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【ニュージーランド子育て・教育便り】第33回 デルタ株の市中感染と新警戒システムへの移行

要旨:

ニュージーランド・オークランド市では、2021年8月に新型コロナウイルスのデルタ株の市中感染が1件確認されてからロックダウンになり、2021年11月末時点で既に100日が過ぎました。政府は、これまでとられていた市中感染を抑え込むという方針から予防接種率を上げる方針に政策転換しました。そして、国民の2回接種率が90%に近づいてきた現在、新警戒システムへと移行してロックダウンを解除する出口が見えてきました。今回は、これまでの100日間の様子と、いかに接種率を上げてきたのか、またその間の子どもたちの教育についてとりあげます。

新型コロナウイルスのデルタ株の市中感染が1件確認されてから、オークランドはロックダウンに入り、本原稿を執筆している2021年11月末現在、その生活は100日を超えました。8月17日23時59分から9月21日23時59分までがレベル4という最も厳しい警戒レベルでロックダウンし、その後9月22日からはレベル3です。レベル3の中でも緩やかに規制が緩和され続けているものの、公式には現在もロックダウンという状況ですi。そして、先日ようやく新警戒システム(信号システムii)へと移行する方針が決まり、 12月2日23時59分から、従来の4段階の警戒レベルiiiではなく、後述する新警戒システムのもと、ロックダウンの出口が見えてきたところです。

【旧システム】4段階の警戒レベル

4段階の警戒レベル新型コロナウイルス感染症の蔓延状況
レベル4
(最高レベルのロックダウン)
市中感染が発生している。ウイルスの拡散、新規クラスターが発生している。
レベル3
(ロックダウン)
市中感染がある可能性がある。新規クラスターの発生の可能性があるが、検査や追跡によりコントロール下にある。
レベル2
(生活に制約あり)
家庭内感染の発生の可能性がある。個別の単発クラスターのみが発生している。
レベル1
(国境管理を除きほぼ日常通り)
海外でのウイルス感染が継続している。公共交通機関でのマスク着用のみ義務。


【新システム】信号システムの3段階

脆弱な人々と医療システムを守るために対応を要する状態
オレンジ市中感染が増え、脆弱な人々がリスクにさらされ、医療システムに負荷がかかっている状態
市中感染が限られており、医療システムに余裕がある状態

この3カ月間でニュージーランド政府が行ったことは、市中感染を完全に抑えようとしていた方針からは変わり、将来的にロックダウンという手段を使わなくてよくなるように予防接種率を急速に上げるというものでした。この方向性は、デルタ株の市中感染が確認される前週の首相会見でも示唆されていたものですが、ロックダウン下で実際に実施され始めると、それに伴う人々の反応も、賛成から反対まで様々であり、ニュージーランドは、他国より1年遅れて本格的にパンデミックの困難さを突きつけられているような状況です。時間がたつにつれ、ロックダウン反対、ワクチンパス導入反対、ワクチンを義務とすることへの反対などのデモも各地で繰り広げられています。

ロックダウン開始当初、ワクチン接種については、オークランドでは1回目のみの接種者が国民の42%、2回接種者は25%という状態でした。このワクチン接種率をいかに上げたかという点ですが、当初はなるべく早く1回目のワクチンを希望者全員に接種させるという方針がとられました。もともと1回目と2回目の接種間隔は6週間が推奨されていましたが、2回目までの接種間隔を8週間に伸ばすことで、1回目接種のワクチンが若い世代までまわるようにしました。それが一段落すると、接種間隔を6週間に戻して、2回目の接種率を上げました。その後は、ロックダウンを終える条件として、ワクチン接種対象者の接種率90%が掲げられ、ワクチン証明の導入などが矢継ぎ早に取り決められ、最終的に接種率は90%近い数値になりました。来年度から教育・医療分野での従業員への接種義務化が導入されることも決まりました。接種率については、人種別にも統計がとられ、接種率の低いマオリやパシフィカの人々の接種率を上げることも重視されました。これはロックダウン解除と共に、接種率の低いコミュニティに集中的に被害が出ないことを目的としてのことのようです。現在、ニュージーランド全体で1回目のみ接種者は92%、2回接種者は84%となっていますiv

このようにして、3カ月でワクチン接種率を上げたニュージーランドは、先に触れた信号システムへの移行を予定しています。この信号システムとは、ニュージーランドのワクチン接種率が高いことを前提にした警戒システムで、一律に行動を規制していた以前のレベル分けとは異なり、ワクチン接種者と非接種者での行動制限が異なる点がポイントです。ワクチン接種者にはワクチンパスが発行され、これを見せることで生活の自由度が増します。サービス提供者にとっては、ワクチンパスを設けることにより提供できるサービスの幅が広がります。この警戒レベルは高い順から赤・オレンジ・緑と分かれています。赤を例にあげれば、ワクチンパスを使う場合にはレストランでのサービスには行けるが、使わない場合はテイクアウトのみ、ワクチンパスを使う場合にはスポーツジムに行けるが、使わない場合は行けない、高等教育はワクチンパスを使えば対面で受けることができるが、使わない場合には遠隔教育でしか受けることができないvといった具合です。詳しくは下記の表をご覧ください。

この状況ではワクチンを接種していないと、生活の様々な場面で支障をきたすことが予想されます。好意的に捉えれば短期間での接種率の向上に成功したと言えるのでしょうし、非接種の立場から見れば接種プレッシャーとあわせて、ワクチンを接種しないという個人の選択はほとんど尊重されていない状態ともいえます。

report_09_422_01.jpg

ワクチンパスの形状(印刷タイプの例)


表 信号システムの生活とワクチンパスによる制限などvi

  生活全般 ワクチンパスを使う場合 ワクチンパスを使わない場合
  • 飛行機、公共交通機関、タクシー、店舗、教育機関(Year4(8-9歳程度)以上)、公共施設におけるマスク着用が義務
  • 図書館や博物館に行くことができる(人数上限あり)
  • 職場に行くことができる(在宅勤務の場合もある)
  • 幼児教育や学校といった教育施設にいくことができる(予防策・制限あり)
【開催場所の規模により、最大100名まで行ける場所】
  • カフェ・レストラン・バー
  • 結婚式・葬儀・家での集まり
  • 屋内外のイベント
  • 美容院などの至近距離で受けるサービス
  • 会員制のジム、ダンス、武道など
  • 対面で高等教育を受けることができる(人数上限あり)
【適応される制限】
  • カフェ・レストラン・バーはテイクアウトのみ
  • 自宅(家の大きさによらず)や屋外での集まりは、25名まで
  • ライブなど屋内外のイベントへの参加不可
  • 高等教育については遠隔教育のみ
オレンジ
  • 飛行機、公共交通機関、タクシー、店舗、公共施設におけるマスク着用が義務
  • 図書館や店舗に行くことができる(人数上限あり)
  • 職場に行くことができる
  • 幼児教育や学校といった教育機関にいくことができる(予防策あり)
【制限なく行ける場所】
  • カフェ・レストラン・バー
  • 結婚式・葬儀・家での集まり
  • 美容院などの至近距離で受けるサービス
  • 会員制のジム、ダンス、武道など
【適応される制限】
  • カフェ・レストラン・バーはテイクアウトのみ
  • 自宅(家の大きさによらず)や屋外での集まりは、50名まで
  • 屋内外のイベントへの参加不可
  • 会員制のジム、ダンス、武道などは参加不可
  • 美容院などの至近距離で受けるサービスは利用不可
  • 飛行機におけるマスク着用が義務
  • 図書館や店舗に行くことができる
  • 職場に行くことができる
  • 幼児教育や学校といった教育機関にいくことができる
【制限なく行ける場所】
  • カフェ・レストラン・バー
  • 結婚式・葬儀・家での集まり
  • 屋内外のイベント
  • 美容院などの至近距離で受けるサービス
  • 会員制のジム、ダンス、武道など
【開催場所の規模により、最大100名まで行ける場所】
  • 結婚式・葬儀など
  • 美容院などの至近距離で受けるサービス(マスク着用・検温あり)
  • 会員制のジム、ダンス、武道など
(出典: The Crown, CC BY-NC-ND 4.0, "The COVID-19 Protection Framework"より筆者作成)

こうして大人の世界が目まぐるしく方針転換していく中で、我が家の2人の子どもはワクチン接種年齢に達していない小学生と幼稚園児のため、毎日の生活はこれまでのロックダウン時の状況と大差はありませんでした。小学生の娘には月曜日から金曜日まで時間割が作られ、遠隔教育が行われていました。遠隔教育の中でこれまでのロックダウンと異なる点としては、今回はあまりにも長引いたため、何回か自宅でテストを受けることがあったということくらいです。いくつか受けたテストは、全てオンラインで行われました。ただ、娘も当初の2カ月くらいは自己管理をして頑張っていたものの、3カ月目に突入する頃から加速度的に疲れが見えてきた気がします。これは娘に限った話ではなく、多くの子どもがあまりに長い期間通学していない弊害を感じていたようです。

こうした状況を踏まえてか、今まで原則的に遠隔教育としていたレベル3の段階にありながら、11月17日から小学校が再開しました。ニュージーランドの小学校は12月中旬で学年末を迎えるのですが、娘の小学校では、高学年と低学年を分ける分散登校という形で、学年末までに全ての子どもに対して10日間、学校に行ける日が割り振られました。現地の4年生(8-9歳程度)以上は、屋内ではマスク着用が義務になっています。また、2022年度からのワクチン接種の義務化を待たずとも、娘の小学校の先生方はワクチン接種率100%であり、学校再開前には陰性証明をとっているという連絡ももらいました。学校再開初日の娘は、一日が終わり帰ってくると、今まで見たこともないほど疲れており、体力の低下を見せつけられました。クラスメイトの中には、ロックダウン中、毎日2時間以上も家族でスポーツに取り組んでいた子どもが2人いたそうです。その2人を除き、下校時にはほとんどすべての子どもが疲れ切っていたそうです。

一方、幼稚園児の息子には、ロックダウン開始当初は、毎日ひとつ、推奨するアクティビティが、幼稚園との連絡もできる専用のウェブサイト経由で送られてきました。(このウェブサイトの本来の使用目的は主としてラーニングストーリーviiの共有ですが、先生方と保護者が連絡できる機能もあります。)できる範囲で参加するようにしていましたが、準備することも大変であったり、家にはない材料が必要だったりして、100%実施することはできませんでした。貸し出し用の絵本やおもちゃを先生が自宅の庭に持ってきてくださることもありました。ロックダウン後半になり、一部の生徒が幼稚園に戻れるようになってからは、月曜日に推奨アクティビティが、火曜日に絵本の朗読録画が送られてくる形になり、水曜日には先生とテレビ電話で会話するようになりました。息子の幼稚園では必要性の高い子どもたちを10名預かるという方針のため、優先順位の低い息子は先生にも友達にも会いたがっていますが、今のところ家で過ごしています。

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人と接触できないため庭に届けてもらった幼稚園のおもちゃと絵本

新しい「信号システム」が成功するのかどうかわかりませんが、大きな転換点になることが予想されます。この新制度の下での、教育や子育ての在り方はまた改めてレポートしたいと思っています。




筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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