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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第14回 トリリンガル環境における英語能力の発達

要旨:

ドイツ語と英語のバイリンガル保育園に入園して以来、息子の英語も伸びている。最初は単語レベル、その後半年程たつと会話レベルの発話がみられるようになった。日英独語の特徴や言語習慣についても察している模様。今後も無理強いせず、発達を見守っていきたい。

Frohes neues Jahr! 少し遅れてしまいましたが、新年おめでとうございます。今年のベルリンのお正月は最高気温10度前後と例年に比べてかなり暖かく、過ごしやすいものとなりました。この時期、花屋さんにはドイツのラッキーチャーム(ブタ、テントウムシ、煙突を掃除する人など)を付けた鉢植えが多く売られています。今年も皆様にとって素敵な一年になりますように!

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ラッキーチャームがたくさん付いた鉢植え

さて、ドイツ語と英語のバイリンガル保育園に入園して1年4か月が経ちましたが、時間の経過とともに、息子の英語能力の伸びを感じることが折々ありました。今日はトリリンガル環境における、息子の英語能力のお話をしたいと思います。

第4回でご紹介したように、我が家では3か国語を用いてコミュニケーションをとっています。夫と私は英語で、夫と息子はドイツ語で、息子と私は日本語で話します。

渡独する3歳の誕生日直前まで、英語への接触は両親の会話を聞いている時、および保育園で週1-2回30分程の英語遊びの時ぐらいで、発話はほとんどありませんでした。

それが、一昨年8月に渡独してからは、両親の会話時に加え、英独語のバイリンガル保育園でも常に英語に触れる状況になりました。この保育園では、基本的にドイツ語の先生はドイツ語のみ、英語の先生は英語のみを常に話す、いわゆるイマージョン 方式がとられています。週一回、音楽の時間があり、オランダ出身の先生が来てくださいますが、このクラスも英語で行われます。

このような状況で、ドイツ語に加えて英語も発達を遂げていますが、アメリカ出身の先生がメンバーに加わった昨年1月以来、その傾向が顕著になった気がします。ドイツ語の先生5名、英語の先生2名となり、英語に触れている時間がかなり長くなったからでしょう。

息子はこの気さくなアメリカ人のZ先生が大好きで、「今日はZ先生と一緒に歌を歌ったの!」などと先生と過ごした時間のことをよく話してくれます。

Z先生が加わって1か月程たった昨年2月頃、まず単語レベルで英語の発話が出てきました。その頃のブームは「(電車を指して)これはね、ドイツ語ではZug、日本語では電車、英語ではtrainっていうの」と物の名前を3言語で教えてくれることでした。しかも、これら3言語の発音は、他言語の影響を受けることなく、各言語の音韻体系で表現しています。すなわち、日本語は日本語を母国語とする話者と同じように、英語は英語を母国語とする話者と同じように発するので、外国語の発音で苦労してきた母親にとっては羨ましい限りでした。

この頃、面白かったのが、どこかに頭をぶつけた時など「日本語では痛い!って言うけど、ドイツ語ではAua!、英語ではOuch!っていうんだよ」と教えてくれたり、誰かがくしゃみをした時は「ドイツ語ではGesundheit!英語ではBless You!っていうけど、日本語では何も言わないんだよ」と、言語だけでなく、その背景の文化的習慣にまで気づき始めたことでした。

ただ、この後、間もなくして行われた保育園での保護者面談では「英語の内容理解はほぼ完璧だが、英語の先生の問いに対しドイツ語で返していることが多いので、あとは英語発話がどれだけ発達してくるか」というお話でした。

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雪積時の子どもの交通手段はソリ

それから半年ほどたった昨年初夏、彼の発話を目の当たりにする機会がありました。

保育園の後、カナダ人のママと彼女の子どもN君(息子のクラスメート)と私達4人で遊んでいたときのことです。彼女は私ともN君とも英語で話し、N君の受け答えも完全なネイティブ英語のものだったのですが、その会話に私の息子も普通に英語で参加してきたのです。

それまで英語話者だけの環境におかれた息子を見たことがなかったので、彼の正確な英語能力がどれくらいなのか、はっきりと目にする機会はありませんでした。

しかし、この時はN君より頻度は低かったものの、彼ら親子と私の3人が英語で話していると"I'm hungry!"とか"I wanna play here!"など、英語で参加してきたのです。英語で完全な文を作成していることにまず驚きましたが、そのタイミングや受け答えも自然そのもの。英語の先生でもあるN君ママも「彼はネイティブ話者みたいに、普通に英語を話しているじゃない!」と感嘆していた程でした。

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雪だるま:お母さんと赤ちゃん

さらに「ドイツ語と英語って時々似ているけど、日本語は全然ちがうね」と言語的距離まで感じている発言もありました。だからでしょうか、ドイツ語文法を英語にあてはめて使うことも。

時折、"I can everything!"というフレーズを繰り返していることがあったのですが、こちらは何のことか「???」状態。意味を聞いても、ひたすら"I can everything!"と歌うように言っているだけです。夫にも聞いてもらったのですが、同じ結果なので「保育園で習った何かの歌かもしれないね。」とあまり追求することなく数日が過ぎました。

そんなある日、登園時にZ先生に会ったので、この件について聞いてみました。すると「ああ、それは多分ドイツ語を直訳しているんだよ!」とのこと。つまりドイツ語では「僕は何でもできるんだよ」というのを "Ich kann alles."というので、英語に直訳して"I can everything."と言っているらしいのです。

正しい英語だと"I can do everything."とcanの後には動詞が必要なのですが、ドイツ語のkannは直後に名詞をとることができて、動詞を置かなくても大丈夫なのです。

そういう意味では日本語の「できる」もドイツ語と同じ働きをしますから、日本語の影響を受けている可能性も否定はできないのですが、語順や英語に触れているコンテクスト(この場合はドイツ語と英語を同時に聞いているバイリンガル保育園)からすると、ドイツ語の影響と考えるのが妥当だと思います。

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Spree川沿いのカモメたちも寒そう

いずれにしても、本人は英語が大好きなようで、うちでも時々「英語で話そうよ」と言ってきます。まずは日本語とドイツ語をきっちり習得してもらいたいので、本人の言語感覚を混乱させないように、彼と話す時には意識して「ママは日本語」「パパはドイツ語」のみを話すようにしているのですが、そんな時ばかりは本人のモチベーションを下げないよう、英語で対応し、会話が成り立った場合は大いに褒めることにしています。

保育園を卒園すると、通常、英語の授業は小学校3年生ぐらいまで始まらないので、今後どこまで英語が伸びるのかは未知数ですが、今は英語を楽しむ時期として、自然に触れてもらえればよいと思っています。

実は、普段英語でコミュニケーションをとっている夫と私は、息子には英語を「秘密言語」としておきたかったのですが、最近は私たちの会話の内容もほぼ理解している模様。この際、新たな言語を夫婦で習いましょうか?

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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