするクリームなど、含まれているものは多岐に渡ります。2022年のパッケージでは、43点の異なるアイテムが含まれているそうです。箱自体にも底にマットレスが敷いてあり、ベビーベッドとして活用することができます。ボックスの中身は男の子でも女の子でも使えるような中性的なデザインになっており、毎年少しずつ改良されています。母親手当自体は、子ども一人に対しこのベビー・ボックスか、あるいは170ユーロの現金を選ぶことができますが、内容がとても充実しているため、特に第一子の場合にはベビー・ボックスを選ぶことが多いと思います。日本では、ベビー・ボックスはネウボラ(第2回参照)が提供してくれるものと誤解されている方が多い印象を受けますが、提供するのはネウボラではありません。ただ、母親手当あるいはベビー・ボックスを受け取るためには、ネウボラまたは医療機関で健診を受け、妊娠の証明書を発行してもらう必要があります。そうすることで、健診へきちんと足を運ぶよう妊婦に動機付けする意味もあるのかもしれません。

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KELAから支給されたベビー・ボックス(通称KELA BOX)

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ベビー・ボックスの内容
出産・育児休暇と手当て

 フィンランドでは、本人の希望に合わせて、出産予定日から数えて30〜50勤務日を産前休業として休みを取ることができます。私が二人目の子どもを出産した2021年(注1)には、母親には出産前後で合わせて105勤務日分の出産手当金が支給されました。父親は54勤務日を父親休暇として取ることができ、その間は父親手当金が支給されます。54日のうち18日は母親の休暇と一緒に取ることができますが、残りの日数はどちらか一方しか休暇を取れません。したがって、出産後18勤務日は母親・父親両方ともが休暇をとり、残りの父親休暇は母親が仕事に復帰するタイミングなど家族のライフプランに合わせて取るのが一般的ではないかと思います。出産休暇が明けると、育児休暇を取ることができます。育児休暇は父親または母親どちらかが取るか、交代で取ることができ、158勤務日分の育児手当金が支給されます。それ以降も、子どもが3歳になるまで親は雇用を維持したまま無給で育児休暇を取ることができます。出産手当金、父親手当金、育児手当金は前年度の所得から計算され、出産手当金ははじめの56勤務日分は給与の90%ですが、それ以外の日数、および父親手当金、育児手当金はおよそ70%となっています。前年度、学生などで全く所得がない場合でも最低額として1勤務日あたりおよそ30ユーロの手当金をKELAから受け取ることができます。日本では、正規職員として雇用されていないと育児休暇、育児手当金を受け取れないケースが多いと思うので、就労の有無にかかわらず出産後いくらかの手当金が支給されるというのは生活の基盤を支えるという意味でも心強いと思います。

上記に加えて、子どもが生まれた直後から、毎月の子ども手当金が支給されます。第一子がおよそ95ユーロ、第二子はおよそ105ユーロで、ひとり親の場合はさらに子ども一人につきおよそ50ユーロが加算されます。

手当てを受け取った感想

上記の手当ては、フィンランド国民であれば全ての人が享受することができますが、外国人の場合、在住する全ての人が受け取れるわけではありません。例えば、私が第一子を出産した際は、まだ修士学生でビザが学生ビザだったため、KELAの社会保険に加入することはできず、育児パッケージを含め上記の手当金は一切受け取ることができませんでした。しかし、ネウボラでの健診や出産費用はまた別で支給されているため、それらは第一子の時も無料でした。健診や出産費用がかからないだけで十分ありがたいと感謝していましたが、実際に育児パッケージや出産・育児手当金を受け取ってみると、さらにそのありがたさは増しました。特にベビー・ボックスは、最初の半年〜1年の間に必要な全ての道具がそろえられているので、オムツだけ自分で用意すれば、他のものは特に用意する必要がありませんでした。赤ちゃんが生まれてくる前に、自分で色々と準備する楽しみというのもあるかもしれませんが、出産前には色々なトラブルや体調の悪さがつきもので、必要最低限のものが準備されている安心感はとても大きいと感じました。衣類や道具だけでなく、KELA BOX自体も最初の1ヶ月はベビーベッドとして大活躍でした。デザインも可愛いので、ベッドとして使わなくなった現在は、おもちゃ箱として利用しています。必要なアイテムがそろえられていてありがたい、というのに加えて、こうした手当てやベビー・ボックスを受け取ることで、赤ちゃんが国から、社会から歓迎されている、サポートされている、という感覚をもつことができるのではないかと思います。

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実際にベビー・ボックスをベビーベッドにして眠る様子


  • 注1:2022年8月1日以降は新しい法律が施行され、母親手当、父親手当という呼び名が廃止されます。家族の形態に合わせて母親と父親がフレキシブルに休暇を取れるよう、家族全体に320日勤務日分(ただし、どちらか一方しか取れない日数が一定数決められている)の育児手当金が支給されるようになります。詳しいことを知りたい方はKELAのホームページをご覧ください。


筆者プロフィール
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矢田 明恵(やだ・あきえ)

フィンランド・ユヴァスキュラ大学博士課程修了。Ph.D. (Education)、公認心理師、臨床心理士。現在、ユヴァスキュラ大学およびトゥルク大学ポスドク研究員、東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員。
青山学院大学博士前期課程修了後、臨床心理士として療育センター,小児精神科クリニック、小学校等にて6年間勤務。主に、特別な支援を要する子どもとその保護者および先生のカウンセリングやコンサルテーションを行ってきた。
特別な支援を要する子もそうでない子も共に同じ場で学ぶ「インクルーシブ教育」に関心を持ち、夫と共に2013年にフィンランドに渡航。インクルーシブ教育についての研究を続ける。フィンランドでの出産・育児経験から、フィンランドのネウボラや幼児教育、社会福祉制度にも関心をもち、幅広く研究を行なっている。
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