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【カナダBC州の子育てレポート】第25回 児童主導の面談と学習目標

要旨:

BC州の公立校で行われる三者面談は「児童主導の三者面談(Student Led Parent Student Teacher Conference)」と呼ばれ、子ども主導で進められます。子ども自身が学校での生活/学習について何が得意で何が不得手なのかを本人が自己評価し、それをもとに自分で目標を立て、参加者である三者が三様にその目標をどう達成させるかについて話し合う形式です。日本の公立校に通った筆者の三者面談の記憶では、学校での様子を話し合った小学校、偏差値に注目した中学校、大学受験での志望校について話し合った高校。そんな筆者の記憶とは異なるBC州の学校での娘の三者面談の様子や、そこで気づいたことをまとめました。

キーワード

児童生徒主導、三者面談、目標、自己評価、カリキュラム、算数

筆者が小学生だった頃の家庭訪問や面談では、担任の先生から学校での勉強の様子や友人関係、委員会活動などへの参加についての報告を保護者が受けました。また、私の両親は家庭での学習方法に関する質問や生活面へのアドバイスを先生に求めたりしていましたが、私は聞かれれば質問に答える姿勢ではあったものの、おとなしくその場に座り、自分のことが話されていても、自分が中心となって話を進めていったという印象はありません。

先日、娘の通う学校で、「児童生徒主導の三者面談(Student Led Parent Student Teacher Conference)」がありました。新型コロナウィルスの影響で過去2年間はオンライン・ミーティングでしたが、今年は全面的に対面での面談が再開されました。BC州の学校での面談は児童生徒主導とされています。とはいえ、娘がキンダーガーテン・クラス、小学1年生、2年生の時には、親である私と担任の先生との間で娘の学校の様子について話を進めた記憶があります。

現在娘が在籍する小3、4年混合クラスでは、まず、面談に向け自己評価のための用紙が子どもに配られました。そこには、「学校で今上手にできていると自分が思うこと」、「もう少し自分で頑張りたいと思っていること」を箇条書きにいくつか挙げる欄があり、娘は「私は書くことが得意」「私はアートが上手」と書いており、克服したいこととして「算数:もう少し足し算を速くできるようになりたい」とありました。

次に「学校での態度」を書く欄があり、こちらが用紙の大部分を占めていました。「教室でポジティブな雰囲気作りに貢献している」「他の児童生徒をリスペクトし思いやりをもって接している」「宿題を締め切りまでに仕上げることができる」「クラスの時間を有効に使える」「整理整頓ができ、学ぶ準備が整っている」「一人で作業ができるが、他の児童生徒の学習もサポートする」などといった内容に、「よくできる/まずまずできる/もう少し努力が必要」のいずれかに自己評価をつけていました。学習面に関しては、その下に「連絡帳に目標や連絡をきちんと自分で書ける」「毎晩20分から30分読書する」「基礎計算スキル(Math Fact)を自宅で練習する」など数個の項目があり、これもできているかどうかの自己評価をしていました。

最後に自分で考えた目標を一つだけ記入するようになっていて、娘は「算数が得意になる」と書いていました。娘がこの用紙を面談の前に自宅に持ち帰り、保護者である私はそれに目を通してサインし、面談に臨むという流れでした。

実際の面談は15分と短く、教室で行われました。担任の先生は娘の書いた用紙と似たような教員用の用紙を持参し、最初から娘が主導で、自分で考えた目標を中心に話が始まりました。保護者である私は静かに座って、担任の先生と娘がその目標をより具体的に、娘のレベルにより合わせて仕上げていくのを見守ることとなりました。「でも、あなたは算数できるじゃない。もっと自信をもって。その自信をもつことを目標にしたらどうかしら」と先生が問いかけ、娘が「オーケー」と返事をし、「そしてさらに算数を他の子にも教えていくというのはどうかしら。ちょっとチャレンジングかもしれないけれど、お母さんどう思います?」と、時折先生が私も会話に引き入れてくださいながら、娘が考えた目標を3人で具体的に、それぞれの役割を明確にとまとめていきました。

「さて、お母さんはこの目標に対して何ができますか?」と次は私に質問が振られ、「応援する。サポートするでしょうか」と答え、「そうですよね。担任としても同じ答えになります」と娘の目標、それに対する保護者と先生の役割がそれぞれの欄に追加されていきました。ここまでで、すでに面談時間の大半が過ぎていて、残りの時間で私が娘の様子で気になっている点を少しだけ尋ね、世間話を少しして、あっという間に面談が終わりました。

面談を終えて気が付いたことがあります。一つは、子どもが主体的に「目標を立てる」という面談内容の準備をし、それに沿って本人が中心になって面談を進めるという流れをこれまで以上にはっきりと見たこと。しかし、娘の目標が「算数に自信をもって他の児童にも教えられるようになる」という、たった一点だけに絞られて面談が終始してしまったことに、保護者である自分は、直後に物足りなさを感じました。9月に始まり6月に終わる学年の10か月もある期間の目標がたった一つであり、かつつかみどころが明確でない抽象的な内容でいいのだろうか? また、学校の様子が先生から詳しく聞かされないことにも問題はないのだろうか、と不安に思ったのです。

学習目標を立てることは私自身もかつて小学生の頃にやってきた記憶がありますし、珍しいことではありません。ですが、紙面で目標を立てて終わるのではなく、今回のように面談で詳しく話し合われ、担任の先生と調整し、保護者と教員ができることまですり合わせていく過程で、目標がより明確になり、またそれに対して児童自身が自分の目標であるという認識を高めることで、より自覚をもつことになるのかもしれないとも思いました。BC州が教育の中で力を入れている、「子どもの主体性(Student Autonomy)」のようなものが垣間見られたからです。筆者自身が子どもの頃に求められた能力と、今の子どもたちに求められる21世紀を生き抜くスキルにはとても大きな違いがあります。なかでも自分自身のスキルを自覚し、足りない部分を見つけ、そこに目標を見出し、目標にたどり着くまでの、たとえばそこに関わる心理面や態度(自信をもつ)や算数以外のスキルで算数を強化していく(他人に教える)というプロセスを考えるのは、今後子どもたちが身につけていくべき能力なのかもしれません注1

もう一つは、目標について子ども自身を中心に話を進めていく中で、保護者である自分の失敗に気づいた点です。たまたま娘の場合、算数についてだったのですが、筆者は「娘に算数の苦手意識を植え付けてしまっているのかもしれない」と、ふと思いました。そういえばこのところ、自宅でも日本から取り寄せている通信教育の課題に対して「算数は嫌だ」と繰り返したり、前回の面談でも「算数が苦手だ」というフレーズを書いているのを見かけた気がしたからです。

BC州で2016年にカリキュラムの改訂が行われたことは以前のレポートでも触れました。カリキュラムのキーワードとなっているのがコンピテンシー(Competency/能力)で、コア・コンピテンシー(Core Competency/中核となる能力)およびカリキュラム・コンピテンシー(Curricular Competency/教科別コンピテンシー)とあり、教科内容(Content)はこれらの能力を身につけるための材料のような立ち位置となっています注2。たとえば小学3年の場合、算数の教科別コンピテンシーには、論理的思考を育てる、問題解決のためにさまざまな戦略を立てる、算数のアイデアについて弁明する、算数の概念を通じて人とつながり、またそれを他の学習領域とつなげるというような抽象的な内容が並びます。

娘に学校での算数の授業について尋ねると、縦型のホワイトボードなどを用いて、目に見える形式かつグループでコラボレーションしながら算数の問題を解決していく「問題解決(Problem Solving)」をときどきやっているという答えが返ってきました注3。学校での算数は、正確さやスピードが求められる「基礎計算力(Math Fact)」から、算数の概念を理解しそれを応用させていく「算数的思考(Math Sense)注4」 を育む方向で学習を進める動きが見られます。しかし算数的思考を先に学ぶことで、基礎計算力への苦手意識も薄れるという研究結果注5もあるそうです。

確かに計算の多くはコンピューターが担う時代であり、かつて必要とされていた計算力の重要性は薄れ、今後の子どもたちには算数的思考力を応用し、他教科とも結び付けて理解し、チームで解決していくスキルが求められているのかもしれません。

娘の面談で算数についての目標を作り上げていく中で、私自身がそのように習得したからという理由で、保護者として娘に基礎計算の練習をさせることに重点を置いてしまい、算数への苦手意識を与えてしまったのかもしれない、と思いあたりました。以前のレポートで算数の宿題について書いたことがあり、その中で「Prodigy」というオンライン算数ゲームについての感想を述べました。BC州の学校では、算数的思考力(Math Sense)の学習は授業で行い、基礎計算力(Math Fact)の学習はゲームを使用して楽しく練習して習得させる指導法なのだと考えると、なぜ算数でゲームをさせるのかという理由も見えてきた気がします。

もちろん学年によっても、個人によっても、面談内容には大きな違いがあります。また、入試などが存在する日本の場合には、面談の目的も異なります。娘の三者面談直後には、算数というたった一つに限った抽象的な目標を話し合っただけで面談が終わってしまったことに物足りなさと不安を感じた筆者でしたが、その後時間をかけて振り返ることで、保護者として気づきを得る体験だったのかもしれないと感じています。



  • 注1:The Nature of Learning: Using Research to Inspire Practice. Edited by Hanna Dumont, David Istance and Francisco Benavides, Centre for Educational Research and Innovation, Organization for Economic Co-operation and Development
    21世紀の教育では、テクノロジーの変化、イノベーションと深い知識、生涯学習が鍵となり、これまでの教育からのシフトの軸として、七つの原則を挙げている。そのうちの一つが「学習者を中心に」であり、また、「単一教科知識ではなく幅広い領域で応用できるコンピテンシーを育むこと」などが謳われている。
  • 注2:具体的に小学3年の算数にあるCore CompetencyとCurricular Competencyを見てみるとわかりやすいが、学年が変化しても(つまり、Content(教科内容)が変化しても)、目標は多少異なるが、これらCore CompetencyとCurricular Competencyの内容には大きな変化が見えないところが興味深い。
    https://curriculum.gov.bc.ca/curriculum/mathematics/3/core
  • 注3:Problem SolvingまたはProblem Stringと呼ばれる。「関係性とつながりを学ぶ算数」であり、あらかじめ教員が用意した算数問題を、教員が会話でリードしながら、生徒児童の思考をビジュアルに繰り返し修正可能なホワイトボードなどに記すことで参加者全員に提示し、問題解決への戦略方法を、一つではなく多数引き出し、その過程を公開していく方法。以下のサイトに詳しい。注4のMath Senseを育む手法と考えられている。
    https://www.mathisfigureoutable.com/blog/problem-string
  • 注4:Math Senseとは、数字に対して柔軟性をもち、かつ概念を通して接するという意味で使われる。たとえば、九九の掛け算を暗記するのがMath Factであるのに対し、18×2という掛け算をひっ算で答えを導くのではなく、18を10と8に分け、両方に2を掛けてから合算する方法や、18は20に近い数字なので、20×2を行ってから増やした2×2の部分を差し引く方法をとるなど、さまざまなやり方を用いることを指す 。
  • 注5:Boalerは、算数は基礎計算力ではなく数字感覚から取り組むべきであり、計算力のスピードと正確さに注目するばかりに算数嫌いが生まれると警告している。これについては以下の論文を参照。
    https://www.youcubed.org/evidence/fluency-without-fear/
    更に詳しい内容はJoe Boalerが中心となって発信している以下、Youcubedを参照。
    https://www.youcubed.org/our-mission/

筆者プロフィール

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高井マクレーン若菜

群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務める。スコットランド、アイルランド、オーストラリア、ニュージランド、カナダなど様々な国で自転車ツーリングやハイキングなどアクティブな旅をしてきた。2012年秋、それまで15年ほど住んでいた京都からカナダ国ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市へ、2018年には内陸オカナガン地方へと移住。現在、カナダ翻訳通訳者協会公認翻訳者(英日)[E-J Certified Translator, Society of Translators and Interpreters of British Columbia (STIBC), Canadian Translators, Terminologists and Interpreters Council (CTTIC)]として 細々と通訳、翻訳の仕事をしながら、子育ての楽しさと難しさに心動かされる毎日を過ごしている。

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