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【カナダBC州の子育てレポート】第26回 パンデミック3年を過ぎての体調不全と、学級/学校閉鎖、養護教諭の存在について

要旨:

11月末、娘がインフルエンザに感染したのを皮切りに我が家では6週間にわたって家族全員が次々に複数のウイルスに感染して体調を崩すということを経験しました。新型コロナウイルスによるパンデミックが3年を過ぎようとしている中、これまでなら悪化しなかったであろう普通の風邪に対しても、免疫力が低下した影響ですぐには治らず大変な思いをしました。そんな中で、こちらBC州には存在しない日本の学級閉鎖や養護教諭について思いを巡らせました。

キーワード:

学級閉鎖、学校閉鎖、感染病、養護教諭、保健室、コミュニティ

2022年が明けてすぐ、新型コロナウイルスのオミクロン株による波が押し寄せる頃、BC州は濃厚接触者の追跡等をやめ、熱が下がってから24時間経過している場合なら、それがコロナウイルスであろうがなかろうが子どもを学校へ登校させることに学校も制限を設けなくなり、春先には屋内でのマスク着用義務も撤廃されました。その後も新型コロナウイルスの流行は続いてはいるものの、規制は次々と緩和され、今はもうパンデミック以前の状態に生活が戻っているといっても過言ではありません。

BC州の公立学校の新学期は9月です。毎年我が家では新学期が始まって落ち着き始める9月末や10月くらいに娘が一度目の風邪をひき、寒い時期が終わるまでに何度かそれを繰り返します。学校という集団生活の場所に出入りする以上仕方がないことなのかもしれませんが、公衆衛生がきちんと行き届いていない部分もあるのか、こちらに移り住んでからは自分自身も日本にいたころよりも、寒い時期に体調を崩す頻度が高くなった気がします。幸い風邪をひどくこじらせることは少なく、家で数日療養する程度で済んできていますが、家で療養するのにはもう一つの理由もあります。

BC州の医療制度は家庭医の大幅な減少、新型コロナウイルスによる医療従事者不足などで、現在は危機的な状態に陥っています。風邪程度では誰も医師に診てもらうことはなく、インフルエンザでもクリニックに「インフルエンザの場合はクリニックに立ち入らず家で療養するように」というような貼り紙を見たことがあるほどです。BC州は日本同様に国民皆保険ですが、医療費のすべてが公的資金で賄われているため(眼科、歯科は自費)、手厚い日本と比べて、最低限の医療は受けることができるものの、検査や手術などにたどり着くのに数か月、数年という時間を要することが問題にもなっています。

昨年も秋ごろから、学校に通う子どもたちのいる家庭から次々と体調不良の話を耳にするようになりました。学校でももうマスクは誰もしていないですし、手洗いも厳しく管理されていません。10月末、3年ぶりに娘の学校でハロウィーンパーティが開催されました。学校関係者、児童生徒とその家族が仮装して集まり、ファンドレイジングのためにピザやお菓子が売り出され、体育館では大音量でダンスミュージックに合わせて参加者が躍るという盛り上がり。その翌日から学校で欠席者が目立つようになりました。

そして娘の在籍するクラスでも11月半ばには半数の児童が欠席しているという話を娘から聞くようになりました。この時期、450人在籍する娘の小学校では100人以上が欠席するという事態になり、その状態が一週間続き、児童だけでなく教員や職員にも欠勤者が目立つようになっていました。

家庭内での風邪薬として子ども向けのものが数種類あるのですが、昨年から品薄で薬局の棚から消えた状態が数か月続いていることがニュースでも取り上げられています。そして時を同じくして、数年ぶりに時期を早めてやってきたインフルエンザの蔓延により子どもの救急医療利用が増加、またインフルエンザによる子どもの死も例年よりも増加しました注1

私自身が日本で小学校に在籍していたころ、冬の寒い時期にインフルエンザが流行り、クラスメイトが10人程度欠席した時点で学級閉鎖を経験したのを覚えています。給食が2~3日食べられないからと、その穴埋めとしてなのか、お菓子のたくさん入った袋をもらい、学校が休みになった上おやつがもらえたと嬉しく下校したのを思い出します。

気になって調べてみると、日本の学校閉鎖の基準は昭和30年代に作成された学校保健安全法に基づいていて、特に具体的な欠席者数の指定はなく、閉鎖は各学校の判断に委ねられているようです注2

さて、こちらBC州の娘のクラスでは、半数が欠席となり1週間近くが経過しても特に何の措置も取られることはありませんでした。「そんなに欠席が多いのに先生は授業ができるの?」と娘に尋ねると、「先生も『これじゃ新しいことは学べない』と言って遊ぶ時間が増えているよ」と、嬉しそうな答えが返ってきました。年間で履修しなければならない学習内容があり、さらに毎日の学習計画がある中、一週間も学びが止まってしまうのは、先生としても頭を抱える事態なのではないでしょうか。

そもそもこちらで学級閉鎖や学校閉鎖はあるのだろうかと学校関係者に尋ねたところ、たとえば温暖な地域で突然の大雪が降った場合、道路状況の悪化などの理由でスノーデー注3と呼ばれる学校閉鎖はありえますし、不審者の侵入、不審物の発見、学校内での大きな事件事故の際の一時的閉鎖(Lock Down)はあるものの、病気の蔓延によるそのような措置はないという答えが返ってきました。

話が少し反れますが、一時的閉鎖の興味深い例として、「児童が暴力的になった際にその児童に触れることができないために、学校児童およびスタッフが全員学校外へ避難する非常事態閉鎖のようなことはある」という答えもありました。個人的に保護者としては、感染の負の連鎖を避けるためには一時的に学級閉鎖や学校閉鎖をするのは悪いことではないのではと考えます。集団活動では感染の広がりは避けられません。ましてや子どもたちの間での感染防御は難しいものです。これもまた、公衆衛生への考え方の、日本とこちらの違いなのでしょうか。

保健室や養護教諭の存在も日本独特のようで、こちらの学校にはありません。もしも児童が怪我をしたり具合が悪くなったりすると、担任の先生は学校の事務室に連絡を取り、そこからすぐに保護者に児童を迎えに来るように連絡が届きます。迎えが来るまで児童が待機するのは事務室であり、具合が悪いからといって一時的に児童が横になって休む場所もありません。保護者はすぐに迎えに来ることを求められています。

私自身、日本で中学生の頃に貧血がひどく倒れこんだことがあり、動くことすらできなかったので1時間ほど保健室のベッドで横になってとても助かった記憶があります。また高校生の頃の修学旅行にも養護教諭が付き添って一緒に行動してくれたことで、ちょっとしたトラブルを相談できて安心したことを覚えています。このような応急処置が学校で対応されるのは保護者としても安心です。子どもが体調を崩していてもどうしても10分以内には迎えに行けないといった場合でも、体を休ませてもらえる場所があり、見守ってくれる養護教諭がいるというのもありがたいことです。それだけでなく、何か悩みごとがあったときに心の相談に行けたり、学校で健康診断が行われる際にサポートしてくれたりと、養護教諭の担当する幅は広く、児童にとって担任の先生同様またはそれ以上に近しい存在かもしれません。

前々回のレポートで長期一時帰国の際に娘が日本の学校に一学期間通ったことを書きましたが、学期の終わりごろ、どういう理由だったのかはわからないのですが、娘がどうしても音楽の授業に出たくないと言い出したことがあり、その時間だけを担任の先生と相談して保健室待機にしてもらったという経緯がありました。

私自身は小学低学年の頃に不登校だった経験がありますが、その際にも保健室通学をしたことはありませんでした。娘の場合、学校には行きたい、お友達にも会いたい、担任の先生も大好き、だけどどうしてもこの授業だけは億劫だと一時的に足がすくんでしまったため、その時間だけを気楽に過ごせるようにと学校側が配慮してくれたのです。おかげで、娘はこのことを大きなハードルと捉えることなく、最後まで日本での学校生活をポジティブに送ることができました。その日、同じクラスの児童が保健室通学をしていたため、娘は養護教諭の先生とお友だちと仲良く楽しく1時間を過ごして帰ってきました。

この日本独特の養護教諭という存在の歴史も長く、その先駆けは学校に看護士を置いた明治時代だと言われ、1940年代には養護教諭として教員の位置づけがされたようです注4。BC州の学校にもスクールカウンセラーは存在しますが、一つの学校に常駐しているわけではないため、気軽にすぐに会える存在ではありません。学習障害などによって教室において問題が発生し、その頻度が高い場合などに相談する存在のような印象を受けます。児童からしても普段から馴染みがある先生というわけではないので、相談しにくいと思います。また、カウンセラーというプロフェッショナルな名前がついているので、なんとなく敷居が高いような感じを私個人としては抱いています。

この3年近くのパンデミックの影響で、消毒の頻度が上がり、マスク着用によって風邪のウイルスにも感染してこなかったことで、かえって免疫力が低下しているのでしょうか。これまでの人生にない体調不全を家族全員が繰り返しました。

11月の終わり、我が家では、娘がインフルエンザにかかりました。娘の咳は2週間たっても治まらず、その上何か別のウイルスを学校でもらってきたらしく、体調をひどく崩し咳きこみが酷くなり、救急へ駆け込みました。幸い肺炎ではないとの診断を受けたのですが、この後私にもうつって、同じように私も咳が酷くなり、喘息を発症、その後全身に発疹が出ました。次に夫にうつり、夫は高熱等を繰り返して救急で肺炎と診断されました。6週間近くをこうして家族で体調の悪いまま過ごしました。

11月に娘が体調を崩した際も、学校から電話がかかってきて迎えに来るようにと呼び出され、事務室で座って保護者を待つ娘を、慌てて夫が迎えに行きました。家庭医には予約をとる必要があり、当日の予約はできないために、ウォークインクリニックと呼ばれる予約なしのクリニックに開始時間早々駆け込むとすでに患者でいっぱいだと追い返され、家庭医に頼み込んで診てもらうこともありました。また、高熱を出した娘に飲ませたかった子ども用の解熱剤が見つからず、たまたま日本から持って帰ってきた風邪薬を使ってしのぎました。パンデミックが始まって3年が過ぎようとしている中、風邪でこれほど長期間にわたって何度も体調を崩すことになるとは、想像もしていませんでした。

「村全体で子育てをする(It takes a village to raise a child)」というアフリカのフレーズがあります。核家族が増える中、家族内の数世代や地域の大人たちで子育てを行うことはなくなってきていますが、それでも日本の学校は前々回のレポート(リンク)にも書いたようにコミュニティとしての役割がこちらに比べて色濃い気がします。保健室、養護教諭、学級閉鎖、学校閉鎖の例を見ても、学びだけに限らない、地域との連携が学校にあり、それがたとえ一時的なつながりだったとしても、同じ境遇にある人たちどうしで結ばれているコミュニティであり、 子どもを多くの手で守り育てていく雰囲気があるのではないかと思います。個人主義が目立つ海外で、家族親せきが近くにおらず、夫と二人三脚の子育てをしている身としては、このような日本の取り組みは、頼りがいのある安心感のもてる概念なのではないかと感じています。



  • 注1.州内のインフルエンザ蔓延により子どもの死亡が増加しているため、インフルエンザワクチン接種を呼びかけるBC州政府の保健局の声明
    https://news.gov.bc.ca/releases/2022HLTH0233-001870
  • 注2.学級閉鎖、学校閉鎖についてはこちらに詳しい。
    https://www.gakkohoken.jp/special/archives/122
  • 注3.大雪が降り、町が除雪車等を所有していないために道路整備ができず、安全に登下校ができないなどの理由で発令される休校措置。冬に雪が日常的に降る地域ではスノーデーは存在しない。
  • 注4.養護教諭の歴史について
    https://www.gakkohoken.jp/column/archives/68

筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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