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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第43回 新学年開始と再ロックダウン

要旨:

8月から新学年が開始された。子どもの体調不良の際に従うべき「登校・登園に関する健康ガイドライン」が配布されたものの、6月までのほとんどの学内での感染対策としての規制は、撤廃されてしまった。対照的に、息子が所属するサッカークラブの方が、感染者追跡や社会的距離を保つための厳しい措置がとられていた。そんな中、教師や保育士もエッセンシャルワーカーとみなされ、PCR検査を無料で受けることが可能となったが、筆者は陰性で安堵した。
10月以降は、急激に感染が拡大。11月現在は第二波真っただ中で、再ロックダウン中。しかし、多くの店舗は開業しており、学校・保育園は閉鎖しないので、3月のように厳しい規制とは感じていない。ただ、ベルリン市内の学校は感染状況に応じて、4段階の規制が加えられることとなり、息子の学校では上から2番目に厳しい規制が入り、マスクの常時着用、給食の禁止などが命じられた。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、新型コロナウイルス感染症、PCR検査、第二波、オンライン学習、感染拡大、規制、ロックダウン、シュリットディトリッヒ桃子

*本記事の記載事項は11月下旬時点でのものであり、規制などは随時変更される可能性があることをご了承下さい。

コロナ前の条件で新学年開始?!

8月上旬からベルリンでは新学年が始まり、通常の時間割に応じた授業や行事、授業外の補習やクラブ活動、そして給食も再び始まりました。前回お伝えしたとおり、6月の学校再開時には社会的距離を保つため、2人掛けの机に1人だけ座ることとなっていましたが、新学年開始にあたってその規制も撤廃され、元のように1つの机を2人で使用するようになりました。このように、学校生活は新型コロナウイルス感染拡大が進む前の状態に戻ったかのようでしたが、校内では引き続き手洗いがすすめられ、換気のため窓はずっと開けっぱなしだったそうです。校内ではマスク着用が義務となりましたが、授業中は外してよいというのがベルリン市の決めたルールでした。

マスクの件に関しては「いくら感染が抑えられている夏とはいえ、そこまでコロナ前の状況に戻してしまって大丈夫かしら?」と少し不安に思いました。息子いわく「授業中マスクをしているのは僕だけ。先生を含むほとんどの人はマスクをしていない」とのこと。「マスクをしていると、発言がはっきり聞こえない可能性があり、授業への参加に支障をきたすから」というのが「授業中はマスクをしなくてもよい」というルールの理由のようです。しかし「生徒の健康よりも、発言が明確に聞こえることの方が優先度が高い」という行政判断に疑問を抱いた私たち夫婦は息子には授業中もマスクを着用するように諭しました。

案の定、新学年開始からたった3日で、ギムナジウム(総合大学への入学を希望する子どもたちが通う上級学校)など市内の3校で教師などの感染が発生、さらに、2週間後にはその数は41校まで膨れ上がってしまいました。ベルリンの全学校の5%で感染が見つかったのはショックでしたが、「ほとんどはクラスター感染ではなく、学校あたり1~2人のレベル。学校はクラスター感染の発生場所ではない」というのが市の見解でした。

しかし、あるギムナジウムでは11名の生徒が感染。さらに、これらの感染者を含む225名の生徒が参加したイベントが同校では開催されていたため、1週間の学校閉鎖となり、授業はオンラインのみで実施という事態になってしまいました。今春の学校閉鎖のこともあり、新学年開始にあたってもこのような状況を見越して、8月下旬、ドイツ連邦と州は、学校教育のデジタル化への取り組みを強化しました。連邦は5億ユーロ(約620億円)の追加的な支援プログラムにより、州を支援することを決めたそうです。

子どもの体調が悪い時のガイドライン

また、今年は新学年開始時に、ベルリン市が作成した子どもの登校・登園に関するガイドラインが学校からメールで配布されました。このガイドラインによって、子どもの体調が悪い時、どのように行動したらよいのかがわかります。

それによると、まず発熱の有無がポイントになります。38.5度以上の発熱がある場合、24時間は自宅待機です。その後、熱が下がった場合、平熱が24時間続けば、登校・登園できます。一方、熱が下がらない状態が2日以上続き、悪寒、倦怠感があり、咳が続いたり、味覚障害、筋肉痛などがみられる場合は、医療機関(かかりつけ医、救急相談、または連邦・各州保健省ホットライン)に電話で相談します。その後、それらの医療機関の判断でPCR検査のために受診することになります。検査を受けた場合、結果が出るまでは、症状がなくなっても登校・登園はできません。結果が陰性の場合、症状がなくなって24時間たてば、再登校・登園できます。陽性の場合は、保健所の指示に従い、学校・保育園にその旨、連絡し、通常は2週間の自宅隔離(症状が悪化した場合は入院)となります。隔離期間の終了後、さらに48時間症状がなければ、再登校・登園できます。

教師も無料PCR検査の対象に

新学年が始まると、教師や保育士たちは、医療従事者など他のエッセンシャルワーカー同様に、症状がなくてもPCR検査が受けられることになりました。英語教師として学校で働いている私も、その対象となり、学校からの指示もあったのでありがたく受けてきました。

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会場となったクリニックとその入り口

検査自体は、写真やTVでよく見るような「全身防護服を着て、防護眼鏡をかけ、マスクとフェイスシールドで完全防備した検査官」が1人、小部屋で行うものでした。彼の手には、これまたTVなどでよく見る長い綿棒が握られており「これからこの綿棒をのどと鼻の奥に差します」と一言。既に検査を受けた同僚から「不快だからといって、のけぞると、もっと奥に刺されて痛いから、抵抗せずされるがままにしておいた方がいいよ」というアドバイスを受けていたものの、心の中で「こんな長い棒が鼻の中に入れられるのか?!」と明らかに及び腰モードだったのだと思います。そんな私に検査官は優しく「どこの学校で働いているの?」「何年生を教えているの?」などと、リラックスさせるように話しかけてくれます。

そしてついに「口を開けて、あーっと声を出してください」と言われ、されるがままにすると、のどの奥に綿棒がググっと入ってきます。嘔吐反射で思わず「おえっ」となってしまったものの、その後の鼻の粘膜採取は特に痛みもなく、あっという間に検査は終わりました。

「結果は、48時間以内に登録したメールアドレスに送られます」と言われ、一仕事終えた気分で帰路につきました。が、2日たってもメールもSMSも来ません。別のクリニックで検査を受けた同僚からは、「何の連絡もなければ陰性」というルールだった、と聞いていたのですが、私の検査官は2日以内に結果が送られてくる、と確かに言っていましたし、予約確認のメールにもその旨が書いてあります。「会場が混んでいるからかな?」と思い、さらに3日待ちましたが、なしのつぶて。当地ではなかなかスムーズに物事が進むことは少ないこともあり、思い切ってクリニックに連絡してみると、翌日、陰性である旨の返信が送られてきました。結局、結果が出るのに1週間かかり「このテストの有効性って?」と内心いぶかしく思いましたが、とりあえず陰性でほっとしました。

学校より厳重な対策をとるサッカークラブ

新学年開始とともに、息子の所属するサッカークラブでも、およそ半年ぶりに通常の練習が再開し、試合が行われることになりました。しかし、コロナ下では新ルールに従って行うのが条件です。例えば、事前にコーチから保護者に電話がかかってきて、子どもの住所確認がなされました。これは感染者追跡のため、選手情報の登録が必要、という理由からでした。さらに、試合会場によっては、選手(子どもたち)と見学者(保護者)の入り口が分かれていたり、見学者が場内に入場する際には、スマートフォンにて取得したQRコードが必要だったりする場所もあるとのこと。

息子の所属クラブでは、QRコードこそ使用しないものの、コロナ以前は、見学者はピッチ(競技場)に入り、間近で応援することが可能でしたが、今は金網で仕切られたピッチの外からしか見ることができなくなってしまいました。さらに、更衣室はどこのクラブでも閉鎖されています。着替えもシャワー使用も許可されていないので、ユニフォームは家から着ていきます。このようにサッカークラブの方が、学校よりも厳重に対策をとっている気がします。

2回目のロックダウンに突入!

10月の秋休みまでは上記のルールに従って生活していましたが、10月に入ると、急激に感染が拡大していきました。そして、11月に入った今、当地では第二波真っただ中です。毎日のように新規感染者数の記録が塗り替えられ、その勢いはとどまることを知らず「どこまで増加するんだろう」と毎日不安を感じています。人口約350万人のベルリンで、1日の新規感染者数が2000人に迫る日も出てきました。さらに、10月の秋休み前には息子の学校の上級生の感染が発覚し、また知人の中にも感染者が出るなど、感染がひたひたと身近に迫っているのを実感しています。

そんな中、遂に11月2日から1か月間、再びロックダウンが行われることになりました。3月のときよりは少し規制が弱いので「ロックダウンライト」と呼ばれていますが、不要不急の私的旅行や親族を含む他者宅への訪問の自粛が要請され、泊まりがけの旅行は禁止、レストラン、バー、映画館や劇場などの文化施設やスポーツ施設も営業停止、サッカークラブを含むアマチュアスポーツの練習も中止です。

さらに例年、11月下旬に始まるクリスマスマーケットもほとんどが中止となってしまいました。ただし、休校にしてしまうと、仕事をする保護者への負担となるため、学校と保育園の一律閉鎖は行わない、というのが、3月のロックダウン時とは異なります。期間もとりあえず1か月間で、連邦政府やベルリン市は「12月のクリスマスを楽しく迎えるためにも、11月に頑張って感染拡大を食い止めましょう!」と呼びかけていました

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閉鎖された映画館入り口。
通常は映画のタイトルが示されているパネルに「お互いのことを思いやりましょう」とのメッセージが掲げられている

4つの警戒システムの導入:学内の衛生保護規制の強化

このような厳しい状況下ですが、幸い、学校・保育園の閉鎖は免れました。ベルリンでは、毎週木曜に各区の保健所と学校管理局がその時の区と各学校の感染状況を鑑みて、翌週からの各学校内での規制を4段階(基準が緩い順から、緑、黄色、オレンジ、赤)で決めることになりました。

11月第1週目は、市内874の公立学校の中で、この基準の「緑」に設定された学校は皆無で、黄色が700校、オレンジが170校、赤は2校だったそうです。具体的な規制(授業中のマスク着用義務など)は小学校か上級学校かなど、学校の種類によっても異なるようですが、基本的なルールとしては、警戒レベルが「緑」だと8月の新学年開始時と同様の規制で、色が濃くなるにつれ、衛生対策が強化されるようです。

例:ギムナジウムでの規制
校内マスク着用義務(授業中除く)
黄色 授業中でもマスク着用
オレンジ 授業中でもマスク着用、クラブ活動停止、7年生以上は給食なし、体育は屋外でのみ
自宅でのオンライン学習実施

例えば、息子の通う学校は規制が2番目に厳しい「オレンジ」に指定されてしまったので、授業中でもマスク着用が義務付けられることになりました。「聞き取りやすい言葉」よりも子どもたちの健康の方が優先順位が上がったということでしょうか。さらに、給食も禁止となってしまいましたので、息子は毎日お弁当持参で登校するようになりました。また、11月上旬に予定されていた次年度の学校説明会も中止になり、来年1月にオンラインで実施することとなったそうです。この警戒レベルが「赤」になってしまうと、自宅でのオンライン学習が実施されることとなります。

また、朝晩は氷点下まで気温が下がるほど寒くなってきたため、授業中こそ窓を閉めているそうですが、学内では行政が定めた「換気ルール」に従い、最低30分に1回は窓を開け放つこととなっているそうです。また、学校によっては二酸化炭素の測定器を設置し、基準よりも上回った場合は、すぐに換気が行われるそうです。このため、教室内は冷え込んでいる模様ですが、衛生上の理由からコートは登下校時のみの着用となっているので、子どもはいつもより厚着をし、コートとは別のダウンジャケットを羽織って授業に臨んでいます。

最後に

このように、ロックダウン状態に再び突入したベルリンですが、「ロックダウンライト」と呼ばれているだけあって、実際の印象としては「緩い」の一言につきます。3月のように街が閑散としているわけではなく、ほとんどの店舗は開店しています。レストランはイートインが禁止となってしまいましたが、テイクアウトはOKなので同じく開店していますし、市中も公共交通機関内も通常通りの人出で、本当にロックダウン中なのだろうか、と疑問に思います。

さらに、スーパーに行けば、客はマスクなしには入店できませんが、レジで並んでいると、社会的距離を無視して、間をどんどんつめてきますし、レジの前には透明ビニールシートが設置されているものの、レジ担当者はマスクも手袋もせず、飲み物を飲みながら作業をしていたりします。このような光景に出くわすたびに「これでは感染拡大がおさまらないわけだ」と思います。

一方で、学校・保育園や店舗の営業に関しては、経済を回していきつつ感染も抑えていくためには仕方がないとも思います。これから冬に向かって、当地ではさらに寒さも厳しくなるため、長期戦が予想されますが、なんとか無事に健康でこの冬を乗り切りたいと思っています。


  • 注:この「ロックダウンライト」から3週間半たっても、効果があまりないことから、ベルリンでは、ロックダウンは12月22日まで延長、12月23日以降のクリスマス期間も、プライベートの集まりは世帯数に関係なく5人までと厳しいものになってしまいました。

参考文献

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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