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研究室

子どもの発達を支援する環境を設計するために子どもの声を聴く(CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議講演録)

クリスティン・チェン(シンガポール幼児教育者学会代表)
ジェーン・リム(ミドルテネシー州立大学助教)

2017年7月14日掲載
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帰納的アプローチで子どもたちの世界を知る

本日ご紹介する調査は、子どもたちからデータを収集するために、モザイク・アプローチを用いた質的方法論を採用しています。モザイク・アプローチとはどういったものでしょうか。これは、研究において、子どもの声に耳を傾けるために、写真、堅苦しくないインタビュー、絵画や教室内の見学などを用いた、多様な方法論のことであり、クラークとモスにより開発されました(2005)。

今日お話しする調査では、子どもたちの声を「拾う」ために、フォーカス・グループへのインタビューと、子どもたちが描いた絵を用いました。休みの日に何をしたいかというテーマに加え、「嬉しい」時と「悲しい」時についても描いてもらいました。子どもたちの声をよりよく反映させるため、フォーカス・グループへのインタビューと、子どもたちの絵を組み合わせて分析をしました(トライアンギュレーション)。

調査の目的は図1をご覧ください。

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図1

調査サンプル

まず、シンガポールでは5つの園の43人の子どもたちを第1群としました。続いて、55園から225人が加わり、合計268人がこの調査に参加しました。第1群の子どもたちは一般的な発達段階にある子どもたちで、後から加わった第2群の子どもたちは読み書きの早期介入を受けている子どもたちです。

アメリカでは、テネシー州の2つの園を対象に行われました。社会経済的地位(SES: socio-economic status)の異なる2つの群をサンプルとしました。第1群は、男児8人、女児8人の計16人で、低所得層の家庭の子どもたちです。白人、ヒスパニック、アフリカ系アメリカンを含む、様々な民族によって構成された群です。第2群は、中流家庭の子どもたち、男児16人、女児14人の計30人で、ほとんどが白人の子どもたちです。アメリカからは、合計で46人がこの調査に参加しました。意図的に、2つの群を大きく異なるものにしました。社会経済的地位と民族の異なる2つの群の間で、子どもたちの物の見方を比較するためです。

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図2

子どもたちの絵から分かったこと

まず、シンガポールでは、どちらの群の子どもたちの絵も、遊びについて描かれていました。しかし、第1群の子どもたちが家族との楽しい時間を描いていたのに対し、第2群の子どもたちは友達との遊びを描いていました。一般的な発達の群と、読み書きの早期介入を受けている群とでは、遊び相手の選択に違いがあり、前者は家族、後者は友達との遊びを描いていました。この違いは、第1群の子どもたちの家族は、子どもたちと過ごす時間が多くある一方で、第2群の子どもたちの親は仕事などで忙しく、子どもたちは一緒に遊ぶ友達を求めているということを意味しているかもしれません。図3は実際の絵です。

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図3


次に、テネシー州をみると、やはりどちらの群の絵にも遊びが描かれていました。子どもたちの話した内容が絵に添えられていますが、それを見ると、遊んで楽しい時間を過ごしたことにより肯定的な感情が呼び起されることがわかります。第1群の子どもの絵(例1)は、外での遊びが描かれているのに対し、第2群の子どもの絵(例2)は、iPadや電話などの機器の使用が描かれています。この違いは、2つの群の社会経済的地位の違いによるものかもしれません。第2群の子どもたちはほとんどが中流家庭、第1群の子どもたちは、より社会経済的地位の低い家庭の子どもたちです。

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図4


では次に、子どもたちの「嬉しい」絵、「悲しい」絵を見てみましょう。シンガポールでは、子どもたちは家族と一緒にいることが嬉しいようです。図5の左の絵をみると、絵の中では一人ですが、"パパとママと小さい弟は別のところで砂のお城を作っている"ので、嬉しいようです。

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図5


図6は、テネシーの子どもたちが「嬉しい」瞬間を描いたものです。テネシーの子どもたちも、「お姉ちゃん」など、家族と遊んで過ごすのが嬉しいようです。シンガポールでもテネシーでも、子どもたちの「嬉しい」絵には家族が描かれていました。

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図6


では「悲しい」絵についてはどうかと見てみますと、テネシーの調査において、子どもたちの絵には、ブロンフェンブレンナーの言うところのメゾシステムに該当する、家庭と園という身近な環境間の関係性に、彼らがどのように影響を受けているかが反映されていました。

図7の左の絵を見ると、ヒスパニックの男の子が家から閉め出されてしまっています。この絵は、第1群の、社会経済的地位の低いご家庭のお子さんによるものです。このご家族が、子どもへの影響が避けられないような問題に縛られていることを示しています。一方で、第2群の子が描いた図7の右の絵は、学校に先生がおらず、悲しいという気持ちを描いています。

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図7

フォーカス・グループへのインタビューから分かったこと

シンガポールで行われた、フォーカス・グループへのインタビューから得られたことを、図8にまとめました。シンガポールの子どもたちは、遊ぶこと、机に向かうこと、そしてきれいな環境にいることを好んでいました。では、嫌いなことは何でしょうか?一般的な発達のグループである第1群の子どもたちは、くさいから男子トイレが嫌いと言いました。それに加えて、おもちゃが嫌いだったり、先生に叱られることが嫌いだと言う子どもたちもいました。

読み書きの早期介入を受けている第2群の子どもたちは、ごみ箱の臭いが入ってくるので、窓が開けっ放しになっていることが嫌い、課題が難しいときの勉強も嫌い、けんか、いじめられることや先生に叱られることが嫌いだと言いました。読み書きの早期介入を受けている第2群の子どもたちは、けんかやいじめをより経験していることがうかがえます。

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図8

図9には、テネシー州で行われた、フォーカス・グループへのインタビューから得られたことをまとめました。テネシー州の子どもたちは、外遊びと教室でのラーニング・センター(と呼ばれるコーナー遊び)を楽しんでいました。第1群、2群とも、子どもたちは「クリップ・ダウン」されることが好きではないようです。米国では、多くの教室で、子どもたちの行動・態度がチャートで管理されており、ふるまいによって、名前が書かれたクリップが上下されるという仕組みです。よい行いをすれば、名前のクリップは上へ上がり、悪いことをすれば下に下がる(クリップ・ダウンされる)のです。子どもたちはこの「クリップ・ダウン」が好きではなく、多くの子どもたちが園での嫌いなことに挙げていました。加えて、両群とも、子どもたちはいじめられた経験がありました。第2群では、ペットのせいでケガをしたことも挙がっていましたが、これは第1群には見られませんでした。

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図9

これまで紹介した、シンガポールとテネシー州の調査結果を比較して分かることは、どちらの場合も、子どもたちにとって友達や家族と一緒に遊ぶことは楽しいということです。しかしながら、子どもたちの絵を見てみると、テネシー州の子どもたちは、デジタル機器、ゲーム、スポーツ、ペットにより注目していました。その中でも、ペットとゲーム機の絵は、第2群により多く見られました。シンガポールでは、子どもたちは個別指導のクラスやワークショップなどにも参加しているようでしたが、テネシー州の子どもたちはこういったプログラムや、その他の習い事については言及していませんでした。

環境設計のために子どもたちの声を聴く

子どもたちにとって、最も重要なものは何でしょうか?子どもたちの生活において、遊びがその大部分を占めることが報告されてきました。ですから、小さな子どもたちの環境を設計する際には、例えば、ブロック遊び、ぐちゃぐちゃ遊び、空想遊び、ごっこ遊び、室内遊び/外遊びといった、さまざまなタイプの遊びのために遊びのエリアが提供されなければならないと言えます。また同様に、社会的ネットワーク、コミュニティーを作るエリアも提供されるべきです。

また、5~6歳の子どもたちの生活において、家族は不可欠なものです。ですから、家族が幼児教育施設に入ってきやすい雰囲気を作ることが重要です。園の入り口に絵本コーナーがあれば、送り迎えの時に、親が子どもに、座って絵本を読んであげることができます。それは園児のご家族に、歓迎しているというメッセージを伝えるだけではなく、子どもに読み聞かせをしてあげることは、絆を強める良い方法だと伝えることにもなります。

シンガポールでのフォーカス・グループへのインタビューから、子どもたちが学習面の課題も楽しんでいることが分かりました。それゆえ、カリキュラムを作成するにあたっては、遊びとやりがいのある学習課題のバランスに配慮するべきでしょう。

テネシー州においては、子どもたちはラーニング・センター(コーナー遊び)を楽しんでおり、叱られることや「クリップ・ダウン」されることは非常に嫌がっていました。環境設計に携わる人は、ラーニング・センターの探検を通じた遊びの時間を増やしたカリキュラムを作成することで、子どもたちの学びを高めることができるでしょう。子どもたちが没頭しているとき、規律を乱すような行動は少なくなり、「クリップ・ダウン」も減るでしょう。ですから、子どもたちが遊びや探検を通じて社会的ネットワークを構築し、コミュニティーを形成できるような、肯定的で温かい環境を作ることを重視する必要があるのです。

遊びは子どもたちの生活においてなくてはならないものですが、子どもたちが確実に遊びから学べるようにするには、どうすればいいのでしょうか?先生の注意深い導きや、熟練した足場づくりを通じて、子どもたちが学び、コミュニティーを形成し、協力して問題解決やイノベーションに向かうことができるラーニング・センターなどの環境を設計する必要があります。

これらは子どもが学び育つための環境設定において、真剣に考慮すべき点です。

示唆/今後の方向性

この研究は、理論的な枠組みとしてブロンフェンブレンナーの理論を採用しています。マイクロシステムは子どもと関わる最小限のネットワークから成り、メゾシステムとは子ども、家族、園の間の相互関係を表しています。この研究から得られた知見では、子どもの世界は家庭や園における関係に大きく影響を受けていることを示しています。ブロンフェンブレンナーの理論における3番目のシステムであるエクソシステムは子どもが直接関わらない、例えば両親の職場のような環境を指し、また最後のシステムであるマクロシステムは政策やその国の文化などを含みますが、このどれもが、子どもに影響を与えるのです。

シンガポールの子どもたちが学業面の課題にやりがいを感じているという調査結果は、ブロンフェンブレンナーの生態学的システム理論を裏付けるものです。シンガポールの子どもたちは学習課題を楽しんでいるという結果でしたが、テネシー州の子どもたちにはそのような結果は見られませんでした。これはシンガポールの社会においては、学業面で優れていることが重視され、学力至上主義、能力主義志向であることの表れで、逆に、テネシー州のある米国では、そこまでの傾向は見られないからと言えます。

しかしながら、この研究は、シンガポールと米国のテネシー州間の、少ないサンプルによる比較で限定されたものです。私たちは、インドネシア、マレーシア、タイ、中国、日本、また子どもたちの声を世界に広く届けるために努めているすべての国を対象に、サンプル数を増やしていくことを希望しています。

結びに、私たちは責任ある大人として、今を生きる、そして私たちの未来でもある子どもたちに最善の環境を提供したいと願っています。今日の子どもたちは、その全てがそれぞれのポテンシャルを発揮できるような環境を享受するべきなのです。子どもたちの声に心から耳を傾け、子どもたちとその家族のウェル・ビーイングのため、さらには子どもたちの声を広く届けていくために、皆様とともに尽力していければと思います。


※この記事は、CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議の講演録です。

筆者プロフィール

Christine_Chen.jpg クリスティン・チェン

シンガポール保育者学会(ACCE)創設者、代表。シンガポール幼児教育者学会(AECES)創設者、現代表。シンガポール大学で社会福祉学を専攻、その後バンク・ストリート教育大学(ニューヨーク)にて幼児教育学修士号、ジョージ・ワシントン大学(ワシントンD.C.)にて教育学博士号を取得。

国際幼児協会(ACEI)代表(2015-2017)、アジア太平洋地域乳幼児期ネットワーク(ARNEC)理事(2014-2018)、アジア太平洋就学前教育協会副会長(2014-2019)。インドネシア自閉症児支援センター(IndoCARE)の諮問委員も務める。中国、インドネシア、ロシア、タイ、ベトナム、米国など各地で講演。


Jane_Lim.jpg ジェーン・リム

ミドルテネシー州立大学助教。エディス・コーワン大学(パース、オーストラリア)で子ども・家族学を専攻、その後マッコーリー大学(シドニー、オーストラリア)にて幼児教育における教育リーダーシップの分野で修士号を取得。2012年、ニューヨーク州立大学バッファロー校にて幼児教育/初等教育学博士号を取得。

シンガポールに生まれ、幼児教育と幼児教育関係者への教育に20年以上携わる。40にも及ぶ国内外の学会に出席。研究領域は、難民の子どもたちなど少数派内のいじめ問題。シンガポール保育者学会(AECES)元常任理事。国際幼児協会(ACEI)元理事。テネシー国際幼児協会(ACEI)前代表。

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