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分科会④:デジタル(ICT)と就学前教育(CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議講演録)

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司会者:朱 家雄(華東師範大学名誉教授、博士課程指導教授)
登壇者:楊 寧(華南師範大学教育科学学院教授、言語学博士)、他

幼児教育におけるモーション・センシング・インタラクション技術(Motion sensing interaction technology)の応用(楊寧)

近年モーション・センシング・インタラクション技術、クラウド・コンピューティング、ビッグデータ、モバイル・インターネットなどの新技術が急速に発展し、経済の大きな変革を推し進めているだけでなく、教育の発展にも重要なチャンスと課題をもたらしています。「インターネット+(プラス)」と情報技術が急速に発展する時代にあって、幼児教育において新しい技術変革の波をどのように受け止めるかは、深く考える価値のある問題です。その中でも、モーション・センシング・インタラクション技術の幼児教育における応用は、我々にひとつの可能性を示していると言えます。

モーション・センシング・インタラクション技術とは、人間がジェスチャー、動作、声、目の動きなどを用いてコンピュータおよびその関連デバイスを操作し、コンテンツとインタラクションを行う新しいタイプのインタラクション技術です。モーション・センシング・インタラクション技術の出現は、マンマシン(人間と機械)・インタラクションの発展において画期的な意義をもつできごとです。従来のキーボードやマウス、マルチタッチによるマンマシン・インタラクション方式に続くものとして、モーション・センシング・インタラクションは「第三次マンマシン・インタラクション革命の原点」と呼ばれています。

モーション・センシング・インタラクション技術は新しいタイプの技術であり、その最大の特徴は、マウス、キーボードなどへの依存を減少させ、自身の身体がもつ能力に、ユーザーをより注目させるところにあります。さらに一歩進めて言えば、モーション・センシング・インタラクション技術が従来の入力デバイスおよびキーボード、マウスと異なる点は、ユーザーの身体を直接用いることにあり、最も自然、最も自由、最もフレキシブルな方式で、周辺デバイスとインタラクションを行います。

モーション・センシング・インタラクション技術の発展と応用の将来性をさらに考えてみましょう。2008年のインターナショナル・コンシューマー・エレクトロニクス・ショーで、ビル・ゲイツはナチュラル・ユーザー・インターフェース(NUI)の概念を提起し、キーボードやマウスが、より自然なタッチ方式、視覚型および音声制御インターフェースに徐々に取って代わられるだろうと予測しました。ビル・ゲイツがNUIを提起してから今日までのわずか数年で、「第六感」デバイス、拡張現実(AR)、マルチタッチ、カムボット(Cambot)技術、仮想現実(VR)、音声認識、モーション・センシング操作および脳コンピュータ・インターフェースなどのマンマシン・インタラクションの一連の新技術が相次いで誕生しています。現在すでにモーション・センシング・インタラクション技術は非常に広範囲で使用され、仮想アプリケーション、3Dモデリング、機械制御、バーチャル楽器、バーチャル・エンタテインメント、バーチャル実験、ゲーム管理、リハビリ・トレーニングなどの多くの分野に及んでおり、教育や医療・リハビリ分野にも広範に用いられています。

モーション・センシング・インタラクション技術の幼児教育における応用を、我々は「体験型学習理論、場面化学習理論および身体性認知理論を基礎として、モーション・センシング・インタラクション技術および他のマルチメディア技術、3D技術および拡張現実(AR)技術などを教育過程に応用すること」と定義しています。モーション・センシング・インタラクション技術を取り入れた教育環境において、子どもたちは手を振る、身体を伸ばす、駆け回る、跳躍するなどのさまざまな身体動作によって3Dシーンにおける人や動物、および動く物体をコントロールし、これらとインタラクションを行って、学習、体験、探索、運動およびゲームを一体化させます。

モーション・センシング・インタラクション技術を取り入れた教育の三大特徴として、「没入性」、「双方向性」および「娯楽性」についてご説明します。

まずは没入性についてです。モーション・センシング・インタラクション技術が創造するシミュレーテッド・リアリティのシーンや活動は、子どもたちとメディアの間の壁を打ち破り、子どもたちはゲームのシーンにのめり込み、「その場に身を置いた」かのような体験と感覚を与えるので、子どもたちは身体の感覚と注意力を最大限に活用して特定の役割を演じ、活動に完全に没入することができ、心理学者のミハイ・チクセントミハイが言う「フロー」の状態に入ります。

次に双方向性とは、モーション・センシング・インタラクション技術の条件におけるマンマシン・インタラクションであり、ユーザー(子ども)の動作とコンピュータが実現させる3Dバーチャル環境のリアルタイム・インタラクションです。また、この双方向性はバーチャル環境で多くの人がゲームを行う時に自然に発生する積極的な仲間同士のインタラクション、教師と子どものインタラクションおよび親子のインタラクションも含みます。

そして娯楽性です。モーション・センシング・インタラクション技術の教育製品はいずれもゲーム形式であり、娯楽性、ゲーム性に優れ、子どもたちを強く惹きつけるので、子どもたちの興味を十分に喚起し、子どもたちの活動と注意力のレベルを維持することができます。

モーション・センシング・インタラクション技術を取り入れた教育の主な働きは四つあります。第一に、子どもたちの体験と活動の範囲を広げることができます。例えば実物に近い3Dシーンを創り出して子どもを宇宙飛行士にしたり、子どもたちに潜水服を着せたりすることができます。第二に、子どもたちが身体を鍛えたり運動したりする効果的な方法と成り得ます。コンピュータゲーム、オンラインゲーム、スマホゲームに比べて、モーション・センシング・インタラクション技術は運動と強く関連しています。第三に、子どもの科学教育を「活性化」できます。第四に、幼稚園の安全教育の効果的な展開に役立ちます。モーション・センシング・インタラクション技術を導入すれば、幼稚園の安全教育は机上の教育に留まることがなくなり、教師は子どもたちに、バーチャルの中で、特定のシーンをリアルに体験させ、安全意識を自然に形成させることができます。

最後に、モーション・センシング・インタラクション技術を幼児教育に応用する場合の問題点と展望をお話しします。新しい事を取り入れようとするとよく直面することですが、モーション・センシング・インタラクション技術を幼児教育に応用するには、多くの疑問と課題が存在するのは疑いの余地がありません。しかし、人工感情(人工知能の一部)であっても、それが確実に我々にとって役に立つのであれば、あるいは困難な状況を解決したり、我々に欠けているものを補うものであるならば、それは確かに人間的であると言えないでしょうか。リアルであるかバーチャルであるかは重要ではないのです。モーション・センシング・インタラクション技術を取り入れた教育も「リアル」なのです。

モーション・センシング・インタラクション技術は幼児教育に用いることもできますし、基礎教育、医学教育、特殊教育、職業教育、リハビリ訓練など多くの分野に広く応用が可能です。モーション・センシング・インタラクション技術は開発の初期段階にあり、改善すべき多くの理論的、技術的問題が存在します。例えば、動作識別の遅延の改善、触覚フィードバック機能の改良、ユーザーの身体的疲労を検知し、それをフィードバックする機能の付与などです。また、モーション・センシング・インタラクション技術を取り入れた教育活動の設計においても、実践するとなると困難や倫理面でのリスクがあり、特に教育とゲームと運動をいかにして組織的に統合するかについては、多くの困難と課題があります。

これらをまとめると、モーション・センシング・インタラクション技術とそれを取り入れた教育は何といっても新しい試みであり、子どもたちにとって、現実の場面における体験や活動に取って代わるものではなく、幼児教育の作用を豊かにして補うためのものです。モーション・センシング・インタラクション技術のさらなる発展に伴って、それを取り入れた教育はより大きな活力とより広い将来性を示すことでしょう。


* 2015年3月、中国国務院総理の李克強氏により掲げられた新しい行動計画。モバイル・インターネット、ビッグデータ、IoTなどを駆使し、産業のモデルチェンジ、経済成長を促進すること。


※この記事は、CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議の講演録です。

筆者プロフィール
Ning_Yang.jpg 楊 寧

華南師範大学教育科学学院教授、言語学博士。華南師範大学教育科学学院・就学前教育主任を務める(2005~2013)。中国就学前教育研究会常務理事、学術委員。教育部、財政部「国家計画」専門家人材データバンクのメンバー。主要な研究対象は、児童教育の基本理論、学習心理、幼稚園教師の教育、幼稚園の質の評価など。
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