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【11月】子どもの心の発達のために、もっと映像メディアを工夫しよう

先月の10月は、映像メディアと子どもの心の発達との関係を勉強する機会に恵まれた。 第1は、10月10日(水)の中山隼雄科学技術文化財団が研究費を出している大学などの研究機関の成果発表会、第2は10月18日(木)から25(木)までの8日間にわたって行われたNHKの「日本賞」発表の行事であった。

第1の中山隼雄科学技術文化財団の研究成果発表については、所長ブログNo.42で報告したので、ぜひお読み頂きたい。第2のNHK日本賞の発表に関係する行事では、23日に行われた「教育コンテンツ世界制作者会議 (IPCEM)」のスペシャル・ワークショップとIPCEMの開会式、そしてセッション1の「ニュース・リテラシー ~ニュースの受け手、送り手としての子どもたち~」とセッション2の「インタラクティブメディア・インパクト ~ゲーム:参加型コンテンツが制作に与える影響と新しいメディアとしての可能性~」に参加することができた。続いて、25日午後には受賞者の6作品のうち3作品を直接観たうえ、制作者の意見、また授賞理由などの説明を伺うことができて、大変勉強になった。 また、授与式、そして懇親会にまでお招き頂いた。

日本賞は、世界のテレビ放送のために制作された番組の国際コンクールで、全世界から公募したメディア放送などが、(1)幼児向け、(2)児童向け、(3)青少年向け、(4)生涯教育、(5)福祉教育、(6)イノベイティブ・メディアの6カテゴリーに分かれて審査される。今年の応募は合計400ほどあったと聞くが、最終選考に残ったのは、(1)で23、(2)で19、(3)で15、(4)で15、(5)で12、(6)で11だった。そして、それぞれからひとつの授賞作品が選ばれている。その中から、カテゴリーを超えて、最も優秀な作品にグランプリ日本賞が授与されるのである。

今年のグランプリ日本賞には、(5)の福祉教育カテゴリーの『皺(しわ)』(英語のタイトルはしわという意味の"WRINKLES")が選ばれた。老人ホームの人間関係を取り上げたスペインの動画作品である。元銀行員の老人が、息子夫婦に見送られてある老人ホームに入るところから始まり、いろいろな人生を歩んできた男女の老人たちと出会い、痴呆の進行と共に悲喜こもごもな出来事がおこる物語である。そして、その老人は亡くなっていくのである。動画で描かれた老人の表情、特に「しわ」がよく出ていて、齢をとっている者には、いろいろ考えさせられる作品であった。

子どもに関係して、この二つの会で感じたことを言えば、映像メディアの技術は、適切に利用すれば、子どもたちの心(知能も含めて)の発達にとって有用なものである、ということである。この技術を上手に使えば、子どもにとって心の発達に悪い影響よりも、良い影響の方が大きいことを、我々はよく考えなければならない。悪い影響があるからといって、良い影響の方を見ないのは誤りと考えるべきである。したがって、コンテンツの研究ばかりでなく、より良い技術の開発に努力することは、われわれ大人の責任でもある。 今年はアメリカから、ゲームの映像技術を蛋白質の構造の科学的解明に利用する研究さえ報告されているのである。

映像メディア、特にゲームには、子どもがのめり込むようになることを除けば、あまり問題はないと個人的に考えている。しかしそれは逆に、映像メディアが、子どもにとって、それだけ魅力的であることを示している。したがって、それを教育に利用することによって、楽しく勉強できるようになれば、考えられる以上の教育の効果を上げることができるのである。もちろん、ゲームによって中毒症状を示すようになることは、科学的に、さらには脳科学的に解明する必要がある。しかしそれ以上に、映像メディアが子どもたちの知・情・意の心のプログラムを、どの様に働かすことで教育効果を高めているか、脳科学的に明らかにすることも重要である。

幼児向けカテゴリーで出品された ベネッセコーポレーションの"Shimajiro's WOW!"が、前評判で高い評価を受けていたにもかかわらず、授賞しなかったことは、かえすがえす残念であった。次回は、ぜひ頑張って頂きたい。

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