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オミクロン感染と超過死亡

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従来のデルタ株などより軽症と言われながら、1日あたりの死亡数が多いオミクロン株感染を心配されている人が多いと思います。しかし、現在オミクロン株による死亡者の7~8割程度は、主に老人で基礎疾患(糖尿病、腎臓病、心臓病など)のある人で占められている*1と言われています。基礎疾患があろうがなかろうが、オミクロン株感染による死亡者が多いことは憂慮すべきだと心配されるのはごく当然のことです。

しかし、オミクロン株によって、基礎疾患のある人が亡くなる原因は、オミクロン株感染が直接の死因ではないという見方をすれば、かなり様相が違ってきます。

なぜこのようなお話をするのかと言えば、現在のオミクロン株感染による死亡が、インフルエンザ感染による「超過死亡」と極めて似ているからです。

インフルエンザ感染では、例えば乳幼児の急性脳症のように、インフルエンザウイルスの脳への感染による死亡率の高いものもありますが、シーズン中にインフルエンザに罹って亡くなる人は、インフルエンザ感染が直接の原因ではなく、合併症として細菌性肺炎などを起こしたことによるものが多いことがわかっています。こうしたインフルエンザウイルス感染が直接の死因ではないが、感染によって基礎疾患の悪化や肺炎の合併が起こって亡くなった場合、それをインフルエンザによる「超過死亡」と名付けています。

新型コロナウイルス感染症が流行する前の2019年のインフルエンザシーズンには、インフルエンザ感染によって亡くなった(直接死因)人は3,575人ですが、超過死亡者は約1万人と言われています。

現在オミクロン株による死亡者は、PCRや抗原検査でオミクロン株が陽性であれば、基礎疾患の有無や重症度に関わりなく、「オミクロン株による死亡」と判定しています。

デルタ株感染では、重症肺炎という致死率の高い直接死因がありましたが、オミクロン感染では、直接死因になることは少ないのです。オミクロン株感染による10歳以下の子どもの死亡者が極めて少ない(4件*2)のは、子どもと老人の基本的な身体機能の差によるとも考えられますが、基礎疾患の有無も大いに関係があると思います。

直接死因がオミクロンによるものなのかという問いへの答えは、基礎疾患のない青少年への対応への大きなヒントになります。休園や休校は、大多数が基礎疾患のない子どもの場合、不要かもしれません。また、現在議論されている子どもへのワクチン接種の是非に対する答えもここから出てきます。まだ確定的なことは言えませんが、子どものワクチン接種については、基礎疾患のある子どもが優先的に接種すべきではないか、というのが私個人の考えです。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)、「子どもの発達障害 誤診の危機」(ポプラ新書)、「図解よくわかる発達障害の子どもたち」(ナツメ社)など。
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