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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第15回 ドイツ内の教育格差(1)

シュリットディトリッヒ 桃子

2013年3月 8日掲載

要旨:

日本でも昨今話題となっているが、ドイツでも教育格差が深刻な問題となっている。経済状況が教育に影響することは多くの研究で指摘されているが、ドイツでは連邦制度やその歴史から、元々国内の地域間の差は大きく、そのことが経済や教育の格差につながっているとも考えられている。今回はドイツ国内の経済格差およびベルリンの経済状況をご紹介する。

日本では最近、教育格差問題について議論が盛んに行われていますが、ドイツでも同様に子どもたちの学力格差が問題となっています。今回はいつもと少し趣向を変えて、このドイツ内の格差についてベルリンの新聞記事を元にご紹介していきたいと思います。

香川大学の前川史彦教授によると、教育格差とは「親の収入などによる格差が子どもの教育環境にも反映される問題であり、生まれ育った環境により、受けることのできる教育に生じてしまう格差のこと」です*1。この他の多くの研究で指摘されているように、経済状況が教育に与える影響は大きいようですが、ドイツではどうでしょうか。詳細を記述する前に、ドイツの制度について少しおさらいをしておきたいと思います。

まず、第1回で少し触れたように、ドイツは連邦制国家です。それゆえ、教育に関して国は大枠を決めるだけで、具体的な事項を決める権限は州に委ねられています。このように、国が一元的に全てを決定する日本とは制度が異なります。

またドイツといえども、東西ドイツの統一以前から、歴史的に異なる国々(プロイセン王国、バイエルン王国など)が1つの国にまとめられてきた経緯があり、東西間はもちろん、南北間でも生活様式や言語、経済活動が異なります。

したがって、ドイツ国内の地域間の差は大きく、ひいてはそれが経済や教育の格差につながっているとも考えられています。例えば、欧州危機が叫ばれる中、ドイツは欧州一の経済力があるといわれており、私も「ドイツでは景気がいいんですってね?」と日本の皆さんからの質問をよく受けます。しかし、残念ながらベルリンでは全くそんなことは感じられません。モダンアートのメッカなので、街全体がアート作品と化している、といえば聞こえはいいですが、落書きとも見えるグラフィティをあちらこちらで目にします。また、今でも東ドイツ時代の建物が廃墟化して残っていたり、街中に建設現場が存在するものの、なかなか完成に至らなかったりと、街が裕福でないことは一目瞭然です。消費大国日本がキラキラと思い出され、そのギャップに戸惑いを感じることも多々ありました。

そんな中、昨年7月、ベルリンの主要新聞がドイツ国内での経済力格差について取り上げていました。記事に依ると、旧西ドイツでは失業率が低いのですが、旧東側では軒並み10%越えと高い数値を示しています。*2

ちなみに2012年12月の日本の失業率は4.2%、ドイツ全体平均は5.3%、ユーロ圏全体の失業率は11.7%ですから、ドイツおよび国内各州の経済力が比較できると思います。*3

ドイツに話を戻すと、旧西ドイツの南部に位置する2つの州、バーデン=ヴュルテンベルク州(州都:シュトゥットガルト)およびバイエルン州(同:ミュンヘン)では、失業率が4.0%と日本より低いことがわかります。この辺りはドイツ一裕福で、今、不動産バブルに沸くベルリンの物件を購入しているのも、この地域出身の方々が多いようです。

そのベルリンについては、失業率13%と二けたを超えており、ユーロ圏全体の失業率よりも高くなっています。

さらに、統計ではよくあるように、ここでも数のトリックがあります。つまり、この「13%」という数字には「失業者向けに、政府が用意した職業訓練クラスを受講している人」の数は含まれていません。したがって、実際の失業率はもっと高いのです。これではベルリン市内で建設ラッシュが続いている高級アパートを買うなんて、夢のまた夢です。

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建設中のアパート

なぜドイツの首都であるにもかかわらず、こんなに失業率が高いのでしょうか?それは、ひとえにビジネスの中心となる産業が存在しないためです。上記の南部二州にはドイツの高級自動車メーカーをはじめ、電気、保険などのグローバル大企業が本拠地を構えています。一方、ベルリンの産業3本柱は「政治、観光業、モダンアート」。首都なので「首相も大統領も住んでいるじゃない?」という声もあるかもしれませんが、冒頭で触れたように、ドイツでは連邦制をとっているため、東京のように1都市集中型である必要はなく、金融はフランクフルト、司法はカールスルーエ、大企業は南西部と分散されているのです。

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大統領官邸

さて、そんな貧乏都市ベルリンですが、さらにショッキングなことに、子どもたちの約3分の1は生活保護を受給している世帯で暮らしています。これはドイツ内でも最悪の割合で、上記の裕福な南部の2州と比べてみても、バーデン=ヴュルテンベルク州7.2%、バイエルン州6.6%、ベルリン30.7%、と突出していることがわかります。*4

さらに、驚くのがその子どもたちの現状です。小学校に入学しても、新しいランドセルを買ってもらえず、「将来の夢は?」という質問には「パパとママみたいに、働かないで生活保護を受けて暮らしたい」と真面目に答える子どもも多いとよく耳にします。

ベルリンでは保育園から高校までは無料、大学も1学期の授業料が500ユーロ程(約6万円)と格安で通うことができるので、日本のように「経済的余裕がなくて教育が受けられない」というケースとは少し異なる気がします。上記の子どもたちのコメントからは、冒頭の前川教授の述べる「教育格差」というよりも、もっと根本的な生き方そのものに対する姿勢の「格差」が生まれてしまっている気がします。

さて、経済状況が悪いと、教育に関する資金が削られるのはいずこも同じ。私が留学していたアメリカ・カリフォルニア州では、当時、財政難のため公立学校の授業科目から「音楽」「美術」といった科目が消えていき、ショックを受けた記憶があります。ベルリンでは教育への影響はどうなっているでしょうか?続きは次回ご紹介したいと思います。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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