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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第51回 子どものコロナワクチン接種事情

要旨:

ドイツでもオミクロン株は大流行し、特に子どもの間での感染が顕著となった。息子が通うギムナジウムでも感染が拡大し、ついにクラス内感染が起こってしまった。そんな中、ベルリンの若年層感染への行政の対策として、対面義務教育の一時停止がとられた。さらに、子どものワクチン接種が国を挙げて推進され、5~11歳の子どもへの接種も可能になった。一方で小さな子どもへのワクチン接種を心配する声も少なくなく、5月下旬時点で5~11歳で1回でも接種した子どもの割合は、ドイツ全体で約22%、ベルリンでも約26%にとどまっている。また、ウクライナ難民に対しては、コロナウイルスのみならず他の病気に対する予防接種も無料で提供されている。

キーワード:
ドイツ、対面授業、子どもへのワクチン接種、PCR検査、迅速抗原検査、隔離期間、シュリットディトリッヒ桃子
子どもの間で大流行したオミクロン株

日本で猛威をふるったオミクロン株ですが、冬にはドイツでも大流行し、1日あたりの新規感染者数が30万人を超える日もありました。ベルリンでも、過去7日間の10万人あたりの平均新規感染者数(感染密度)が3千を超え、一時はドイツで最も感染密度が高い地域となってしまう事態に。2月中旬になるとベルリン全体での感染拡大は少し落ち着きを見せてきましたが、それでも6~16歳の感染密度は3千人を超えたままで、子どもの感染者数が他の年代に比べて突出していることが顕著になりました。

息子を含む小学校5年生から高校3年生が通うギムナジウムでも、ワクチン接種の有無にかかわらず、生徒、教師および学校で働いているスタッフ全員に対して、毎朝抗原検査が行われ、「陽性が出たら即帰宅→PCR検査→陽性が出たら隔離→7日後に抗原検査またはPCR検査で陰性となれば隔離終了」という措置が取られてきました。しかし、それでも学校全体で徐々に感染者が増え、ついに2月初旬の冬休み明けには、彼のクラスでも初感染者が出てしまいました。

5月下旬時点では、ドイツの一日の新規感染者数は約5万人まで減少し、ベルリンの感染密度も250前後と、冬に比べてだいぶ落ち着いてきました。コロナウイルス関連の規制もほとんどなくなり、冬にはほぼ毎日行われていた学校での抗原検査も、今は週2回にまで減少しています。マスク着用義務に関しては、公共交通機関や病院などの公共の場に限られ、屋外ではほとんど誰もマスクをしていません。ですから、「超満員のサッカースタジアムで、ファンがビール片手にマスクなしで大声で歓声を送る」というコロナ前のお馴染みの光景を再び目にするようになりました。

しかし、冬までは「知り合いの知り合い」レベルにとどまっていた感染者ですが、3月以降、身近な友人や直の知り合いの間でも相次ぐ感染が続いており、事態が収束したわけではないことも付け加えておきましょう。

若年層感染への行政の対策1:対面義務教育の一時停止

ベルリン市は、1月以降のオミクロン株の猛威を踏まえ、それまでは義務であった対面授業を1月下旬から2月末まで停止する決定を下しました。これにより、保護者は週1回、署名付きの申請書を学校に提出すれば、子どもはその週は通学して対面授業に参加しなくてもよくなりました。

といっても、対面教育義務の停止は、教育義務の免除を意味するわけではありません。対面授業に参加しない生徒は、インターネットを通じて、オンライン会議に参加したり、課題を提出したりするなどして、引き続き積極的に授業に参加する必要があります。授業形式に関しては、各教科の教師の決定に委ねられており、生徒たちには彼らの希望を要請する資格はありません。あくまでも、決定権は学校側にあり、生徒はその決定に従うことになります。また、定期試験は引き続き対面式で行われますから、その時は登校する必要があります。

しかし、感染状況が悪化するにつれ、一日中、クラス全体で在宅学習を行うケースも出てきました。さらに、同居している家族の体調がすぐれない場合は、学校に報告するように、学校から強い要請がありました。感染した家族や隔離中の兄弟がいる生徒たちは、登校するのではなく、オンライン学習を勧められたのです。在宅学習に問題がある場合は、クラス担任や普段からボランティアで個別指導を行っている学校提携の団体がフォローすることになっています。

息子のクラスでは、クラス全体での在宅学習は行われていませんが、自身がウイルス感染したり、家族が感染したため濃厚接触者となってしまったり、もしくは家族や自身に基礎疾患があり、感染予防のため、自主的に在宅学習を選んだクラスメートが数名いたそうです。

また一部の教室では、インターネット接続に問題があり、さらに、クラウド上の課題をやり取りすることは、クラスでのディスカッションや実際に見聞できる授業に匹敵するものではないということが、担任の教師からも指摘されました。対面授業義務の一時停止は、あくまでも非常用手段であり、可能な限りは、通学して授業に参加することが望ましい、という学校側の姿勢がうかがえました。これは2年前にウイルスが拡大し始めた時に、一斉に在宅学習に切り替わったのとは異なり、教育の在り方がウィズコロナ時代に即したものに変化したということを実感しました。

若年層感染への行政の対策2:子どものワクチン接種推進

ドイツでは5月下旬現在、約76%の人々が2回目のワクチン接種を、約60%の人々が3回目接種を終えています。ベルリンでもほぼ同様の割合で、接種が進んでいます。国の接種推進キャンペーンもあり、当地では18歳以上の成人であれば、3回目接種は2回目接種から3か月後に受けることが推奨されています。5月下旬現在、ドイツで成人が受けることができるワクチンは、ファイザー(ビオンテック)社製、モデルナ社製、ノババックス社製の3種類です。

こうした状況の中、子どものワクチン接種はどうなっているでしょうか。5月下旬時点で1回でも接種した5~11歳の子どもの割合は、ドイツ全体で約22%、ベルリンでは約26%、12歳から17歳ではドイツ全体、ベルリンともに約72%と、12歳以上の子どもの接種率の方が高くなっています。息子の学校のクラス担任によると、8年生(中学2年生相当)の彼のクラスで予防接種を受けていないのは30名中2名のみと、やはり接種率は11歳以下よりも高い模様です。

そもそも、子どものコロナワクチン接種が可能になったのは、昨年6月のことでした。当時のメルケル首相は「子どもの接種はあくまでも任意であり、接種の有無は通学や休暇の旅行ができるかどうかには影響しない」と強調していました。夏休み中に、接種対象の年齢を当時の18歳以上(ビオンテック社製に限っては16歳以上)から、12歳以上にまで引き下げることにより、新学年が始まる夏休み明けの感染拡大を防ごうとしていたのです。

しかし、感染が落ち着いていた夏のこの頃には、いざ自分の子どもの接種となると、「受けさせたい」という保護者はまだ半分弱でした。

国を挙げて進める子どもの予防接種

その後、感染が再拡大してきた昨年11月末、5歳から11歳までの子ども向けにビオンテック社製のワクチンがEUで承認されました。それを受け、ドイツ連邦政府もワクチン接種常任委員会(STIKO)の提言を受け、基礎疾患のある5~11歳の子どもおよび全ての12~17歳の子どもにビオンテック社のワクチン接種を推奨することになりました。その後、基礎疾患がなくても、保護者の同意があれば、個別に要請することで、5~11歳の子どもへの接種も可能になりました。

子どもの接種はいずれもビオンテック社製のみですが、5~11歳は10マイクロミリグラム、12~17歳は大人と同じ30マイクロミリグラムとされています。子どものワクチン接種も、大人同様、予防接種手帳やアプリで管理することができます。ちなみに、この予防接種手帳はドイツに住む人が所有している手帳で、麻疹からインフルエンザまで、生後に受けた全ての予防接種が記入されている大切なものです。

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予防接種手帳

また、ワクチン接種常任委員会(STIKO)とは、連邦政府がコロナ政策を決定する際、提言を与えるロベルトコッホ研究所内の委員会で、1972年に設立されて以来、ドイツの予防接種政策に大きな影響を与えています。

しかし一方で、小さな子どもへのワクチン接種を心配する声も少なくありません。コロナウイルスに関しては、通常、小さな子どもは発症しても軽度であるため、予防接種は子ども自身を保護するのにほとんど役立たない、と考える人も多いのです。これらを踏まえて2月下旬に行われた5~11歳の子どもをもつ親への調査では、「子どもに接種させたい」と考える保護者は約半分と、昨年夏の調査とあまり変わらない結果となっています。

ウクライナ難民への予防接種

ところで、2月下旬に始まったロシアのウクライナ侵攻以来、4月下旬時点でドイツには39万人の人々がウクライナから避難してきました。これは、同時期に約51000人を受け入れたフランスなど他の欧州諸国よりも圧倒的に多い数で、2015年の9月から10月に同じくドイツに避難してきたシリア難民の倍以上だそうです。

ウクライナの成人男性は兵役で祖国に留まらなければならないので、避難民の多くは女性と子どもです。ドイツ鉄道がウクライナからの避難民を対象に、ポーランドからドイツへの電車代を無料にしたことから、ベルリン中央駅は一時、毎日平均して2千人もの避難民で溢れかえっていたそうです。

ドイツ連邦政府は彼らに対し、無料の健康保険や生活のための給付金、そして近郊の公共交通機関が使えるチケットを与えるなど、積極的に保護を進めていますが、その一つに無料の予防接種の提供も含まれます。これは、難民家族とドイツ国民を保護するために、行われることになったもので、コロナワクチン以外にも、水疱瘡、おたふくかぜ、ジフテリア、破傷風、B型肝炎など、ドイツ居住の人々が接種する一般的な予防接種が全て含まれています。

このように、ウクライナ情勢に対するドイツ政府の対応は素早いものでしたが、息子が通うギムナジウムでもいち早くチャリティーイベントが行われました。まず、3月1日の一斉メールにて、衣類や衛生用品などの寄付が募られ、寄付された物資はその週のうちに他の主催者と協力してポーランドとウクライナの国境まで運ばれたそうです。また、5~6年生が運営するチャリティバザーも開催され、2,150ユーロ(約30万円:2022年6月時点)もの収益金が集まったそうです。収益金は全てBündnis Entwicklung Hilftという慈善団体に送られたとのこと。バザーでは生徒がお小遣いでも買えるようなお菓子などが売り出され、息子も「マフィンを買ってウクライナをサポートしてきたよ!」と教えてくれました。国際的危機が発生するたびに、ドイツ政府やドイツの人々の素早い反応に感心させられます。

まとめ

ドイツではコロナワクチン接種の義務化はされていないものの、未接種者への風当たりがかなり強い状況が続いてきました。接種後にアプリを通じて取得できるQRコードのワクチンパスがないと、日常品・薬以外の買い物や博物館、映画館といった娯楽施設、レストランなどを利用することができませんでした。公共交通機関を利用するにも、ワクチン未接種者はその都度、陰性証明書が必要だった時期もありました。このようにワクチン接種に関しては、医学的にウイルス拡大を防ぐという役割に加えて、社会的圧力がかなりかかっていたのです。

また、これは、濃厚接触者の隔離期間にも及び、ベルリン市からの発表によると、接種および回復した濃厚接触者はPCR検査で陰性ならば隔離の必要はありません。一方で、ワクチン未接種の人々が濃厚接触者となった場合、最長10日間の隔離となっていました。(5月下旬時点では、濃厚接触者の隔離政策は撤廃されています)

2月中旬に連邦政府はオミクロン株の感染拡大がピークアウトしたとして、3月より各種規制を段階的に撤廃することを決めました。これに伴い、小売店や公共施設への入店時にワクチン接種証明を求める措置などが撤廃されましたが、将来の感染拡大阻止のため、予防接種の義務化については引き続き検討を続けていくとのこと。子どもの接種に関しても、まだまだ議論は続きそうです。

*本記事の記載事項は2022年5月下旬時点でのものであり、規制内容などは随時変更される可能性があることをご了承下さい。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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