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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第17回 ドイツの私立校

シュリットディトリッヒ 桃子

2013年4月26日掲載

要旨:

公立校の質の低下とともに、ドイツ国内では全州で私立校への人気が高まっており、学校数、児童・生徒数ともに近年伸びを示している。しかし、「教育は皆に平等に施されるべきである」という考えが根強いドイツでは、私立校が自治体から助成金を得ていたり、学校が月200ユーロ(約24,000円)の学費を請求すると、教育委員会から警告を受けるなど、日米の私立校の状況と少し異なる模様。また、私立校教師への待遇も公立校に比べて悪く、学校の質も「学費を徴収する私立校だから質も良い」ということではない。今後の私立公立校の動向から目が離せない。

前回前々回の記事ではドイツ内の経済格差および教育格差について述べました。残念ながらベルリンの教育水準はドイツの中でも最低レベルですが、ベルリンの新聞記事によると、その原因は移民問題を抱えているといった社会的環境や財政難という経済的問題など複数の要因にある、とのことでした。

これらの記事を執筆中に筆者は「公立学校の質が低ければ、私立の学校へ入学という選択肢はないのか?」と単純に考えていました。幸い、タイミング良く、ベルリンの新聞に私立校の記事が特集されていたので、今回はその記事を元に、ドイツおよびベルリンの私立校の現状についてお伝えしたいと思います。

Berliner Zeitung によると、ドイツ全体の子どもの数は1992年から2011年までの20年間で減少しているのにも関わらず、国内の私立校の数は同じ時期に70%も増加しているとのこと。私学へ通う子どもの数も右肩上がりで、2011年には全ての学校へ通う子どものうち8.6%が私学へ通っていた、ということです。 *1

なお、この新聞記事では「私立校」とはドイツの第1学年から第13学年(日本でいう小学校1年生から高校3年生まで)の公立ではない全ての学校を指しています。ただし、ドイツでは高校(大学への進学を前提とした学校)の代わりに、職業訓練校や専門学校に行く子どもも多いので、ここではそのような学校も含まれています。

上述のようにドイツでは私立校の人気が高まっているようですが、地域別ではどうでしょうか。図2には過去10年の私立校に通う子どもの割合の変化が州ごとに示されています。ドイツ全州において、私立校に通う子どもの数が増加していることがわかりますが、急激に増加しているのは、ベルリンを含むいずれも旧東ドイツの州(赤線部分)で、中には4倍以上の飛躍的な伸びを見せている州もあります。これは東西ドイツ統一から約20年経過し、学校を含む全てのシステムが国営公営だった旧共産主義圏にもプライベート校の波が押し寄せてきた、ということかもしれません。

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図2:ドイツ各州の私立校へ通う子どもの割合の変遷
(Berliner Zeitung 2/15/2013付)

前回の記事でお伝えしたように、ベルリンでは公立校の状態が芳しくないので、地元の公立小学校にあまり信頼を寄せていない親たちの多くが、私立小学校の開放日に見学に訪れているようです。図2からもわかるとおり、ベルリンで私立校に通う子どもの数はここ10年で2倍以上増加しており、今や11人に1人の子どもが私立校に通っているとのこと。また、市内では2012年に36校が新設(うち24校は介護士などの職業訓練校)され、市内の私立校総数は151になったそうです。

私立校の特徴は学校ごとに独自のカリキュラムを組んでいることですが、この新聞記事によると、小学校1年生から中国語の授業がある私立校もあるとのこと。また、環境面でも学校では上履きに履き替えるなど、公立校にはない清潔さを備えているようです。記事で紹介されていたベルリンのある私立小学校では、1クラスの児童数は最大22名、ドイツ語と算数の授業では先生が2名つき、放課後には学校で宿題をする時間があるなど、児童へのきめ細かい指導を売りにしていました。また、公立学校でありがちな「財政難のため代講の先生を雇うことができないので、先生がお休みの時間は全て自習時間」ということもありません。公立校の現状に失望し、私立校に転校してくる子どももベルリンでは10%いるそうです。

ではこれら「良い学習環境」を得るためには親たちはどのくらいの学費を払っているのでしょうか?この記事によると、驚くことにドイツでは親の収入によって学費が異なってくるようです。例えばベルリンのある私立小学校では、親の年収が42,000ユーロから68,599ユーロの間(約504万円-828万円)の場合、月学費は290ユーロ(約34,800円)、69,000ユーロ以上の場合の月学費は330ユーロ(約39,600円)となります。日本の私立学校と比べると少し割安な感じがしますが、ドイツの公立校では学費は無料ですし、こちらの所得水準からすると、決して全ての子どもが通学可能な学校ではありません。したがって、私立学校には貧困層や移民を背景とした子どもはほとんどいないそうです。

さらに驚いたのは、ドイツの私立校は各州から助成金を得ていることです。連邦制をとっているドイツでは州ごとにその額は異なりますが、記事によると、ベルリンの私立校では人件費の93%、総支出の60%が市からの援助で賄われています。ハンブルグ州ではさらにこの割合は高い模様。私立校は公的機関から援助を受けず、全て生徒からの学費などで賄うものだと思っていた私にとって、ここまで行政が関与しているとは驚きでした。

また、ハンブルグ州では昨年13校が「月200ユーロ(約24,000円)という多額の学費を親に請求した」ことを問われ同州の教育委員会から警告を受けたそうです。これはドイツでは「教育は皆に平等に施されるべきである」という考えが根強く、多くの州の教育委員会は、学費を徴収する私立校に反対の立場をとっていることと関係があるようです。だからでしょうか、上記新聞記事によると、私立学校に通う子どもの割合はドイツ8.6%、フランス18%、スペイン30% と近隣諸国に比べて低い模様です。ちなみに日本では平成23年度は中学生全体の7.1%が私立中学校に、約30%が私立高校に通っています*。

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美しいハンブルグの港にて

最後にこの記事には、公立校から私立校へ転職、その後再び公立校へ戻ったベルリン在住の教師のインタビューが掲載されていますが、そちらも興味深いものでした。その教師によると、少子化とともに私立校間の競争が激化している一方で、その内情は必ずしも公立校よりは優れているとは限らない、とのこと。確かに公立校よりも小規模で先生と子どもたちの結びつきは強くなる傾向はあるものの、公立校で授業についていけなかったり、何らかの問題を抱えていた子どもたちも実際多く入学してきており、先生がこの事態に対応できていないそうです。 私の知り合いの息子さんも私立小学校に入学しましたが、最初に聞いていた話と実際の学校生活が異なる、という理由で2年目から地元の公立校に転校しました。「私立校だからといって、全ての学校が良い訳ではないってことがわかったわ」とそのお母さんは言っていました。

また、教師への待遇面から見ても、公立校に軍配があがるようです。これは、公立校教師は公務員として最低賃金が保障され、組合も存在している一方で、私立校の教師にはそのような利点はない、とのこと。すなわち、ドイツでは最低賃金は法律で定められていないため、私立校の教師の待遇は公立校より劣ることが多いそうです。従って、私立校では質の良い先生を集めることが困難で、ひいてはそれが上記の問題を抱える子どもたちと相まって、学校全体の雰囲気の悪化につながるケースもあるとか。

少しでも環境の良いところで育ってほしい、質の高い教育を受けて欲しい、と思うのは、古今東西変わらない親心。学費は無料のドイツですが、半数以上の親がお金があれば子供を私立学校に入れたいと思っているそうです。結果、冒頭で述べたように、私立校の数は増加し、人気も上昇していていますが、その内情は様々なようです。周辺の方々に意見を伺った時にも、「教育は全ての国民が平等に受けるもの」という概念が強いドイツにおいては、日本やアメリカと比較すると、「私立校」の概念はあまり浸透しておらず、その質も確立されていない印象を受けました。では、公立校はどうかというと、こちらも学校によってバラつきが大きく、全体的な質が良いとは言えない状況で、失望 している親や子どもたちの数が多いことも確かです。「公」が提供できないサービスの穴をこれからどのように埋めていくのか、この地で子育てをする親としては、今後の動向から目が離せません。

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ハンブルグ港の倉庫街


参考文献
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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