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【カナダBC州の子育てレポート】第17回 宿題を見守る難しさ~算数を例に

要旨:

娘が小学1年生になると学校から宿題を持って帰ってくるようになりました。宿題を傍らで見守るうちに、保護者として宿題について考えたことをレポートにまとめました。特に算数に注目し、保護者として学習する側の子どもの立場に立つ難しさ、保護者自身が苦手意識をもっている教科の宿題を手伝うことへの影響、そしてオンライン算数ゲームに対する思いについて書いています。

キーワード:
算数、10進法、イメージ、オンライン算数ゲーム、宿題

娘がキンダーガーテンクラスに入ると、こちらの小学校(Big Kids School:日本でいう幼稚園/保育園の年長クラスから中学1年生までの学校)に通うことになるのだと親としては身構えてはみたものの、第8回にも記したようにBC州のキンダーガーテンクラスは園児から児童への過渡期の扱いで、子どもたちが勉強をしている感じはなく、これからの学校生活への準備を行っていました。

その分、「小学1年(グレード1)からこそ真の小学校生活が始まるのだ」ということを、学校のスタッフや周囲の保護者からこれまでも何度も耳にしていたために、去年9月に娘が1年生になった際には、教室内でどんなことが行われるのだろうかと気になり始めました。BC州の公立学校には日本のように一律の教科書が存在しておらず、カリキュラムに沿った内容で授業が進められるということは第15回のレポートに書いた通りです。教科書がないと教室で行われている学習内容が保護者によく見えません。新型コロナウイルスの影響で学校内に保護者が入ることもなくなり、ボランティア活動も行えず、PTAのような保護者会のミーティングもすべてオンラインへ移行したことで、娘の学校における様子はますます見えにくくなりました。今年のはじめ、新型コロナウイルスの感染者数増加を見守るために冬休み後に1週間ほど自主休校をさせた際、担任の先生からお休みの間の勉強としてプリントを受け取りました。そのときに、算数の計算、英語読解、スペリング、天気やカレンダーの見方(自分でその月のカレンダーを作り、月の名前や曜日、天気などを書き込む)といった内容を見て、なるほど確かに勉強らしいことが始まったのだとわかり、これが1年生から本当の小学校生活が始まると言われる所以なのだろうと理解しました。

娘が持って帰ってくる宿題を見ていると、娘の担任の先生はなかなか学習に対して綿密で厳しい様子です。娘のクラスは小1と小2の混合クラスであるため、去年のキンダークラスに比べるとクラスメートも大人びています。1年生と2年生で学習内容のレベルが異なりますが、生徒個人の進度に合わせて融通を利かせている部分もあるようです。娘の宿題はきっちり1週間分まとめて出されます。月曜日から木曜日までスペリングのプリントが1日1枚ずつ、オンラインで行う算数ゲームは毎日するように言われ、リーディングは1日に20分を目標とし、金曜日にはその週に習ったスペリングのチェックとしてミニテストが行われています。

新学期の初めは学校から帰るなりすぐさまプリントに向かい、喜々として行っていた宿題も半年が過ぎ、学習内容も少し難しくなってくると、帰宅してからもなかなか始める様子が見られません。始めてしまえば10分で終わってしまう宿題でも、低学年の子は、特に宿題に取り掛かるまでに時間がかかります。プリントを始めるまでに30分以上の時間を要することも常で、わからないところでつまずくと気分を損ねてやらなくなってしまうこともあります。以前、読書についてレポートを書いた回(第13回参照)で、多読の宿題では保護者の働きかけが子どもの読む力に関わってくるともいえ、保護者の責任が大きいと感じると書いたことがありましたが、宿題が毎日学校から出されるようになると、子どもが低学年のうちは、宿題は保護者と二人三脚で行うものなのかもしれないと考えるようになりました。

子どもによい成績をとって欲しいとまでは願わなくても、勉強面がその多くを占める学校生活において、またこれから15年近く通い続けることになる学校という場において、勉強ができないよりもできる方が、そして学ぶことが楽しいと思える方が、子ども自身が学校に行きたい、学校は楽しいと思えることにつながると、私は考えています。親心としては、宿題をしないために娘が授業に遅れたり理解が遅れたりすることを避けてあげたいと思います。また、「学習すること」自体に私自身が興味を抱いているため、娘と二人三脚で宿題に取り組むことは、娘が、そして今の小学生が、何を学んでいるのか、どう学んでいるのか、何が理解できていて何が理解できていないのか、何が好きで何が苦手なのかを知るよい機会だともとらえています。

このレポートでは、宿題を傍らで見守っていて保護者として考えたことに触れていきます。

まずは、大人である自分にとっては簡単な問題をどうして娘が理解できないのか理解できず、忍耐が切れてしまう点について。教師と生徒ではなく、親子関係であることもその要因ではありますが、相手の立場に立って物事を見る、考えることそのものが難しいです。たとえば、小学1年生の算数では、足して10になる数や、整数の足し算というようなところから始まり、つまずきやすい箇所としては、繰り上がりや繰り下がりの計算があります。娘の算数の宿題はオンライン算数ゲームばかりで、プリントがあるわけではなく、何を学習しているのかさっぱりわからないのですが、日本からの通信教育教材を使って計算問題などをしているときに「ミセスS(担任のS先生)が8や9は10にとても憧れていて、10になりたいんだって教えてくれた」「ミセスSは引き算で引けなかったらお隣さんから借りてきたらいいって言ってた」というようなことを話してくれるため、おそらく繰り上がりの足し算や、繰り下がりの引き算の勉強も授業の中でしていることがうかがえます。日常生活で10進法を用い、10を一括りにしていくことに何の抵抗もなく暮らしている中、子どもにとってこういった繰り上がりや繰り下がりの計算において、10のまとまりを作ったり、分解したりすることが難しい、という考えをめぐらす大人の方が少ないかもしれません。そして、問題の説明や教科の理解を子どもに促すのは教師にまかせて、親が宿題に付き合うといっても結局のところ、答え合わせだけにとどまることも多いのです。これくらいの計算なら、数をこなせば慣れてきてスピードも速くなり、問題ないと思って隣に座っていても、子どもはゆっくりと取り組んでいて、なかなか進まないことがよくあります。何度も同じ間違いを繰り返してはかんしゃくを起こしたりします。うまく付き合えずに「どうしてできないの」「さっきやったのに」「また同じことしてる」というようなフレーズが思わず口から出てきてしまうことを、多くの保護者が経験しているのではないでしょうか。

そんな折、私が受講していた算数関連の講座で「5進法の繰り下がりの引き算を『ベース5ブロック(5進法の算数ブロック)』と呼ばれる立体的な数直線のようなブロックを使って段階的に説明する」ということを体験しました。5進法の世界では、10のまとまりで考えるのではなく、5を一括りとします。よって数字は0、1、2、3、4しか存在せず、たとえば6749は5進法では203444(5)と表示されます。10進法で考えていた計算を5進法に当てはめていくわけですから、繰り下がりの引き算ではお隣さん家で10を借りてくるのはなく、5を借りてきます。繰り上がりでは10のまとまりではなく、5のまとまりを作ります。この体験をした際に、私は頭の中がねじられるような感覚を覚えました。と同時に、10進法という名前こそ知らないものの、その中で暮らしてきていても、初めて10のまとまりを概念として算数の中でとらえていくことの難しさや戸惑いを小学1年生は繰り上がりや繰り下がりの計算の際に感じているのだろうと気づいたのです。それはとても新鮮でした。5進法の計算を何度繰り返してもなかなかスピードも出ず、時に間違える自分に「さっきやったのに」とつぶやきます。段階を図表化し(ベース10ブロックならぬベース5ブロックを用いる)相手にわかるように説明するのはさらに至難の業でした。そして、できたときの喜びの新鮮さもまたひときわ大きく、子どもが計算を間違えずにできる気分というのはこういうものなのかと感じました。もちろん、すべての保護者に5進法の引き算や足し算を説明する時間も興味も強いることはできません。ですが、私にとってはいかに相手(子ども)の立場に立てていないのかを知らされたよい機会でした。

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ベース5ブロックを使った5進法の計算の考え方

もう一つは、低学年であればまだ問題はありませんが、保護者自身が抱えている教科への苦手意識ゆえに子どもの宿題と上手に向き合えないことがある点です。私の場合は、理数系が苦手です。私も夫も文系教科を得意としていて、読書や読解の宿題は娘がつまずいていても、そのつまずきからうまく誘導するようなヒントを引っぱってきて、学びを展開させることができる気がします。また、英語を外国語として学び教えたこともある私は、スペリングや文字探しなどで間違いやすい点などに気づきやすいのではないかと思います。今後も文系の分野であれば、娘が教科の内容を理解するだけでなく、それを整理して他の知識との関連性をもたせることができるよう、頭の中に仕舞う段階へともっていく、つまり納得するという望ましい学習の形に誘導するのに苦手意識はありません。一方で、振り返れば、私自身がこのように納得できる方法で勉強してこなかったと思う数学については、とにかく片っ端から書き込んで解いていく傾向があり、「これはこうすればいい」「こう覚えておけばいい」「とりあえず式や図をかく」となりがちです。こういう対応をすると、子どもはわからないとぐずって、親が真摯に向き合っていないことにも気づき、問題を放置するか、筋道立てて理解しないままに終えてしまい、次回も同じことが繰り返されることになります。

そんな矢先、また私が受講していた講座で、小学校中学校レベルの算数の概念が次々と視覚的に説明されていくという体験をしました。そして、この視覚的な数字の世界というのが私にとってとても心地良いという新たな発見に驚きました。先ほども述べましたが、足し算や引き算はベース10ブロックを用いて繰り上がりや繰り下がりがブロックモデルを使って目に見えるように表され、掛け算や割り算も同様に行われました。正負の数の計算には、チップモデル(Chip Model)と呼ばれる、白いチップを正の数、黒いチップを負の数として表す考え方があり、どうして(―6)―(―3)の答えが(―3)になるのかという点が、図になって分かりやすく説明されました。

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チップモデルと呼ばれる正負の計算の考え方

代数の因数分解には、代数タイルと呼ばれるものが登場し、そのタイルで綺麗な長方形を作ることで因数分解の概念が式ではなく、図で説明されました。数字という媒体を書き散らすことが数学の勉強で、イメージが大切なのは幾何だけだと思っていましたが、視覚に訴える例が初めに出されることで、あくまで私自身にとってではありますが、数のイメージが頭の中で展開されやすいと感じ、これまでの数字の羅列が華やかな絵になったようで、算数の世界が全く違って見えたのです。子どもが宿題等で伸び悩んでいるときに、その教科を苦手としてきた自分が無理やりやってきた方法ではなく、多面的に、時に自分にとってはもっともかけ離れているかのようにみえる方法で取り組むことができるのかもしれないと感じた機会でした注1

最後に、オンラインを使った宿題に対する私の見解です。娘の算数の宿題は、見ている限り、オンラインで行う算数のロールプレイングゲームという形で出されています(Prodigy.com注2。生徒がキャラクターとなり、それを操作しながら算数の問題をすることで敵を倒し、コインやアイテムなどを集めていきます。学校からユーザーIDが配られましたが、そこから有料と無料を選ぶことができ、有料を選んだ場合は毎月9ドル程度でコインやアイテムなどの種類や数が増えていくような遊び方(学び方)ができます。対象学年は1年生から8年生までで、BC州のカリキュラムの内容が反映されていて、ユーザーの習熟度によってコンピューターが出してくる算数問題のレベルが変わります。保護者や教員は成績レポートも見ることができます。画面の中で学校のお友達に会ったり、そのお友達と算数ゲームで戦ったりすることもできます。しかし、私は娘にこの算数ゲームをあまり積極的にやらせる気持ちになれません。

まず、子どもが算数問題よりもゲームの内容に興味をもっている点が気になります。娘を見ていると、キャラクターを変身させたり、アイテムを増やしたりすることにエネルギーを費やし、算数の内容自体は二の次になっています。これまでゲームなどしたことがなかった娘は、この宿題を始めてから、ゲームの内容についてよく話をするようになりました。私自身がゲームをして育っていないので、こんなアイテムを手にいれた、画面の中で〇〇ちゃんに会ったなどと言われると、そのうち現実と架空の区別がつかなくなるのではないかと、親として不安にもなります。何よりも、確かに算数の問題を解いてはいますが、それは瞬間的な計算力を試されていることが多く、基礎となる暗算力は多少つくかもしれませんが、それこそ先ほどのように頭の中でイメージを描いたり、そこから連想し展開させ、構想を練り、手順を考え、他の内容と結びつけて発展させた思考をしていくという学習の本来の姿が削がれています。画面上にすでに絵が表示されていれば、頭の中でイメージする必要はありませんし、キャラクターが動いていけば、そちらに注意が向き、計算した内容に関する思考が発展しません。学習において一番大事な過程の部分がないのであれば、ゲームはゲームとして、学びは学びとして、分けた方がよいのではないかと思うのです。娘がオンライン算数ゲームをするときは、私も夕飯を作ったり、自分の用事をすることも多く、ときどき問題が難しくてわからないと呼ばれて手助けしますが、それは答えを出す手伝いをするだけです。娘は、正しい答えを私から引き出せれば満足で、あとは画面の中の世界のことで忙しく、一緒に悩んで宿題の答えを導き出すということにもなっていません。「あれこれ悩んで思考をめぐらすこと」こそが、宿題の大きな意味なのではと思うのですが。

宿題に対し考えをめぐらせましたが、私自身は宿題をする自分の子どもを観察し、その姿勢を学習する親でありたいと思いました。とはいえ、私は比較的時間に柔軟性のある働き方をしていますが、大半の保護者の場合、子どもの勉強を傍らで見守る時間的、精神的余裕がないのが現実なのかもしれません。


  • 注1. 算数にまつわるイメージ力については算数/数学の能力を伸ばす方法を書いた『数学に感動する頭をつくる』(栗田哲也、2011)が参考になる。
  • 注2.https://www.prodigygame.com/main-en/
    Prodigyは2011年にカナダはオンタリオ州、ウォータールー大学の学生が立ち上げ、今年で10周年を迎えた算数教育をロールプレイングゲームで行うオンラインプラットフォーム。1年生から8年生までのオンタリオ州公立学校の算数のカリキュラムに沿って作られた。登録するのもプレーするのも無料。地図の中から好きな場所を選び、ユーザーのアバターが旅をしながら敵を倒していく。戦いはすべて算数の問題で構成されている。通貨で衣装や武器を買えたり、ペットを購入したり、算数問題を解いていくことでパワーが増えるとペットが進化したり、使える技が増えたりする。算数問題はユーザーが選ぶことはできない。ユーザーの習熟度に合わせて問題が出されることで個人に適した学習が可能とも謳っている。
筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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