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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第5回 学童保育

要旨:

息子の通う小学校では、教師不足から時間割内に「自由時間」が存在し、その間、全ての児童たちは担当の保育士と過ごす。1-2年生の間は、専用の学童保育部屋があり、子どもたちは教室と学童保育の部屋を行き来して1日を過ごす。放課後の学童保育は基本的には毎日午後4時まで、小学校4年生までの利用で、料金は保護者の所得によって異なる。放課後の保育時間には様々なアクティビティが提供されており、多くの子どもたちが参加している。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、小学校、時間割、道徳、学童保育、シュリットディトリッヒ桃子

前回は小学校1年生のドイツ語の授業について説明をしてきましたが、今回は時間割の中にも登場する、ベルリンの小学校の学童保育についてお話しようと思います。

時間割内の学童保育

時間割を見て驚いたのは、水曜の1時限目は全教師が一斉ミーティングに入ってしまうことから、通常授業は行われないことです(「第3回」の時間割参照)。そこで児童には次の3つの選択肢があります。1)2時限目から登校する、2)外部の先生が行う道徳の授業に参加する、3)学童保育の部屋に行って保育士と過ごす*1

保育園に通っていた時にも、保育士たちの一斉ミーティングが保育時間に行われ、代わりに保護者が保育を行っており、当初は大きな驚きを覚えましたが(保育園編「第2回」参照)、義務教育の小学校では保護者が代わりに授業を行うことはないにしても、2時限目からの登校という選択肢があることに対し、やはり驚かずにはいられませんでした。実際はほとんどの児童はいつもと同じように1時限目から登校しているようです。

また、この時間には道徳の授業が行われていますが、これは選択制の授業なので、全ての児童が受講する必要はありません。外部の団体に委託し、講師を招いて行われているこの授業のテーマは「人間性」について。「自分はどういう風に生きていきたいか」ということを考える時間だそうです。考えることに重きをおいているので、「正しい答え」や「成績」といった尺度はこの授業では存在しない、とのことです。ちょっと哲学的なテーマですが、小学生対象の授業ですから、お絵かきなどのアクティビティも多く取り入れているそうです。一例としては、自分の名前について考えて、名前の由来の本を読んだり、考えたことを絵に描いて表現したりする、とのことでした。

道徳の授業に出席しない児童は、学童保育の部屋で保育士と過ごすことになります。息子のクラスでは息子を含む5名が道徳の授業を受け、その他18名は学童保育を受けているそうです。

水曜の1時限目以外にも、時間割の中に学童保育の時間(自由時間)が組み込まれています。この理由としては、ベルリンでの教師不足があげられます。通常は担任の教師が体育以外の全教科を教えるのですが、教師の数が足りないため、教師は授業をかけもちすることがあるのです。例えば、息子のクラスの担任の先生は、週3回小学校3年生の算数のクラスを教えなければならないそうです。その間、息子のクラスの子どもたちは全員、学童保育の部屋に移動して、時間を過ごすというわけです。

このように時間割の中に組み込まれている学童保育の時間(自由時間)には、放課後の学童保育の対象ではない子どもたちも一緒に保育を受けます。さらに、ほとんどの児童が学童保育を利用していることから、息子が通う小学校の1-2年生の合同クラスは1クラスにつき1教室、学童保育の部屋があてがわれています。例えば、ひまわり組の教室は4階にありますが、同じ校舎内の1階にもひまわり組専用の学童保育の部屋があります。ですから、自由時間や放課後になると、担任の教師が児童をこの部屋まで連れてきて、保育士へバトンタッチというわけです。このように、担任の教師と保育士は強く連携して、教育を行っています。ですから、息子のクラスの保育士は教師と同様に、クラス内の全児童のことを把握していますし、通常、朝から登校しています。

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「ひまわり組」の学童保育部屋の入口

放課後の学童保育

放課後の学童保育の対象は、基本的には両親が働いている家庭の子どもたちですが、親が大学や職業訓練校に通っている場合も利用可能になります。また、子どもの親がドイツ人以外である場合は、ドイツ語の習得のために学童保育の利用が強く推奨されます。ベルリンでは約半数の小学生の保護者は非ドイツ人ですので、実際にはほとんどの児童が学童保育を利用しているようです。利用料金は保護者の所得に比例しますので、各世帯によって異なります。

学童保育の使用については、基本的に4年生までです。しかし、特例として、認められれば小学校5年生まで利用できるそうです。申請する役所は保育園入所の申請と同じ、市の青年局になります。

ちなみに、息子の通う小学校では3年生になると、クラスごとの学童保育の部屋はなくなります。しかし、合同学童保育の部屋が3つあるので、そこで4年生と一緒に合同で保育を受けます。

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大きな窓から光が差し込む学童保育の部屋

保育時間に関しては、基本的に放課後午後4時までとなっており、ほとんどの児童はこの時間までに下校します。ただし、登校前の早い保育時間(6時から7時半、7時半から8時まで)と、遅い保育時間(午後4時から6時まで)サービスも特別に提供されているようです。息子のクラスではこれらの時間外サービスを利用している人はおらず、全児童が午後4時までに下校しているとのことでした。私が見る限りでは、ほとんど保護者が迎えに来ているようです*2。ベルリンではフリーランス勤務者が多いこと、また会社勤めでも、子どもが小さいうちは時短勤務をしている保護者が多いことから、この時間のお迎えが可能になっているのだと思います。

ちなみに息子もそうですが、お友達のスケジュールを聞いてみると、大体午後6時に晩御飯、午後8時に就寝、というケースが多いので、これらのスケジュールに合わせていることもあると思います。

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普段、宿題をしたり、おやつを食べたりするテーブルの上には、児童が作った折り紙が!

ところで、この放課後の学童保育時間には、外部から講師やインストラクターを招いて様々なアクティビティが提供されており、いくつかを選択して参加することができます。その内容は、サッカー、ハンドボール、ダンス、ヨガといったスポーツや、キーボード、フルート、劇、絵画工作、ベルリンの文化歴史、といった文化芸術活動や、英語、コンピューターなどの学習、さらに変わったところではサーカスの活動といったものまで、多岐にわたっています。

特にサーカスは、近くにサーカス団が常駐していることから、そこに出向いて空中ブランコやトランポリンの練習をしているそうで、その成果は年末の学校をあげての発表会でお披露目されていました。各活動は週1回行われており、ほとんどは無料です。講師が学校に来てこれらの「習い事」を提供してくれるとあって、どれも人気がある模様です。これらのアクティビティに参加しない子どもたちは、校庭や学童のお部屋で自由に遊びます。

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荷物は各自ロッカーへ入れる

入学当初は、親の私の方がこれらの様々なアクティビティに魅力を感じ、息子に体験レッスンを受けさせたりしていました。しかし、ある日、担当の保育士が「これくらいの年齢の時には、なるべくスケジュールに縛られないで、自由に友達と校庭で遊びまわるほうがいいんですよ。そうすることによって、生活していくのに必要な力、すなわちコミュニケーション能力や創造力が身に付きますから」とおっしゃいました。

入学までは「元気で楽しく登校してくれればいい」と思っていましたが、段々小学校生活に慣れてくるにつれて、あれもこれもと欲が出てくるのが親心なのでしょうか?そんな私にこの年齢時には何が重要なのか、息子の保育士が再認識させてくれました。保育士歴30年を超えるこのベテラン保育士には、折にふれサポートして頂き、本当に助かっています。

結局、「学童保育での習い事」に関しては、その後、息子本人や夫と話し合い、サッカーのみに絞りました。丁度、所属するサッカークラブのトレーナーが、学童保育でのサッカー教室にも来てくれることとなったからです。

考えてみれば、息子は既にサッカークラブと日本語補習校に通っているので、放課後のアクティビティはこれくらいで丁度よい模様です。聞くところによると、小学校3年生からは、大幅に宿題の量も増え、授業の難易度も上がるとのこと。それまでは、今のペースで、のんびりでもいいかな、と思っている今日この頃です。


  • *1 ベルリンの小学校には保育士が常駐しています。この保育士は保育園で働く保育士と同じ資格を持っており、息子の担当保育士は以前は保育園で働いていたそうです。
  • *2 ベルリンの小学校では、低学年の場合、安全上の理由から保護者が送迎することが通例です。詳細は「第24回 小学校見学(1)」を参照。
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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